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    上間

    瀬名🍭

    TRAININGれーりつ。うっかり一ヶ月以上間が空いてたのでメモ帳で眠ってるのを引っ張り出したが当時想像したオチを忘れた。時刻は午後五時を回っていた。今日は兄さんの代理で受付に座り、簡単な案内役を務めている。指に沢山の指輪をはめ、ゆったりと腰を揺らせて歩く妙齢のご婦人、日を浴びれば消え去ってしまいそうな生っ白い肌の二、三十代、覇気のない男性、怒りを示すのがライフワークになり自らも怒気の芸術品になってしまったかのような、肩をそびやかしてやって来た中年男性、と本日のお客様の様子を、僕は手にした本に目を落としながら、時折まるでお菓子をつまむみたいに盗み見た。対応するのにやや手腕が問われると思われる客人も、依頼が終わるときには皆何かしら手応えを得た顔つきで会計を済ませていくのだから、この店の主人はなかなか上手くやっていると言えた。
    「何読んでるんだ?」
     マッサージ療法を終えた霊幻さんは肘の所まで捲り上げたシャツの袖を指でつまんで、手首まで下ろしながらこちらへ近づいて来た。僕が答える前に表紙を見て「はー」と唸る。「もうそんなの読めちゃうんだな」
    「年は関係ないですよ」
    「まぁな。出だしかっこいいよな」
     既読なんだという小さな驚きと新雪に足跡をつけられたような微妙な感情がそのまま顔に出ていたのだろう。霊幻さんはし 1032