双葉ツカサ
Tonya
MOURNINGお題「泣くくらいなら、笑ってやる」流ロク 双葉ツカサ、ヒカル公園を駆け回っていた幼児がこてんと前のめりに倒れ、ワッと泣き出した。母親らしい女性が慌てた様子で駆け寄っていく。
ありきたりな光景。甲高い泣き声に注意を向けていた周囲の人々も、事態を把握するとすぐ各々の行動に戻っていく。一人、ベンチに腰かけている少年を除いて。
『……うるせぇな』
「あ、ヒカル。起きたんだ」
頭の中だけで行われる特殊なコミュニケーション。あるいは自問自答。
「大丈夫かな。派手に転んだみたいだけど」
顔面をぶつけたらしく、幼児の小さな鼻が赤くなっていた。
『あんなの本気じゃねえよ』
気を引くためだ。何を、とはあえて言わない片割れの言葉にツカサは首肯する。たしかに母親に抱き起こされると、幼児はすぐ涙を引っ込めた。
「きっとそれは……いいことだよ」
つまずき倒れたとき、手を差し伸べてくれる人がいるのはきっと幸せなこと。ほら、あの子供だってもう笑顔になっている。
じゃあ、もしそんな相手がいなかったら。
『ケッ、くだらねえ』
疑問を浮かべるのと同時にヒカルが吐き捨てる。
『他人の手を貸りなきゃ立てねえなんざ、雑魚の証みたいなものだろうが』
「どうだろう。でも、うん… 728
Tonya
MOURNING流ロク双葉ツカサカステラを一本もらった。人数が少なくて、と委員長に声をかけられて参加したボランティアの礼品。帰ってから包装を開けると甘い香りがふわりと漂う。ケトルの湯を沸かす間に皿とフォークを出し、カステラを包丁で切り分け、ティーバッグの紅茶を淹れる。いずれも用意はひとりぶん。同室者はいないし、養護施設内で一緒にお茶をするような間柄の者もいない。
やわらかい生地にフォークを刺し、食べやすい大きさに分けて口に運ぶ。甘い。蜂蜜の風味がするしっとりした舌触り。飲み込んでから紅茶を口に含めば、後味もすっきりと押し流される。もうひと口。
『相変わらず甘ちゃんだな』
カップを傾ける頭の中で声がする。目視できずとも脳裏に浮かぶ呆れ顔。間違ってはいないだろう。他でもない自身のことだ。
「断ったら角が立つからね。時間もあったし」
皿は空になった。思いの外軽い口当たりで、もう一切れくらいなら食べられそうだ。
「ヒカルも食べない?」
『いらね』
「甘いよ」
『そうか』
包丁で先ほどよりも狭い幅を切って皿へ移す。
『美味いのか、それ』
「うん。食べる?」
『珍しいと思っただけだ』
甘いものは嫌いではないが、特 1384