水銀
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 がたん、ごとん、とレールジョイントを車輪が乗り越える音がする。
電車のなかにいた。座席に座って、自身のバッグを抱えて、うつらうつらと体を揺らす。近くの席でこどもがきゃあきゃあとはしゃいでいるのが見えるのに、不思議と聞こえなかった。分厚い水をへだてているような、不明瞭さだ。
眠っているのだと思った。
通路を挟んだ反対側の席に座っている男が、人の頭を膝の上に乗せているのを見たからだ。誰も騒がないので、妙な白昼夢を見ているのだと思った。
長い黒髪を黄色いリボンでまとめた男は、至極大事そうに頭を撫でていた。黄金の髪を撫で、いとしげに頬に指を滑らせる。
「次はどこへいこうか」
男が楽し気にぽつりとつぶやいただけの独り言が妙にはっきりと聞こえる。
404電車のなかにいた。座席に座って、自身のバッグを抱えて、うつらうつらと体を揺らす。近くの席でこどもがきゃあきゃあとはしゃいでいるのが見えるのに、不思議と聞こえなかった。分厚い水をへだてているような、不明瞭さだ。
眠っているのだと思った。
通路を挟んだ反対側の席に座っている男が、人の頭を膝の上に乗せているのを見たからだ。誰も騒がないので、妙な白昼夢を見ているのだと思った。
長い黒髪を黄色いリボンでまとめた男は、至極大事そうに頭を撫でていた。黄金の髪を撫で、いとしげに頬に指を滑らせる。
「次はどこへいこうか」
男が楽し気にぽつりとつぶやいただけの独り言が妙にはっきりと聞こえる。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/作家と編集者 たしかに子供の体調は優れないようだった。赤く染まった顔。額に触れれば恐ろしいほど体温が高いのがわかる。
生まれつき体が弱いのだとカール・クラフトは言った。担当編集者として原稿の回収に来ただけだと言うのに、妙な事になったなとラインハルトは思考の片隅で思った。
自身の父を見上げる子供の目は憤怒で満たされているようだった。ぎろりとカールを睨みつけたあと、言おうとして口を開く。しかしかすれ切った、意味のある単語にさえ聞こえない声。喋れないことに驚いた様子で喉を押さえたあと、子供は舌打ちをして黙り込んだ。睨まれた父親の方は、やれやれとでもいいたげに肩をすくめる。
ベッドに寝かせられた子供の熱をはかりつつ、ラインハルトは彼の作家に問いかけた。
1085生まれつき体が弱いのだとカール・クラフトは言った。担当編集者として原稿の回収に来ただけだと言うのに、妙な事になったなとラインハルトは思考の片隅で思った。
自身の父を見上げる子供の目は憤怒で満たされているようだった。ぎろりとカールを睨みつけたあと、言おうとして口を開く。しかしかすれ切った、意味のある単語にさえ聞こえない声。喋れないことに驚いた様子で喉を押さえたあと、子供は舌打ちをして黙り込んだ。睨まれた父親の方は、やれやれとでもいいたげに肩をすくめる。
ベッドに寝かせられた子供の熱をはかりつつ、ラインハルトは彼の作家に問いかけた。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「おまえが生まれてきたことが何よりの幸いだ」
にこにこと上機嫌そうな代父が差し出した箱を、少年は凪いだ気持ちで受け取った。少年の代父はこの日は異様に機嫌が良くなるのだ。
受け取った箱は丁寧に包装されている。開けなさいという無言の圧を感じて、少年は包装紙に手をかけた。きらびやかな包装をやぶるのをじっと見つめられて、いささか居心地が悪い。
中から出てきたのは、楽譜だった。音符を目で追って脳の中で奏でる。知らない曲だ。
「ラインハルト、さあ、こちらへ」
代父に手を引かれて向かった先はピアノが置かれている部屋だった。
ピアノのふたが開けられる。椅子に座ることをうながされた。
弾け、ということだ。
少年は鍵盤に指をのせた。その上から代父の手が重ねられる。ふたりの指が絡まった。
495にこにこと上機嫌そうな代父が差し出した箱を、少年は凪いだ気持ちで受け取った。少年の代父はこの日は異様に機嫌が良くなるのだ。
受け取った箱は丁寧に包装されている。開けなさいという無言の圧を感じて、少年は包装紙に手をかけた。きらびやかな包装をやぶるのをじっと見つめられて、いささか居心地が悪い。
中から出てきたのは、楽譜だった。音符を目で追って脳の中で奏でる。知らない曲だ。
「ラインハルト、さあ、こちらへ」
代父に手を引かれて向かった先はピアノが置かれている部屋だった。
ピアノのふたが開けられる。椅子に座ることをうながされた。
弾け、ということだ。
少年は鍵盤に指をのせた。その上から代父の手が重ねられる。ふたりの指が絡まった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 来客を告げるメイドの声に、女は慌てて身なりを整えた。思っているよりも早く到着したらしい。2人分の足音がどんどん近づいてくる。
入室の許しを得て、ドアを潜ってきたのは影のような男だった。長い黒髪をまとめる黄色いリボンだけが色鮮やかだった。
「ご機嫌いかがかな、ご婦人」
「あなたのお陰で良い日々を過ごせているわ」
ふふ、と女は笑った。
影のような男は占い師なのだ。最初は胡散臭いと女も警戒していた。しかし失せ物探しや悩みに対して、ぴたりと当たる預言を繰り返されたら信じるしかないだろう。
「今日はどのようなご用件かしら?」
珍しいことに男の方から会いたいと連絡が来たので、女は興味深げに男を見た。
「ご懐妊、おめでとうございます。まずはあなたのために言祝ぐことをお許しいただきたい」
1070入室の許しを得て、ドアを潜ってきたのは影のような男だった。長い黒髪をまとめる黄色いリボンだけが色鮮やかだった。
「ご機嫌いかがかな、ご婦人」
「あなたのお陰で良い日々を過ごせているわ」
ふふ、と女は笑った。
影のような男は占い師なのだ。最初は胡散臭いと女も警戒していた。しかし失せ物探しや悩みに対して、ぴたりと当たる預言を繰り返されたら信じるしかないだろう。
「今日はどのようなご用件かしら?」
珍しいことに男の方から会いたいと連絡が来たので、女は興味深げに男を見た。
「ご懐妊、おめでとうございます。まずはあなたのために言祝ぐことをお許しいただきたい」
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/作家と編集 丁寧にラッピングされた小箱を前に、ラインハルトはなんとも言い難い表情でそのリボンを引っ張った。机の上にあるものはすべてファンからの贈り物だから、勝手に食べて良いと言われたものの、甘いものを特別好んでいるわけではない。この量のチョコレートが並んでいるのを見ると、それだけで舌が馬鹿になる気がした。
積まれた贈り物の中から、引き寄せた小箱を軽く振ってみる。市販品である。開封された様子はない。
深い色のリボンを解き、箱のふたをあけると、3列に並べられたチョコが見える。個別に包装もされていた。1粒つまんで口に運ぼうとして、やめた。
背後の闇の中に、誰かがたたずんでいることに気が付いたからだ。
「もう終わったのか?」
429積まれた贈り物の中から、引き寄せた小箱を軽く振ってみる。市販品である。開封された様子はない。
深い色のリボンを解き、箱のふたをあけると、3列に並べられたチョコが見える。個別に包装もされていた。1粒つまんで口に運ぼうとして、やめた。
背後の闇の中に、誰かがたたずんでいることに気が付いたからだ。
「もう終わったのか?」
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 てててっと駆け寄ってきたこどもを見て、ラインハルトは多少眉をしかめた。
長い黒髪を黄色いリボンで結った少年だ。両手でもふもふとした獣のぬいぐるみを抱えていた。デフォルメされたぬいぐるみの原型を想像してみたが、よくわからない。猫耳のようなものは生えているのでネコ科のなにかだろう。
少年はラインハルトの後をずっとついてきている。ラインハルトは特に歩くスピードを遅くしなかったが、あきらめずにずっとついてきているのだ。
自分の家の前について、ラインハルトはさすがに足をとめて振り返った。
このままだと家の中までついてきそうだ。
「迷子なら――」
ラインハルトが口を開くや否や、少年はひしとラインハルトに抱きついた。
641長い黒髪を黄色いリボンで結った少年だ。両手でもふもふとした獣のぬいぐるみを抱えていた。デフォルメされたぬいぐるみの原型を想像してみたが、よくわからない。猫耳のようなものは生えているのでネコ科のなにかだろう。
少年はラインハルトの後をずっとついてきている。ラインハルトは特に歩くスピードを遅くしなかったが、あきらめずにずっとついてきているのだ。
自分の家の前について、ラインハルトはさすがに足をとめて振り返った。
このままだと家の中までついてきそうだ。
「迷子なら――」
ラインハルトが口を開くや否や、少年はひしとラインハルトに抱きついた。
deathpia
DOODLE131(※機械飜譯)Rating:
-怪談風短編集
Caution:
-原作世界線っぽいというか、一般人っぽいというか、とにかく概ね水銀黄金成分を含んでいます。
1. Smoke and Mirrors
報告を終えた部下が敬礼をしていると、誰かがドアを叩いた。 執務室の机に座っていたラインハルトの頭に疑問が浮かんだ。 この時間に来るはずの者はいなかったのだ。 部下にしばらくその場に待機するよう手振りで命令し、ラインハルトはドアの外から聞こえるほど声を上げた。
「誰だ?」
「宣伝省のクラフトです、ハイドリッヒ中将閣下」
冠をつけた男のはっきりとした声に、ラインハルトはかすかに眉をひそめた。 さすがに深セン城に一角を占めるような詐欺師であろうことは何となく納得したが、クラフトという名前も、そのような声も聞いたことがなかったからだ。 ひどく不思議なことだった。 彼の言葉が本当なら、彼が深セン城に入城する際、適否の選別に何らかの形でラインハルトが関わったはずだったからだ。 違和感を感じると同時に、ラインハルトはこれまで秘密警察の長として命じた数々の内偵と諜報を思い出し始めた。
12459報告を終えた部下が敬礼をしていると、誰かがドアを叩いた。 執務室の机に座っていたラインハルトの頭に疑問が浮かんだ。 この時間に来るはずの者はいなかったのだ。 部下にしばらくその場に待機するよう手振りで命令し、ラインハルトはドアの外から聞こえるほど声を上げた。
「誰だ?」
「宣伝省のクラフトです、ハイドリッヒ中将閣下」
冠をつけた男のはっきりとした声に、ラインハルトはかすかに眉をひそめた。 さすがに深セン城に一角を占めるような詐欺師であろうことは何となく納得したが、クラフトという名前も、そのような声も聞いたことがなかったからだ。 ひどく不思議なことだった。 彼の言葉が本当なら、彼が深セン城に入城する際、適否の選別に何らかの形でラインハルトが関わったはずだったからだ。 違和感を感じると同時に、ラインハルトはこれまで秘密警察の長として命じた数々の内偵と諜報を思い出し始めた。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 目を覚ましたら世界が滅んでいた。
寝室の天井はいつも通りだけれど、妙な確信があった。世界はもう滅んでいるのだ。
寝台から起きて、普段通りに身支度を始める。
静かであった。窓越しの喧騒はどこにもなく、試しにとテレビをつけてみれば、ざあざあとノイズが走るばかり。
ダイニングの机に置きっぱなしだった新聞を手に取る。昨日の日付のものだ。自身の写真がそこに乗っていた。ラインハルトが俳優を引退したことを報じる記事が書かれている。特に目新しい内容はない。新聞を机の上に戻した。
さて、どうしよう。
窓の外を見る。空はまっくろで、延々と星が落ちていた。見渡す限り建築物は崩れていて、無事なのはラインハルトの家だけのようだ。
916寝室の天井はいつも通りだけれど、妙な確信があった。世界はもう滅んでいるのだ。
寝台から起きて、普段通りに身支度を始める。
静かであった。窓越しの喧騒はどこにもなく、試しにとテレビをつけてみれば、ざあざあとノイズが走るばかり。
ダイニングの机に置きっぱなしだった新聞を手に取る。昨日の日付のものだ。自身の写真がそこに乗っていた。ラインハルトが俳優を引退したことを報じる記事が書かれている。特に目新しい内容はない。新聞を机の上に戻した。
さて、どうしよう。
窓の外を見る。空はまっくろで、延々と星が落ちていた。見渡す限り建築物は崩れていて、無事なのはラインハルトの家だけのようだ。
deathpia
DOODLE水銀黄金(※機械飜譯)Rating:
-監督のクラフトと、俳優のハイドリヒと、息子のイザークネタ
Caution:
-1年前に書かれたので解釈がかなり違う
-便宜主義的な設定の現パロ
Rambling:
-イザークが唯一認められたいのは獣殿で、唯一憎んでいるのは獣殿の唯一の友達である水銀であること好き
匿名の眠れない夜1.
電話を受けたラインハルトはその場に立ち止まり、目を瞬かせた。 彼の口から出た名前はイザークもよく知っているものだった。 「カール? 卿か?」
食卓の上でクレヨンで絵を描いていたイザークは顔を上げた。 ラインハルトが息子の視線に反応する前に、子供は静かに画用紙の上に視線を戻した。
ラインハルトは、まるで昨日も会った相手と会話しているかのように、気さくな声で挨拶を交わしている。
イザークもまた、電話の向こうの人物を知っていた。 カール・クラフト、彼は目の前の世界に対する奇妙な確信と奇妙な憧れを持って生きている人だ。 そんな奴が映画監督とかになるんだろうな。 イザークは非難するようにそう思いながらも、手は熱心に画用紙に色を塗っていた。 そんな中、笑い始めたカールの声にラインハルトの笑い声、続いて安否の挨拶が混じる。 「卿は元気そうで何よりだ。 今はどこにいるのだろう、初めて見る国番だ。
3989電話を受けたラインハルトはその場に立ち止まり、目を瞬かせた。 彼の口から出た名前はイザークもよく知っているものだった。 「カール? 卿か?」
食卓の上でクレヨンで絵を描いていたイザークは顔を上げた。 ラインハルトが息子の視線に反応する前に、子供は静かに画用紙の上に視線を戻した。
ラインハルトは、まるで昨日も会った相手と会話しているかのように、気さくな声で挨拶を交わしている。
イザークもまた、電話の向こうの人物を知っていた。 カール・クラフト、彼は目の前の世界に対する奇妙な確信と奇妙な憧れを持って生きている人だ。 そんな奴が映画監督とかになるんだろうな。 イザークは非難するようにそう思いながらも、手は熱心に画用紙に色を塗っていた。 そんな中、笑い始めたカールの声にラインハルトの笑い声、続いて安否の挨拶が混じる。 「卿は元気そうで何よりだ。 今はどこにいるのだろう、初めて見る国番だ。
deathpia
DOODLE水銀黄金(※機械飜譯)Rating:
-友人と乾杯を楽しむカール落書き
Rambling:
-1や3は不健全な企画でしたが、本題を書けなかったので健全です。
-ドイツの乾杯の仕方と聞いたのがかなりエモい
Champagne1. Beerenauslese
ラインハルトは持ち上げたグラスに入った液体の向こうに、向かいに座っている男を見た。 男、カール・クラフトのシルエットが揺らめくように見えるのは、必ずしも液体が揺れているからではない。 不鮮明な輪郭は、初めて会った日よりも目に見えて鮮明になったような気がするが、それでもまだ彼がどのような人物か判別できるレベルではなかった。 目を合わせなければならない状況では、かなり困ったことでもあった。
しかし今は問題なかった。 今、向かいでラインハルトを見つめる視線に気付かない方が、むしろ難しいことだった。 その視線を受け止めながら、ラインハルトは目の前のシルエットを観察した。 先ほど目が合ったような気がしたが、どちらも口を開くことはなかった。 ラインハルトの青い瞳が、目の前のシルエットをじっくりと見つめる。 カール・クラフト、身分には何の問題もなかった男だ。 由緒ある名門大学出身で、不祥事に巻き込まれたために、彼にとっては残念なことに自分と出会った。 知っている事実を一つ一つ並べれば並べるほど、その言葉の虚しさが増していく。 どこにでもいそうな男は、しかしラインハルトが今まで見たことのない方法で狂っているように見えた。 彼らが初めて会ったことを認めながら、ラインハルトをすでに知っていると言う男ではないか。
2903ラインハルトは持ち上げたグラスに入った液体の向こうに、向かいに座っている男を見た。 男、カール・クラフトのシルエットが揺らめくように見えるのは、必ずしも液体が揺れているからではない。 不鮮明な輪郭は、初めて会った日よりも目に見えて鮮明になったような気がするが、それでもまだ彼がどのような人物か判別できるレベルではなかった。 目を合わせなければならない状況では、かなり困ったことでもあった。
しかし今は問題なかった。 今、向かいでラインハルトを見つめる視線に気付かない方が、むしろ難しいことだった。 その視線を受け止めながら、ラインハルトは目の前のシルエットを観察した。 先ほど目が合ったような気がしたが、どちらも口を開くことはなかった。 ラインハルトの青い瞳が、目の前のシルエットをじっくりと見つめる。 カール・クラフト、身分には何の問題もなかった男だ。 由緒ある名門大学出身で、不祥事に巻き込まれたために、彼にとっては残念なことに自分と出会った。 知っている事実を一つ一つ並べれば並べるほど、その言葉の虚しさが増していく。 どこにでもいそうな男は、しかしラインハルトが今まで見たことのない方法で狂っているように見えた。 彼らが初めて会ったことを認めながら、ラインハルトをすでに知っていると言う男ではないか。
deathpia
DOODLE水銀黄金(※機械飜譯)Rambling:
-カールのデジャヴ、水銀は過去と未来まで全知であることを前提に、アニメ水銀の独白を参考に、書きたいことを呟きました
黄金郷 擦り切れた記憶の中で、彼はある瞬間には貧民街を歩いていて、次の瞬間には王城の一室に座っていた。 ただ彷徨う時間の中で、自分が何を探しているのかすらわからない。 ただ、今まで見たことのないものなら何でもいいと思った。 まだ肉体を持っていた頃には自分が真理を探求する学者だと思っていたこともあったが、アレッサンドロ・ディ・カリオストロは自分の足元に星を落とし、不死の存在を自称した瞬間に真理など考えていなかった。 地上の無数の有力者たちが注ぐ好奇心と恐怖、賞賛と嫉妬、そのすべてが入り混じった視線を受けながらも、彼が思い浮かべた感想はただ一つ、「以前にもこんなことがあった」。
だからこそ、その少女の瞳を見た瞬間、天地がひっくり返るような衝撃を受けたのかもしれない。 ギロチンを前にしたエメラルドの瞳は、どこまでも無垢であった。 人生への未練や世の中への恨み、その他既存の世界が三羅万象の中に流し込んだ理など微塵も見当たらない澄んだ瞳の前で、彼は 넋を失ったまま、宝石のような瞳に映る夕暮れをじっと見つめていた。 まだ未知であったとはいえ、目を離すことができなかったのだ。 こんなことを世間では恋に落ちたと言うのだろう。
3180だからこそ、その少女の瞳を見た瞬間、天地がひっくり返るような衝撃を受けたのかもしれない。 ギロチンを前にしたエメラルドの瞳は、どこまでも無垢であった。 人生への未練や世の中への恨み、その他既存の世界が三羅万象の中に流し込んだ理など微塵も見当たらない澄んだ瞳の前で、彼は 넋を失ったまま、宝石のような瞳に映る夕暮れをじっと見つめていた。 まだ未知であったとはいえ、目を離すことができなかったのだ。 こんなことを世間では恋に落ちたと言うのだろう。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「あなたの隣には誰もいない」
かつて聞いたことのある言葉にラインハルトはひょいと眉を上げた。
何の話をしていたのだったか、ゆるゆると記憶を辿るが、この夜闇の如き友人がつらつらとなにかを喋っていたことしか思い出せない。
城の私室でチェスをして、その後酒をなめながらまったりと話をしていた。途中から意識がふわついて、ぼんやりし始めてしまった。友人の声はどうにも眠気を誘う。
いつのまにか側にいた友人に手を取られて、指先に口付けられる。指先の後は手の甲と、徐々に上ってくるキスの位置。
「あなたの孤独を誰も理解しない」
どこか優越感の滲む声だ。
頬へのキス。唇へのキス。ちろりと唇を舐められる。
いつもならばここで唇を開いて、侵入を許すところだったが、なんとなく止めた。友人の肩を押して、身体を離す。
638かつて聞いたことのある言葉にラインハルトはひょいと眉を上げた。
何の話をしていたのだったか、ゆるゆると記憶を辿るが、この夜闇の如き友人がつらつらとなにかを喋っていたことしか思い出せない。
城の私室でチェスをして、その後酒をなめながらまったりと話をしていた。途中から意識がふわついて、ぼんやりし始めてしまった。友人の声はどうにも眠気を誘う。
いつのまにか側にいた友人に手を取られて、指先に口付けられる。指先の後は手の甲と、徐々に上ってくるキスの位置。
「あなたの孤独を誰も理解しない」
どこか優越感の滲む声だ。
頬へのキス。唇へのキス。ちろりと唇を舐められる。
いつもならばここで唇を開いて、侵入を許すところだったが、なんとなく止めた。友人の肩を押して、身体を離す。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/小ネタ 目を覚ましたものの、起き上がる気になれなかった。
原稿を書く合間に少し休もうとソファで横になったのだ。1時間だけ寝るつもりが、気がついたらもう深夜が近い。
どうしたものかとカールは横になったまま考えた。後頭部に感じるふとももの感触。見上げればテレビを見ているうちに眠ってしまったらしい友人の姿。起き上がらない理由をもう一度探した。
また眠ってしまおうか。しかし友人をこのままソファで眠らせるより、寝室に運んだほうがいいだろう。
そうは思うものの、良い眺めなのであまり動く気にならない。
肘置きに頬杖をついて眠っている友人をぼけっと見ていた。
276原稿を書く合間に少し休もうとソファで横になったのだ。1時間だけ寝るつもりが、気がついたらもう深夜が近い。
どうしたものかとカールは横になったまま考えた。後頭部に感じるふとももの感触。見上げればテレビを見ているうちに眠ってしまったらしい友人の姿。起き上がらない理由をもう一度探した。
また眠ってしまおうか。しかし友人をこのままソファで眠らせるより、寝室に運んだほうがいいだろう。
そうは思うものの、良い眺めなのであまり動く気にならない。
肘置きに頬杖をついて眠っている友人をぼけっと見ていた。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「どうしても?」
「どうしても」
言い切った友人(友人である。本人がなんと言おうとも。いずれそうなる定めであるがゆえに)を恨みがまし気に見つめて、カール・クラフトは観念して鋏を握った。
多少伸びた、ようやっと肩甲骨を覆うほどの長さになった金糸。ほのかに輝いているそれを、カール・クラフトは慎重に掬い取った。
「……どうしても?」
「何度聞くつもりだ。仕事に支障があると言っただろう。私はすでに譲歩したぞ」
友人はすごく面倒そうであった。これ以上ごねれば鋏を奪って自ら髪を切りそうな様子だ。
先週のことだ。そろそろ髪を切る必要があるなと呟いた友人に、カール・クラフトはまずもったいないと語った。髪には力が宿る。魔術を行使するものとしては髪は長い方が良いと言ったことを教えた。魔術の祖が直々に語る魔術の基礎であったが、返ってきた反応は冷淡なものであった。「そうか、私は使わない」の一言で終わってしまったのだ。
1241「どうしても」
言い切った友人(友人である。本人がなんと言おうとも。いずれそうなる定めであるがゆえに)を恨みがまし気に見つめて、カール・クラフトは観念して鋏を握った。
多少伸びた、ようやっと肩甲骨を覆うほどの長さになった金糸。ほのかに輝いているそれを、カール・クラフトは慎重に掬い取った。
「……どうしても?」
「何度聞くつもりだ。仕事に支障があると言っただろう。私はすでに譲歩したぞ」
友人はすごく面倒そうであった。これ以上ごねれば鋏を奪って自ら髪を切りそうな様子だ。
先週のことだ。そろそろ髪を切る必要があるなと呟いた友人に、カール・クラフトはまずもったいないと語った。髪には力が宿る。魔術を行使するものとしては髪は長い方が良いと言ったことを教えた。魔術の祖が直々に語る魔術の基礎であったが、返ってきた反応は冷淡なものであった。「そうか、私は使わない」の一言で終わってしまったのだ。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/現人神小ネタ「カールよ」
足を掴まれたまま、少年は影を呼んだ。応えはない。影は少年の足の爪を整えることに執心していた。丁寧に磨き上げて、ゴールドラメ入りの透明なマニキュアを塗るのに忙しいのだ。
少年は結局枕を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。まあ大人しくしていればいいのだから、もう寝てしまってもいいだろうか。良いはずだ。
すやぁ、と寝てしまった少年に、影は相変わらず警戒することを知らないと思ったとか、思わなかったとか。
207足を掴まれたまま、少年は影を呼んだ。応えはない。影は少年の足の爪を整えることに執心していた。丁寧に磨き上げて、ゴールドラメ入りの透明なマニキュアを塗るのに忙しいのだ。
少年は結局枕を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。まあ大人しくしていればいいのだから、もう寝てしまってもいいだろうか。良いはずだ。
すやぁ、と寝てしまった少年に、影は相変わらず警戒することを知らないと思ったとか、思わなかったとか。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「拾ってください」
はあ、と神父ラインハルトは困ったように微笑んだ。インターホンの音に気が付いて、玄関の扉を開けた途端これである。反応に困るだろう。
目の前に立っている男は、影がかたちを持ったような男だった。夜闇のような長髪を黄色いリボンでまとめて、服装も身綺麗なものだ。金に困っているようには見えない。
「なにか困りごとでも?」
拾う拾わないの話はひとまず置いて、ラインハルトはなぜそのような事を言い出したのか、聞いてみることにした。
「情けない話ですが、実は帰るところがないのです」
堂々と言い切る様は困っているようには見えないが、男の妙な自信がにじむ態度は嘘を言っているとも思えなかった。
「そういったことなら、私ではあまり役に立てないと思うが……」
722はあ、と神父ラインハルトは困ったように微笑んだ。インターホンの音に気が付いて、玄関の扉を開けた途端これである。反応に困るだろう。
目の前に立っている男は、影がかたちを持ったような男だった。夜闇のような長髪を黄色いリボンでまとめて、服装も身綺麗なものだ。金に困っているようには見えない。
「なにか困りごとでも?」
拾う拾わないの話はひとまず置いて、ラインハルトはなぜそのような事を言い出したのか、聞いてみることにした。
「情けない話ですが、実は帰るところがないのです」
堂々と言い切る様は困っているようには見えないが、男の妙な自信がにじむ態度は嘘を言っているとも思えなかった。
「そういったことなら、私ではあまり役に立てないと思うが……」
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/現人神「ご機嫌麗しゅう、影殿」
共用スペースに設置された机で作業をしていたところに、影の如き男がやってきたことに気が付いて、私は丁寧に挨拶をした。
影の如き男の用件は察している。我らが輝かしき光が側にいないのを見るに、その行方を尋ねに来たのだろう。
「どこにいるか、知っているか」
そら来た。
主語すらない問いかけだが、その意図を汲めないわけもない。この影の如き男が自ら尋ねるのはひとりに関することのみだ。
私は少し考え込んでから、首を横に振った。
「いいえ、本日私はかの方にお会いしておりませんので……お役に立てず申し訳ございませんが、他の方に尋ねられたほうがよろしいかと」
影の如き男の温度のない視線に、私は困ったように微笑んだ。幾度かの瞬きの間、微苦笑を崩さずにいると、影の如き男はそうかと一度頷いて去っていった。
1272共用スペースに設置された机で作業をしていたところに、影の如き男がやってきたことに気が付いて、私は丁寧に挨拶をした。
影の如き男の用件は察している。我らが輝かしき光が側にいないのを見るに、その行方を尋ねに来たのだろう。
「どこにいるか、知っているか」
そら来た。
主語すらない問いかけだが、その意図を汲めないわけもない。この影の如き男が自ら尋ねるのはひとりに関することのみだ。
私は少し考え込んでから、首を横に振った。
「いいえ、本日私はかの方にお会いしておりませんので……お役に立てず申し訳ございませんが、他の方に尋ねられたほうがよろしいかと」
影の如き男の温度のない視線に、私は困ったように微笑んだ。幾度かの瞬きの間、微苦笑を崩さずにいると、影の如き男はそうかと一度頷いて去っていった。
deathpia
DOODLE水銀黄金(※機械飜譯)Rating:
-獣殿の遺骸素材、とても好きです。
Rambling:
-物語で引用された曲は「Piano Man」です
-以前にキャリーケースを持つカールを描いた時に書き残したものを完成させました
The Stranger トランクを引っ張って一人旅をしている男性に出会ったことがある。
真夜中を過ぎた時刻だった。辺鄙な町の酒場の中は、いつものように人が少なかった。いつもの面の間に陣取り、鼻が曲がるまで密造酒を注ぎ、定められた手順でタバコを巻いて口に含んだ瞬間、ぼんやりとした視界の片隅に、そこにいるはずのない人影が入った。酔っ払って見間違いだと思いつつも、バーテーブルの一番隅の席に焦点を合わせると、そこには本当に何かがいた。周囲の光を吸い込んでいるかのような真っ黒な物体は、よく見るとトラベルバッグだった。ここの酒飲みたちは、十数年間同じ席に座って同じつまみを噛んでいるため、新しいつまみには目がない習慣がすっかり定着してしまったのだが、不思議なことにその時だけは、群衆の誰もあの怪しげな、つまりこれ以上ないほど食欲をそそる荷物を気にしないように、あるいは全く気づかないように、俺のタバコに火を付けてくれるだけだった。
3498真夜中を過ぎた時刻だった。辺鄙な町の酒場の中は、いつものように人が少なかった。いつもの面の間に陣取り、鼻が曲がるまで密造酒を注ぎ、定められた手順でタバコを巻いて口に含んだ瞬間、ぼんやりとした視界の片隅に、そこにいるはずのない人影が入った。酔っ払って見間違いだと思いつつも、バーテーブルの一番隅の席に焦点を合わせると、そこには本当に何かがいた。周囲の光を吸い込んでいるかのような真っ黒な物体は、よく見るとトラベルバッグだった。ここの酒飲みたちは、十数年間同じ席に座って同じつまみを噛んでいるため、新しいつまみには目がない習慣がすっかり定着してしまったのだが、不思議なことにその時だけは、群衆の誰もあの怪しげな、つまりこれ以上ないほど食欲をそそる荷物を気にしないように、あるいは全く気づかないように、俺のタバコに火を付けてくれるだけだった。
deathpia
DOODLE水銀黄金(※機械飜譯)どしゃ降り激しい雨粒が前面ガラスをたたく。ヘッドライトが照らす先は、鼻先以外は何も見えないほどに夜路は暗かった。ちょっとこの小さな光を消してしまったら、もしかすると少し遠くまで見えるかもしれない、と思ったが、隣でつぶやく独り言が故意にそうしているのか疑わしいほどくだらなかったにもかかわらず、友人からその言葉の愚かさを指摘する言葉は戻ってこない。居眠りしているのか?それとも彼らが乗っている四駆が雨の道路で滑ってどこかに突っ込んで転がることが彼にとっては大問題でないか。それとももうどちらも面倒くさくなったのか……。
ひどいことに、自分の気が向かないからといって唯一の友である男をこんなに冷遇するなんて。私を子どもだと思っているに違いない、そうする自分自身も面白そうに見えることに。そうではないか、ハイドリヒ?男は普段自分の言動などは全く考慮せず不平のような言葉を延々と並べた。それでもずっとその表情は笑っているままで変わらない。不満があるようには全く見えなかった。
1446ひどいことに、自分の気が向かないからといって唯一の友である男をこんなに冷遇するなんて。私を子どもだと思っているに違いない、そうする自分自身も面白そうに見えることに。そうではないか、ハイドリヒ?男は普段自分の言動などは全く考慮せず不平のような言葉を延々と並べた。それでもずっとその表情は笑っているままで変わらない。不満があるようには全く見えなかった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/アトリエ「カールよ、あまり私の部下を怖がらせてくれるな。また泣きつかれたぞ、今年も依頼達成件数が足りていないらしいな」
ふよふよと中に浮かぶ手のひら大の月らしきものをそっと押しのけて、工房の片隅に置かれた椅子に腰掛けている金髪の男が言う。
光を紡いだ長い黄金の髪と蕩けた金の瞳が印象的な、この世のものと思えぬほど美しい男だ。
星の海を模した工房は基本的に薄暗く、その中で金髪の男は自ら発光しているかのようにまばゆかった。
「はて、あなたの部下ともなれば、海千山千の手練れ。私のようなものになにが出来ましょう」
一瞬まぶし気に目を細めて、工房の主は空惚けた。金髪の男が微苦笑をこぼす。
「達成件数が足りないと、工房経営の資格が剥奪されるのは、卿も知っているだろう」
1031ふよふよと中に浮かぶ手のひら大の月らしきものをそっと押しのけて、工房の片隅に置かれた椅子に腰掛けている金髪の男が言う。
光を紡いだ長い黄金の髪と蕩けた金の瞳が印象的な、この世のものと思えぬほど美しい男だ。
星の海を模した工房は基本的に薄暗く、その中で金髪の男は自ら発光しているかのようにまばゆかった。
「はて、あなたの部下ともなれば、海千山千の手練れ。私のようなものになにが出来ましょう」
一瞬まぶし気に目を細めて、工房の主は空惚けた。金髪の男が微苦笑をこぼす。
「達成件数が足りないと、工房経営の資格が剥奪されるのは、卿も知っているだろう」
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 時折心の臓が痛む。癒えない傷がそこにあるように。
とうの昔に脈打つことも忘れたような心臓だ。生まれてこの方、傷を負ったこともない。痛むはずがないと理性は言うが、存在を主張するように折りに触れて心臓は傷んだ。
特に輝ける黄金を見るたびに引き攣れた。
例えば風に遊ばれている金糸であったり、思索にしずむ際の目を伏せた横顔であったり、チェスの駒をつまむ指先であったり。特に珍しくもない、日常のさなかの仕草だ。
はて、ではこの心臓はなぜ痛んでいるのか。まさか本体の不手際ではないだろうな、と無意味な考えを巡らせた。触覚の心臓に不具合をつくっておく意味がないので、ありえない話なのだが。
たまに痛む以外に問題もないため、放っておいた傷の意味を理解したのは、計画が最終段階に至ってからだった。
1060とうの昔に脈打つことも忘れたような心臓だ。生まれてこの方、傷を負ったこともない。痛むはずがないと理性は言うが、存在を主張するように折りに触れて心臓は傷んだ。
特に輝ける黄金を見るたびに引き攣れた。
例えば風に遊ばれている金糸であったり、思索にしずむ際の目を伏せた横顔であったり、チェスの駒をつまむ指先であったり。特に珍しくもない、日常のさなかの仕草だ。
はて、ではこの心臓はなぜ痛んでいるのか。まさか本体の不手際ではないだろうな、と無意味な考えを巡らせた。触覚の心臓に不具合をつくっておく意味がないので、ありえない話なのだが。
たまに痛む以外に問題もないため、放っておいた傷の意味を理解したのは、計画が最終段階に至ってからだった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「とはいえ、それだけのことで私が犯人と断定できるわけもありますまい」
面倒、というよりは不機嫌な様子で吐き捨てて、水銀はくすくすと笑っている友人を睨んだ。
雪に閉ざされたペンション。破壊された通信機器。中からの脱出も、外からの救援も難しい。つまり、"お決まり"のやつである。
旅行に来ただけだというのに、よくもまあ妙なことが起きるものだ。
朝霧を切り裂いた悲鳴につられて、寝間着の上に一枚羽織って友人が様子を見に行った時から、水銀の機嫌は地を這っていた。
卿も来たほうがいいぞ、と笑みを含んだ声で言われて、厄介ごとを察して余計に機嫌が悪くなった。
のろのろと身支度を整えて現場に向かえば、水銀を出迎えたのは見知らぬ死体と殺人容疑であった。なんとも都合がいいことに居合わせた医者が確かめたところ、死亡推定時刻に所在不明だったのがこの蛇のみであるという言い分らしい。
800面倒、というよりは不機嫌な様子で吐き捨てて、水銀はくすくすと笑っている友人を睨んだ。
雪に閉ざされたペンション。破壊された通信機器。中からの脱出も、外からの救援も難しい。つまり、"お決まり"のやつである。
旅行に来ただけだというのに、よくもまあ妙なことが起きるものだ。
朝霧を切り裂いた悲鳴につられて、寝間着の上に一枚羽織って友人が様子を見に行った時から、水銀の機嫌は地を這っていた。
卿も来たほうがいいぞ、と笑みを含んだ声で言われて、厄介ごとを察して余計に機嫌が悪くなった。
のろのろと身支度を整えて現場に向かえば、水銀を出迎えたのは見知らぬ死体と殺人容疑であった。なんとも都合がいいことに居合わせた医者が確かめたところ、死亡推定時刻に所在不明だったのがこの蛇のみであるという言い分らしい。
deathpia
DOODLEHgAu(※機械飜譯)Rating:
-女神がカールくんに言いたいことがあるよう
Caution:
-水銀黄金です
太陽が二個も昇った日 「なんと?」
この質問を何度繰り返したか自分でもわからない。永劫回帰の中で繰り返しているという話ではない。いや、そうではないのだ、この瞬間も確かに未知ではないからだ。それでも、水銀の蛇は自発的に基地を再生産せざるを得なかった。
「なんと言ったか、ハイドリヒ?」
人間の真似をしている場合ではなかった。いきなりファミリーネームで呼ばれた友人は意外と驚かなかった。
「私、この人が怖い。とても、とても.......」
そして明らかに友人を指定した質問に答えたのは、不思議なことに女神の声だった。水銀も言葉の内容には同意する。マルグリットもそう思ってくれるなら、計画通りに進んでいるのと同じことだろう。 しかし、しかし.......。
3838この質問を何度繰り返したか自分でもわからない。永劫回帰の中で繰り返しているという話ではない。いや、そうではないのだ、この瞬間も確かに未知ではないからだ。それでも、水銀の蛇は自発的に基地を再生産せざるを得なかった。
「なんと言ったか、ハイドリヒ?」
人間の真似をしている場合ではなかった。いきなりファミリーネームで呼ばれた友人は意外と驚かなかった。
「私、この人が怖い。とても、とても.......」
そして明らかに友人を指定した質問に答えたのは、不思議なことに女神の声だった。水銀も言葉の内容には同意する。マルグリットもそう思ってくれるなら、計画通りに進んでいるのと同じことだろう。 しかし、しかし.......。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 その胸元で揺れる十字架が妙に印象に残った。
もうかなり昔のことである。近所の廃墟であるはずの教会から物音が聞こえることに気がついてしまい、それはもう嫌だったのだが、様子を見に中に入った。
するとステンドグラスから差し込む光の中に、カソックを着た男がひとり立っていたのである。他人の気配に気がついたためか、男は振り返った。光り輝く長い金糸が優雅に弧を描くのに見惚れていたが、男の顔を見てしまうと、その衝撃さえ過去のものだ。
この世のものと思えぬほど美しい男だった。神が手ずから作り上げた美の極致と言っても過言ではないだろう。
男は巡回神父であると名乗った。通りすがりに教会を見かけて、せっかくなのでと立ち寄ったのだそうだ。祈りを捧げるためかと問うと、男は少しばかり困ったように微笑んだ。
541もうかなり昔のことである。近所の廃墟であるはずの教会から物音が聞こえることに気がついてしまい、それはもう嫌だったのだが、様子を見に中に入った。
するとステンドグラスから差し込む光の中に、カソックを着た男がひとり立っていたのである。他人の気配に気がついたためか、男は振り返った。光り輝く長い金糸が優雅に弧を描くのに見惚れていたが、男の顔を見てしまうと、その衝撃さえ過去のものだ。
この世のものと思えぬほど美しい男だった。神が手ずから作り上げた美の極致と言っても過言ではないだろう。
男は巡回神父であると名乗った。通りすがりに教会を見かけて、せっかくなのでと立ち寄ったのだそうだ。祈りを捧げるためかと問うと、男は少しばかり困ったように微笑んだ。
deathpia
DOODLEHgAu(※機械飜譯)水銀黄金でワンドロライしてみたかった。 だから勝手にやりました。
テーマは勝手に「演劇」にしました。勝手に。
翻訳機が勝手に機械翻訳しました。 変なところはアンドロメダギャグで読んでいただければ...
ボックス席の端に座り、ラインハルト・ハイドリヒは長い足を組んだ。明かりが消えた直後だが、まだ幕は上がっておらず、劇場内を満たしているのは劇が始まる前の独特の妙な空気のようなものだった。
隣に座った将校たちと儀礼的な言葉を交わし、ハイドリヒはすぐに青い瞳を伏せた。彼らには諜報を受けて視察に来たという言い訳があったが、容疑者を探そうとする気配はない。そもそもその程度のことで秘密警察長官を呼び出す理由もないのだから、本当の目的はここにハイドリヒを展示することだろう。輝く金髪と軍人らしい容姿を見せびらかしながら座っていて、たまに彼らの話に答えるだけで十分だった。本当に容疑者が必要なら、後でアローナを作ればいいだけのことだ。ハイドリヒは優秀な兵士であったため、誰よりもその構造をよく理解していた。
1253隣に座った将校たちと儀礼的な言葉を交わし、ハイドリヒはすぐに青い瞳を伏せた。彼らには諜報を受けて視察に来たという言い訳があったが、容疑者を探そうとする気配はない。そもそもその程度のことで秘密警察長官を呼び出す理由もないのだから、本当の目的はここにハイドリヒを展示することだろう。輝く金髪と軍人らしい容姿を見せびらかしながら座っていて、たまに彼らの話に答えるだけで十分だった。本当に容疑者が必要なら、後でアローナを作ればいいだけのことだ。ハイドリヒは優秀な兵士であったため、誰よりもその構造をよく理解していた。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金さあ、わたしとエンゲージして……「私とエンゲージしてくれ」
そろりとラインハルトの様子をうかがうような声音だった。
また来たか。ちいさく、息だけで笑う。
ばたりと投げ出されたラインハルトの手に、誰かの手が重ねられて、ゆるりと薬指の付け根を撫でられた。
視界はかすんでいて、垂れ下がった血が余計にうっとうしい。
事故といえば事故だった。避けられるはずの出来事を、避けようともしなかったことも加味して考えると、自損のようでもあったが。
こうして死が近づくと、どこからともなく現れる男がいることを思い出す。
かすむ視界では黒い人影でしか認識できないけれど、毎度同じ男で、同じような台詞を吐いた。
人のことをさんざん悪魔だのなんだのと言ってくれたが、死にかけの時に契約を持ちかけるなど、そちらのほうがよほど悪魔らしいではないか。
445そろりとラインハルトの様子をうかがうような声音だった。
また来たか。ちいさく、息だけで笑う。
ばたりと投げ出されたラインハルトの手に、誰かの手が重ねられて、ゆるりと薬指の付け根を撫でられた。
視界はかすんでいて、垂れ下がった血が余計にうっとうしい。
事故といえば事故だった。避けられるはずの出来事を、避けようともしなかったことも加味して考えると、自損のようでもあったが。
こうして死が近づくと、どこからともなく現れる男がいることを思い出す。
かすむ視界では黒い人影でしか認識できないけれど、毎度同じ男で、同じような台詞を吐いた。
人のことをさんざん悪魔だのなんだのと言ってくれたが、死にかけの時に契約を持ちかけるなど、そちらのほうがよほど悪魔らしいではないか。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/R15くらい みずからの足元に跪いて、無防備にさらされたラインハルトのつまさきにくちづける男を見下ろして、ラインハルトはなんとも言いがたい表情を浮かべた。
すでに見慣れてしまった寝台に腰を掛けたまま、相手の長い黒髪が地面を這うのを眺める。
妙なことになったものだ。もとは体調不良で休んだ同僚のかわりに原稿を受け取りに来ただけだというのに、なぜだか私以外には原稿は渡さないと作家が言い出し、気が付いたら部署替えが行われて今に至っている。
原稿を渡す条件も回を重ねるごとにエスカレートしていた。
くるぶしやふとももに押し付けられる唇。唾液のあとを残しながら這い上がっていく舌。この家をたずねた際に着ていた服は、シャツを残してすでに脱がされていた。押されるがまま寝台に沈み込む。
1548すでに見慣れてしまった寝台に腰を掛けたまま、相手の長い黒髪が地面を這うのを眺める。
妙なことになったものだ。もとは体調不良で休んだ同僚のかわりに原稿を受け取りに来ただけだというのに、なぜだか私以外には原稿は渡さないと作家が言い出し、気が付いたら部署替えが行われて今に至っている。
原稿を渡す条件も回を重ねるごとにエスカレートしていた。
くるぶしやふとももに押し付けられる唇。唾液のあとを残しながら這い上がっていく舌。この家をたずねた際に着ていた服は、シャツを残してすでに脱がされていた。押されるがまま寝台に沈み込む。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 夢を見ている。
光をつむいだような金の髪がカーテンのように世界をくぎっていた。
私は傷つき、おとろえている。体が動かないのだ。星々のように砕けて、ちいさくなっていた。
私を見下ろす金の瞳は慈愛に蕩けていて、動けない私を抱き起す手は慈しみに満ちていた。
白い服が赤く汚れるのも構わず、私を抱きしめて、額にくちづけを落とす。
そして最後には「おやすみ」と告げる声を最後に意識が溶けていくのだ。
ああ、うらやましいなあと思う。
それは私であるというのに、私はそのようにしてもらったことがない。
まぶたを持ち上げれば、ひとりであった。
星々が散らばる宙で、座にひとり座っている。
無意識が見せた幻覚というのがふわさしいか。
327光をつむいだような金の髪がカーテンのように世界をくぎっていた。
私は傷つき、おとろえている。体が動かないのだ。星々のように砕けて、ちいさくなっていた。
私を見下ろす金の瞳は慈愛に蕩けていて、動けない私を抱き起す手は慈しみに満ちていた。
白い服が赤く汚れるのも構わず、私を抱きしめて、額にくちづけを落とす。
そして最後には「おやすみ」と告げる声を最後に意識が溶けていくのだ。
ああ、うらやましいなあと思う。
それは私であるというのに、私はそのようにしてもらったことがない。
まぶたを持ち上げれば、ひとりであった。
星々が散らばる宙で、座にひとり座っている。
無意識が見せた幻覚というのがふわさしいか。
deathpia
DOODLE獣殿が今日も美しい。 できるだけ似たように描いてみようと原作の挿絵を覗いていると幸せです……目鼻立ちの造形がすごい、水銀の最高傑作とはこんなものか。5/8は親の日、遅くなりましたが獣殿に愛を自覚させてくれてありがとう、万象の父。カーネーションでもつけてください、獣殿……? 2
にこみ春樹
DOODLE『薬の信者は歴史を振り返る事なく繰り返す。大金欲しさに次々と…それが毒とも知らないで。』
昔、辰砂の鉱物が賢者の石と呼ばれ薬として飲まれていたけれど
成分辿るとそれは水銀。それを飲んだ人達ほど短命なのでした。なんて有名な話し。悲しいね。
とあるバンドの曲がムチャクチャ刺さって
ヘビロテから自創作もこゆ路線やりたかったなど。
またいつかフルカラしたい、て何回目← 3
s_toukouyou
DOODLE雰囲気水銀黄金たまに夜に追いつかれるときがある。陽が地平に向かいはじめ、黄昏の赤い光に照らされているときが一番顕著だ。私の背後に夜がいて、私を見つめている。何の用か尋ねてみようか考えてみたこともあるが、藪をつついて蛇を出すこともあるまいと思いなおした。
日がかたむくほどに、夜の足音は早まって、つき始めた街燈のあかりによって伸びるはずの自身の影は、夜に飲み込まれていた。
178日がかたむくほどに、夜の足音は早まって、つき始めた街燈のあかりによって伸びるはずの自身の影は、夜に飲み込まれていた。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/海に遊びに行ってたのと同じ時空 桜の花びらが解けては空を舞う中、青いレジャーシートの上であぐらをかきながら蓮は頭上にはてなマークを浮かべた。
似て非なる輝きを持つ黄金の男と女がいる。薄紅の花弁がきらきら輝く金糸の上に落ちた。花見とはこういうものかと楽しそうに笑う。そのそばで影がこの上ない喜びといった様子で相好を崩していた。
出かけるつもりもなかったというのに、どうしてこんなところに……とは思うものの、マリィが花見をやってみたいという以上否やのあろうはずもなく。事前準備も楽しんであれこれと用意しているマリィに期待の眼差しを向けられてNOと言える訳がない。
マリィとふたりになる分には邪魔をしてこないので(微笑ましそうに見てくるのはやめてほしいが)、余計なのがふたりついてきただけと思えば良いかと切り替える。
511似て非なる輝きを持つ黄金の男と女がいる。薄紅の花弁がきらきら輝く金糸の上に落ちた。花見とはこういうものかと楽しそうに笑う。そのそばで影がこの上ない喜びといった様子で相好を崩していた。
出かけるつもりもなかったというのに、どうしてこんなところに……とは思うものの、マリィが花見をやってみたいという以上否やのあろうはずもなく。事前準備も楽しんであれこれと用意しているマリィに期待の眼差しを向けられてNOと言える訳がない。
マリィとふたりになる分には邪魔をしてこないので(微笑ましそうに見てくるのはやめてほしいが)、余計なのがふたりついてきただけと思えば良いかと切り替える。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金いまさら迷うこともない。そのはずだった。
腕のなかに抱きこんだ死体に頬を寄せて、ぼんやりと次のことを考える。
今はどくどくと血を流して痛む自分の心臓が、何度かのまばたきの後には熱を知らぬ肉のかたまりになることがどうにも口惜しい。
いつかまた、この胸に友との情が突き刺さる日まで、脈を打たない心臓を抱えて生きることを思えば恐ろしい。
けれど、足を止めぬことを選んだのも己であった。
189腕のなかに抱きこんだ死体に頬を寄せて、ぼんやりと次のことを考える。
今はどくどくと血を流して痛む自分の心臓が、何度かのまばたきの後には熱を知らぬ肉のかたまりになることがどうにも口惜しい。
いつかまた、この胸に友との情が突き刺さる日まで、脈を打たない心臓を抱えて生きることを思えば恐ろしい。
けれど、足を止めぬことを選んだのも己であった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金前提 あ、来た。
視線が向かう先ははるか頭上だ。先ほどまで涙をこぼしていた空を覆う雲に亀裂が入り、太陽の光が漏れ出ている。
薄明光線。友人の到来を告げる先触れだ。
すちゃりとサングラスを装備する。遠くから聞こえてくるざわめき。感嘆の溜息。
左右に割れる人なみのなか、ゆったりとした足取りで歩いてくる男が待ち人であった。
みずから発光しているかのように輝かしい男だ。光を紡いで織り上げたような金の髪が、サングラスのレンズ越しに目を焼いた。
「待たせてしまったようだ」
「ああ、いや、今来たところだよ」
そうか、と口元に微笑みを刻むだけで、周囲から息を飲む音が聞こえてくる。失神者が出ていないだけ上等というものだろう。
1111視線が向かう先ははるか頭上だ。先ほどまで涙をこぼしていた空を覆う雲に亀裂が入り、太陽の光が漏れ出ている。
薄明光線。友人の到来を告げる先触れだ。
すちゃりとサングラスを装備する。遠くから聞こえてくるざわめき。感嘆の溜息。
左右に割れる人なみのなか、ゆったりとした足取りで歩いてくる男が待ち人であった。
みずから発光しているかのように輝かしい男だ。光を紡いで織り上げたような金の髪が、サングラスのレンズ越しに目を焼いた。
「待たせてしまったようだ」
「ああ、いや、今来たところだよ」
そうか、と口元に微笑みを刻むだけで、周囲から息を飲む音が聞こえてくる。失神者が出ていないだけ上等というものだろう。
deathpia
DOODLEこんな感じの現パロシットコム水銀黄金見たい~(※機械飜譯)模造蓮の家庭環境は端的に言ってめちゃくちゃだった。 物質的豊かさでも補償できない最悪の保護者というのは、確かに蓮と同じ家に住んでいた人たちのことだろう。
まずはメルクリウス。 名前から見た目までこの国の生まれには見えなかったし、それに関するいかなる説明も聞かなかったが、山積した他の問題に比べればその程度は何でもなかった。 すべてを俯瞰するような視線と青磁を翻弄するためにわざとぐるぐる回す話法、そしてそこに売られた精神が戻ってきてからよく考えてみると、それ以外には何もはっきり覚えていない幻影のような男。 それが蓮の記憶の中の彼の姿だった。
最も大きな問題は幼い蓮にメルクリウスが教えたたった一つの事実が「彼は蓮の父親だ」という点だった。 それを聞いてからしばらく蓮は鏡の前に立つ度にそこに映る明白な証拠と本能的な拒否の間で合意点を見出さなければならなかった。 偶然の瞬間、その場面を目撃したメルクリウスはいつものように口元をひねったような笑みを浮かべるだけだった。
2874まずはメルクリウス。 名前から見た目までこの国の生まれには見えなかったし、それに関するいかなる説明も聞かなかったが、山積した他の問題に比べればその程度は何でもなかった。 すべてを俯瞰するような視線と青磁を翻弄するためにわざとぐるぐる回す話法、そしてそこに売られた精神が戻ってきてからよく考えてみると、それ以外には何もはっきり覚えていない幻影のような男。 それが蓮の記憶の中の彼の姿だった。
最も大きな問題は幼い蓮にメルクリウスが教えたたった一つの事実が「彼は蓮の父親だ」という点だった。 それを聞いてからしばらく蓮は鏡の前に立つ度にそこに映る明白な証拠と本能的な拒否の間で合意点を見出さなければならなかった。 偶然の瞬間、その場面を目撃したメルクリウスはいつものように口元をひねったような笑みを浮かべるだけだった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/よくわからない 海だ。赤い海。
呼吸をするたびに血錆びた空気が肺を満たして、せき込んだ。
広がる赤のなか、まばゆい男が重たい外套を翻して一歩赤に踏み込む。
革靴が赤く汚れていくのを気にもせず、黒い外套と白い軍服のすそをなびかせ、黄金の髪を風にあそばせて、優雅に歩を進める。
それこそ浜辺をまったりと歩いているような様子だ。
革靴の底が地を離れるたび、名残惜し気に赤が後を追う。遠く離れた赤でさえ徐々に男に引き寄せられるように地の上を滑り始め、ついには空を走る。男を目指して伸びる赤は、螺旋を描いていく。
多少目を伏せて、まばゆい男は微笑む。その横顔の美しさはあまりにも恐ろしかった。目を離せない。引き寄せられている。
436呼吸をするたびに血錆びた空気が肺を満たして、せき込んだ。
広がる赤のなか、まばゆい男が重たい外套を翻して一歩赤に踏み込む。
革靴が赤く汚れていくのを気にもせず、黒い外套と白い軍服のすそをなびかせ、黄金の髪を風にあそばせて、優雅に歩を進める。
それこそ浜辺をまったりと歩いているような様子だ。
革靴の底が地を離れるたび、名残惜し気に赤が後を追う。遠く離れた赤でさえ徐々に男に引き寄せられるように地の上を滑り始め、ついには空を走る。男を目指して伸びる赤は、螺旋を描いていく。
多少目を伏せて、まばゆい男は微笑む。その横顔の美しさはあまりにも恐ろしかった。目を離せない。引き寄せられている。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 ああ、また死ねなかった。また殺してくれなかった。また私を置いていく。
みずからの体の破損など意識のそとに放り捨てて、同じように崩れかけの友人の体を掻き抱く。崩れたところから、ほろりと粒子と化して解けていくのを恨みがましく睨みつけた。引き留めるようにつかもうとしても、粒子は指の間からすり抜けていく。
その鼓動を確かめるために友人の胸の上に手をのせて、無防備にさらされた首筋に唇で触れる。薄れていく生の気配をどうにか感じたかった。
かすかな吐息がこれ以上空に溶けていかないようにくちづける。
どこにもいくな。ここにいろ。
264みずからの体の破損など意識のそとに放り捨てて、同じように崩れかけの友人の体を掻き抱く。崩れたところから、ほろりと粒子と化して解けていくのを恨みがましく睨みつけた。引き留めるようにつかもうとしても、粒子は指の間からすり抜けていく。
その鼓動を確かめるために友人の胸の上に手をのせて、無防備にさらされた首筋に唇で触れる。薄れていく生の気配をどうにか感じたかった。
かすかな吐息がこれ以上空に溶けていかないようにくちづける。
どこにもいくな。ここにいろ。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金 静かだ。ひと時も止まることなく流れ込んでくる情報も、いまばかりは黙して語らなかった。
ブランケットをめくりあげて、すやすやと眠っている友人のそばに滑り込む。拒絶されなかったことに、自然と口元も緩む。眠ったままでいるようにしたのは自分自身だとしても、不安はよぎるものだ。
ぴったりとくっついて丸まれば、多少は脳も休まった。
もはや今回の行く先に希望はない以上、続ける意味もない。眠りを妨げるものすべて先に止めてきたので、時が来るまでは眠っていられる。
”心臓”をつぶしてきた以上、いずれこの城も崩れ往き、友人と自分自身も崩落に巻き込まれるだろうが、それでいい。
いずれ朝がくるとしても、今ばかりは安息の時であった。
312ブランケットをめくりあげて、すやすやと眠っている友人のそばに滑り込む。拒絶されなかったことに、自然と口元も緩む。眠ったままでいるようにしたのは自分自身だとしても、不安はよぎるものだ。
ぴったりとくっついて丸まれば、多少は脳も休まった。
もはや今回の行く先に希望はない以上、続ける意味もない。眠りを妨げるものすべて先に止めてきたので、時が来るまでは眠っていられる。
”心臓”をつぶしてきた以上、いずれこの城も崩れ往き、友人と自分自身も崩落に巻き込まれるだろうが、それでいい。
いずれ朝がくるとしても、今ばかりは安息の時であった。