春めく春。花が咲き誇り、暖かさも増してくる今日このごろ。新しい日々に心躍らせることも多いかというところだが、私は今非常に沈んでいる。
出会いや別れの季節なだけあって、世の中は飲み会シーズン。
私の勤め先も例外ではなく、今日は隣の小学校と合同で歓迎会を行うことになっていた。
―――憂鬱だ。
お酒も人との交流もあまり得意ではない。
ましてや大人数となると余計に居心地の悪さを感じてしまう。
いつもならこの時間はジムに行って、気持ちよく汗を流しているのに今日はこの飲み会のために休まざるを得なかった。とはいっても運動することよりも私を教えてくれているインストラクター…ベルナルド先生に会いたいがためのジム通いになっていると言っても過言ではない。ちょっと不埒な理由かもしれないが好きになってしまったのだから仕方がない。彼も今日は用事があって休みなんだとは言っていたが、それでもあのジムの雰囲気は温かいもので、休まなければならなかったことが本当に残念でたまらなかった。

窒息ラメンタービレマネージャーから聞かされていたのは横浜の交響楽団が毎年開催している定期公演のゲスト出演ということだけだった。ゲストはもう一人呼ぶ予定であることは知らされていたはずなのだが、自分としたことがスルーしてしまっていた。ここ最近学業やら外部の仕事で忙しくして余裕がなかったのがよくなかった。

そのもう一方のゲストらしき人物は、練習場の片隅でヴァイオリンのチューニングに集中しているのか、部屋の入り口に立っているこちらに全く気づいていない様子だった。

「小日向さん！」

俺を部屋まで案内してくれた交響楽団の広報担当者が名前を呼ぶと、彼女はヴァイオリンを肩から降ろし、視線をこちらに向けた。久しぶりに見る彼女のふわふわの髪は、出会った頃とさほど長さは変わらないものの、顔立ちは大人の女性のそれで、愛らしい大きな目が少しだけ幼く見せていた。