雨月のぽいぴく
DONEマスケチャ「縺れて拗れてヒヤシンス」喧嘩して家を飛び出したケチャをマスが迎えに来る話。
縺れて拗れてヒヤシンス「何かオイラに言うことないのかよ」
「……出掛けるなら煙草買ってきて」
ふざけた台詞に沸騰した怒りは、可哀想な玄関ドアにぶつけられた。叩きつけるようにドアを閉めて家を飛び出してきたのがもう先週のこと。あれから何度見ても、携帯には通知ひとつ無い。電話も無ければメールの一通も寄越しやしない。ふらっと立ち寄った喫茶店で、オイラは何十回目か分からない溜息を漏らしていた。
マスタードは謝罪というものが出来ない。「ごめん」のたった三文字を、今まで一度だって口にしたことがない。それでも今日まで付き合ってこられたのは、オイラが毎回折れてやってたからだ。愛用のペンを勝手に使われて勝手に失くされたときも、二人で食べようと買ってきた高いアイスを一人で二つとも食べてしまったときも、バーで引っ掛けた女の子と酔った勢いで一晩の過ちを犯したときだって。のらりくらりとお茶を濁すばかりで断固として謝らないアイツを結局こっちが許してやったのだ。
4049「……出掛けるなら煙草買ってきて」
ふざけた台詞に沸騰した怒りは、可哀想な玄関ドアにぶつけられた。叩きつけるようにドアを閉めて家を飛び出してきたのがもう先週のこと。あれから何度見ても、携帯には通知ひとつ無い。電話も無ければメールの一通も寄越しやしない。ふらっと立ち寄った喫茶店で、オイラは何十回目か分からない溜息を漏らしていた。
マスタードは謝罪というものが出来ない。「ごめん」のたった三文字を、今まで一度だって口にしたことがない。それでも今日まで付き合ってこられたのは、オイラが毎回折れてやってたからだ。愛用のペンを勝手に使われて勝手に失くされたときも、二人で食べようと買ってきた高いアイスを一人で二つとも食べてしまったときも、バーで引っ掛けた女の子と酔った勢いで一晩の過ちを犯したときだって。のらりくらりとお茶を濁すばかりで断固として謝らないアイツを結局こっちが許してやったのだ。
雨月のぽいぴく
DONEセフレのマスケチャがポーカーに興じる話。ブレーカー・ブレーカー 三十度を容易に超える、風ひとつ吹かない熱帯夜だった。窓の無いせせこましい部屋で、オレたちは火照った身体を擦り合わせていた。
最中は暑さのことなど忘れてしまうのに、出すものを出し切ってしまうと、空調もろくに効かない安ホテルのベッドの上でいつまでも溶けたキャンディみたいにべったりくっ付いている気にはどうしてもなれない。オレは腰の立たなくなったケチャップを置いてシャワーを浴びることにした。ボイラーの具合が悪いのか待てど暮らせどぬるい湯しか出てこないが、しかし今はこの温度が丁度良い。全身にへばりついたアイツの体温を洗い流してくれる。
事が終われば、空っぽになったソウルはすぐに元の形を取り戻して、平然と胸の真ん中に収まる。まるで何事も無かったかのように。なのに、指の先に、口の中に、アイツの灼けるような体温がいつまでもちりちりと残るのだ。念入りにぬるま湯をかぶり、身体の表面からその残り香のような熱を拭い去る。
2428最中は暑さのことなど忘れてしまうのに、出すものを出し切ってしまうと、空調もろくに効かない安ホテルのベッドの上でいつまでも溶けたキャンディみたいにべったりくっ付いている気にはどうしてもなれない。オレは腰の立たなくなったケチャップを置いてシャワーを浴びることにした。ボイラーの具合が悪いのか待てど暮らせどぬるい湯しか出てこないが、しかし今はこの温度が丁度良い。全身にへばりついたアイツの体温を洗い流してくれる。
事が終われば、空っぽになったソウルはすぐに元の形を取り戻して、平然と胸の真ん中に収まる。まるで何事も無かったかのように。なのに、指の先に、口の中に、アイツの灼けるような体温がいつまでもちりちりと残るのだ。念入りにぬるま湯をかぶり、身体の表面からその残り香のような熱を拭い去る。