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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です左馬刻が寂雷の家を訪れる時、大抵は何処か有名な飲食店の紙袋をその手に携えている。気を使わなくともいい、と伝えても自分が食べたかったから、と言われるので、近頃は寂雷も素直に楽しみにしている。
今日の手土産は老舗和菓子店の月見団子で、夕食後、せっかくだからと縁側に持ち出し座布団を二つ並べた。見上げた夜空には星の光を潜ませるほど煌々と輝くまるい月が浮かび、庭先のススキが秋風に揺らされながら黒い影を伸ばしている。
「お酒が飲めれば、月見酒というのも風流だと思うのだけどね」
一緒に持ってきた急須で寂雷がお茶を淹れる横で、左馬刻が団子をパクリと口に入れた。何回か咀嚼し飲み込んだ後、湯呑みを手にする。
「団子には、酒よりこっちの方が合うだろ」
795今日の手土産は老舗和菓子店の月見団子で、夕食後、せっかくだからと縁側に持ち出し座布団を二つ並べた。見上げた夜空には星の光を潜ませるほど煌々と輝くまるい月が浮かび、庭先のススキが秋風に揺らされながら黒い影を伸ばしている。
「お酒が飲めれば、月見酒というのも風流だと思うのだけどね」
一緒に持ってきた急須で寂雷がお茶を淹れる横で、左馬刻が団子をパクリと口に入れた。何回か咀嚼し飲み込んだ後、湯呑みを手にする。
「団子には、酒よりこっちの方が合うだろ」
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です「今日は、長期入院の子どもたちのための縁日があってね…」
仕事終わりの寂雷を捕まえ、ヨコハマまで攫う車の中。いつもより機嫌よく奏でられるコントラバスを聞きながら、運転席の左馬刻がなるほどな、と相槌を打った。
「先生、かき氷食っただろ」
「確かに、材料が余ったので帰る前に頂きましたが…よく分かったね?」
車がゆっくりとスピードを落とし、赤信号の前でぴたりと止まる。不思議そうに首を傾けている寂雷の頭を掴んで引き寄せ、左馬刻が舌を絡めるキスをした。じゅる、と音を立てながら絡まりが解け、そのままぺろりと突き出した左馬刻の舌は、僅かに青く染まっている。
「これだけ青かったらな」
おや、と声を漏らし、寂雷が口に手を当てる。恥ずかしそうにしているその仕草にしとやかな色気を感じ、左馬刻がごくりと唾を飲み込んだ。
547仕事終わりの寂雷を捕まえ、ヨコハマまで攫う車の中。いつもより機嫌よく奏でられるコントラバスを聞きながら、運転席の左馬刻がなるほどな、と相槌を打った。
「先生、かき氷食っただろ」
「確かに、材料が余ったので帰る前に頂きましたが…よく分かったね?」
車がゆっくりとスピードを落とし、赤信号の前でぴたりと止まる。不思議そうに首を傾けている寂雷の頭を掴んで引き寄せ、左馬刻が舌を絡めるキスをした。じゅる、と音を立てながら絡まりが解け、そのままぺろりと突き出した左馬刻の舌は、僅かに青く染まっている。
「これだけ青かったらな」
おや、と声を漏らし、寂雷が口に手を当てる。恥ずかしそうにしているその仕草にしとやかな色気を感じ、左馬刻がごくりと唾を飲み込んだ。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですしゅるるる……と軽い音を立て、細い釣り糸が広い海に向かってぐんぐん伸びる。寂雷は狙ったポイントに仕掛けが着水したのを確認し、糸の弛みを巻き取ってから竿立てに竿を置いた。
夕陽を反射しオレンジ色に染まる海面にポツンと浮かぶ蛍光グリーンのウキを眺めながら、すっかり軽くなってしまった水筒の、最後の一口を飲み干す。喉を通った麦茶のぬるさにじとりと背中の汗ばみを感じたところに、向きの変わった潮風が嗅ぎ慣れた煙草の臭いを運んできた。
「よお、センセー」
隣に用意していたもう一つの折りたたみ椅子に、左馬刻がどかりと腰を下ろす。これで良かったか、と差し出されたのは、びっしりと水滴の浮いた青いラベルのペットボトル。ありがとう、とお礼を言いキャップを開けて口をつければ、冷たいスポーツドリンクが体に染み渡る。
954夕陽を反射しオレンジ色に染まる海面にポツンと浮かぶ蛍光グリーンのウキを眺めながら、すっかり軽くなってしまった水筒の、最後の一口を飲み干す。喉を通った麦茶のぬるさにじとりと背中の汗ばみを感じたところに、向きの変わった潮風が嗅ぎ慣れた煙草の臭いを運んできた。
「よお、センセー」
隣に用意していたもう一つの折りたたみ椅子に、左馬刻がどかりと腰を下ろす。これで良かったか、と差し出されたのは、びっしりと水滴の浮いた青いラベルのペットボトル。ありがとう、とお礼を言いキャップを開けて口をつければ、冷たいスポーツドリンクが体に染み渡る。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です細く開けた窓の横で煙草をふかしていた左馬刻の頬を、湿度を纏った柔らかい風がふわりと撫でた。空を見上げると、夕陽を隠していた灰色の雲がどんどん分厚くなり、その光を殆ど遮ってしまう。ポツポツと落ちてきた小さな水滴はみるみるうちにその数を増やし、あっという間に水のカーテンを張った。外の喧騒が、雨の音にかき消されていく。
「もう、梅雨だね」
湯呑みを二つ持った寂雷が、片方を左馬刻に差し出した。左馬刻は自分のために用意された灰皿に煙草を押し付け湯呑みを受け取る。一口啜ると、ぬるめのお湯に引き出された茶葉の甘さがまろやかに舌の上に広がった。コーヒー派の左馬刻だが、寂雷の淹れる緑茶は、好物だ。
寂雷は湯呑みをテーブルに置き、細く開いていた窓をぴったりと閉め切った。ざあざあと勢いを強めていく雨の音すら遠くなり、急に部屋の広さを感じてしまう。二人ぼっちで世間から切り取られたかのような空間の中、いつもは気にしていないことがふと気になり、机の向こうで椅子に腰掛けた寂雷に一つ問いを投げた。
905「もう、梅雨だね」
湯呑みを二つ持った寂雷が、片方を左馬刻に差し出した。左馬刻は自分のために用意された灰皿に煙草を押し付け湯呑みを受け取る。一口啜ると、ぬるめのお湯に引き出された茶葉の甘さがまろやかに舌の上に広がった。コーヒー派の左馬刻だが、寂雷の淹れる緑茶は、好物だ。
寂雷は湯呑みをテーブルに置き、細く開いていた窓をぴったりと閉め切った。ざあざあと勢いを強めていく雨の音すら遠くなり、急に部屋の広さを感じてしまう。二人ぼっちで世間から切り取られたかのような空間の中、いつもは気にしていないことがふと気になり、机の向こうで椅子に腰掛けた寂雷に一つ問いを投げた。
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DONEマンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂ですおやすみなさい、いい夢を「左馬刻くんは、髪を伸ばしたりしないのかい」
白銀の髪に、寂雷の長い指がするりと滑る。
「もう少し伸ばして、後ろで結ぶのも似合いそうだけど」
数日ぶりに枕を並べた夜。眠りにつく前に声を聞きたいためだけの、たわいもない会話。その擽ったさに、左馬刻が軽く返す。
「先生が結んでくれんなら、それもいいな」
寂雷は目尻の皺を深め、襟足のあたりを触っていた手を左馬刻の後頭部に回した。硬めの髪を軽く掴み、そのまま、胸元に引き寄せる。
「うん、任せて」
左馬刻も寂雷の背に腕を回し、柔らかく抱きしめた。子供をあやすように、とん、とん、と広い背中を叩いていると、左馬刻の髪を撫でていた手の力が抜けていき、そっとシーツに転がった。
「おやすみ、せんせ」
377白銀の髪に、寂雷の長い指がするりと滑る。
「もう少し伸ばして、後ろで結ぶのも似合いそうだけど」
数日ぶりに枕を並べた夜。眠りにつく前に声を聞きたいためだけの、たわいもない会話。その擽ったさに、左馬刻が軽く返す。
「先生が結んでくれんなら、それもいいな」
寂雷は目尻の皺を深め、襟足のあたりを触っていた手を左馬刻の後頭部に回した。硬めの髪を軽く掴み、そのまま、胸元に引き寄せる。
「うん、任せて」
左馬刻も寂雷の背に腕を回し、柔らかく抱きしめた。子供をあやすように、とん、とん、と広い背中を叩いていると、左馬刻の髪を撫でていた手の力が抜けていき、そっとシーツに転がった。
「おやすみ、せんせ」