「今日は、長期入院の子どもたちのための縁日があってね…」
仕事終わりの寂雷を捕まえ、ヨコハマまで攫う車の中。いつもより機嫌よく奏でられるコントラバスを聞きながら、運転席の左馬刻がなるほどな、と相槌を打った。
「先生、かき氷食っただろ」
「確かに、材料が余ったので帰る前に頂きましたが…よく分かったね?」
車がゆっくりとスピードを落とし、赤信号の前でぴたりと止まる。不思議そうに首を傾けている寂雷の頭を掴んで引き寄せ、左馬刻が舌を絡めるキスをした。じゅる、と音を立てながら絡まりが解け、そのままぺろりと突き出した左馬刻の舌は、僅かに青く染まっている。
「これだけ青かったらな」
おや、と声を漏らし、寂雷が口に手を当てる。恥ずかしそうにしているその仕草にしとやかな色気を感じ、左馬刻がごくりと唾を飲み込んだ。
「ふふ。碧色(きみのいろ)、だね」
その言葉は鐘木のように左馬刻の心臓を揺さぶり、声にならない感情の高まりでぐっと喉が詰まる。そのつっかえをとろうと、はあ…とゆっくり息を吐き出すと、寂雷がまた首を傾げた。
「どうしたんだい?」
「……なんでも、ねえよ」
信号が変わったのを確認し、左馬刻がアクセルを踏む。車は先ほどより少しスピードを上げ、吸い込まれるようにヨコハマの街中へと消えていった。