なりひさ
DOODLE🟥👀。若い二人のはじめての夜夜のはじまりに「本当に、よろしいのですか」
常興の声は震えていた。それはまるで追い詰められた小鳥が無理に声を絞り出したような声音で、貞宗の耳には甘く響いた。既にお互いに身を清め、褥で向かい合っているというのに、この期に及んでなお、常興は不安に身を固めていた。
「誘ったのは私だ。今さら嫌とは言わぬ」
貞宗は顎に手をやり、まだらに生え始めた髭をそっと撫でた。貞宗は少年の頃を終えて肉欲を知ると、常興と身体を重ねたいと思うようになっていた。常興が元服して一人前の男となった今、ようやくその思いが形になろうとしている。
蝋燭の揺れる炎に照らされた常興の顔は、怯えたようでありながら、その奥底に何かが潜む気配があった。
「しかし、相手が私では」
1431常興の声は震えていた。それはまるで追い詰められた小鳥が無理に声を絞り出したような声音で、貞宗の耳には甘く響いた。既にお互いに身を清め、褥で向かい合っているというのに、この期に及んでなお、常興は不安に身を固めていた。
「誘ったのは私だ。今さら嫌とは言わぬ」
貞宗は顎に手をやり、まだらに生え始めた髭をそっと撫でた。貞宗は少年の頃を終えて肉欲を知ると、常興と身体を重ねたいと思うようになっていた。常興が元服して一人前の男となった今、ようやくその思いが形になろうとしている。
蝋燭の揺れる炎に照らされた常興の顔は、怯えたようでありながら、その奥底に何かが潜む気配があった。
「しかし、相手が私では」
なりひさ
DOODLE🟥👀事後朝が来るまでに「部屋に戻ります」
囁くように告げられた常興の声に、貞宗は気怠い腕を伸ばした。触ろうとした常興の手は闇夜に溶け込んで見つからない。二度三度と空を切るその手の動きは焦れた子供じみていたが、やがて暖かな感触に包まれた。常興のほうから手を取ってくれたらしい。
「何か必要ですか?」
常興の落ち着いた声が耳を撫でる。しかし貞宗は曖昧なことばしか返せなかった。先ほどの出来事の名残がまだ頭に霞をかけていた。このように激しく求め合ったのは久しぶりで、互いに遠慮も加減も忘れ、ただひたすらに相手をむさぼってしまった。
「貞宗様?」
いつもの副将の声音に戻ってしまった常興に、貞宗は少しばかり興を削がれた。つい先ほどまで、その声は貞宗を求める切実な響きを帯びていた。忠実で無欲に見える常興の奥底に潜む、抑えがたい欲望が垣間見る瞬間が貞宗にはたまらなく心地よい。それなのに、常興はその仮面をあっさりと戻してしまう。
1370囁くように告げられた常興の声に、貞宗は気怠い腕を伸ばした。触ろうとした常興の手は闇夜に溶け込んで見つからない。二度三度と空を切るその手の動きは焦れた子供じみていたが、やがて暖かな感触に包まれた。常興のほうから手を取ってくれたらしい。
「何か必要ですか?」
常興の落ち着いた声が耳を撫でる。しかし貞宗は曖昧なことばしか返せなかった。先ほどの出来事の名残がまだ頭に霞をかけていた。このように激しく求め合ったのは久しぶりで、互いに遠慮も加減も忘れ、ただひたすらに相手をむさぼってしまった。
「貞宗様?」
いつもの副将の声音に戻ってしまった常興に、貞宗は少しばかり興を削がれた。つい先ほどまで、その声は貞宗を求める切実な響きを帯びていた。忠実で無欲に見える常興の奥底に潜む、抑えがたい欲望が垣間見る瞬間が貞宗にはたまらなく心地よい。それなのに、常興はその仮面をあっさりと戻してしまう。
なりひさ
DOODLE現パロ常貞。風邪ひき貞宗陽が沈む2 常興は逸る気持ちを抑えながら貞宗の家へと向かった。夜の街は小雨が降っていたが構わずに歩く。暑くて脱いだジャケットを片手に通い慣れた道を歩けば、貞宗と一緒に暮らしていたあの頃のことを思い出した。常興は就職と同時に貞宗の家を出たが、今も頻繁に通っている。
家について常興は呼び鈴を押した。合鍵は貰ったままだったが、呼び鈴を押すと貞宗が出迎えてくれるので、つい呼び鈴を使っていた。
ところが、待っていても玄関は開かない。電気が付いているのは窓から見えていた。不思議に思っているとようやく鍵が開く音がする。玄関の戸が開いて貞宗が出迎えてくれたが、その表情は暗い。貞宗は顔を背けて何度か咳をした。
「すまんな……今朝から風邪っぽくて」
2265家について常興は呼び鈴を押した。合鍵は貰ったままだったが、呼び鈴を押すと貞宗が出迎えてくれるので、つい呼び鈴を使っていた。
ところが、待っていても玄関は開かない。電気が付いているのは窓から見えていた。不思議に思っているとようやく鍵が開く音がする。玄関の戸が開いて貞宗が出迎えてくれたが、その表情は暗い。貞宗は顔を背けて何度か咳をした。
「すまんな……今朝から風邪っぽくて」
なりひさ
DOODLE常貞。183話を読んで妄想陽が沈む 戦に明け暮れて、日が沈めば怪我人に手を貸しながら麓の城へ帰る。常興は夏の遅い日暮れを見ながら、いつまでその赤い光が続くのかと思った。足が重い。疲労よりも、先に見えない戦いに心が疲弊していた。
遅れていた兵舎もようやく建ったが、そこへ詰める兵でまともに戦える者は少なかった。怪我と疲労、さらには残り少ない兵糧のために減る食事。そのために士気は著しく低く、兵舎は暗い空気の中で不満の声がそこかしこで上がっていた。常興は激励の言葉をかけるが響かない。向けられる視線に不満が滲んでいた。
倒れた貞宗は未だ回復の兆しがない。常興は鎧を脱ぐと汚れた直垂を着替えて、貞宗の部屋へと向かった。良い報告は一つもない。
部屋の前まで行くと貞宗についていた者が頭を下げた。今日の様子を手短に聞き、戸を開く。部屋の中央で貞宗は寝かされていた。
1768遅れていた兵舎もようやく建ったが、そこへ詰める兵でまともに戦える者は少なかった。怪我と疲労、さらには残り少ない兵糧のために減る食事。そのために士気は著しく低く、兵舎は暗い空気の中で不満の声がそこかしこで上がっていた。常興は激励の言葉をかけるが響かない。向けられる視線に不満が滲んでいた。
倒れた貞宗は未だ回復の兆しがない。常興は鎧を脱ぐと汚れた直垂を着替えて、貞宗の部屋へと向かった。良い報告は一つもない。
部屋の前まで行くと貞宗についていた者が頭を下げた。今日の様子を手短に聞き、戸を開く。部屋の中央で貞宗は寝かされていた。