youtakeA
DONE【刀剣乱舞】※創作審神者
顕現順にうちの審神者と刀剣男士の初対面を書くよのシリーズ
#うちの審神者と初対面 〈小烏丸〉
「我が名は小烏丸。外敵と戦うことが我が運命。千年たっても、それは変わらぬ」
たとえば、晩春の山を藪を漕ぎながら登っていると不意に空気の変わることがある。「ここから先は人の踏み入る場所でない」という警告を全身に受ける。たった今自分が進めた一歩で景色のどこが変わったわけではない。足元に降り積む土になりかけの朽葉、腿の半ばまで届く数多の草々、高いところで太陽の日を透かす枝葉の緑。すべて、なにひとつ変わってはいない。
しかし、そんなとき私は確かに山のなにか侵犯しているのだ。だから即座に、かつ息をひそめて振り返り、来た路を戻る。山で育つ私たちは、その見極めを子供の時分から少しずつ覚えて育つ。
顕れた男士は、その頭頂が私の目線より低い位置にある。なのに私の心は、見下ろしているはずの男士をはるか仰ぎ見ている。里から山の頂を見上げ、日常であるはずのその風景に突如畏怖をあらたにする、あの心地。あの山路をもし警告に抗ってさらに進んでいたなら、そこで出会うのはあるいはこのような存在だったのかもしれない。
1379たとえば、晩春の山を藪を漕ぎながら登っていると不意に空気の変わることがある。「ここから先は人の踏み入る場所でない」という警告を全身に受ける。たった今自分が進めた一歩で景色のどこが変わったわけではない。足元に降り積む土になりかけの朽葉、腿の半ばまで届く数多の草々、高いところで太陽の日を透かす枝葉の緑。すべて、なにひとつ変わってはいない。
しかし、そんなとき私は確かに山のなにか侵犯しているのだ。だから即座に、かつ息をひそめて振り返り、来た路を戻る。山で育つ私たちは、その見極めを子供の時分から少しずつ覚えて育つ。
顕れた男士は、その頭頂が私の目線より低い位置にある。なのに私の心は、見下ろしているはずの男士をはるか仰ぎ見ている。里から山の頂を見上げ、日常であるはずのその風景に突如畏怖をあらたにする、あの心地。あの山路をもし警告に抗ってさらに進んでいたなら、そこで出会うのはあるいはこのような存在だったのかもしれない。
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#うちの審神者と初対面 〈山姥切長義〉
「俺こそが長義が打った本歌、山姥切。どうかしたかな? そんなにまじまじと見て」
迷いない意思を示す両眉の弧、眼前の者を斬って捨てたとて揺らぐことなどないのだろう眦の鋭さ。そして、傲岸なほどに確固として己を誇る自負に裏打ちされた、余裕の窺えるおだやかな笑み。
「いや、何でもないよ。ようこそ、この本丸へ」
政府からやってきた男は、みずから問いを投げかけておきながら私の返したことばに関心を示すことはなく、こちらを値踏みする気配を眼光の奥に堂々と潜ませながら滔々と語り出した。
「君は少々特殊な経緯で審神者になったからね。政府としても、君と、そしてこの本丸に属する刀剣男士の情報の収集は密に行いたい。そこで俺が派遣されたというわけだ。わかったかな」
1360迷いない意思を示す両眉の弧、眼前の者を斬って捨てたとて揺らぐことなどないのだろう眦の鋭さ。そして、傲岸なほどに確固として己を誇る自負に裏打ちされた、余裕の窺えるおだやかな笑み。
「いや、何でもないよ。ようこそ、この本丸へ」
政府からやってきた男は、みずから問いを投げかけておきながら私の返したことばに関心を示すことはなく、こちらを値踏みする気配を眼光の奥に堂々と潜ませながら滔々と語り出した。
「君は少々特殊な経緯で審神者になったからね。政府としても、君と、そしてこの本丸に属する刀剣男士の情報の収集は密に行いたい。そこで俺が派遣されたというわけだ。わかったかな」
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#うちの審神者と初対面 〈薬研藤四郎〉
「よお大将。俺っち、薬研藤四郎だ。兄弟ともども、よろしく頼むぜ」
「……よろしく」
童じゃないか、と叫ぶところをぐっとこらえたのは、我ながら見事だった。しかし表情までは繕いきれなかったらしい。少年の首がかくんと傾く。あわせて、こども特有の、その一本一本が内から光を放つようなつややかな髪がさらりと揺れる。
「なんだ大将。なにか気になることでもあるか」
首を傾げながら、その態度は超然としている。臆しもしない、媚びもしない。遠路わざわざ私の家までやってきた役人が、「審神者が率いるのは刀剣に宿った神々です。主たるあなたに直に手向かうことはないでしょうが、ゆめゆめ御無礼のないように」と言い置いていったことを思い出す。
1260「……よろしく」
童じゃないか、と叫ぶところをぐっとこらえたのは、我ながら見事だった。しかし表情までは繕いきれなかったらしい。少年の首がかくんと傾く。あわせて、こども特有の、その一本一本が内から光を放つようなつややかな髪がさらりと揺れる。
「なんだ大将。なにか気になることでもあるか」
首を傾げながら、その態度は超然としている。臆しもしない、媚びもしない。遠路わざわざ私の家までやってきた役人が、「審神者が率いるのは刀剣に宿った神々です。主たるあなたに直に手向かうことはないでしょうが、ゆめゆめ御無礼のないように」と言い置いていったことを思い出す。
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#うちの審神者と初対面〈山姥切国広〉
「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
その口ぶりはひねたことばのわりに遠慮がなく、そこに込められているのは不安や自己猜疑でなく眼前の私をこそ糾弾する意思だった。なるほど、と、理解に詰まったときの常で、まず胸中でそう呟いておく。なにもかも、「なるほど」と唸ることから関係は始まる。
「――申し訳ないんだけれども」
みずからの声音から皮肉や憐憫の見出されないよう、努めて声帯から力を抜き、妙に小汚ない布を被った男に向けてただ直線にことばを放る。
「私は、審神者なんて仰せつかってはいるが刀剣にもこの国の歴史にも疎くてね。〝うつし〟というのは、なんなのかな」
対人関係においては常に補完を目指すくせが、ひねたことばに対して素直な問いを発させた。私の無教養に呆れたのか、あるいは己の無知を開けっぴろげにさらす姿に虚をつかれたのか。男は黙りこんだ。
1314その口ぶりはひねたことばのわりに遠慮がなく、そこに込められているのは不安や自己猜疑でなく眼前の私をこそ糾弾する意思だった。なるほど、と、理解に詰まったときの常で、まず胸中でそう呟いておく。なにもかも、「なるほど」と唸ることから関係は始まる。
「――申し訳ないんだけれども」
みずからの声音から皮肉や憐憫の見出されないよう、努めて声帯から力を抜き、妙に小汚ない布を被った男に向けてただ直線にことばを放る。
「私は、審神者なんて仰せつかってはいるが刀剣にもこの国の歴史にも疎くてね。〝うつし〟というのは、なんなのかな」
対人関係においては常に補完を目指すくせが、ひねたことばに対して素直な問いを発させた。私の無教養に呆れたのか、あるいは己の無知を開けっぴろげにさらす姿に虚をつかれたのか。男は黙りこんだ。