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    【刀剣乱舞】
    ※創作審神者
    顕現順にうちの審神者と刀剣男士の初対面を書くよのシリーズ

    #うちの審神者と初対面〈山姥切国広〉

    #刀剣乱舞
    Touken Ranbu
    ##うちの審神者と初対面

    「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
     その口ぶりはひねたことばのわりに遠慮がなく、そこに込められているのは不安や自己猜疑でなく眼前の私をこそ糾弾する意思だった。なるほど、と、理解に詰まったときの常で、まず胸中でそう呟いておく。なにもかも、「なるほど」と唸ることから関係は始まる。
    「――申し訳ないんだけれども」
     みずからの声音から皮肉や憐憫の見出されないよう、努めて声帯から力を抜き、妙に小汚ない布を被った男に向けてただ直線にことばを放る。
    「私は、審神者なんて仰せつかってはいるが刀剣にもこの国の歴史にも疎くてね。〝うつし〟というのは、なんなのかな」
     対人関係においては常に補完を目指すくせが、ひねたことばに対して素直な問いを発させた。私の無教養に呆れたのか、あるいは己の無知を開けっぴろげにさらす姿に虚をつかれたのか。男は黙りこんだ。
     元来無口なたちなのか、あるいは見知らぬ者への警戒がそうさせるのか、喉の奥には抱えることばがありそうなのに、男の口はただ引き結ばれ、体も微動だにしない。ただじっと、正眼で私を見ている。
     答えをもらえなければ困るような問いでもない。発してみたそれは一度宙に任せることとして、次の穂を継いだ。ひとまず現状を飲み込んでもらおうと、
    「なんにしろ、審神者として新たに本丸を構えるには始まりの一振りを選ばねばならんと役人に言われてね。君にお願いすることにした」
    かいつまんで語ったこちらの事情に、しかし男はぐいとその目を見開いた。
    「……なぜ、俺なんかを」
     見開かれたままやにわに不安に揺れだしたその目は、しかしやはり私から逸らされはしない。そのとき、私は開口一番に男が発したことばを思い出し、そして脳裏に悪戯心がひらめいた。
    「その目が綺麗だと思ってね。陽に透かした玻璃のように透き通って、美しい。同時に、なにものからもみずからを守る力強さもある。――よろしく頼むよ、〈山姥切国広〉。私の、この本丸の始まりの一振りを、どうぞ務めてやってくれ」
     一語一語に力を込め、言い終えた最後に深く頭を下げた。悪戯心に端を発した仰々しいふるまいだ。しかしことばにはあらん限りの真意を込めた。頭上から、山姥切国広が頭からすっぽりと被ったあの布の、激しく揺れる音が降ってくる。
    「やめろ、主なら主らしく……。いや、とにかく俺に頭を下げるな」
     おい、こら、と続くことばには、既にゆたかな感情のいろが溶け始めていた。その人間くささに、私は再度「なるほど」と胸中でつぶやく。「なるほど、刀剣男士とはこういうものか」。
     頭を下げたままの私の肩が、やがて抑えきれぬ笑みで震えだす。じき山姥切国広も気づくだろう。怒るか、戸惑うか。こんなささやかなやりとりを積み重ねていけば、いずれかれの胸中にも「なるほど、人間とはこんなものか」と気軽な感慨が浮かぶかもしれない。

    * * *

    【おまけ】

     初対面の頃を思い出して、審神者にひとことどうぞ。

    「ひとをからかいたがるのはあんたの悪癖だ。人間の習性じゃない。いい加減わかってるぞ」
    「あっはっは、さすがうちの始まりの一振り様だ」
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    DONE【刀剣乱舞】
    ※創作審神者
    顕現順にうちの審神者と刀剣男士の初対面を書くよのシリーズ

    #うちの審神者と初対面 〈小烏丸〉
    「我が名は小烏丸。外敵と戦うことが我が運命。千年たっても、それは変わらぬ」
     たとえば、晩春の山を藪を漕ぎながら登っていると不意に空気の変わることがある。「ここから先は人の踏み入る場所でない」という警告を全身に受ける。たった今自分が進めた一歩で景色のどこが変わったわけではない。足元に降り積む土になりかけの朽葉、腿の半ばまで届く数多の草々、高いところで太陽の日を透かす枝葉の緑。すべて、なにひとつ変わってはいない。
     しかし、そんなとき私は確かに山のなにか侵犯しているのだ。だから即座に、かつ息をひそめて振り返り、来た路を戻る。山で育つ私たちは、その見極めを子供の時分から少しずつ覚えて育つ。
     顕れた男士は、その頭頂が私の目線より低い位置にある。なのに私の心は、見下ろしているはずの男士をはるか仰ぎ見ている。里から山の頂を見上げ、日常であるはずのその風景に突如畏怖をあらたにする、あの心地。あの山路をもし警告に抗ってさらに進んでいたなら、そこで出会うのはあるいはこのような存在だったのかもしれない。
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