ポン酒
DONE風呂嫌いの剣豪を風呂に入れるだけのお話泡と溜息「……は、風呂…ですか?」
徳川邸に呼ばれたガイアは、御老公の前で肩をすくめていた。
「うむ。武蔵がここへ来てからというもの、かれこれ幾日も湯へ入ってくれんのじゃ。どうにも、あの匂いがなぁ……」
眉をひそめた御老公は、皺の多い額に更なる線を刻み、細やかな技巧が凝らされた扇で鼻先を仰いでみせた。
「それで……なぜ、私が?」
「面白い童児を拾った、とお主を連れ帰って来た時は驚いたが……まぁ、気に入られたお主が背でも流してやるとなれば、気を良くして入るかもしれん」
ガイアは思わず絶句する。武蔵を説得して風呂に入れろ――それは並大抵の任務よりも難題ではないだろうか。
「……で、ですが……」
「なぁ、ガイアよ。ここは一つ、頼まれてくれんか。武蔵とて、先には本部との大一番を控えておる。清めておいた方がいいじゃろ。ほれ、おぬしの先生も、きっとそう言うに違いない」
3599徳川邸に呼ばれたガイアは、御老公の前で肩をすくめていた。
「うむ。武蔵がここへ来てからというもの、かれこれ幾日も湯へ入ってくれんのじゃ。どうにも、あの匂いがなぁ……」
眉をひそめた御老公は、皺の多い額に更なる線を刻み、細やかな技巧が凝らされた扇で鼻先を仰いでみせた。
「それで……なぜ、私が?」
「面白い童児を拾った、とお主を連れ帰って来た時は驚いたが……まぁ、気に入られたお主が背でも流してやるとなれば、気を良くして入るかもしれん」
ガイアは思わず絶句する。武蔵を説得して風呂に入れろ――それは並大抵の任務よりも難題ではないだろうか。
「……で、ですが……」
「なぁ、ガイアよ。ここは一つ、頼まれてくれんか。武蔵とて、先には本部との大一番を控えておる。清めておいた方がいいじゃろ。ほれ、おぬしの先生も、きっとそう言うに違いない」
ポン酒
DONE「初口」という言葉を使ってみたかったヤツ武→ガイで本←ガイな、一方通行が好きです
問われる初口 時は夜。
徳川邸の奥座敷にて、三人。御老公の気まぐれで呼び出された本部、付き添いのガイア、居合わせた武蔵が同席していた。
しかし、全員を引き合わせた当人は未だ顔を見せず。控えめに香が焚かれた床の間には、静謐な気配が障子越しに満ちている。
それぞれが湯を啜る音のみが、わずかな時間を穏やかに繋いでいた。
そんな中。
「なあ、童児よ。“初口”を開いたのは誰だ?」
唐突に、武蔵がその問いを投げかけた。
「えっ?」
湯飲みを口元に運んだまま、ガイアの動きが止まる。眼が瞬き、武蔵と本部を交互に見つめていた。
「初…口……?ええと……」
首をかしげるガイアに、武蔵はわずかに瞳を細める。
「知らんのか、童児」
その声音はどこか探るようで、じとりと熱を帯びていた。
2349徳川邸の奥座敷にて、三人。御老公の気まぐれで呼び出された本部、付き添いのガイア、居合わせた武蔵が同席していた。
しかし、全員を引き合わせた当人は未だ顔を見せず。控えめに香が焚かれた床の間には、静謐な気配が障子越しに満ちている。
それぞれが湯を啜る音のみが、わずかな時間を穏やかに繋いでいた。
そんな中。
「なあ、童児よ。“初口”を開いたのは誰だ?」
唐突に、武蔵がその問いを投げかけた。
「えっ?」
湯飲みを口元に運んだまま、ガイアの動きが止まる。眼が瞬き、武蔵と本部を交互に見つめていた。
「初…口……?ええと……」
首をかしげるガイアに、武蔵はわずかに瞳を細める。
「知らんのか、童児」
その声音はどこか探るようで、じとりと熱を帯びていた。