泡と溜息「……は、風呂…ですか?」
徳川邸に呼ばれたガイアは、御老公の前で肩をすくめていた。
「うむ。武蔵がここへ来てからというもの、かれこれ幾日も湯へ入ってくれんのじゃ。どうにも、あの匂いがなぁ……」
眉をひそめた御老公は、皺の多い額に更なる線を刻み、細やかな技巧が凝らされた扇で鼻先を仰いでみせた。
「それで……なぜ、私が?」
「面白い童児を拾った、とお主を連れ帰って来た時は驚いたが……まぁ、気に入られたお主が背でも流してやるとなれば、気を良くして入るかもしれん」
ガイアは思わず絶句する。武蔵を説得して風呂に入れろ――それは並大抵の任務よりも難題ではないだろうか。
「……で、ですが……」
「なぁ、ガイアよ。ここは一つ、頼まれてくれんか。武蔵とて、先には本部との大一番を控えておる。清めておいた方がいいじゃろ。ほれ、おぬしの先生も、きっとそう言うに違いない」
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