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    ポン酒

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    ポン酒

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    「初口」という言葉を使ってみたかったヤツ
    武→ガイで本←ガイな、一方通行が好きです

    #本ガイ
    #武ガイ

    問われる初口 時は夜。
     徳川邸の奥座敷にて、三人。御老公の気まぐれで呼び出された本部、付き添いのガイア、居合わせた武蔵が同席していた。
     しかし、全員を引き合わせた当人は未だ顔を見せず。控えめに香が焚かれた床の間には、静謐な気配が障子越しに満ちている。
     それぞれが湯を啜る音のみが、わずかな時間を穏やかに繋いでいた。

     そんな中。

    「なあ、童児よ。“初口”を開いたのは誰だ?」

     唐突に、武蔵がその問いを投げかけた。

    「えっ?」

     湯飲みを口元に運んだまま、ガイアの動きが止まる。眼が瞬き、武蔵と本部を交互に見つめていた。

    「初…口……?ええと……」

     首をかしげるガイアに、武蔵はわずかに瞳を細める。

    「知らんのか、童児」

     その声音はどこか探るようで、じとりと熱を帯びていた。
     ガイアはさらに困惑し、指先で自らの唇にそっと触れる。

    「口…?私、何か失礼なことを……?」

     首を傾げるその横で、思わず盛大に咳き込む音がした。

    「――っ、ごほっ、ごほっ」

     音の主は本部だった。
     武蔵が視線を向けると、本部は薄く赤らんだ頬を手元の湯飲みで隠すように、かすかに目を逸らした。

    「せ、先生?」

     ガイアが不安げに尋ねる。

    「……っ、いや、何でもない」

     本部は努めて平静を装っていたが、わずかに震えた指先と頬の紅潮が、それを否定していた。

    「貴殿は、察しが良いな」

     武蔵が唇の端をわずかに吊り上げる。その笑みは、獲物を前にした意地の悪い猫のようだった。

    「お、お二人とも…一体なんのお話を……」

     聞き慣れない言葉に、ガイアは戸惑いながらも身を正す。だが、その姿には、少しばかりの怯えと緊張が滲んでいた。

    「あー、その…なんだ……」

     ついに観念したように、本部が重い口を開いた。

    「“初口”とは――初めて、男に開かれた“門”ということだよ、ガイアくん」

     静かに、しかしどこか申し訳なさそうに、本部はそう告げた。

    「開かれた……門?」

     ガイアは繰り返すが、いまいち要領を得ない。
     そんな様子を見た武蔵は、身を乗り出し、顎に指を添える。

    「ほう…では、まだ誰にも触れられていないと?」
    「えっ?な、何を――」
    「それとも……開いたのは、この本部殿か?」

     その言葉に、本部の目が見開かれた。

    「っ戯れが過ぎますよ、武蔵さん!!」

     湯飲みを置く音が、思いのほか大きく響いた。その手は、怒りというより、動揺で震えている。

    「俺には、気になるのだ。うら若き童児の肌を、誰ぞ味わった者がいるのか」

     武蔵の声は低く、滑らかに床を這う。

    「――っ」

     本部が一瞬、口をつぐむ。視線が揺れる。ほんのわずか、伏せた睫毛の奥に、迷いと痛みの色が閃いた。

    「……本部殿?」

     武蔵が探るように問いかけると、本部はわずかに首を振った。

    「……いえ、ただ…」

     言いかけて、止まる。
     沈黙が落ちる。

     ガイアはなおも、事情のつかめぬまま、唇を指先でなぞっていた。それは思考の癖のように、無垢で、どこか艶めかしい。

     その仕草に、武蔵の目がすっと細まった。

    「おい、童児よ。先の問いに、まだ答えておらんな」
    「え…?」
    「わからんか。ならば教えてやろう。“初口”とは、身も心も許した相手に初めて開く門のことだ」
    「なっ!」

     ガイアの肩がぴくりと揺れた。目が瞬き、手が止まる。

    「そ、そんな…っ……そ、それでは…まるで……っ」
    「まるで、何だ?」

     あくまで静かに、武蔵は問いを返す。
     だがその声音は、火箸のように熱く、鈍く、皮膚の下に押し当てられるようだった。

    「そんな……っ、私は……誰にも、そんなこと…っ」

     ガイアが震え声で否定しかけると、本部がようやく口を開いた。

    「武蔵さん、やめてください」

     その声音には、普段の柔らかな響きではない、冷えた芯があった。

    「ガイアくんの身は、潔白です……勿論、私相手にも」
    「は、はい。勿論です。私は、誰にも……」

     ガイアがこくこくと頷く。

    「ほう……」

     武蔵が、あからさまに面白がる声を洩らした。

    「では、何故俺の問いにお主が頬を染めた?」
    「それは…」
    「お主を見る童児の目の内の熱に、気づいていないとでも?」

     武蔵の声が、低く、艶を帯びていく。

    「童児。お前の“初口”が、誰の名を求めて開こうとしているか――俺には、よく見えるぞ」
    「――っ……」

     ガイアは顔を覆い、真っ赤になって俯いた。指の隙間から漏れたのは、掠れるような小さな声だった。

    「…そんな、こと……っ…私は、なにも……」
    「っガイアくん、もう答えなくていい」

     本部が、優しく声をかける。
     その瞳は、どこまでも穏やかで、だがほんのわずか、苦しげだった。

    「君が“誰を”想っていたとしても、それは君の自由だ。我々の関係性は、何も変わらない」
    「先生……」

    その声に、ガイアの肩がさらにぴくりと震えた。

    ――だが。

    「変わらぬ、とは。つまらんな」

     ふっと、武蔵が笑う。

    「初モノの童児が心を焦がし、名を呼ぶ相手がいるというのに。その男は、見て見ぬふりをするだけか」
    「武蔵さんッッ!」

     今度は本部が、はっきりと怒気を帯びた声をあげた。
     だが武蔵は怯まない。まるで泣く幼子をあやすかの様に優しく、残酷な声音で、耳元に囁いた。

    「童児。お前がその口を、どちらに開くのか。この夜のうちに、見極めてやろう」

     その言葉に、ガイアの呼吸が詰まる。



     部屋に満ちる香の気配が、どこか湿った熱を帯びて揺らめいた。
     その先に待つ夜は、まだ誰のものでも、ない。
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