さかえ
MAIKING趙(→)←禅前提の姜禅、趙(→)禅の部分です。わたしの男/あなたの眼 探し人は思いのほか早く見つかった。やわらかな笑い声が聞こえる方を、趙雲は物言わずじっと見つめる。そういえば、あのような笑い方をするお方であった、と思い出しながら。今ではそんな素振りはまるで見せず、化粧のように塗り固めた笑みを口元に貼り付けるばかりの後主であるが、幼い頃は確かにこの趙雲の前では声を上げて笑ったことだってあったのだ。そう思えば、後主からその笑顔を引き出した相手への感謝も自ずと湧き出てこようはずだが、なぜか趙雲の胸はすっかりと冷え切って、代わりに腹の奥底からは黒々とした何かが迫り上がってくるのであった。
若武者が後主へ向ける関心は、思えば最初から並々ならぬものであったと記憶している。
3470若武者が後主へ向ける関心は、思えば最初から並々ならぬものであったと記憶している。
さかえ
MAIKING趙(→)←←←禅前提(過去)からの姜禅(現在)別名「ちょうんは見た」
花を摘むきょいと、摘まずに野で愛でるちょうんについてのお話です
今回は姜禅パート。次回は趙(→)←←←禅パートです。ちゃんと書き終わるといいなあ 6570
さかえ
MAIKING趙備、及び趙(→)←←禅前提の姜禅。ややこしい。わたしの男/あなたの眼「もう大丈夫のようですよ」
足音が完全に消えるまで待ち、念のために扉まで閉めると、姜維は書棚の陰に声をかけた。それですぐに姿を現すだろう。そう思っていたのに、予想は外れてかえりごとひとつない。訝しく思って棚の裏を覗き込むと、主は開け放った窓から吹き寄せる風に濡れ羽の御髪を揺らしながら、どこか遠くを眺めているようだった。
「劉禅様? いかがなさいましたか」
それでも近寄る間にこちらの存在に気がついたらしい。見上げてくる主の目は常の通り薄曇りの空のように静かで、感情が今どこにあるのかをおよそ気取らせない。
「ああ、姜維」
この目に見つめられ、ゆったりとした口調で名を呼ばれると、姜維はいつも己の矮小さを全て見透かされているような心持ちになる。魏に属していた頃には蜀の新帝は暗愚だという噂ばかりを耳にしていたが、実際にこの方の前に立てばそれがどれほど馬鹿げた戯言であったかが分かった。音に聞く、皆を導く太陽のようだったという先主のような目眩く光輝こそ無けれども、泰然と振る舞うそのたたずまいからは風格が香気のようにかぐわしく立ち上った。また天水にて姜維を諭し導いた声はいかなる時にも荒ぶることなく、凪いだ水面のように透明である。その在り方は先主とは違えども、この主は確かに生まれながらにしての王者であった。
2124足音が完全に消えるまで待ち、念のために扉まで閉めると、姜維は書棚の陰に声をかけた。それですぐに姿を現すだろう。そう思っていたのに、予想は外れてかえりごとひとつない。訝しく思って棚の裏を覗き込むと、主は開け放った窓から吹き寄せる風に濡れ羽の御髪を揺らしながら、どこか遠くを眺めているようだった。
「劉禅様? いかがなさいましたか」
それでも近寄る間にこちらの存在に気がついたらしい。見上げてくる主の目は常の通り薄曇りの空のように静かで、感情が今どこにあるのかをおよそ気取らせない。
「ああ、姜維」
この目に見つめられ、ゆったりとした口調で名を呼ばれると、姜維はいつも己の矮小さを全て見透かされているような心持ちになる。魏に属していた頃には蜀の新帝は暗愚だという噂ばかりを耳にしていたが、実際にこの方の前に立てばそれがどれほど馬鹿げた戯言であったかが分かった。音に聞く、皆を導く太陽のようだったという先主のような目眩く光輝こそ無けれども、泰然と振る舞うそのたたずまいからは風格が香気のようにかぐわしく立ち上った。また天水にて姜維を諭し導いた声はいかなる時にも荒ぶることなく、凪いだ水面のように透明である。その在り方は先主とは違えども、この主は確かに生まれながらにしての王者であった。