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    さかえ

    @sakae2sakae

    姜禅 雑伊 土井利

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    さかえ

    MAIKINGお付き合い後の雑伊の話 続きは書けたらいいなくらいで
    ざつい書きかけ「やあ、伊作くん」
     これ、お土産だよ。
     そう言って、あんまりにもなんでもない顔をして風呂敷包みを渡してくるものだから、伊作もつられてなんでもないふうを繕って「ありがとうございます」と応えざるを得なかった。途端、にっと目元をほころばせる長身の男を見上げる。その目は黒檀より黒々として、伊作に必要以上の感情を読ませない。
    「どうぞ、何もおもてなしできませんが」
     とりあえず中へと通し、急ぎ茶の用意をする。今日は左近もいないので、伊作が全てをこなすしかないのだ。
    「なんだか静かだね」
     何かを探すように視線を巡らせながら言う雑渡に、伊作はそのわけを話して聞かせた。すなわち、今日は一、二年生たちが合同実習として校外に出かけているということだ。三年生と四年生はその補助役として配置されているという。教員の多くがそちらの引率に回ったおかげで、伊作たち上級生組の本日の午後授業は自習となっていた。合同実習に付いていった者もいれば自己研鑽に励む者もいる。伊作はそのどちらでもなく、実習に付き添って行った校医の新野に代わってこの部屋を預かっているというわけだ。
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    さかえ

    DOODLEいずれ土井利になる話3
    まだまだ若土と子利の話
    もう1エピソード書いたら一話目は終わり
    いずれ土井利になる話3 その夜は雨だった。夕刻から降り出した雨が次第に激しくなり、しまいには雷雨となった。ひどい湿気が寝苦しく、土井は早々に寝ることを諦めて、水でも一口もらおうと廊下に出た。締め切った雨戸を少しばかり開けて覗くと、雨と一緒に新鮮な空気が入ってきて、少しホッとする。
    「――利吉くん?」
     ふと視線をやった先、曲がり角の柱の陰に、小さな身体が縮こまっているのが見えた。さだめしこの邸の一人息子だろうと思って声をかけると、びくりと小さな肩が震える。どうしたの、と続けようとする土井の頬を、鋭い光が舐めた。遅れて雷鳴がとどろいて、遅まきながら土井は「これか」と判断がついたのだった。
     恐らく利吉はいつものように、悪夢からの守り人として土井のもとを訪れたのだろう。しかし、ひどくなる一方の雷鳴にすっかり怯えて、途中で足が萎えてしまったのだろう。土井は素早く雨戸を立てきって利吉に歩み寄るとその横へ膝を突き、己のところへ来るよう誘った。しかし利吉の反応は芳しくない。どうやら、普段寝入っている(と利吉は思い込んでいる)土井のもとへ来る分にはよいが、こうして起きている内に、しかも自分のことが理由で招き入れられるのは矜持が許さないらしい。ならば、と土井は一芝居打つことにした。
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    さかえ

    MAIKINGいずれ土井利になる話1の続き。若土と子利が交流を深めるの段。この時点ではまだ土利ではありません。
    土Tの過去に触れる箇所があります。苦手な方はご注意ください。
    いずれ土井利になる話2 いっこうに心を開く様子を見せぬ少年は、それでもたびたび土井のもとを訪れては(非常に不本意であるという表情をしながら、だが)何くれとなく世話を焼いた。そうして夜になると人が寝静まった頃を見計らって、そっと土井の懐にすべりこむのだった。そのたびに土井は利吉にその理由を尋ねたい気持ちに駆られたが、訊いたところで素直に答えてくれる相手では無し。気になりつつも問うことはできないまま、蓮の浮葉が水の上でついたり離れたりするような距離感で、二人の日々はゆっくりと過ぎていった。
     転機はほんの小さなものだった。
     ある時、利吉少年がいつものごとく病床を訪れて一通りのことを片付けた後、土井が横たわるふとんの傍で兵法書を読み出したことがあった。土井には聞こえないようにしているつもりなのだろうが、時折漏れる呟きの中に、耳に馴染んだ語句がいくつもあった。懐かしい、と笑みながら、土井はふとんに横たわったままひそかにそれに聴き入る。土井も幼いころは素読といって、訳も分からず読めと言われるままにとにかく口ずさんでいたものだった。それがいつか家のためになるのだと言われて――訳が分かるようになったのは、全てが手遅れになった後だったけれど。
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