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    #熊池

    bearsPond

    @kusaka_Cage

    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなしあなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさん 3044

    @kusaka_Cage

    MOURNINGぽい試運転/熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/すべての発端/雰囲気でどうぞ「こんなに遠くまでやってきたのは初めてです」

    夜風に揺れるランプのさやかな灯りに、美麗な横顔が照らされる。
    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星 2412