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    @kusaka_Cage

    二次創作腐字書き | 雑食 | 落書き未満置き場 | X:@kusaka_Cage | Bluesky:@cage42k.bsky.social

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    熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなし

    #腐らみちお兄さん
    #熊池
    bearsPond

    あなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさんでいた池照の耳へ心無く無粋な物言いが飛び込んできた時にいち早く眉を顰めたのは、池照の世話役にと側付けられた、王が信頼を寄せる年嵩の女中のほうだった。お気になさらず、と慰めるように言われたけれど、当の本人はといえば、一拍遅れてなるほどと手を打つ有様だったのだ。
    "王様の金糸雀"とはまた、言い得て妙であると池照は思う。
    滅ぼされた森の国から引き摺られてこの国へやってきて、夜毎王の傍らに横たわって語らう日々を送る今もこの首は刎ねられずにいるけれど、王の寝殿がある東の宮と庭から出ることは未だ許されていないから、籠の鳥であることに変わりはないのだ。
    王が政務に忙しくしている昼日中、池照がやることや出来ることというのは本当に少なかった。亡国の王子といっても小さな国だったから、ある程度身の回りのことはひとりで出来てしまうし、そうなると夜に寝台へ呼ばれるだけの毎日というのは持て余すものだった。
    何をして過ごしているのかといえば、王が口にする三食を賄う正殿の厨房とは別に、東の宮に備え付けられた使うもののほとんどいない小さな厨房でパンを捏ねて女中と二人分の昼食をこさえたりとか、寝台の上に脱ぎさられている王の寝間着の帯紐とか下帯とかの細々としたものを洗ったりとか…そういったことだって、やろうとするとほとんど女中に断られてしまうのだけど毎回押し通して無理矢理こなしている。それでも、そんなままごとじみた家事はすぐ終わってしまうので、あとはもう正殿に近い回廊が掛かる庭の隅、ひっそりと配置された水辺に足をつけながら、王がこれもまた寝台の傍に置き去って時折手持ち無沙汰に開いている書物を読んだり、賜われた竪琴を爪弾いたりして、陽が暮れるのを待つ日々を送っていたのだ。
    「…あの、どうかされましたか?」
    そんな、なんとはなしに今日あったばかりの出来事を語っただけのつもりだった。どうも自分はそう噂されているようで、的確なうえに少し洒落た言葉回しであって、それがなんだか印象的だったと…そんな風に言葉を括った池照は、すっかり表情を曇らせて苛立たしげに指先で組んだ腕を打っている熊谷をそっと覗き込んだ。
    「とりあえず…お前がもう少し、宮中で自由に過ごせるようにする。すぐにとはいかないから、それまではお前が好きそうな書物を増やしてもって来させよう。年の近い話し相手でもいいな」
    「っ?!とんでもない!…あの、決して不満とかそういうつもりでは」
    「いいんだ、閉じ込めるようなことをしていたのは事実だし…窮屈な思いをさせたな」
    そっと差し伸べられた手で髪を撫でられるから、咄嗟に顔をうつむかせて視線を逸らした。胸が迅るのを悟られたくなかったのだ。
    「それで…俺には聞かせてくれないわけ?」
    「へ?」
    最近やっと分かるようになってきた、少し弾んだようなその声。覇気のたっぷりと宿った瞳が、悪戯っぽく細められている。この王は意外にユーモラスなのだ。
    「北の大陸で採れた珍しい宝玉があしらわれていたから、それで気に入るかと思ってやったんだ」
    それ、と示されたのは寝台の傍にもってきた竪琴だ。
    「"金糸雀"と呼ばれるまで弾き込んでるなんて知らなかった」
    「あ、あの…そういうことでしたか…てっきり、その、弾いてよいものだと、それで賜ったのだと思っていたので…」
    「いい詩や音が聴きたかったら吟遊詩人か楽団を抱えるよ、珍しく美しいものだったからお前が、気に入るかと思っただけで」
    暇を持て余して仕方なかったから、池照のために充てがわれた居室に積み上がった豪奢な宝物の中から竪琴を手とったことは言いづらい。おまけに幼い頃手習いをさせられただけの記憶で、なんとはなしに弾き語っていただけだから聴かせるなんてもってのほかだ。
    けれど彼はすっかり待っているつもりのようだ。ゆったりと寝そべって、さあ早くと言わんばかりにこちらを見つめている。
    「…不得手ですけれど」
    一言断って、すっかり馴染んだ竪琴を抱えると、張りのある弦に指を這わせた。風に乗ってやってくるこの国のものらしい音色を思い出しながら指で弾き、風と月、そして鳥と花について思いつくままに口ずさむ。いつか寝そべりながら彼に囁かれた言葉を思い出しながら。
    ひゅう、と。一層吹き込んだ夜風が、ゆらりと灯りを燻らす。はっと我に返った。どれほど語っていただろうか。性急に音色を終わらせ、言葉を締めて、おずおずと王を見やると。
    「なるほど、"金糸雀"ね」
    再びゆったりと手を伸ばされる。また髪を撫でられるのかと思い咄嗟に俯こうとして、けれど。
    その指先が、掬い上げるようにして頰に添えられた。
    「心無い陰口は腹が立つけど…本当に、"そう"してやるのもいいのかもな」
    "そう"とは。一体なんなのだろう。
    疑問が湧く胸とは正反対に、彼の強い眼光に貫かれたように体が動けない。やがて、ゆっくりと顔が近づき、身動いだら鼻先が触れ合ってしまうくらいまで傍にやってきてそうして。
    ああ、そうか。
    「俺はひがな竪琴を弾くか夜に語らうだけの身ですから、囀るだけの"金糸雀"呼びも、あながち間違いではないですしね」
    「…」
    ぴたりと、王の動きが止まる。
    「…寝台で囀る気はないらしいな」
    「?…先ほどお聞かせした程度ですが、お望みでしたら明日も弾きますよ」
    「いい…ああいや、うん…明日も聞かせてほしい。いいか?」
    もちろんと頷けば、「用意する書物に、詩集も入れておこう」とまで言われて、恐縮してしまう。
    「…もう寝るぞ、おやすみ池照」
    「ええ、おやすみなさい」
    ころりと横になって目を瞑った彼の顔を見つめながら、池照は枕元のランプを吹き消す。
    一瞬で青い闇に包まれた寝台の上、彼の隣にそっと寄り添い、紗の掛かる天蓋を見上げながら池照は考える。今日まではただ一人手慰みに弾き語らうだけの毎日だったが、彼に聞かせるというなら話は別だ。しっかりと弾きこまなければならない。ああそうだ、詩を沢山読んでこの国の言葉や言い回しなども学ばなければ。
    薄がけに潜り込みながら、明日からの研鑽の日々を既に夢うつつの中で思う池照は知らない。背中を向けた王が、ひとりまんじりと熱のこもったため息をついていることを。
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    @kusaka_Cage

    MOURNING池裏/「きみが羽撃く眩い季節の先で」の原型を考えてた時に打ち出したワンシーン/裏卒業コンサートに池が来てくれたら?という妄想袖からやってきたスタッフから受け取ったマイクを、彼が持っている。花束を抱えたまま未だぼんやりと佇んでいる自分の隣で、彼があの頃のように、マイクを持っているのだ。輝きに満ちた笑顔で、観客席を見渡して、聞き慣れたはずの曲のイントロが流れて会場が沸いた一瞬、こちらに目配せ。そしてウィンク。馬鹿馬鹿しいくらいに気障なその仕草が、どうしてこんなにも似合うのだろう。
    「一緒に」
    ーー"歌って"
    声が入らないように囁かれてはっとする。インカムタイプの自分のそれ、癖で確認した腰の機器はきちんとオールグリーンだった。それでもまだ、並んで立っていることを夢でも見ている気分でいる自分の唇は戦慄くだけだった。
    歌い出し、何度も聞いた彼の歌声が。音の始まりも言葉の始まりも明瞭で高らかな聞くものを魅了する歌声が、ホールに響き渡る。またより一層観客が沸いたその瞬間、歌い続けている池照が手を差し伸べてくれた。
    子供みたいに、胸が高鳴る。
    あの日死んだはずの想いがまた、芽吹こうとしている。
    ーーほら、はやく
    短い間奏、また唇だけで囁かれるから。
    「っ……」
    花束を右の手で抱えなおす。そうして左の手を、あの日伸ばせなかっ 673

    @kusaka_Cage

    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

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    @kusaka_Cage

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    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

    @kusaka_Cage

    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

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    MOURNINGぽい試運転/熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/すべての発端/雰囲気でどうぞ「こんなに遠くまでやってきたのは初めてです」

    夜風に揺れるランプのさやかな灯りに、美麗な横顔が照らされる。
    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星 2412

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなしあなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさん 3044

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    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星 2412

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなしあなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさん 3044

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    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

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    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

    rabimomo

    DOODLEタイトルまんまです
    めちゃくちゃ出来る男な月を書いてみたくてこうなりました
    在宅ワークした日に休憩時間と夜に一気書きしたのでちょっと文章とっ散らかってますので大目に見て下さる方のみ!
    直接の描写はないですが、肉体関係になることには触れてますので、そこもご了承の上でお願いします

    2/12
    ②をアップしてます
    ①エリートリーマン月×大学生鯉「正直に言うと、私はあなたのことが好きです」

     ホテルの最上階にあるバーの、窓の外には色とりどりの光が広がっていた。都会の空には星は見えないが、眠らぬ街に灯された明かりは美しく、輝いている。その美しい夜景を眼下に、オーダーもののスーツを纏いハイブランドのビジネス鞄を携えた男は、目元を染めながらうっそりと囁いた。
     ずっと憧れていた。厳つい見た目とは裏腹に、彼の振る舞いは常にスマートだった。成熟した、上質な男の匂いを常に纏っていた。さぞかし女性にもモテるだろうとは想像に容易く、子供で、しかも男である己など彼の隣に入り込む余地はないだろうと、半ば諦めていた。それでも無邪気な子供を装って、連絡を絶やせずにいた。万に一つも望みはないだろうと知りながら、高校を卒業しやがて飲酒出来る年齢になろうとも、仕事帰りの平日だろうと付き合ってくれる男の優しさに甘えていた。
    4942