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    @kusaka_Cage

    二次創作腐字書き | 雑食 | 落書き未満置き場 | X:@kusaka_Cage | Bluesky:@cage42k.bsky.social

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    ぽい試運転/熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/すべての発端/雰囲気でどうぞ

    #腐らみちお兄さん
    #熊池
    bearsPond

    「こんなに遠くまでやってきたのは初めてです」

    夜風に揺れるランプのさやかな灯りに、美麗な横顔が照らされる。
    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星はあんなにも光るものなんですね」
    「ああ、そうかもな…森は静かでも、空が狭い。あの国の木は背が高いから、北のポラリスは見えても他の星は見えにくいだろうな」
    その材木が欲しくて、川を上った先、緑が少しずつ濃く鮮やかになるころに見える小さいけれども大層美しい渓谷をいただいたあの国を、彼の国を。滅ぼして手中にした。だから、彼の故郷はもうどこにもないのだ。
    「その次は海に出て…よく商人から話は聞いていましたが、本当に大きな水たまりみたいで!あんな声で鳴く鳥がいることにもびっくりしました、それもたくさん」
    「うみねこのこと?」
    「ミャーって鳴いてましたよ、ああ、だから"ウミネコ"なんですね!」
    なにが楽しいのか、くすくすと密やかな笑みをこぼす口元を、白百合のような指先で押さえているのがやけに目に焼き付いた。
    「風も水もしょっぱいなんて信じられなかった…海の町の人々は、あんな塩辛いお水を飲んで生活してるんですか?」
    「井戸は、どこに行っても必要だよ…海水じゃ人は生きていけない。だから俺は、必ずその整備から始める」
    「そうだったんですね!人が住んでいないような場所にも井戸があったので、不思議でした。目に見えないだけで妖精か魔神が住んでいて、毎日使っているのかなって」
    「…俺は生まれて28年、妖精も魔神も見たことはない」
    「そうですか…でもこんなに広い国ですから、どこかにいますよ、きっと」
    本気で言っているのだろうか。訝しんで顔を覗き込むと、やっぱり部屋に入ってきた時と変わらない、きょとりとしたままの表情だった。
    「でも一番驚いたのは、都です。大きな城壁ですね!お城もとても立派で…それに人がたくさん。市場は食べ物で溢れてました。とても、豊かな国ですね」
    「…」
    まだ旅の話は続いていたらしい。あんまりにも無垢な様子に、いよいよ調子が狂う。敗れ滅ぼされた亡国の王の首と共に、王子である彼は荒野と砂漠と海とを越えてつい先日連れてこられたのだ。鉄の鎖で繋がれ、襤褸を纏って跪いていた彼を玉座から見下ろしたその時、一目で気に入ってしまった。渋る宰相に剣を突きつけて黙らせ、やっと奴隷から召し上げたのだけれど。
    何にも分かっていない様子に肩透かしを食らって、先に体を横たえたのは自分の方ではあるけれど。本当であれば、今頃は湯浴みをして着せたばかりのシルクの衣を剥いて、水辺の葦のようなしなやかな体を開かせていたはずだったのに。いまいち思うような事の運びにならないまま、語り部が続く今、もどかしさに小さくため息をついた。そんな時だった。
    「俺は………今宵ここで、死ぬんでしょう」
    「は……?」
    見たものを語り続けていたのとおんなじ、甘い声だった。聞き間違いかと思うようなその言葉に再び彼の顔を覗き込む。けれどその顔はやはりまったく同じ、きょとりとした…凪の川面のごとき表情で。
    「父は殺され、国は消えました。父の首を抱いて引き摺られてきたこの旅路はきっと、黄泉の道筋なんだと…俺は、そう思っていたんです」
    一体。どういうことだろうか。
    安穏の塊かのごとくみえて、その体の内側に彼は、激情を隠し殺しているとでもいうのか。
    そうでなければ。
    「俺は今宵ここであなたに……この首を刎ねられるために呼ばれたのでしょう」
    忌避すべき自身の死について、まるで流麗な唄かのようにして、語れるものだろうか。
    答えは、否。
    何も。何一つ知らない顔をして。事実夜伽の意味すら理解し得ていなかったけれど、それでも彼は。あの緑濃い森の国に生まれた王子である、その証とも言える気高さを胸に秘めて今、ここにいるのだ。王が死に、国が亡くなっていてもそれはきっと、変わらない。
    「……殺さない」
    何か、見えない矢にでも射抜かれたかのように胸を衝かれ、気付いたらそう口走っていた。
    「お前は……殺さないよ」
    「え、えぇ……?」
    口にしてしまえば、尚更思いは強くなる。一人納得しながら、彼の顔を覗き込むために起こしていた体を再びころりと横たえると、頭の後ろで手を組んだ。
    「あの、」
    「もう寝る」
    戸惑いの声は無視をした。しばらくおろおろとしていたけれど、放っておいた。やがて諦めたように、すぐ隣、温かな体が静かに寄り添ってくるから。
    ランプの灯りがまた揺れた。
    今日は良い夜風が吹いている。きっとそう遠くないうちに火は吹き消えてしまうだろう。けれど、それでいい。
    今宵だけでなく、明日も明後日もその後も。これから先の夜はこうやって二人で過ごすようにしよう。
    おずおずと体を横たえて目を閉じた気高く美しい王子の顔を、熊谷は火が潰えてしまうまで、静かに見つめ続けた。
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    @kusaka_Cage

    MOURNING池裏/「きみが羽撃く眩い季節の先で」の原型を考えてた時に打ち出したワンシーン/裏卒業コンサートに池が来てくれたら?という妄想袖からやってきたスタッフから受け取ったマイクを、彼が持っている。花束を抱えたまま未だぼんやりと佇んでいる自分の隣で、彼があの頃のように、マイクを持っているのだ。輝きに満ちた笑顔で、観客席を見渡して、聞き慣れたはずの曲のイントロが流れて会場が沸いた一瞬、こちらに目配せ。そしてウィンク。馬鹿馬鹿しいくらいに気障なその仕草が、どうしてこんなにも似合うのだろう。
    「一緒に」
    ーー"歌って"
    声が入らないように囁かれてはっとする。インカムタイプの自分のそれ、癖で確認した腰の機器はきちんとオールグリーンだった。それでもまだ、並んで立っていることを夢でも見ている気分でいる自分の唇は戦慄くだけだった。
    歌い出し、何度も聞いた彼の歌声が。音の始まりも言葉の始まりも明瞭で高らかな聞くものを魅了する歌声が、ホールに響き渡る。またより一層観客が沸いたその瞬間、歌い続けている池照が手を差し伸べてくれた。
    子供みたいに、胸が高鳴る。
    あの日死んだはずの想いがまた、芽吹こうとしている。
    ーーほら、はやく
    短い間奏、また唇だけで囁かれるから。
    「っ……」
    花束を右の手で抱えなおす。そうして左の手を、あの日伸ばせなかっ 673

    @kusaka_Cage

    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

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    @kusaka_Cage

    MOURNINGぽい試運転/熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/すべての発端/雰囲気でどうぞ「こんなに遠くまでやってきたのは初めてです」

    夜風に揺れるランプのさやかな灯りに、美麗な横顔が照らされる。
    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星 2412

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    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

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    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなしあなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさん 3044

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    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

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    MOURNINGぽい試運転/熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/すべての発端/雰囲気でどうぞ「こんなに遠くまでやってきたのは初めてです」

    夜風に揺れるランプのさやかな灯りに、美麗な横顔が照らされる。
    夜伽の意味すら分かっておらず小首を傾げていた青年にすっかり毒気を抜かれた今、2人は広い寝台の上、揃って寝そべっていた。ぽつりぽつりと語らう声は低く、甘く、美しい。
    「父は、あまり外遊や外交などはしてこなかったので」
    「…ふぅん」
    彼が語る父とやらはもういない。その首を撥ねて晒すことに特に反対をしなかったのは王である自分だ。手を下したのは、やたら血の気の多い百人隊長だと聞いている。手柄を讃え、褒美をたっぷりとらせた記憶は新しかった。
    そんな。
    親の仇が寝そべる隣、怯えるでも命乞いをするでもなく、媚びるでもなく、潔く受け入れるでもなく、彼は凪の川面のような穏やかな表情で、同じく体を横たえていた。形の良い双眸は、まるでオニキスの宝玉のようだ。美しい装飾品じみた、長い睫毛に縁取られた瞳が懐かしさに眇められている。
    「川を下って、荒野より先の砂漠に出たのすら初めてなんです。一面の砂の世界で、夜は寒かったけれど…故郷の森から見上げる星空とは比べものにならなかった。広く砂しかない土地では、星 2412

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    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/いまいち噛み合わない王様と捕虜王子様の夜の過ごし方のはなしあなたは俺を風のようだと言う。
    灼熱の中、蒼穹を疾り抜ける一条の風のようだと言うけれど、俺はあなたの月になりたい。毅然と玉座に座る真昼を経て、ひとり窓辺で憂える夜のあなたを寄り添うように照らす月になりたい。
    あなたは俺を鳥のようだと言う。
    美しく囀り、広げた翼で砂丘を越えていつか見た海へまで飛んでいってしまいそうだと言うけれど、俺はあなたの花になりたい。愛しいあなたの胸に、枯れることなく永遠に咲き続ける一輪になりたい。

    召し上げられたあの夜以降、寝台の上で語らう日々が続いているけれど、最近宮廷の中でどうやら俺は皮肉を込めて"王様の金糸雀"と呼ばれているらしい。
    らしい、というのは回廊を渡りながら薄鼠色の噂話を漏らす宮仕えの役人達がいて、彼らはその回廊のすぐ脇にある水辺で、日中はお役目らしいお役目のない池照が女中を伴って、手慰みに竪琴を弾いていたことに気付いていなかったからだ。直接言われたわけでもなければ、競い合うように形も脈絡もない話を交わして歩き去って行った彼らが広い宮廷のどこに仕える誰なのかも分からない。だから、"らしい"としか言えない。
    弦に指を這わせ懐かしい故郷の曲を口ずさん 3044

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808

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    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471