ただいまと言える場所 パプニカの城門の前にルーラで降り立った。
出迎えようと声をかけてくる城兵さんを始めとするお城の人たちへの挨拶もそこそこに、一目散に向かっていく。
この時間なら玉座の間か執務室か、そのあたりにいるはずだ。
玉座の間へと続く回廊に差し掛かった時、声をかけられた。
澄んで凛とした綺麗な声。周りにどれだけ沢山の人がいようとも、おれはこの声だけを聴き分けることができる。
「あら、ダイ君! おかえりなさ……」
きっとその顔は嬉しそうな笑顔で彩られているのだろう。でもおれはそれを確かめる余裕もなく、彼女を抱きしめた。
レオナ───
愛おしくてたまらないこの存在。
なくしたくなくて、守りたくて───誰よりもおれのそばにいてほしい大切な女の子。
柔らかい体。優しいぬくもり。レオナからだけ感じる、このいい香り。
時にはおれをどうしようもなく昂らせる一方で、おれをこの上なく癒してくれる。
こうしていると、この胸に巣食う不安も焦りも、そして心の奥底で蠢くどす黒い気持ちも、すべてが凪いでいくのを感じる。
帰ってきてすぐにこんな様子じゃ、レオナはきっと心配する。なにか話さなくちゃ。
そうは思っていても、どう言えばいいのか分からないんだ。それに、こんなことをレオナの耳に入れたくない。
おれは言葉もなく彼女をきつく抱きしめたまま、そのまま立ち尽くす。
すると、レオナは何も言わないでおれの背中に腕を回し、抱きしめ返してきた。優しく背中を軽く叩いたりさすったり。
まるで「大丈夫よ」と、このままでいいと言うかのように。
この華奢な体がおれのすべてを優しく包み込んでくれている。
いつだってきみは、こうしておれをまるごと受け止めてくれる。
きみを守ると心に誓っているけれど、その一方でおれという存在を守ってくれているのも、きみなんだ。
きみがここにいるから、おれには帰る場所があるって思える。
ここにいるから、つらいことがあっても歯を食いしばって凌ぐことができる。
この温もりが出迎えてくれるときのことを思い浮かべ、自分を奮い起たせられるんだ。
「ダイ君。おかえりなさい」
乾いた大地を潤すような瑞々しい声が聞こえる。荒んだ心にすうっと沁み込んでいく。
レオナの言葉にはいつも強さがある。おれは、それにどれだけ励まされ助けられてきたことか。
でも、こんな時は彼女は何も言わないで抱きしめてくれるんだ。そして温かい光が射し込むような一言を投げかけてくれるんだ。
これでおれがどれだけ救われたような気持ちになれるか、きみはわかっているだろうか。
レオナの顔を無性に見たくなって、彼女を閉じ込めていた腕を緩めそっと体を離した。
思ったとおり、慈しむような優しい微笑みをおれに向けてくれている。
まったくレオナには敵わない。
何があったかは分からないにしても、おれのことはすべてお見通しなんだろうな。
少し気まずくなって笑ってみせると、レオナの笑みはますます温かいものとなる。
「ただいま、レオナ」
やっとおれはこの言葉を彼女に言うことができた。
ああ、おれは帰ってきたんだ。帰ってこれたんだ──そんな思いが今更のように高まる。
たまらなく胸が疼くような想いが湧き上がり、おれはレオナの頬にキスを贈った。
感謝の気持ちと、そして愛おしさを精いっぱいこめて。
「ありがとう──。きみがいて、良かった」
心から、そう思う。
情けないところを見せてごめんね。でも、今日は許しておくれよ。
周りに人もいることだし、今はこれくらいにしか出来ないけど。
今夜はきみをこの胸に抱きしめて眠りたいんだ。