のろけ話にはさまれたくない 愛妻家、というのはどういうものだろうなというフェムトの言葉に、うつろな目をしていた絶望王はテーブルに突っ伏したくなった。
「えー、そんなの〜。やっぱりぃ〜? らぶらぶ、じゃなーい?」
「ふむ、らぶらぶ」
「そうそう、アタシとダーリン達みたいなー♥」
きゃー♥ と声を上げて身をよじらせるアリギュラ。
ここは十三王の間。堕落王と偏執王、そして間に挟まれて逃げそこねた絶望王以外の他の王の姿はない。みな、数時間前に音速猿もかくやというはやさで用事を思い出していた。
「僕とレオナルドは『らぶらぶ』していると思うがね?」
「そうねー、いっつもイチャイチャしてるもんねー。今日はアイツはどうしたのー?」
「妹への結婚祝いを出しに郵便局へ。『郵便局くらい一人でもいけますから』などというんだぞ。この僕を置いていくとはな」
「おいてかれてすねてるのあんたのほうね〜」
「別に、すねているなどと。そんなことで揺らがないほど僕とレオナルドは『らぶらぶ』しているぞ? この間だってな。あの子が僕の髪を梳かしたいというんで風呂上がりに濡髪のまま待っていたら風邪を引くから先に拭いてくださいとタオルを慌てて持ってくる姿も」
おいやめろ。
話が始まる気配に絶望王は絶望した。
すでに三時間ほど、この調子だ。最初はいつもの偏執王の恋人たちへの語尾にハートの乱れ飛ぶトークだった。
そこに、遅れてやってきた堕落王が負けじとばかりに恋人の少年の惚気話でクロスカウンターを決めてきた。
あたしのダーリン達が可愛い。いや僕のレオナルドの方が可愛い。
そんな不毛な対抗戦に他の王たちは早々に逃げ出し、二人の間に挟まれて座っていた絶望王だけが逃げそびれていた。
穏やかに始まったと思えば途中からヒートアップとクールダウンを繰り返し、小休止にお茶を飲んではまた話し始める。
終わりが見えない。
今の自分ほど、『絶望王』の名にふさわしい存在はいないだろう。
頭の上で飛び交うピンク色の声を聞き流しながら、絶望王うつろな目でテーブルに突っ伏していた。
「それでレオナルドが僕が入浴中に恥じらいながら入ってきて」
「やーん♥ それでそれでー?」
「僕はあれほど浴槽を大きめにしてよかったと思った瞬間は」
もうやだ聞きたくない。誰かタスケテ。
絶望王は神にすら祈りたくなった。
「……な、ん、の、話を? しているんですか、フェムトさん?」
救いの神はいっそ清々しいほどににこやかな笑顔で堕落王の背後から現れ、その後頭部をベアクローで掴んだ。
絶望王の目からはその背後に天使の羽が見えた。
偏執王は振り返ったときにはもう姿を消していた。
堕落王は、最愛の伴侶にそのまま自宅へと連行され、そして膝詰め説教をされた。
以降、少なくとも他の人間に対してノンストップで惚気ることは無くなった……とは言えない。