ベイクドビーンズ「だいたいキミというやつは」
フェムトがそう切り出したとき、レオナルドは面倒な方向に話が転がり始める気配を感じた。
反発することなく、受け流すに限る。
素直に拝聴する姿勢を取りながら、レオナルドは目の前の籠から新しい豆を取った。
堕落王の居城のキッチン。およそ、何人たりとも足を踏み入れることはできないだろうその場所で、レオナルドはいま目の前に山盛りになった豆をひたすらに剥き続けていた。
仕事終わり、はー疲れた! とベッドに倒れ込んだ次の瞬間にはフェムトの魔獣に拉致されてこの堕落王の城に連行された。
いつものことだ。もう慣れた。
キッチンに放り出されたレオナルドの目の前に、エプロン姿の堕落王は籠に山盛りの豆を置いた。
「豆を剥きたまえ!」
「あの、僕仕事上がりで疲れてまして」
「働かざる者食うべからずだぞ、少年!」
「働いてきたっつーの」
この豆の山をすべて処理するまではまず帰してもらえないだろう。フェムトは、途中で仕事を放り出して帰ることをけして許さない。
「正義の味方結構、勤労青年結構。だが、もう少し僕との余暇の時間を増やすべきだと思わないかね?」
「いや、そもそもっすよ? 俺は一般ピーポーで、あんたは堕落王で。ほら、もんのすっごーーい格差とかあると思いません? 遊ぶならもうちょっと格のあったお友達いません?」
アリギュラとか、と鞘から取り出した豆を他の籠に入れながらぼやく。
何がどう気に入られたのか、フェムトはたびたびレオナルドを(一方的に)遊びに連れ出す。連れ出す、というよりレオナルドで遊んでいるというべきか。
一応気を使ってくれているのか? 出動中などは拉致しに来ることもないので職場バレはしないで済んでいる。
「アリギュラちゃんは今は新作制作中で僕と遊んでくれない! アムネスは寝てる! ゼオドラくんは発狂中! バルボロッサは遊んでくれない!」
「なんか聞いたことのない聞いちゃいけない名前を聞いた気がするー」
こいつ友達少ないんだな、と莢から豆を弾き出しながらレオナルドは失礼なことを考えていた。具体的には十二人くらいしか友達がいなさそうだ。
「十三人いるぞ」
「心読まないでくださいよ。へー、十三人もいたんですか、友達」
「うむ!」
レオナルドが剥いた豆の入った籠を手にし、沸騰した大鍋の方に持っていきながらフェムトは頷いた。
「王達にキミを足せば十三人だ」
「……わー」
知らなかったー、俺フェムトさんの友達だったんだーという言葉はなんとか飲み込んだ。
すねられると面倒なことになる。
また心を読まれる前に、レオナルドは話を逸らすことにした。
「豆、茹でたらなんの料理にするんですか?」
「ベイクドビーンズだ。キミ、この前食べたがってただろう?」
そんなことをちらっと言ったことがあったような。故郷を離れてから久しく食べていない家庭の味だ。缶詰のものはどうにも口に合わなかった。
……それを覚えていて、レオナルドのためにわざわざ作ってくれるというのは確かに友人っぽい行いではある。
もうちょっとこっちの都合も考えてくれたらなぁ、と最後の豆を剥きながらレオナルドは嘆息した。
豆を剥きおわっても、これはごちそうになるまで帰れそうにない。……フェムトの料理は美味しいのでベイクドビーンズは楽しみだった。
「キミの妹からちゃんとレシピも教わってきたからな! 味は保障するぞ」
「うんちょっと待って誰に聞いたって?」
「『レオナルドの友人なんだが彼に故郷の料理を振る舞いたく』といったら快く教えてくれた」
「ミシェーラぁぁ!」