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    lemon_miuchi

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    lemon_miuchi

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    自己満のヤクザパロ(要素薄め)
    社畜な赤ちゃが新しい職を手に入れる話

    袋の兎今日は本当にツイてない日だった。

    朝のニュースの占いは12位だし、前日の雨でできた水溜まりを通り過ぎた車がバシャリと水を飛ばしてくるし、電車は遅延するし、苦手な上司に嫌味を言われるし、凡ミスをして叱られるし…。とにかく挙げたらキリがない程不幸な出来事ばっかりだ。

    そして極めつけは上司に書類を押し付けられ、明日の朝までに終わらせなくてはいけないこと。当の本人は書類を渡してきて帰ったけど。きっと野球の試合でも見るんだろうな。ビール飲みながら。家で。仕事のことなんて忘れて。

    はぁ、と幸せが口から逃げていく。今更吸い直したところで今日の運勢は回復しないだろう。近くのコンビニで買ってきたサンドイッチを食べながら書類に目を通す。これ、私の担当じゃないんだけどな。周りに助けを求めたところで見つめ返してくれるのは真っ暗になったモニターの群れだけだ。

    時計はもう10時を回ろうとしている。窓の外から見えるビルの灯りが私は一人ではないと教えてくれる。名前も知らない仲間が居るだけで少し元気になれた。普段はあまり飲まないようにしているエナジードリンクをカシュッと開けて流し込む。燃料満タン、後はエンジンを掛けるだけ。

    ぐっと伸びをして凝り固まった筋肉をストレッチすると先程までの疲れがちょっと無くなった気がする。多分気の所為だけど、こういうのは思い込みが大事だと思う。モニターに向かい合って残りの作業に取り掛かる。そうして私の延長戦は幕を開けた。

    ﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋

    「つ、疲れたぁ〜」

    時刻は12時4分。終電にはまだ間に合う時間だ。疲れで重い体を何とか起こして荷物をまとめて電気を消して退社する。外は暗くて街頭の心もとない光が等間隔に地面を照らしている。なるべく明るいところを歩きながら駅に向かっていると、路地裏の方からドサリと何かが倒れる音がした。

    思わず立ち止まって見てみると、一人が倒れていて、もう一人は何か長いものを持って倒れている人物の前に立っている。喧嘩だろうか。申し訳ないが今日は散々ツイてない日で疲れているので通報する元気もない。そっと立ち去ろうとしたその時、通り過ぎる人にぶつかられて鞄を落としてしまった。

    立っている人がゆっくりとこちらを振り向く。月明かりに照らされた髪が銀色に輝く。見極めるように鋭く光る双眸はそれぞれ青と赤の色をしていた。

    異人を思わせる風貌に思わず目を奪われて見つめてしまう。そして鞄を落としたことを思い出して急いで荷物を拾い始める。

    「す、すみません!すぐ拾って行きます!」

    と自分でもよく分からない謝り方をして携帯やメモ帳などの鞄の中身を震えた手で拾っていく。最後のリップに手を伸ばした時に震えた指先で弾いてしまった。リップは転がって異人のような人の靴にコツンとぶつかる。

    「あっ、ご、ごめんなさい!」

    立ち上がってその人物の足元に近づこうとした時、暗い色の液体が地面を侵食していることに気づいた。それはどんどんこちらに伸びてきて、私のパンプスの先に触れた。月明かりで照らされたそれが赤色だと気づいた時には足が体を支えることを放棄した。ドサリと尻もちをつくと、目の前の人はこちらを覗き込んできた。

    「あー、見ちゃった?」

    からかう様な軽くて明るい声色が路地に響く。別々の色を持つ双眸は愉快そうに細められていてこの人が純粋にこの状況を楽しんでいることが伺える。右手の先に持っているのは赤い液体が付着した木材だった。

    その奥に倒れる人物はピクリとも動かない。頭部や腹部からおびただしい量の出血をしていて未だにこの路地裏を染めていく。そしてその何も映さない瞳と目が合ってしまった。

    「ひぃっ!」

    慌てて後ろに下がろうとしても靴や手が血液で滑ってまともに進めない。涙で視界がぼやけていって目の前の状況も分からなくなっていく。どうしてこんなにもツイてないのだろう。あんまりだ。残業までしたのに、苦手な上司の言うこともちゃんと聞いてやったのに。悪いことなんてしてないのに。凡ミスしただけなのに。

    「見られたらさ、困るんだよねー」

    あの時止まらなければ良かった。真っ直ぐ家に帰ってれば、タクシーで駅まで行ってればこんな事には…。

    「君さ…」

    プルルルルルルルッ

    その時、路地裏に着信音が響いた。どうやら目の前の人の携帯らしく、ため息をついて嫌そうに顔を顰めながら電話に出た。

    「どうしたん?」

    「うん、うん。え、また掃除人やめたん?今月入って何人目だよ。ウケる。……マジか。やべ、どうしよ。」

    「あ、いやなんでもないで。おん、平気平気。」

    暫くすると顔を青くして、綺麗にまとめられた髪をガシガシとかきながらその場を回り始める。どうやら考え事をする時に動き回る人らしい。ピチャピチャと黒のスニーカーが血の上で跳ねる度に飛沫が舞って路地の壁をさらに汚していく。私の顔にも飛んできているが、変に動いたらあの木材が頭に振り下ろされそうでとてもじゃないけど動けない。

    「んー……。あ!」

    突然声を上げたその人は軽快な足取りで私の横を通り過ぎていく。私が荷物を落とした辺りで止まると何かを拾った。

    そしてこちらを振り返るとニコニコとした人の良さそうな顔で拾ったものを見せてきた。

    それは私がずっと前に書いて出せずにいた退職届だった。さっき荷物を落とした時に拾い忘れたのだろう。今日上司の机に置いてくればよかった。

    「アレ、片付けてよ。お前の新しい仕事ね。」

    携帯を操作してこちらに目線を向けると、路地の奥にある死体を指さす。

    「っ、えっ……?」

    「仕事探してるんやろ?拒否したら目撃者ってことで殺すけど、どうする。」

    そんなの拒否権がないようなものじゃないか!今の仕事も辞められて新しい職を手にできるから一石二鳥なのでは…?いや何を考えてるんだ、私は。どう考えても裏の人に引き抜きされてるのに良いことなんてなんにもない!

    でも断ったらあの木材が私の頭蓋に刺さって……。

    「よ、よろしくお願いします!」

    裏の世界の礼儀なんて知らないし、こういう時にどうすればいいか分からなくてとりあえず土下座をした。血液がパンツスーツに染みていくのを感じて鳥肌が立つが、それどころではないのだと必死に悲鳴を飲み込む。

    すると目の前の人物は楽しそうにケラケラと楽しそうな声を響かせて笑っていた。まるで悪魔のようだ。もしかしたら異人のような容姿もこれが理由だったのではないかと錯覚しそうになる。いや、そう思うしかなかった。

    その日、不運な私は悪魔に魂を売ったのだ。
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