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    だみだんだり

    中身が全く無い日記を2020年12月19日から描いていました(過去形)
    【2021年3月31日】タグを付けました[ギャレツのクソ日記]
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    だみだんだり

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    警告:オリビア、ボム平、ブンボー軍団擬人化(三回目)。100%妄言。ブ軍の容姿はポイピクである程度確認できます、服に統一感のある奴らです。

    内容:モミジ山からOEDOランド侵略、舞台が整うまでの妄想話。

    改変がある。この人は怒ると怖い。

    大劇場の支配者モミジ山。そこは名前の通り、赤いモミジと少しの黄色いイチョウやススキで彩られた美しい山。
    そして山を流れる一筋の青色、うずまき川はこの場所の良いアクセントとなっている。

    その川に纏わるカミさま、『水ガミさま』を祀る『水ガミ神殿』の前に集まっているのは不思議な容姿の四人組。その内最も小柄な少年は扉の前に立ち止まり、左右に視線を向けた。地面には何かスイッチのようなものがある。


    「……ホッチキス」

    「ハイっす!」


    少年が名を呼ぶと、灰色の犬?のような人?が返事をしてスイッチの上に乗る。少年は浮遊している自分ではもう一つのスイッチを踏めないため、もう片方に乗せる誰かを呼ぶ為に振り返った。

    後ろに居るのは靴は見えるが下半身が見えない、これまた奇怪な姿の金髪男。少年がこちらを見た事に対して咥えていたスティックキャンディを上に向けて反応している。
    そしてもう一人は…水ガミ神殿付近の池に映っている自分を眺めてうっとりしている様子の四腕四足の青い髪をした人物。少年に近い距離にいるのはこいつだが…


    「……パンチ、ここに乗れ」


    青髪の方を呼んでも意味が無いと思ったのか、自分より少し離れた場所にいた金髪男、パンチを呼んだ。パンチは肩を落としながら息を吐き、面倒くさそうに歩いてきて指示された場所に止まった。


    ───ゆっくりと開いていく神殿の扉。少年は何も言わずにスイーっと入って行ってしまった。ホッチキスも急いで後を追うが、パンチと青髪の人物は動かない。

    神殿前に残った二人。パンチは青髪の人物の方を見つめて声をかけた。


    「…オマエさぁ、そんなに自分の顔が好きか?」


    声をかけられた青髪の人物──わゴムは池を眺めながら「好きだヨン」と上機嫌に返答する。パンチはなんとも言えない顔で口を歪める。


    「分かんないねえ、よくもまあ飽きねーこって。おれッチなら秒で飽きるぜ」

    「まあアンタはタレ目だし」

    「オマエはツリ目だろうが」


    お互いの目付きに言及した二人の間に沈黙が流れる。わゴムは相変わらず自分の顔を池で眺めており、パンチは辺りの景色を見回し始めた。


    「こういうトコ、イロエンピツなら喜びそうだよな〜。
    『景色がキレイざんすぅ〜バカみてーに絵を描くざんすぅ〜』って」


    へへへ、と軽く笑いながらそう語るパンチ。その声色と言い方はここに居ないイロエンピツという存在をバカにしている。
    池をずっと眺めていたわゴムは顔を上げて少し辺りを見回し、「確かにね」と賛同する。


    「この山は赤く美しい。そしてこの赤に差すこれまた美しい一つの青色…それは」

    「川」

    「そう!ワタクシ!」


    間髪入れずに「川」と言ったパンチの発言を思いっきり無視して、わゴムは独りで喋りながら立ち上がる。その時わゴムの服の中からバサリと輪ゴムで縛られている紙の束が落ちた。
    パンチは物珍しそうな顔をして、わゴムが落としたその紙の束を見つめた。


    「お?何だそれ。イロエンピツみてーに作戦でも書いてんのか?いつ書いたんだよそんなの」

    「違うヨン、これは『台本』。書いたのは部屋にいる時本棚で本読んでた時だね」

    「……台本?」


    紙に付いたホコリを下の腕で払いながらそう答えるわゴム。パンチは「新手の作戦用紙の呼び方かよ」と言ったが再び「違う」と否定される。


    「本を読んでた時に知ったんだけど、ワタクシの担当場所であるOEDOランドには『大劇城』があるらしいんだヨン。…何が言いたいか分かるね?」

    「…………オマエが主役の舞台でも作」

    「そう!!!よく分かったねぇ、褒めてやるヨン!」


    言い切る前に遮られたパンチは特に何も言わず、「アメ無くなった」と独り言を呟きながら新しいスティックキャンディを取り出し口に入れた。その時に出たゴミはさりげなくそこら辺に投げ捨てて。
    無視された事にわゴムは気づいていないのか、それとも気にしていないのか、ベラベラと一人で自分の舞台の内容を簡単に喋っている。


    「このスペシャルな台本の公演は一度きり、アンタが見る機会はきっとないだろうね。どうせなら今ここでワタクシが少しだけ演じてやってもいい……」

    「思ったんだけどよぉ、その紙の束って台本なんだろ?本なら本らしくまとめちまった方が良くね?
    おれッチとオマエが居るんだしよ」


    ゆらゆらと踊るように動き始めていたわゴムの語りを妨害するように、大きめの声でパンチはそう言った。ピタリと足を止めたわゴムは「確かに」と呟いて、縛っていたゴムを外した。
    片方の手袋を外しながら近づいてくるパンチを見下ろしながら、わゴムは少しだけ文句を言った。


    「でもどうせ留めるなら、ホッチキスとかセロハンテープの方が良かったヨン。あいつらの方が丈夫だし」

    「ハッ、今はホッチキスいませーん。いつ帰ってくるかわかんねーアイツ待つより、おれッチとお前で今作っちまった方がはえーぜ?
    それにおれッチはアイツらと違って消費するモンねーし??エコだぜエコ、エコロジー、世界に優しーおれッチヤサシー」


    片手の指先から出した小さな刃を使い、カチャンカチャンと重なった紙に穴を開けていくパンチ。確かに彼の言う通り、セロハンテープはテープを消費し、ホッチキスは針を消費する。
    しかしパンチのやり方ではわゴムが消費するし、パンチは紙くずを生産するのだが…あくまでも『消費』という面で見た場合の話だろう。

    パチン、と紙の一番端に穴を開けたパンチは「ほらよ」とわゴムに紙の束を返した。その穴達の間隔及び列にブレは一切見られず、パンチの穴開けに対するプライドが垣間見える。
    わゴムは下の腕で紙の束を持ったまま、上の腕の掌から輪ゴムを出現させる。この輪ゴムはイチから作り出すことも出来るが、ある程度作り出した後は『体の一部』から移動させることしか出来ない。

    わゴムが器用に四本腕で紙の束を簡易的な本に作り終える頃。ビシャビシャという濡れた足音が聞こえたパンチは水ガミ神殿の方を見て「うわ」と声をこぼした。


    「何だよオマエビッショビショじゃねーか、水ん中にでも落ちたのかよ」


    そう語るパンチの視線の先には、頭や足元がびしょ濡れのホッチキス。そして共に帰ってきたオリーは、何故かオリガミの王冠ではなくホッチキスの帽子を被っている。その帽子は少し濡れているが、オリー自体は全く濡れていない。


    「抵抗してきた水ガミに濡らされたっす!オリー様は濡れなくて良かったんすけど」

    「帽子のお陰だ」

    「……オマエのおかげじゃねーんだ」


    ホッチキスはあまり役立てなかったのか、それとも帽子のお陰だと言われた事が悲しいのか、しょんぼりしながら三人から離れた所で頭をブルブルと震わせて水を飛ばしている。
    その様子を遠目に見るパンチとオリー。わゴムは「またかヨン」と表情を渋くしていた。


    「ホッチキスも水ガミの気を引くくらいは役立ったんだがな」

    「囮役って…まあそらそうか。水ガミとやらをオリガミに出来んのオリーサマだけだし、オリーサマ水苦手だもんなぁ。濡らさないだけよく働いたって事だな。
    しゃーねぇ、オリーサマの代わりにおれッチが労ってやるぜ〜♪」


    ニヤニヤと企む表情を浮かべてホッチキスに近づいていくパンチ。何か言われたらしいホッチキスは、ピンと耳を立てたかと思えばまたシュンとした様子で耳を下げた。その様子を見てパンチは笑っている。

    オリーはわゴムに「行くぞ」と声をかけ、二人の方へと向かっていく。わゴムは手にしていた簡易的な本を服の中へ仕舞い、そのあとを追った。

    次の行先は青い紙テープの設置場所、OEDOランドだ。




    ──────────




    「OEDOランド〜OEDOランドに着いただよ〜。
    とっても楽しいショーととっても楽しいアトラクションで大人気のテーマパークだあよ〜」


    船頭の青キノピオがそう言って桟橋に船を止める。わゴムだけが降りると、「頑張れよぉ」とヘラヘラした顔でパンチが片手をあげる。少しだけその方に視線を向けた後、スタスタと桟橋から離れていった。
    船頭は残っている三人の方に向き直り、声をかける。


    「あんたらは終点のかぜわたり谷まで行くんだっけね?」

    「そうっすよ、さっさと出すっす」

    「そんな急かさんでも、かぜわたり谷は逃げないだあよ〜。この先の川の流れはずーっとゆったり、のんびり行きましょよ?」


    ホッチキスは何も言わずジッと船頭を見つめ返す。その視線に怯える様子もなく船頭は「出発するだよ〜」と言って船を動かし始めた。未だにホッチキスの帽子を被っているオリーは、船の上から離れていくOEDOランドの方を見つめている。気になるのだろうか。

    その姿を最後に船は死角に消えていった。


    わゴムは入口付近にある券売機を確認する。数字の隣には『両』と書いてはいるが、どうやらコインが必要なようだ。
    コインなど一枚も持っていないわゴムはふぅと息を吐いて正面入口に向かう。突然目の前に現れたペラペラではない奇怪かつ巨大な姿の客に、従業員のキノピオは口を大きく開いたまま固まって動かない。
    そんなキノピオを無視してわゴムは服の裾を持ち上げ、ゲートを乗り越えようとする。上げられた服の内側に見える脚は、輪ゴムが複数個繋がったり寄り集まったりして出来ている奇怪なもの。片側二本の足が乗り越えた辺りで後ろから制止する声が聞こえた。


    「ちょ、ちょっとちょっと!不法入国ですよ!ちゃんとお金を払って入ってください!」

    「あーもう、うるさいね、体がこんな中途半端な状態の時に話しかけるんじゃないヨン!」


    残っていた片側二本の足も完全に侵入したところでわゴムは従業員の方へくるりと振り返り「で、何だヨン?」と聞き直す。従業員は怒った表情でわゴムを睨んでいる。


    「で、す、か、ら!不法入国です!
    あなたはペラペラじゃない…何か…よくわかりませんけど、それでもちゃんとお金を払わないとダメですよ!」

    「お黙り!」


    鋭い声を上げたわゴムの手から飛ばされた輪ゴムが従業員の口元をギュッと絞った。縛られた従業員キノピオは喋りにくそうに「痛い」と喚いている。
    わゴムは上腕の手を頭に手を当て悩ましげに、下腕はやれやれと言うようなポージングを取った。


    「全く、金払え金払えって。ペラペラってこんなにガメツイのかヨン?やだねぇ…
    ワタクシはアンタたちキノピオに『タダ』で大劇城を使ったサイコーのショーを永遠に見せてやろうと思ってたのに。ちょっとくらいは手荒にしないで優しくしてやろうと考えてたけど、仕方ない……
    アンタたち、仕事だヨン!」


    上腕と下腕の左右をクロスするように懐へ手を突っ込んだわゴムは、そのままパーッと紙吹雪を撒き散らすように手を広げ、小さく折りたたまれた紙くずのようなものを辺りに投げた。
    投げられたくずは空中でパタパタと開いていき、多くのオリガミ兵がその場に現れた。わゴムはオリガミ兵を見下ろしながら命令を下す。


    「いいかいアンタたち!キノピオを60人くらい捕まえて、あそこのデカい建物に連れて行くんだヨン!
    一応ワタクシの舞台の観客なんだし丁重に、かつ適当に持ちやすいようにして持っていくといいヨン!

    余った奴らは折りたたんだりグシャグシャに丸めたりして…そうだね、そこの行灯の中にでも入れたりしておくといいヨン。ゴミは片付けとかないとね」


    わゴムがそう言って指で示したのは道の端に置かれている明かり…誰哉行灯(たそやあんどん)。オリガミ兵たちはこくんと頷き、入口から散り散りに移動して行った。
    入口付近に残されたのは、口元ごと顔を縛られたキノピオとわゴム。キノピオは相変わらず喋りにくそうにモゴモゴと何かを言っている。


    「あぁ、アンタ本当にさっきからよく喋るね。何だヨン」


    輪ゴムを解いてやると、キノピオは先程の威勢を無くした怯えた表情でわゴムの方を見上げた。


    「あ、あなた達は一体何者なんですか?どうしてこのOEDOランドに…何をするつもりなんですか?」

    「さっき言ったヨン。ワタクシは舞台の主役。大劇城でショーを上演。以上」


    簡潔にそう語るわゴム。しかしキノピオの聞きたかったことではないらしく、「違います」と小さく否定された。わゴムは面倒そうな視線を向け、腰を曲げて相手の額に上腕の指先を突きつける。怯えた様子のキノピオは少しだけ仰け反った。


    「じゃ、何だヨン」

    「さっき、余ったキノピオは折りたたんだりグシャグシャにするって言ってたじゃないですか…
    何でそんなことを…」

    「あー…そうだね、まあ。ワタクシの仕えてるヒトがアンタたちのこと大嫌いなんだよね。理由は知らないけど。だからそういう事をするんだヨン。
    でも、アンタはワタクシの近くに偶然いた。だからアンタは観客席に座らせてやるヨ〜ン♪」


    そう言って輪ゴムは下腕でキノピオの事を乱暴に掴む。掴まれた部分がグシャっとなり「頭が!」と喚くキノピオの事など知ったものかと言わんばかりに、わゴムは道のど真ん中を堂々と歩いていく。


    「ワタクシの舞台は四部作。大劇城に侵入した敵はまず、ワタクシからのアナウンスを聞き観客席へ。そしてその後に一階の舞台の公演が始まる。公演の内容は…」

    「ま、待ってください!」


    頭を鷲掴みにされているキノピオが声を上げる。わゴムは大人しくピタリと歩みを止め、その方を見た。宙ぶらりんのキノピオはお願いするようなポーズをとって言葉を続けた。


    「ネタバレになるのでそれ以上は……」

    「……………………。
    ……もしかしてこういうのは初めてじゃないのかヨン?」

    「自慢じゃないですけど、何度か…」

    「……アンタらも大変だねぇ。ま、そうだからってワタクシは慈悲なんて与えないけどね!」


    威圧するように左下腕でキノピオの頭を軽く小突き、再び大劇城へと歩みを進めた。
    頭を鷲掴みにされている従業員キノピオの目に映る景色はまさに惨状。グシャグシャに丸められ、ボールのように投げられながら誰哉行灯にぶち込まれるキノピオや、綺麗に折られてトンボや手裏剣に改造されているキノピオ、オリガミ兵に追われたのか高いところに引っ付いて看板のフリをしているキノピオもいた。

    しかし、このような状況であっても一縷の望みがあった。きっと彼が助けに来てくれる、そう思いながら従業員キノピオはその光景から目を逸らした。


    大劇城に辿り着くと、事前に紙テープを運んできていたオリガミ兵と二人のキノピオが広場にある青い紙テープを引っ張り合っている。どうやら二人のキノピオは、怪しいオリガミ兵が持ってきた怪しい紙テープを取り上げようとしているようだ。

    わゴムは空いていた上腕から輪ゴムを出現させたかと思えばそれを撃ち、二人のキノピオを拘束する。
    引っ張り合いから解放されたオリガミ兵は紙テープに押しつぶされそうになり、慌ててその場から離れる。紙テープは倒れることもなく、少し転がって直ぐに止まった。


    「全く、破れたらどうするんだヨン?アンタらももっと考えて行動しろヨン」


    わゴムに叱られたオリガミ兵は落ち込んだ様子で俯いた。そんなオリガミ兵を鼓舞するようにわゴムは上腕で手を叩き、「紙テープを設置するんだヨン」と命じた。
    オリガミ兵たちは顔を上げ、紙テープを持ち上げて大劇城へと入って行く。その様子を見た引っ張り合いをしていたキノピオ達は、同族を鷲掴みにしている四本腕の奇怪な姿をした人物の方を向いて怯えた様子を見せる。


    「あの大きなテープ、一体何に使うんだ…」

    「……聞きたいことがあるならデカい声でハッキリ言うヨン」


    そうわゴムが言うと、縛られた二人のキノピオは「ひえっ!」と小さく悲鳴をあげてお互いに寄り添った。この二人は今捕まえているキノピオよりも怖がりなようだ。
    …いや、寧ろこれが普通の反応なのかもしれない。聞きたいことでない事をわゴムに答えられた時にも、小さい声ではあったが「違う」と否定していたし、他の個体よりも芯がシッカリしているのだろうか。

    二人に近づいたわゴムは縮こまった紙ッペラを空いている左下腕でまとめて鷲掴み、オリガミ兵に続いて大劇城内へと足を踏み入れた。

    柵を乗り越えてショートカットしつつエントランスを抜け、観客席へ。
    がらんとした席の後ろの方へ三人のキノピオをドカドカと乱暴に置いたわゴムは、何か考えるような仕草をしながら舞台裏を覗き始めた。オリガミ兵は紙テープと共に舞台近くで待機しており、三人のキノピオはコソコソと話し合った。
    今なら逃げられるかもしれない、そう意見を合わせた三人は締め付けられる体の痛みを我慢しながらソロリソロリと扉の方へと向かった。

    あと少しで扉!というところで扉が突然乱暴に開かれる。その勢いに吹き飛ばされた縛られキノピオたちは驚きの声を上げながらヒラヒラと散らばった。
    わゴムが扉の方へと視線を向けると、数体のオリガミムーチョが沢山のキノピオ達を束にして持ってきていた。その内の一体は倒れており、どうやらこいつが転けた衝撃で扉が勢いよく開かれてしまったようだ。


    「な〜にやってんだヨン、ワタクシの劇場の扉が壊れでもしたらどうしてくれるんだヨン全く…ん?」


    オリガミムーチョに近づいたわゴムだったが、その視線はオリガミ兵から床の方へと向いた。観客席のすぐ近くで縛られているせいで思うように立てず、ペシペシと暴れているのは薄っぺらい紙…ではなく、キノピオだ。


    「やれやれ、ちゃんと席に座ってないからこうなるんだヨン。アンタ達も捕まえたキノピオ達を席に着かせるんだヨン!」


    そう号令をかけながらわゴムは三人を今度は前の席に座らせる。不安そうな表情を浮かべている三人を見下ろしていたわゴムは、急に何かを閃いたような柔らかな表情になり上腕から輪ゴムを三個出現させた。そして下腕でキノピオ達を縛り付けていた輪ゴムを解き、上腕に持っていた輪ゴムを使って席に座っていたキノピオを縛り付ける。

    先程と違い全く動けなくなったキノピオ達は少しの間もがいてみたが、輪ゴムはシッカリと体を締め付けていて意味が無い。


    「これで逃げられはしないヨン。諦めてワタクシのショーを楽しむんだヨン、分かったね!?」


    威圧するよう声を上げるわゴム。怖がる二人に対し、入口付近で捕まえたキノピオは「こんな状態じゃ楽しめないですよ!」と言い返した。


    「じゃあアンタは逃げないって言うのかヨン?」

    「……うぅ、そ、それは……」

    「出来ることなら逃げたい。だけど怒らせちゃマズイだろうし、適当に話を合わせて難を逃れよう。誰かが助けに来てくれるその時までの我慢だ。

    ……大劇城に来るまでの間、アンタそんなふうに考えてたんじゃないかヨン?」


    俯いていたキノピオは表情を強ばらせる。わゴムは満足そうに口角を上げながら「ワタクシの観察力をナメるんじゃないヨン」と言ってその場を離れ、作業の続きを行った。

    キノピオが座らされては輪ゴムで縛られる。それを繰り返し、空席は最前列の中央三席だけになった。
    オリガミムーチョ達の連れてきたキノピオは数人あぶれ、赤いキノピオ五人がわゴムにまとめて適当に縛られ席の後ろへ放られた。残った二人の青キノピオと一人の緑キノピオはわゴムによって頭を縛られた。


    「アンタたち逃げようとしたらその輪ゴムギリギリ締めるからね。ワタクシから離れていてもその輪ゴムはワタクシのモノ、ワタクシの意思で自由自在だヨン」

    「いッ…だだだだ!分かりました!分かりましたから勘弁してくださいぃぃ!!!」


    わゴムが力を込めるように手を動かすと、近くにいた青キノピオの輪ゴムがギチギチと紙の頭を縛り付けたようで痛そうな絶叫が上がった。パッと手を握るのを止めると青キノピオもその痛みから開放されたのか、頭を押さえていた手を下ろして俯いた。
    「それで…」とわゴムは三人を見下ろしながら問いかける。


    「どうやって二階に上がるんだヨン?仕掛けが分からないんだけど」


    青キノピオ二人は顔を見合わせ、その内の一人が隅に置かれていた階段から舞台に上り、「こっちです」とわゴムに声をかける。
    長い裾をもたげながらわゴムがその後を追うと、舞台袖の分かりにくい所に何かの装置が。あれこれと説明を受けたわゴムは「とりあえず四階まで上がるヨン」と言った。


    「分かりました。じゃあ、その…ええと、あなたは観客席の方へ行っておいてください。私が装置を使って上げるので……」

    「いいや、その必要はないヨン。ハックン!」


    わゴムがその名を呼ぶと、どこからともなくドロンと煙に紛れてオリガミハックンが現れた。


    「オヨビ デ ゴザルカ ワゴムドノ」

    「ここの装置を使って四階まで上げるんだヨン。アンタのスピードなら客席にすぐ来れるだろうし」

    「ショウチ」


    オリガミハックンが装置の方に近づき、わゴム達の様子を見ている。
    突然現れたオリガミハックンに驚いているのか、動かないキノピオに対してわゴムは下腕で頭を鷲掴み客席に下ろした。それを確認したオリガミハックンは装置を動かすと、ガタンと動き始めた客席へ素早い身のこなしで戻ってきた。

    四階まで上り、一通り確認を終えたわゴムは舞台の飾り付けの指示を始めた。オリガミ兵の数が少し足りない分は、縛り付けていたキノピオ達を数人解放して頭に輪ゴムを縛ってこき使った。

    やがてゴージャスな舞台が出来上がった。
    わゴムはその舞台の中心、階段先の壁に青い紙テープを固定させた。わゴムは満足そうにその舞台の出来を見て、「次は三階」と言った。しかし、使われていた従業員キノピオのうち一人が「あのう」と口を挟む。


    「何だヨン」

    「この劇場、一度上に登ったら一階に降りないとそれより下の階に行けないんですよね…」

    「……は?」


    面倒な仕様を今になって聞かされたわゴムは、あからさまに不機嫌な顔をし、睨まれたキノピオは怯えた様子で視線を泳がせた。
    大きなため息を吐いたわゴムはオリガミハックンに指示を出す。オリガミハックンは一階に降りるために装置を動かし、即座に観客席に戻った。
    観客席は少しだけ上昇したかと思うと、突然勢いよく下の階へ落ちていった。わゴムは驚いた顔、オリガミ兵は落ち着きのない動きをした。

    何事も無かったようにドスンと着地した客席。座席に縛られていなかったキノピオ達は少し遅れてからストンと落ちてきた。表情を強ばらせたままのわゴムは小さく文句を吐いた。


    「……この仕掛け作ったやつバカじゃないかヨン…」


    わゴムが体勢を立て直した時の事だった。観客席の扉外から『イヤ〜ン!』という…艶めかしい声が聞こえた。
    扉が開いて現れたのは、オリガミムーチョと…ピンク色のペラペラ。赤いリボンと大きな口、赤い背びれの付いた尻尾が特徴的。誰がどう見てもキノピオではないが…オリガミムーチョは何故ここに連れてきたのだろう。何か気に入る所でもあったのだろうか?



    「ヤダ〜!変なのに捕まっちゃったわァ〜ん!

    ……仕事でミスしちゃってメンタルも体もズッシリ落ち込んでた時に、足を滑らせて空から落ちたアタシ…。もうダメ、美人薄命ってこの事ね…って思って諦めてたその時!不思議な泉に触れて元気になったのよォ!ついでに息抜きとしてこのランドに遊びに来ただけなのにィ〜!

    どうしてこうなるのかしらァ…アタシがキレイだから〜!?」


    変なのが来た…とオリガミハックンは思いながらわゴムの方を見上げる。あんな変なのは直ぐに黙らせるだろうと思ったのだ。
    しかしわゴムの表情は今まで見た事ないくらいには至極真剣なもので、その目はさながら役者としての技量を見定める者のようだった。
    ピンク色の珍客は一人でベラベラと喋り続ける。その姿を見たオリガミハックンはどこかで見た気が…と目を細めた。


    「もォ〜!誰か、このカクカクした変なのからアタシを助けてくれるつよ〜いオトコは居ないのォ〜!?」


    そう言ったピンク色の珍客はキョロキョロと劇場の観客席を観察し、シラけたような顔をした。


    「何よォ、キノピオとカクカクした変なのと……あと…そこのデカい変なのしか居ないじゃなァい!デカいのはともかく、キノピオじゃアテにならないわねェん。
    どうせなら、つよ〜いオトコの代表格みたいな存在のマリオちゃんくらい居て欲しかったわァん」


    つまらなそうに口をすぼめるピンク色。そんな珍客にわゴムはスタスタと近づいた。ピンク色の珍客は近づいてきたわゴムを見上げ、「あらァ」と呟いた。


    「近くで見ると一層デカいし、それに…何かしらァ…なんて言うか…立体的?ねェ。
    で、アタシに何か用?アタシはただこのカクカクしたムーチョに捕まえられて、ここに来ただけよォ?」


    腕を組んでそっぽを向いているその姿は、キノピオとは全く違いわゴムへの恐怖心のようなものは感じられない。わゴムは少しの間相手を値踏みするように観察していたが、グニャリと半身を曲げて相手の方に上腕で指を差した。その動きに反応したピンク色はわゴムを再び見上げる。


    「アンタ、役者やってみないかヨン」

    「…………役者ァ?」


    そう語るわゴムの表情はどこか嬉しそうに見えた。ピンク色が「何の役よ」と聞き出すと、わゴムは下腕を使って懐から簡素な台本を取り出した。ブツブツとお互いがしばらく話し合ったかと思うと、「イイわねェ!」とピンク色の声が上がる。どうやら話はついたようだ。


    「三人のオトコに詰め寄られるオンナ役…アタシにピッタリじゃなァ〜い!?」

    「そうだろうヨン!ワタクシはどんな役でもそつなくこなせるけど、この役ばっかりはワタクシのキャラに余り合わないと思ってたんだよねぇ。アンタが来てくれて良かったヨ〜ン!」


    ヨホホホホ、ウフフフフと笑い合う二人。種族は違えど何かが近いもの同士、気が合うのかもしれない。
    わゴムは満足気な顔で舞台の方へと戻ってくる。あのピンク色はキャサリンというらしく、物珍しそうにオリガミムーチョをジロジロ観察していた。

    台本をバサリと手に叩きつけながら「そういえば」とわゴムは呟く。


    「司会を決めてなかったヨン。まあ…それは後にして、今は舞台のセッティングをするんだヨン。今頃、外の方も準備は出来てるだろうし」


    そう言ったわゴムはスタスタと舞台裏に入って行った。オリガミ兵はその後を追い、細かな指示を受ける。オリガミ兵の…否、演者及び裏方の司令者は忙しなく動き、今度は外へ出向き暫くして複数の小型ハリボテ兵を連れて来た。


    「ボサッとしてるんじゃないヨン!頭を締め付けられたくなきゃアンタらもキビキビ動くんだヨン!」


    そう言われた頭を縛られていたキノピオ達は慌てて舞台のセッティングに取り掛かった。オリガミ兵と協力してハリボテ兵にコスチュームを着せたりと、傍から見ればペラペラとオリガミが共存している平和な光景に見える。…頭を輪ゴムで縛られていなければ、だが。


    西部劇のセッティングを終えたのを確認したわゴムは「リハーサルするヨン」と言ってハリボテ兵達をそれぞれ舞台袖に引っ込ませた。わゴムは近くにいた緑キノピオに台本を渡す。どうやら緑キノピオがお試しで司会をやるようだ。

    最前列の中央に座り、リハーサル開始の掛け声と同時に上腕を一度大きく打ち鳴らす。緑キノピオが司会として台本を読み始めるが、わゴムの顔は早速不満そうな表情だった。

    一通り演じ終えた時、わゴムはスっと立ち上がり緑キノピオの方へ。舞台袖に連れていき、少しして帰ってきたのは簡素な台本を持ったわゴムだけだった。
    他のキノピオ達は、緑キノピオがどうなったのか気になったが、わゴムの雰囲気はピリついており到底気兼ねなく聞けるような感じではなかった。

    舞台から降りたわゴムは観客席にいるキノピオ達をジロジロと観察し始めた。そして一人の縛られているキノピオに近づき、輪ゴムを解きながら上腕で指を差し向け「アンタにするヨン」と言った。
    なぜ選ばれたのか分からない、と言いたげにしている青キノピオに対し、わゴムはその頭に輪ゴムをバッチンと縛り付ける。


    「あいてっ」

    「こんぐらいガマンしろヨン。さ、台本だヨン。アンタなら司会上手くいくと思うんだよね〜」


    何やらわゴムはそのキノピオに対して少々の期待をしている様子。ほかのキノピオと違いは全く分からないが、わゴムから見たそのキノピオは何か違うのかもしれない。
    頭を縛られたキノピオは大人しく席を離れ、舞台に上がる。わゴムが席に戻り、再びリハーサル開始の合図をし、キノピオが台本を読み始める。

    一通り演じ終えた時、わゴムは先程とは違い満足げだ。舞台に上がりハリボテ兵たちの演技にアレコレと指摘したり軽く褒めた後、司会キノピオの方へと近づいた。


    「やっぱりアイツより全然マシだったねぇ。次もよろしく頼むヨ〜ン」

    「あ、あの…何で私なんですか?」

    「あぁ」


    キノピオが恐る恐る、と言った様子でわゴムに問いかけると、わゴムは上腕を懐へ突っ込んでアメの袋を取り出した。それを見たキノピオは首を傾げていたが、不意にハッとして自分の服の内側を漁り始めた。
    その様子を見てわゴムはニヤリと口角を上げる。


    「やっぱり、こののど飴アンタのだったんだね。
    ここに連れてこられた時にアンタから落ちたのが見えたんだけど、喋りの仕事は喉が大事だもんね。オマケにアンタはほかのキノピオと違って…少しだけ服の着方が違う」


    そう言及するわゴム。観客席の端にいたオリガミハックンはじっくりと観察してみたが、ほかのキノピオと服のどこが違うのかさっぱり分からなかった。彼の観察力をもって細かな差異に気づけたのだろう。
    わゴムはのど飴をキノピオへ返し、オリガミハックンの方を見る。何も言わずに下腕で舞台袖を指して、装置を動かせと命じられたオリガミハックンは素早くその方へと向かう。

    揺れる観客席にスタスタと近づき次の階へ。次の階は路地を舞台とした演目で、ハリボテノコノコとまだ見ぬ敵…マリオ達がヒロイン役のキャサリンを狙ってバトルを繰り広げると言ったものだ。
    『マリオ』という人名を聞いたキノピオ達は大きな反応は示さずとも、いずれ彼はここに来るんだと希望を抱いた。


    「…まあシナリオに組み込んではいるけど、絶対来るとは限らないんだよねぇ。イロエンピツが倒しちゃったらそれまでだけど、その場合もちゃーんと対策済みだヨン。だから安心だヨ〜ン」


    ヨホホホホ、と笑うわゴム。キノピオ達は少し不安になったが、強い彼ならきっとその『イロエンピツ』という奴に勝ってここに訪れてくれるだろう。

    舞台のセッティング及びリハーサルを終え、次の階へ。キャサリンは舞台袖に引っ込み、いずれ来る本番に待機する。


    三階では舞台のセッティングを終えた後、働かされていたキノピオ達が再び席に座らされ、わゴムの号令でリハーサルを始める。
    ロイヤルヘイホー団と称したバレリーナコスチュームに身を包んだハリボテヘイホー達がエレガントな踊りを披露する。一通り終えた後、わゴムは大きく手を叩きロイヤルヘイホー団を舞台袖から引きずり出した。


    「そこの左から二番目と四番目、ターンのタイミングが他のやつより一秒ズレてたヨン!シッカリするんだヨン、もう一回最初から通しでリハやるヨン!」

    「……き、厳しいですね」

    「あったり前だヨン、集団は一人が少しズレたらそこから歪んでいくんだから。全ての動きが一秒一秒ピッタリ揃ってこそ、美しさが際立つんだヨン」


    真剣な表情で語るわゴム。隣の席で縛り付けられていたキノピオは「なるほど…」と納得の表情だ。
    幾度となくロイヤルヘイホー団はリハーサルを繰り返し、やっとわゴムからOKが出ると、ハリボテヘイホー達は舞台袖に引っ込んで行った。その内の一体は戻る途中転けていたがあればいいのか?

    装置を動かし四階まで上がった後、再びあの落下を行い客席は一階に降りた。しかし、わゴムは席から離れて四階の舞台に残っていた。


    「さて、あとは敵がここへ来る…もしくはイロエンピツが倒したって報告を待つだけだヨン。
    ハックン、ランドの入口に隠れて見張っとくんだヨン。何かあれば報告するんだヨ〜ン」

    「ショウチ」


    指示を受けたハックンは再びドロンと煙に紛れて姿を消す。
    一人残されたわゴムは舞台裏に移動して、何かの準備をし始めた。




    ──────────



    それから数時間後、寂れたOEDOランドの桟橋付近に船が現れた。塀に身を隠しているハックンは、モミジの葉っぱに身を隠してそれを覗き見た。


    「OEDOランド〜OEDOランドに到着だあよ〜。
    とっても楽しいショーと、とっても楽しいアトラクションで大人気のテーマパークだあよ〜。
    …でも、今日はなんかいつもより静かだあね。休みとかじゃあ無いと思うけんど…」


    そう言って船頭はOEDOランドの様子を伺うように笠を少し上げる。笠の下から覗く細い目はどこか心配そうだ。しかし、そんな船頭とは真逆の反応を示す者が一人。


    「ええぇ!?ちょっと…
    テーマパークなんて楽しそう!行ってみたーい!」


    黄色いオリガミ帽子の少女は後半の言葉が耳に入っていないのか、ウキウキな反応だ。船頭はその子供らしい反応を見て、抱いていた心の蟠りが解れたのかにこりと笑い「おじょうさんは元気だなぁ」と言った。
    船頭はランド内を指さした。その先にあるのは大きくて立派な建物。


    「ほ〜れ、あそこに見えるのがOEDOランド名物のお城だあ〜。
    あそこでは楽しいショーを定期的にやっとるよ〜」

    「へぇー!あっ!楽しいお城にカミテープが絡まってますわ!」

    「オリビアさん、楽しいショーとお城が混ざってるっすよ。どんだけ行きたいんすか」


    船の先頭に座っていた紺色の髪をした青年にそう言われた少女ことオリビアは、「そんな事ないですわ〜!」と否定する。しかし表情はニコニコとしており、とても行きたそうだ。
    青年は呆れたようにペラペラの半身を仰け反らせ、ふぅと息を吐いた。


    「でも、OEDOランドに行くかどうかを決めるのはアニキっすよ」

    「川下りはこのまま終点のかぜわたり谷まで続くだよ、どうするね?」


    アニキ、と呼ばれた人物は少し考えてかぜわたり谷まで行ってみる、と答えた。それを聞いたオリビアは露骨に悲しそうな顔をし、帽子もしょげている。


    「え〜!?
    OEDOランド行かないの!?
    OEDOランド……」


    しょんぼりしたオリビアと三人を乗せて船は終点に向けて再出発する。オリビアは小さく「OEDOランド…」と繰り返し呟いていた。その様子からしてよっぽど行きたかったようだ。
    しかし川を少し下った四人の目の前に広がったのは、青い紙テープが巻きついているせいで通れなくなっている水門。これでは先に進めない。


    「なんじゃこりゃ〜!これじゃかぜわたり谷にゃあ行けないだよ〜!」

    「あーっ!しかも黄色の紙テープまで向こうに続いてます!だったらやっぱり、青テープをなんとかしないと先に進めないかも!OEDOランドへ行くしかないですわ!ね!!」


    言い聞かせるように大きな声を上げるオリビア。アニキと呼ばれた人物はうんうんと頷き、青年はオリビアの反応にやれやれと言った様子で肩を竦めていた。

    オリガミハックンは報告のためにモミジの木から跳んで屋根の上を走り、大劇城へと向かって行った。



    ─────



    「ワゴムドノ キタ デ ゴザル」


    舞台裏で待機しているわゴムの背後に、音もなく現れたオリガミハックンはそう告げる。その方へ振り返ることも無くわゴムは「人数は」と問う。


    「サンニン デ ゴザル。オリガミ ノ オナゴ ト ペラペラ ノ オトコ フタリ デ ゴザル」

    「そう、ご苦労だヨン。引き続きアイツらの動向を見張るんだヨン。大劇城内に入って来たら改めてワタクシに報告、いいね?」

    「ショウチ」


    その言葉を最後にオリガミハックンは再び姿を消した。残されたわゴムは、ここには居ない誰かに向けるように呆れたような笑みを浮かべる。


    「仲間が増えてるかもしれないから備えとけ、とか言ってたけど……予言者かヨン、アイツ」


    思い浮かべているのは、赤の紙テープの守護担当であった男、イロエンピツ。
    よく頭が回る男という印象が強いのだが、堅苦しい訳でもなくて柔軟性もある。口上を提案した時もアイツは直ぐに「良いざんスね」と賛成してくれたし。
    パンチやハサミは真面目に聞いてなかったけど、少なくともあの金髪の方は聞いてないようで聞いてる男。気分さえノればきっとやるだろう。

    仲間が増えるかも、という話は『土ガミ神殿』でオリー様が戻ってくるまでの待機時間に、イロエンピツが可能性の話として言っていた事だ。


    『警戒するに越したことはないざんスよ』


    そう言っていたのを準備中にふと思い出したわゴムは、一応空席を三個用意していたのだ。まさか本当に仲間が一人増えているとは思っていなかったが。


    「……でもまあ、アイツの攻撃手段ミサイルのくせに、ペラペラに負けるなんて…情けないヨン。
    仕方ないからワタクシが仇をとってやるヨ〜ン、あの世でワタクシの快活劇を見て感動するといいヨン!」


    舞台の役者はあと少しで揃う。奴らが大劇城に入った瞬間こそがわゴムの思い描く『スペシャルショー』の幕開けとなる。




    ─────




    それからしばらくして、大劇城エントランスにハリボテクリボーが姿を現した。そのハリボテの中からするんと抜け落ちるようにペラペラとオリガミが出てくる。
    ペラペラはそのままむくりと起き上がり、オリガミはパタパタと形を変えてそれぞれ元の姿へ戻った。
    紺色の髪をした青年はにっこりと安心したような笑みを浮かべ、ハリボテクリボー?の方を見る。


    「いやあ、あんなにいっぱい敵がいる中通るのはハラハラしたけど、バレずにすんで良かったっす!
    …あれ、オリビアさんどうしたんすか?そっぽ向いたりして」

    「だってそれ見たらまたバカうけしちゃうから。マリオさん、それ早く仕舞って〜」


    そう言われたハリボテクリボーの被り物をしていたペラペラ…マリオは被り物を仕舞う。どうやらこの三人はハリボテクリボーのフリをして敵の目を欺きこの大劇城に侵入したようだ。


    「さてと…なんとか城には忍び込めたっすけど、キノピオのみんなはどこに囚われてるんすかね?」

    「紙テープも屋根の上みたいだけど、どこかに階段とかエレベーターとかないのかしら?」


    紺色の髪をした青年とオリビアはキョロキョロとエントランス内を観察しながら歩き始める。
    周りばかりを見ていたせいか、青年は柵に足が引っかかって転けそうになった。オリビアは慌ててその体を空中で引き止め、青年は床への顔面着地の難を逃れた。振り返って平然としている青年に対し、オリビアはピンと帽子を立ててご立腹だ。


    「もう!ボム平さん、ポケットに手を突っ込んだまま歩いたら危ないってモミジ山のロープウェイを降りた時からずーっと言ってるじゃないですか!」

    「すんませんオリビアさん、クセでつい。
    だってほら、オレの腕って本当に力入らないし。イガグリ谷で地面に頭がハマッた時も自力で抜けれなかったし、手出しててもほぼ意味無いんすよ…」

    「意味無くても危ないからダメですわ!」


    ボム平と呼ばれた青年はそう答えるが、オリビアは彼の心配をするが故にプンプン怒っている。気にしていないのかボム平は「まあまあ」と宥めるように声をかける。……ポケットに手を突っ込んだまま。

    一方マリオは二人を置いて、ほかの場所の観察をしていた。エントランスの受付にあるモニターには上演するショーの空席数と開演時刻が書かれており、空席は残りわずか。開演時刻はもうすぐ…と曖昧だ。
    壁には本日のプログラムや公演内容が書かれた紙が貼っているが、プログラムの方はすべての階層で『スペシャル』、公演内容は『特別公演 スペシャルショー』『作・ワタクシ 出演・みんな』とある。


    「作・ワタクシ?誰なんすかねこの人」


    マリオの背後にぬっと姿を現したボム平はそう呟く。オリビアは上手いこと言いくるめられたのか、受付にあるモニターを見て「開演時刻はもうすぐ!?」と一人ではしゃいでいる。
    何か変だが、青い紙テープがあるのだ。きっとイロエンピツの時のように紙テープを守る何者かがいて、そいつがスペシャルショーとやらの作者なのだろう。

    マリオとボム平が妙ちきりんな紙を眺めていると、オリビアが「ハッ!」と我に返って二人の方へ飛んで行った。


    「違いますわ!わたし達は青いショーを見に来たんじゃなくてスペシャル紙テープを…あれ?違う?」

    「オリビアさん、また混ざってるっす。でもこの大劇城、ざっと見たところ階段やエレベーターみたいなのは無いっすね。どうやって上がるんだろ」


    そうボム平が呟いて首を傾げていると、ピンポンパンポン♪とアナウンスを知らせる音がエントランスに響いた。


    《エ〜、OEDO大劇城にご来城の皆様。間もなく本日限りの特別公演、スペシャルショーが始まりますヨン。
    とっとと席にお着き下さいヨ〜ン!》


    プツンとアナウンスが途切れる。ボム平は再び首を傾げて「この声は?」と呟いた。どう聞いてもキノピオの声では無いし、何だか妙な喋り方だ。
    しかしオリビアはその妙な声に疑問を持つ様子はなく「この忙しい時に…」とブツブツ言っている。


    「スペシャルショーだなんて、なんて面白そうなの!?本当に困りますわ!行きましょマリオさん!ボム平さん!」

    「ぜんっぜん困ってなさそうっすね〜。
    まあどうやったら上に行けるかもわかんないし、スペシャルショーとやらを見てみますか」


    観客席の扉を開いてスイーっと滑るように入っていくオリビアと、その後を呑気に歩いて行くボム平。マリオもその後をすぐに追った。

    観客席に入ると、キノピオ達の後ろ姿が目に入りオリビアは「あれ!?」と声を上げる。


    「キノピオさんたち、みんな普通に座ってますわ!無事だったんだ〜!もしかして今日はみんなお仕事をお休みして、スペシャルショーを見に来たのかも?」

    「いやそれは…なくはないか。まあ、無事ならいいっすよね。オレらも安心してショーが見れるっす」


    二人がそう語っていると、再び小さくプツンという音と共にあの謎の声がアナウンスされる。


    《それでは最前列の特等席にお座りくださいヨ〜ン》


    「最前列の特等席!?わたし達の為に用意してるみたいですわ〜!」

    「…本当にオレたちの為に用意してるかもしれないっすよね。アニキたちが目指してる紙テープがここにあるんすから、敵も居ると思うんすけど」


    オリビアとマリオとボム平の三人は特等席…観客席の最前列で空いている中央三席へ座った。オリビアはショーの開演が待ちきれないのかはしゃいだ声で「ソワソワ」と言いながらソワソワしている。


    「オリビアさん、気持ちは分かりますけど落ち着いて。みんな静かにしてるっすよ?」

    「そう言えば、いつも賑やかなキノピオさんも大人しくしてますわね…」


    そう言って振り返ったオリビアは「え!?」と驚きの声を上げる。どうしたんだとマリオとボム平も振り返ると、そこには席に縛りつけられたキノピオ達が。会場が薄暗かったため気づけなかったようだ。


    「みんな椅子に縛られてるの!?ひどーい!どんなに楽しいショーでもこんなんじゃ台無しですわ!」

    「何だろうこれ……ロープ?いや、違う…輪っか?みたいっすね。確かに無理矢理見せられるショーなんて、あんまり楽しめなさそうっす」


    ピンポンパンポン♪と再びアナウンスを知らせる音が会場内に響く。それにつられて三人は視線を上に向ける。


    《ショーの上演について、お客様にお願いだヨ〜ン。
    飲食物の持ち込み、フラッシュ使用による撮影などの行為はショーの邪魔になるので禁止だヨン。
    それではスペシャルショーをごゆっくりお楽しみくださいヨォ〜ン!》


    アナウンスが終わると同時に会場内は更に暗くなり、スポットライトが舞台の端に現れた一人のキノピオを照らし出した。その頭には他のキノピオ達を拘束している物と同じであろう謎の輪っかが巻きついている。手に持っている紙やスポットライトが当てられていることから見るに、どうやら舞台の司会役のようだ。


    [乾いた風が吹きすさぶ、荒野のとある町。この静かな町の人々は、脅威に脅えて暮らしていた]


    その言葉へ続くように、カーテンが開かれる。舞台のセッティングから見るにテーマは西部劇のようだ。特等席の三人、そして縛られているキノピオ達もその舞台に見入っており、真剣にその内容を見聞きしていた。




    ───────



    一通りアナウンスを終えたわゴムはマイクのスイッチを切り、近くに置いてあった手製の簡易本をペラリと捲った。その内容はそれぞれの舞台でマリオが勝った時のパターン、負けた時のパターンが用意されているようだ。


    (舞台の途中で負けたりすればそれはそれで重畳。だけど、オリー様から聞いたようにこの国で英雄と讃えられているのなら、ワタクシの所まで上がって来て欲しいものだヨン……)


    わゴムはスっと立ち上がったかと思うと、身振り手振りを付けながらその場を右往左往しながら独白を始めた。誰に届ける訳でもない言葉は舞台の裏で反響する。


    「ワタクシのカンペキなシナリオ!それは!
    マリオ達が『OEDO大劇城』に訪れた時から始まってるんだヨン!

    ワタクシのアナウンスを聞いたヤツらは観客席へ向かい、第一層の物語『西部劇』を観覧する。

    乾いた風が吹きすさぶ、荒野のとある町、毎日のように現れるならず者。その脅威に怯える町の人々!
    今日もまた、町にはならず者のハリボテクリボーが訪れる。

    金目の物を出さなければ痛い目に合わせると脅された町の人々は、アイツを倒してくれる強い用心棒は居ないのか、と呟く。
    その時、観客席に二筋の光が!そう、用心棒とは…マリオの事!マリオは用心棒としてならず者を早撃ち勝負でバッタバッタと撃ち倒す。
    ……倒せなかった場合、別のシナリオになるけど。

    そして舞台で活躍を見せるマリオに対し、ワタクシは慌ててこう叫ぶ……」

    「ワゴムドノ マリオ ノ カチ デ ゴザル」


    独白を行っていたわゴムのすぐ側に、ドロンと姿を現したのはオリガミハックン。一階の舞台状況を知らせに来たようだ。それを聞いたわゴムはアナウンスマイクのスイッチをオンにして、吐き捨てるように叫んだ。


    《なんだ、これ!こんなのワタクシのシナリオと全然違うんだヨ〜ン!
    とっとと次のステージに来るヨン!今度はちゃんと楽しませてくれヨ〜ン!》


    流れるようにビシィッ!と上腕でスイッチを切ったわゴム。下腕で二階へ降りるよう指示されたオリガミハックンは、再び姿を消した。
    わゴムは再び独白を始めるが、その動きは先程よりも淑やかで、さながら思いを馳せる乙女と言ったところか。


    「第二層の物語、それはとある乙女を求め争う男達のラブロマンス&バトルストーリー!

    ストリートで一人佇む乙女、そこに訪れるのは二組のギャング。ギャングのボスは二人とも乙女に言いよるも、乙女は強いオトコでなければ付き合わない、と語る。
    強いオトコといえばもう一人…重いハンマーを振り回す腕力、高く跳ぶ脚力、そしてダンディなヒゲを有したオトコ…そう、マリオ。

    二筋のスポットライトが再び観客席のマリオを照らし出す。強いオトコとして呼び出されたマリオは、乙女を巡ったバトルをギャング達と繰り広げる。
    ギャングの下っ端を全員倒したマリオに対し、二人のボスが『誰が一番強いかハッキリさせよう』と勝負を仕掛け、三つ巴の乱闘に!

    二人のボスを倒し勝ち残ったマリオは乙女と抱き合い、乙女への愛が本物であった事を力で証明したんだヨ〜ン!
    ……負けたら別のシナリオになるけど。

    そして一番強いオトコはマリオだと証明されたワタクシは驚きながらこう叫ぶ……」

    「ワゴムドノ マリオ ガ イチバン デ ゴザル」


    再びわゴムの背後に現れたオリガミハックンは、二階の舞台状況を報告する。それを聞いたわゴムは頭に手を当て、困ったような表情を浮かべて千鳥足でマイクのスイッチをオンにし、困惑したように叫んだ。


    《オヨヨ〜ン!マリオが一番強い!?そんな茶番観たくもないヨン!
    次のステージでワタクシを満足させるんだヨ〜ン!》


    『ヨ〜ン』の辺りで振り上げていた上腕を下ろし、再びスイッチをオフにする。そして振り返ることなくわゴムはオリガミハックンに三階へ降りるように再度指示をし、またまた独白を始めた。
    次は何だかエレガントな…バレエのような動きだ。


    「第三層は今までとは違う、物語ではない舞台。優雅なロイヤルヘイホー団による、一糸乱れぬバレエステージだヨ〜ン。

    勿論ここでもマリオには参加してもらうヨン。アイツの踊りのスキルがどれほどのものかは知らないけれど、英雄と讃えられているんなら即興でダンスくらい出来るよねぇ?

    でもまあ、あんなに薄っぺらい体じゃ流石にハリボテを持ち上げるのは重すぎて無理かもね!」


    下の方から微かに聞こえていた美しいクラシックがギャリッという異質な音と共に途切れた。そして、その後に流れ始めたのは先程のクラシックのアレンジ…パンクバージョンと言ったところか。わゴムはその音楽に合わせてゆったりとした動きから機敏な動きへと変更し、華麗に踊り始めた。

    やがて音楽が止まると同時に、三度オリガミハックンが姿を現した。三階の舞台状況の報告の為だろうが、オリガミハックンが何かを言うよりも前にわゴムはマイクのスイッチをオンにして、予想外と言いたげなエレガントな仕草で三度台詞を叫ぶ。


    《ヨヨヨ〜ン!?
    ここまで来るなんて思ってなかったヨン!
    ヨォ〜〜し…さぁ、上がってくるヨ〜ン!》


    エレガントな仕草でスイッチを切ったわゴム。本日のスペシャル公演のフィナーレ、という司会の声を聞いたわゴムは登場の準備をする。


    「今までの舞台に登場した出演者が再度登場し、ワタクシのシナリオは最終章へ。

    最後の舞台、それはワタクシとマリオの一騎打ち。
    今の今まで主役ヅラして舞台で暴れ回っていたマリオに対し、シナリオ通りに行かなくて苦戦していたワタクシは遂にその姿を現し、直々にマリオの相手をしてやるんだヨ〜ン!
    そして…激闘の末、ワタクシが大勝利!オリー様から預かった紙テープも守れたワタクシは華麗なフィナーレを飾り、ワタクシの真のスペシャルショーの舞台は幕を閉じるんだヨン!

    ふふん、今までのシナリオの主役はマリオだけど、引き立て役に花を持たせるのもまたプロとしての仕事。この巨大なシナリオの真の主役はワタクシなんだヨン!」


    今のところ自分の考えていたシナリオ通りに物事が進んでおり、満足気にニコニコと笑っているわゴム。司会を務めるキノピオの[本日の主役、マリオさんの登場です!]という声を聞き届け、オリガミハックンに舞台装置を動かす準備をするよう指示を出す。
    今頃マリオは舞台に上がり、観客席へとアピールでもしているのだろう。紙テープもあるのだから妹様も共に居る可能性は高い。
    観客席のキノピオ達からはマリオを囃し立てる声が止まない。わゴムは息を吸い込んで、賑やかな声を掻き消すように大きく声を張って叫んだ。


    「違う!主役はマリオじゃなくて、このワタクシなんだヨォォ〜ン!」


    マリオを照らし出していた二筋のスポットライトが消滅し、舞台のライトアップが階段を上るように行われる。背後から聞こえた声に反応して、舞台に上っていたマリオとオリビアはその方を見る。

    舞台の最奥、下からリフトに乗って現れたのは四本腕に四本足を有した奇妙な姿の人物。ペラペラでもオリガミでもないその人物は、赤い紙テープの守護を担っていたイロエンピツと似通った服を着ている。恐らく、青い紙テープの守護者だろう。

    わゴムは美しい歌声と仕草で階段をゆっくりと降りていき、舞台のセットはそれに合わせるようキラキラと点滅している。
    マリオ達はこちらに近づいてくるわゴムから距離を取るため隅に移動し、その登場を見届けていた。
    スポットライトはわゴムの動きに合わせて色を変え、くるりと回転して観客席へのアピールをする動きを最後に消滅、舞台全体を照らし出すライトが再び点灯した。

    滑らかにマリオたちの方を向いたわゴム。その表情は誇らしげで、余裕たっぷりといったところだ。マリオは敵に警戒した様子を見せるが、オリビアは何も言わず突然現れた主役を名乗る存在の顔をジッと眺めている。その視線に対してわゴムは上腕の左手を己の頬へ添えて、困ったような嬉しそうな表情を浮かべた。


    「おやおや、どうしたんだヨン?ワタクシの顔をじっくり見つめたりして。まあ仕方ないよね、ワタクシって魅力的だから…」

    「…ハッ!ついつい登場の仕方がかっこよくて見入っちゃいましたわ!
    って、そんな事より!あなたが主役ですって!?何言ってるんですか!主役はどう考えても舞台で大活躍したマリオさんですわよ!最後になって急に出てきたくせに自分が主役だなんて言い張るなんて…おかしいですわ!」

    「お黙り!!」


    強く語るオリビアの言葉を大人しく聞いていたわゴムは、組んでいた下腕の右手から輪ゴムを出現させてオリビアに向けてそれを撃った。オリビアは思わず目を閉じるが、それは彼女には当たらなかったようで「…あれ?痛くない?」と言いながらゆっくり目を開いた。
    わゴムの方を見ると下腕の左手が床の方を指さしている。その方に視線を移すと、黄色のオリガミ帽子が落ちていた。どうやら狙い撃たれたのは帽子だったらしく、すぐ近くに輪ゴムも落ちていた。


    「いくらオリー様に手加減はするなと言われても、女の子の顔にキズなんて付けられないヨ〜ン。女の子は顔と髪が命だからね!勿論、ワタクシも!」


    そう語りながらクセのある大きくカーブした青い髪を下腕でサラリと手ぐしにかけるわゴム。客席のキノピオ達からは「女の人だったの?」という疑問の声が小さく出ている。
    オリビアは帽子と不思議な輪っかを拾い上げ、輪っかと観客席を見比べ、「ハッ!」と何かに気づいた声を上げる。


    「あなたが飛ばしてきたこのゴムゴムとしたヒモ…そしてキノピオさん達を縛り付けてるビヨビヨした輪っか…もしかして、キノピオさんを縛り付けたのはあなたの仕業なの!?

    ハッ!そういえばこの人の声どこかで聞いた覚えがあると思ったら、OEDO大劇城に来た時から時々聞いたアナウンスの声ですわ!あの声もヨンヨン言ってましたし間違いないですわね!

    ハッ!っていうことはつまり…マリオさんを舞台の早撃ち勝負で危ない目に合わせたり、ギャングとキケンなバトルをさせたり、ステキなダンスをさせたのも…全部あなたの仕組んだ事なの!!?

    ハッ!そもそも兄上の名前を出してますし、よく見たらイロエンピツとお洋服が似てますわ!さてはあなたもブンボー軍団の一人ですわね!!??

    マリオさん気をつけて!何か仕掛けてくるかも!」


    一度も詰まったり噛むことなく長ゼリフを言い切ったオリビアに対し、わゴムは感心した様子だ。上腕は左右に広げ、見くびっていたと言いたげに肩を竦めており、下腕はハッキリと興味を向けていると伝えるように顎に手を添えていた。


    「ハァ〜ン、そんな長ゼリフ噛まずによく言えたね。妹様、いい役者になれるかもヨン?
    でも、今更気づいても遅すぎだヨ〜ン」


    そう語るわゴムは上腕の左手で指を鳴らす。瞬間、舞台のライトが真っ暗になり何も見えなくなった。
    マリオとオリビアは真っ暗な舞台に警戒してお互い離れる事無く辺りを見回している。
    不意にスポットライトを照らす音が聞こえ、その方を見るとわゴムが三つのスポットライトで照らし出されていた。


    「ワタクシによるワタクシのためのスペシャルショーのラストステージ!
    それは!ワタクシと!マリオの!この舞台、この国の未来をかけたバトルだヨ〜ン!」


    名を呼ばれたタイミングでマリオの方を一筋のスポットライトが照らし出す。スポットライトのみが出演者達を照らす暗闇の中、わゴムはマリオ達に向けて綺麗なお辞儀をした。


    「ワタクシはオリー様に勤仕するブンボー軍団の一人、『わゴム』。
    全ては未来のオリガミ王国のため、そしてワタクシの舞台で華麗なフィナーレを迎えるため!
    OEDO大劇城を舞台とした一つの物語の主役であるこのワタクシが!直々にアンタたちに引導を渡してやるヨッホォ〜ン!」


    上下の腕でマリオ達に手を差し伸べるようなポージングをしたわゴム。それと同時にステージのライトアップが再び行われると、舞台の様子はガラリと変化していた。
    リングの中心に陣取るわゴム、いつの間にか現れていたリングの周りを囲う観客のキノピオ達。オリビアは辺りを見回し、気を引きしめる。


    「イロエンピツの時もこんな感じでしたね。よし、バトル開始ですわ!舞台の主役はマリオさんだってこと、教えてあげましょう!」

    「ふん、三つの舞台での主役はアンタたちに譲ってやったけど…真の主役はワタクシなんだヨン。教えてやるのはこっちの方だヨ〜ン!
    さぁ〜て、教えるついでにワタクシのゴムはこんな事が出来るという事を見せてやるヨン!」


    そう言ったわゴムは四本腕の手中に輪ゴムを生成し、リングの矢印パネルを何個か弾き飛ばした。ただ弾き飛ばすだけでなく、わゴムから発射されたゴムは不思議な三角形のようなカタチでマスに留まっている。マリオとオリビアは驚いた様子でそれを見つめた。


    「えぇーっ!?パネルを弾いちゃったの?ズルいですわ!
    リングのマスに輪ゴムが散らかりっぱなし!すごく気になりますわ。
    あっ!もしかしたらイロエンピツのロックオンみたいに、あのマスを通ると何か良くないことがあるのかも!マリオさん、気をつけて!」


    その忠告を聞きながらマリオはリングを操作する。あのゴムの設置されているマスを通るとどうなるのか、それは一度試してみない限りは分からない。マリオはゴムのあるマスを避ける事をなるべく考慮しつつわゴムに近づいて攻撃するためのルートを作った。

    ルートを進んでいくマリオがわゴムの設置した妙なゴムのマスを通った時。ゴムがバチンと弾けてマリオをリングの内側へと押し出した。
    オマケにそれは普通の矢印パネルの性質である「一度踏んだらその矢印の方向に進み続ける」というものとは違い、「一度踏んだらリングの内側に強制移動&直前まで進んでいた左右どちらかの方向に進む」というもの。
    真っ直ぐ進んで攻撃するように決めていたルートだったが、マスにあったゴムのせいでルートがめちゃくちゃだ。マリオはリングの中心をぐるりと一周するだけで、何もアクションを起こせなかった。

    その姿が滑稽なのか、わゴムはリングの中心でヨホホホホホと高笑いを上げた。


    「残念だったねぇ!ワタクシのゴムがリングにある限り、思惑通りのルートが作れなくなることは必然。
    せいぜいその薄っぺらいアタマで必死にルートを考えるんだヨ〜ン!

    さてさて、戻ってくるんだヨ〜ン」


    わゴムが指揮をするように上腕を揺らすと、床に散らばっていたゴム達がムクリと起き上がる。「えっ!」というオリビアの困惑したような声をよそに、ゴム達はわゴムの方へとにじり寄って服の内側へと戻って行ったが、マリオが弾かれたゴムはグシャグシャに固まっていて回収されなかった。


    「ゴム鉄砲を撃っちゃうヨォ〜ン!
    今回は西部劇の早撃ち勝負みたいにはならないヨン。なぜならマリオはあの時と違って鉄砲を持ってないからね!」


    下腕から連続で輪ゴムが射出されるも、マリオは上手くガードしてダメージを軽減した。リングの外へ戻って行ったのを確認したわゴムは再びリングにある矢印パネルを何個か弾き飛ばし、マスをゴムに占拠させる。


    「あのマスにあるゴム、オジャマだけどずっと残る訳じゃないから安心ですわね!…戻って行くとこはちょっとキモチワルかったですけど。
    わたしはルートを考えるの苦手なので、マリオさんにお任せします!何かご用があったら呼んでくださいね!応援してますから!」


    そう言ってオリビアはマリオの傍で「フレーフレー!」と言いながら応援を始めた。観客席から見ていたボム平は、自分の事ではないにしろなんだかちょっと恥ずかしくなっていた。

    マスのゴムはダメージを受ける訳では無いし、上手く使う事が出来れば厄介な障害にはならない。マリオはいつもより熟考しながらルートを決めた。
    今回は上手くアクションパネルに止まることが出来、マリオに攻撃チャンスが訪れる。オリビアは相変わらず腕を動かしながら「やっちゃえー!」と応援中だ。

    マリオはぐっと足に力を込め、飛び上がった。上腕でガードするわゴムにジャンプ攻撃を四度繰り返すと、わゴムの足元にゴムがバラバラと散らばった。そのゴム達はウネウネ動いていてとても気持ち悪く、観客席から小さく悲鳴や「気持ち悪い」「怖い」という感想がポツポツ出ている。
    そんな声を気にしていないのか、わゴムは余裕そうな表情を見せている。


    「いやー!グンニャリグニャグニャ気持ち悪いですわー!何あれー!」

    「そんな攻撃、ワタクシのボディには効かないヨン♪」


    わゴムがリングに散らばったゴムを回収するため、再び上腕をゆらゆらと動かす。マリオの攻撃で散らばったゴムたちは服の内側へと消えていく。その光景がおぞましいのか観客席からは相変わらず悲鳴が。
    …一瞬、余裕たっぷりだったわゴムの表情が渋くなる。流石に悲鳴ばかりで頭にきたのだろうが、直ぐにその表情は元に戻った。


    「もう一度ゴム鉄砲を撃っちゃうヨォ〜ン!
    ちなみにワタクシは二番煎じなんてしないヨン、アクションに常々の新鮮さを!食らうがいいヨン!!」


    再びゴム鉄砲がマリオに向けて撃たれる。しかし今回は上腕も使っており、その上腕の標的はマリオではなくオリビアの方に見えた。それに気づいたマリオは危険を伝えなければ、と思わず振り返ってしまう。


    「正義感が強いのはいい事だヨン?だけどねぇ、バトル中よそ見なんてダメダメだヨ〜ン!!
    今のワタクシの狙いはアンタだけだからね!!」


    ニヤリと怪しく笑ったわゴムの上腕から発射されたゴムは、不思議な放物線を描きながらマリオの方へと飛んで行く。そして、飛ばされたゴム達はマリオを容赦なく縛り付けた。
    縛られて動けなくなったマリオに近づいたわゴムは、下腕で体を縛り付けているゴムをぐいんと大きく引っ張った。マリオは締め付けられて苦しそうな表情を見せる。


    「マリオさんに何するの!?手を離して!」

    「承知致しましたヨン、妹様の仰せの通りに♪」


    言われた通りわゴムが手を離すと、バッチーンと大きな音と共にマリオにダメージが与えられ、そのままリング外へ。追い出されたマリオは、その弾かれる勢いのせいで思わず尻もちをついた。


    「わー!やっぱり離しちゃダメですわー!」


    そんなこと言っても後の祭りだ。オリビアは急いでマリオの方へと飛んでいく。心配するオリビアに対し、マリオは平気だと頷いて答えた。
    リングの中心に視線を向けると、わゴムはまたまた先程と同じように矢印パネルを弾き飛ばしている。それを見つめていたオリビアは「うーん」と悩ましげな声を上げる。


    「マリオさんが攻撃した時、体からボロボロ出てきた輪ゴムが無くなれば、パネルを弾かれる事も無くなりそうだけど…。普通の攻撃じゃ直ぐに全部わゴムのお洋服の中に戻って行ってましたわね。何かいい『手』はないの?
    あ、お洋服といえば。わゴムとイロエンピツって同じような格好だと思ってましたけど、よく見たら結構違いますわよね!黒いシャツに胸元の白いフリフリ…そしてとっても目立つ『黄色いベルト』!わゴムってオシャレさんなのかしら?」


    ベルト、という単語に何か気づいたのかマリオは考える仕草をする。そして再びゴムによって強制移動される事を考慮しながら、マリオはルートを決めた。ONパネルを踏んでカミの手魔法陣を使うつもりらしく、オリビアと一緒に進んでいく。
    ルートが決まるまでわゴムは暇だったのか、リングの中心で流れる音楽に合わせて小さく腕を動かしている。その体がぐい、と横に引っ張られた事に気づいたわゴムはその方へと視線を向ける。

    そこに居たのはカミの手を発動しているマリオとオリビア。マリオのカミの手はわゴムのとっても目立つ『黄色いベルト』…もとい、巨大な輪ゴムを掴んでビヨーンと引っ張っていた。


    「な、何するつもりだヨン!?離すんだヨ〜ン!」

    「分かりました!離しますねー!」


    オリビアの声に合わせてマリオはデカゴムを離すと、バッチーンという大きな音と共にわゴムは大きくよろめいたが、四本の足でなんとか踏みとどまった。
    弾かれた衝撃でその体から輪ゴムがリングの外へとボロボロと飛んで行く。こうなってしまえば、ゴムの回収は出来ないだろう。


    「イッテ〜ッ!ゴムを引っ張って離すなんて、ヒドいヨヨ〜ン…」


    悲しげに喚くわゴムに対し、観客席のキノピオ達やボム平は「お前が言うな」と言いたげな表情で見つめていた。今回もわゴムはリング上のゴムを呼び戻すが、舞台から追い出された大量のゴム達は回収されなかった。
    わゴムの攻撃ターンでは放物線のゴム鉄砲と通常のゴム鉄砲を交互に入り混じらせた、ガードが難しそうな技を使うも、マリオが上手くガードしたことにより縛られることは無かった。わゴムが感心するようにリングの外に行ったマリオへ言葉をかける。


    「まあ同じ展開なんてお客様も見たくないよね、あくびが出るヨン。アンタ分かってるじゃないかヨン、敵ながらナイスガードだヨ〜ン」

    「え?でもわゴムはゴム鉄砲はまだしも、リングのパネルを弾き飛ばすのは最初からずっと繰り返し…」

    「お黙りッ!!!」


    リング上のパネルを弾いていたわゴムは、半ギレ気味で浮かんでいるオリビアの脚を狙い撃った。オリビアは空中で「いったーい!」と撃たれた箇所を押さえて喚いた。


    「そういう事は言うもんじゃないヨン!分かったかヨン!?次似たようなこと言ったら腕を撃つヨン!」


    少しイラついた表情でそう叫ぶわゴムだが、狙いやすい頭ではなく脚を狙ったあたり、最初に言ったように顔を傷つける気は無いようだ。オリビアは足をさすりながら「わかりましたわー!」と声を上げつつマリオの方へと近づいて行った。マリオは「大丈夫?」と言いたげに首を傾げるも、オリビアは「平気ですわ!」と元気に返した。


    「ところで、さっきカミの手を使った時わゴムが『イッテ〜ッ!』って言ってたじゃないですか!あれはダメージが与えられた証拠ですわね!これからもカミの手でどんどん攻撃しちゃいましょう!

    …そういえば、さっきよりわゴムが痩せてません?そう思うのわたしだけ?」


    そう言われたマリオはわゴムの体を観察した。確かに先程と比べると、わゴムの腰あたりがほっそりしているような。
    二人からの視線に気づいたわゴムは仕方ないなと言いたげな表情を浮かべ、華麗なポーズをとった。マリオは関心なさげにリング操作を始めるが、わゴムはずっと色んなポーズを取っている。自分の事がスルーされていることに気づいているのか、いないのか。気づいていたとしても彼の性格を考えるに気にしなさそうだが。

    ルートを決めて再びわゴムの元へ向かったマリオとオリビアは、カミの手魔法陣を使用しデカゴムを引っ張り、再びバチンとわゴムの体を弾いてリングの外へ多くのゴムが飛び出して行った。
    先程よりも大きくよろめいたわゴム。下腕はデカゴムを押さえており、その表情には焦りの色が見える。


    「ぐぐ、なかなかやるじゃないかヨン…それならワタクシもこれを使わざるを得ないね」


    空いている上腕でゴム鉄砲とは違う構えを取ったわゴムは、ギリギリとゴムを引っ張って力を溜めている。溜め込んでいたせいで震えていた腕が一瞬止まると、勢い良くマリオの方へゴムが叩きつけられ、その勢いでリング外へ追い出されるマリオ。
    わゴムの手中には先程のゴムが残っており、ゴム鉄砲とは違いこの攻撃手段は輪ゴムを使い捨てにしないようだ。

    わゴムは何度目かのパネル弾きを行おうとしたようだが、何か迷いがあるように視線を泳がせた後にマリオ達の方を見た。どうやらパネル弾きはやらないらしい。


    「さっきのゴムパッチン痛そうでしたわ…でも、わゴムもパネルを弾き飛ばす余裕が無いみたい。あとちょっとで倒せるかも?
    わゴムの言うように同じ展開を繰り返すのはあくびが出ちゃいますものね!次のカミの手でキメちゃいましょう!」


    オリビアがそう言うと、マリオは頷いてリング操作を開始した。 お邪魔なゴムが無い分ルートは決めやすかったようで、今までよりも早く作り終えた。
    そしてマリオは三度目の…最後の一撃をわゴムに与えた。わゴムはリング外へ吹き飛ぶことは無かったものの、地に足付けて踏ん張ることも出来なかったようで空中で二回ほど回りながらその場に倒れ込んでしまった。


    「…や、やった?倒し…た、んですかね?わーい!」


    動かないわゴムに対して喜ぶオリビア。しかし、その背後ではゆらりとわゴムの体が動いていた。マリオが慌てて伝えようとすると、観客席から大きな声が舞台へ鋭く届いた。


    「オリビアさん、まだそいつ倒れてないっす!!」

    「えっ!?」


    ボム平の声に反応して振り返るオリビア。その背後ではデカゴムを上腕で持っているわゴムが。
    わゴムの本当の体は下腕から下が一切無い歪なもので、足がないため器用に下腕を使って殆どない体を支えている。前髪も崩れたためかその表情に余裕などなく完全にキレていた。
    しかしその顔に傷らしきものは一切ない。空中でバラバラになった時、ちゃっかり顔面着地しないように腕を使っていたのだろう。


    「よくも…よくもワタクシのカラダを…!!よくもワタクシの晴れ舞台でこんな…こんな惨めな本当の姿を晒し出してくれたね!!もう許さないんだヨ〜ン!!
    チョー強力なパッチンをお見舞いしてやるヨォ〜ン!!!」


    上腕でデカゴムを構え、技を繰り出すわゴム。巻き込まれそうになったオリビアは急いでリングの外へと逃げたが、マリオは逃げずに受け切った。逃げ出したオリビアを巻き込まないためだろうか、その意図を読み取ったわゴムは相変わらずイライラした様子だ。


    「ふん!こんな状況でもヒーロー気取りかヨン!?妹様を守ろうとするその姿勢は素晴らしいヨン。だけどねぇ……ワタクシのパッチンはアンタみたいに薄っぺらい紙ッペラにはヨォ〜く堪えるだろうヨ〜ン!!
    もう一、二発は食らわせて、アンタをグシャグシャの紙くずにして『タンブルウィード』として使ってやるヨッホォ〜ン!!!」


    その言葉の通りで、マリオの表情からはかなりの疲労が伺える。あのデカゴムパッチンは相当ダメージが大きいようだ。
    オリビアは困った様子でマリオに声をかけた。


    「あの、マリオさん…わたしのためにごめんなさい…」


    しょぼんとした様子でそう言うオリビアだが、マリオは首を横に振って「気にしないで」と言いたげだ。そしてわゴムの方に向き直り、強気な姿勢。まだまだやれるようだ。
    そんな姿を見たオリビアは「よし!」と気合いを入れる声を上げた。


    「わゴムは体を壊された事で物凄く怒ってますけど、もうあのデッカ〜いゴムを使った攻撃しか出来ないみたいです!
    やっぱり今まで通りカミの手で掴んで…リングの外へ弾き飛ばします?っていうか、それしかないかも。わゴムの方を狙っても、あのグニャグニャした黄色いゴムで防御されたら効かなさそうですし。

    …ところでマリオさん、『たんぶるうぃーど』ってなに?」


    『タンブルウィード』とは西部劇などでよく見る転がっている草の玉のことだが、マリオは知らないらしく首を傾げてリング操作を開始した。リング上に配置されたハートを回収して体力を回復しつつ、カミの手パネルへ。


    「カミの手魔法陣、発動です!やっちゃって、マリオさん!」

    「今まで散々掴ませてやってたけど、今回はそうは行かないヨン!ほーらほら!捕まえられるもんなら捕まえてみろヨォ〜ン!!!」


    カミの手を発動したマリオに対し、わゴムはデカゴムにしがみついてビヨンビヨンとリング上を跳ね回り始めた。
    カミの手は左へ行ったり右へ行ったり、空を掴んだりを繰り返す。ガードのできない状況で時々わゴムから攻撃を受けたり、このままでは決着がつかない。


    「あー!ビヨンビヨンうっとうしいですわー!!」


    目をピンと閉じてムカムカしている様子のオリビアに対し、マリオはじっと相手の様子を見ていた。わゴムは時々疲れているのか動きが鈍っており、時間が経つにつれてその頻度が多くなっている。


    (まずい…オリー様からいただいた魔力が尽きそうだヨン…これじゃ長時間激しく動けそうにないヨン…
    さっさとくたばれヨン…この…紙ッペラ…!)


    遂に疲労が溜まってきたわゴムはリング上で止まってぜえぜえと息を吐いた。その隙をマリオが見逃すはずもなく、しっかりとチャンスを掴む。
    そしてその黄色い巨大な輪ゴムごと、わゴムをリングに連続で叩きつけると、疲弊していたわゴムにはダメ押しだったらしく目を回していた。が、下腕はしっかりとデカゴムを握りしめており、このままデカゴムを弾き飛ばせば一緒にリングの外へ飛ばせそうだ。

    先程までムカムカしていたオリビアはまだムカムカしているのか、目をピンと閉じたまま「やっちゃって!」とマリオに言った。


    「このまま場外ホームラン、ですわ!」


    引き絞り、わゴムごとデカゴムをリングの外へと弾き飛ばす。吹っ飛んで行ったわゴムが壁に衝突すると同時に舞台の照明が消えた。
    少しして、暗闇の舞台でガサゴソと何かの音が。その方をマリオとオリビアが見るとスポットライトが一筋、その音の正体を照らし出した。


    「オヨヨヨ…こんな、こんなハズでは…
    ううう…悔しい…こんな悲劇で幕を閉じるなんて…
    おお、カミよ!それでもあなたはペラペラに味方するのか!
    このワタクシこそが…マリオを倒し…
    華麗に…フィナーレを…飾りた…かった…ヨン」


    そう独白したわゴムの姿勢が崩れ落ちる。先程までの怒りを感じさせない、その悲しみの篭った演技を最後にわゴムの体は強い光に包まれて…

    爆発と共にその姿を消した。


    マリオは消えた役者を讃えるための拍手を送る。キノピオ達を縛り付けていた輪ゴムたちも全てバラバラと弾け飛んで消え、開放されたキノピオ達は嬉しそうだ。
    だが、オリビアはどこか寂しそうな顔をしていた。


    「イロエンピツと違って爆発範囲が大きくなかったですわ。もしかしてこれが普通なのかしら。
    でも、何だかちょっと悲しいです。わゴムは酷いことをしましたけど、舞台はとっても楽しかったですから…」


    それを聞いたマリオはこくりと頷く。彼の舞台は危険な目に合わされたものの、マリオにとっても楽しめたようだ。
    オリビアは少しの間俯いていたが、首を横に振って顔を上げた。その表情はとてもにこやかだ。


    「素敵な舞台で勝利を収めたわたし達がしょんぼりするのは相応しくないですわね!あ、カミの手魔法陣がいつの間にか紙テープの元に出てきてます!壊しちゃいましょ〜!」


    そう言ってカミの手魔法陣にピューンと近づくオリビアと、その後を追うマリオ。
    観客席でバトルを見ていたキノピオ達はマリオを褒め讃える言葉を口々に言ったり、舞台の何が面白かったかを話し合ったりしていたが、一人だけがぼうっとわゴムが居た場所を見つめていた。


    「…………爆発…」


    ボム平はそう呟いて、頭に手を当て目を閉じる。自分が失った記憶の事を何か思い出せそうで、思い出せない。彼の頭の中で出かかっている答えは何かが足りないのかハッキリとしない。


    「ボム平さん、どうしたの?」


    一人渋い顔をしているボム平に心配した様子でオリビアが声をかける。目を開いて顔を上げると、舞台の上にあった青い紙テープは無くなっていた。どうやらマリオ達のやるべき事は終わったようだ。ボム平は「や、何でもないっす」と答えた。


    「それにしてもお二人ともお疲れ様っす、すげー良かったっすよ!
    オレなんかただ楽しんでただけで、なんかすいません」

    「えぇ〜?謝らないでくださいよ〜!
    だってわたしは役者さんですもの!楽しんでもらえて何よりですわヨ〜ン!」

    「……わゴムの影響受けてるっすよ、語尾」


    呆れた様子でそう指摘するボム平に対し、ニコニコと笑顔を返すオリビア。司会のキノピオが「マリオさんたち!」と声をかけ、二人はその方を見た。


    「そろそろ一階に降りますよ〜!危ないのでしっかり席に着いてくださいね!
    それでは…心の準備をお願いします!」


    その声を最後に観客席は少し上ったかと思うと、一気に下へと落ちていった。マリオやボム平、オリビアの三人は驚いたままその落下に身を任せた。

    一階に落ちた観客席。遅れてストンと落ちる観客達。キノピオ達は嬉しそうに大劇城から出ていっもた。ボム平は顔色を悪くしながら「誰だよこの仕掛け作ったやつ…」と小さく悪態をついていた。
    しかしオリビアはご満悦な表情で「楽しかったですわ!」と喜んでいる。


    「さーて、ブンボー軍団も倒したし、青の紙テープも壊したし!OEDOランドに戻りましょー!」


    ご機嫌な様子でピューンと出口に向かっていくオリビア。マリオもその後を追うが、ピタリと足を止めてボム平の方を見る。ボム平も付いてきているがなんだか気分が少し悪そうだ。
    視線に気づいたボム平は力なく笑みを浮かべた。


    「…あ、大丈夫っす。ちょっと腹の辺りがフワッとしただけなんで。少し経てば大丈夫っすよ」


    その言葉を聞いたマリオはボム平の足取りに合わせて、スピードを落として出口まで一緒に歩いてくれた。ゆっくり歩いていたボム平も、出口に辿り着く頃には元気を取り戻していた。
    城門前で待っていたオリビアは「なんだか外が騒がしいですわ!」とニコニコしている。きっと助けたキノピオ達がワイワイやっているのだろう。


    マリオを先頭に、三人はOEDO大劇城を後にした。

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