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    だみだんだり

    中身が全く無い日記を2020年12月19日から描いていました(過去形)
    【2021年3月31日】タグを付けました[ギャレツのクソ日記]
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    だみだんだり

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    警告:オリビア、船乗り、ピオ、ブンボー軍団擬人化(三回目)。100%妄言。ブ軍の容姿はポイピクである程度確認できます、服に統一感のある奴らです。

    内容:ウナバラタワーで待機しているセロハンテープの妄想話。ハサミもいるよ。

    改変かなり多い。二形態あるせいでバトルが長い。

    大海原の悪辣者ムシブロ火口の頂上に鎮座するピーチ城。それに巻きついている紙テープの一つを辿ると、その先にあるのはとても広い『大海原』。
    様々な形状の島が点在しており、その島々には建物やバトルリング、不思議な石像……そして天を貫かんとする程の巨塔がある。

    大海原の北東をずっと進んだ先に聳える巨大な塔、その名もズバリ『ウナバラタワー』。
    霧に包まれていたその塔の最上階にいた何者かは、突然大海原全体を襲ってきた強風に頭を押さえていた。


    「うお…なんだこの風……ッ!頭が飛ぶ!!やべぇ帽子飛んだ!!」


    少しして強風が収まり霧が晴れる。乱れた前髪を整えているのは、紫色の縁に黄色いレンズのゴーグルを着け、長い紫の髪を後ろで一つに纏めている男。
    満足が行く髪型に戻ったのか、男は前髪をいじるのをやめた。そして後ろを振り返り、ため息を吐く。


    「………オレっちの帽子…」


    先程の強風で被っていた帽子が吹き飛ばされてしまった。ウナバラタワーの周囲には海しかないが、陸も一応ある。
    風の吹いて行った方向から下を見下ろすが、周辺にはそれらしきものは見当たらず、オリガミプロペラヘイホーが数体巡回しているだけ。男はじっくりと確認もせず素早く身を戻す。
    高いところから下を見るのは…正直に言うと怖い。降りるのも面倒だし、帽子のことは諦めるしかない。そう思って元いた場所へ戻ろうとした時、男の頭に何か降ってきた。手に取ってそれを確認すると、それは先程吹き飛ばされたはずの帽子だった。

    帽子が空から降ってきた。しかし風の流れからして上から落ちてくるのはおかしい。プロペラヘイホーが取ってくれたのかと思い辺りを見回すが、その姿は見当たらない。塔の下の方をちらりと確認してもその数は減っていない。

    では、何故帽子は空から降ってきたのか?意味がわからず男は少し顔を歪ませた。その時──


    「拾ってあげたのにお礼もなし?」

    「ウワァァァ!!!!??!?」


    背後から突然聞こえた声に酷く驚いた男は、その場で少し飛び上がり身を縮こませながら振り返った。しかし、誰もいない…と思ったら視界の下方に緑色の何かが映り込んでいる。視線を落とすと、そこに居たのは大きな赤い目が特徴的な小柄な少年だった。前髪はセンター分けで、髪は後ろで二つに分けて括っている。が、毛先にくせがあるのか髪の束は爆発したような形になっている。

    突然大きな声を出されたにも関わらず、少年はぎょろりとした目のまま平然とした微笑み顔でじっとこちらの方を見上げている。
    ゴーグル男はこの塔に少年が居ることに対して多くの疑問が浮かんだらしく、畳み掛けるように少年へと問いかけた。


    「……お、おま、ハサミ!?なんでここにいんだよ!城は!?ってか紙テープはどうしたんだよ!!オリー様に怒られんぞ!?」

    「霧晴れたねー」

    「聞けよ!!!!」


    多くの問いに答えることなく少年…もといハサミは怒鳴られたというのに我関せずといった様子で辺りを見回している。ハサミはとても遅い足取りで塔の淵に移動して下を覗き「わーこわーい」と心にもなさそうな声色で言った。
    ゴーグル男は無視された事に苛立っているのか、腕を組んだまま顔を顰めて再び声をかける。


    「おいお前……」

    「もー、キミっていっつも怒ってるよね。
    『オマエには怒る以外の感情がねーのか?それともセロハンテープってみんなそうなのか?あーん?』ってパンチなら言うよ?
    もし今も居たら、の話だけど」


    パンチの声真似をしてそう語るハサミに対して、ゴーグル男ことセロハンテープはただでさえ苛立ちで歪んでいる顔を更に歪めた。しかしその後の言葉を聞いて、眉間には皺を寄せたままだが、口元に出ていた怒りは消えたようだ。


    「今も居たら、って…」

    「あ、そっか。さっきまで霧で何も見えなかったんだもんね、知らないよね」


    振り返ったハサミはそう語り、遠くを見つめながら腕を上げた。袖は垂れているが一点の方向を指し示しているのは分かった。
    その方をセロハンテープが見ると、紙テープでグルグル巻きになっている山上のピーチ城。しかし、そのテープはもう紫色と緑色の二色しか残っていない。
    その光景は誰に言われずとも、赤色、青色、黄色の紙テープの守護を任されていた三人の仲間達が倒されている事を示唆していた。


    「……オレっちとお前しか残ってねぇのか」

    「そう、みんなやられちゃったんだよ。情けないなあ、ぼくと同じ道具のくせして紙なんかに負けるなんて!」


    ハサミは遠方を見つめながら両手を腰に当て、ご立腹といった態度を取った。
    セロハンテープは紙テープの守護を任されていた二人と(ついでにもう一人)の顔を思い浮かべる。紙が相手だろうと熱心に計画を立てていたイロエンピツ、自分の能力を最大限に引き出す器用なわゴム。……そしてウザったいアメ中毒のレモン頭。
    別に倒されてもいいレモンはともかく、イロエンピツもわゴムもやられてしまっていたとは。少し話した程度だったが、あの二人は良い奴らだと思っていたセロハンテープは少し寂しく思った。

    俯いて視線が下を向く。足元にいたハサミはくるりと振り返ってこちらを見上げてきた。


    「パンチがいなくなって清々してる?」

    「そんなこと……!
    ……ちょっとはあるけどよォ…」

    「あるんだ」


    自分の嫌いな奴が敵に倒されたという事実を目の当たりにしても、なんだかスッキリしていない。どんなに嫌な奴だろうと、自分は根底であいつのことをちゃんと仲間だと思っていたのかもしれない。

    もしかしたら『二人』ではなく『三人』がいなくなって寂しいのかも…そんな考えが過ったが、有り得無いと自分の考えを押さえ込んだ。どうせあれだ、あいつの挑発に一度も反撃出来なかったことに対するモヤモヤだろう。
    …色々思い出して何だか腹が立ってきた、話題を変えよう。


    「…今はあの野郎の事なんざどうでもいい、それよりも!お前、なんでここに居るんだよ!城に潜入したんじゃねーのか!?」

    「あー、それね…聞いてくれる?」

    「こっちから聞いてんだよ」


    じゃあ話すね、と言いハサミはすとんとその場に座り込んだ。足が極端に短い…と言うよりも殆ど無いため座ったようには見えないが。セロハンテープも近くにあった段差に腰掛けて話を聞く姿勢をとった。





    ──────────





    結構前の事なんだけど、ぼくとオリガミ兵は空に浮かぶ城に辿り着いてたんだ。
    だけど入口は閉まってて入れないし、ぼくの刃でも分厚くて切るのはちょっと厳しそうだったんだよね。だからぼくはお城の上でどうやって入ろうかなってグルグルしてたんだ。そしたらぼくのこと見てたオリガミ兵が目を回したのかわかんないけど、紙テープを城の上に落としちゃって。

    その時気づいたんだけど、オリガミ兵の落とした紙テープって結構重たかったみたいだしお城の上に破れそうなヒビが入ってたんだ。
    そこでぼくは閃いた。思いっきりこの破れそうなヒビに向かって攻撃したら大きな穴が開きそうだな〜って!

    だからぼくはその破れそうなヒビに向かって、持ってきた【黒い手】で攻撃したんだよ。そしたら上手くいってさぁ、お城の屋根がぶっ壊れて紙テープが入れるくらい大きな穴が出来たんだ!
    そしてぼくはその穴からお城の中に侵入して、紙テープ設置して、持ってきてたオリガミ兵も【黒い手】にばら撒かせて、準備を整えたんだ。

    途中でお城の持ち主…えっと、クッパダイマオーがオリガミのなり損ないみたいな格好で帰ってきたんだけどとっ捕まえたよ。
    で、そこまではいいんだけど…その後。お城が急に揺れだして落ち始めたんだよね。まあそんなこんなでぼくとお城は落ちちゃったんだけど。そこ、どこだったと思う?

    …なんと、天空スパーランド!まあ、よくわかんないけど空の上にある温泉?施設なんだって。
    それでね、ぼくがなんでここに居るのかって話なんだけど…その天空スパーランドっていうのがこのウナバラタワーの真上にあるんだよね。
    【変なの】に見つからないように移動して下の方覗いてたら、霧の中でうっすらキミの姿が見えてさー。何回かキミの近くに様子見に来たりしたんだけど、全然気づかないでやんの。そのゴーグルのレンズってもしかして黄色で塗りたくられてて何も見えないの?

    ……ともかく、ぼくはちゃんとオリーさまから貰った仕事は全うしてたってわけ。





    ───────────────




    「おしまい!」


    話し終わったハサミはパンと両袖の下にある腕を叩き合わせ、締め括った。セロハンテープは何だかスッキリしていないような表情を浮かべている。その顔を見たハサミは不満ありげに「何か文句あるの」と言った。


    「いや、お前の話の中ででてきた【黒い手】と【変なの】って何だよ。全然わかんねぇんだけど。
    あとオレっちのゴーグルはちゃんと見えてるわ」

    「えー、変なのは変なのだよ。すっごくキノピオに似てるけど白いし羽生えてたし…
    黒い手はアイツだよ」


    そう言ってハサミはある方向を指し示した。そこは紫紙テープが設置されている場所。紫のテープ裏からするりとヘビのように姿を現したのは、黒く長い胴体を有した薄っぺらい手。そいつがとぐろを巻いている部分はなんだか少し騒がしく蠢いているように見える。

    オリガミでも道具でもない、かと言ってペラペラにも見えない不気味な黒いとぐろを巻いている存在にセロハンテープは固まった。そんな事に構わずハサミは「あ、そうだ!」と声を上げる。


    「セロハンテープに頼みたいことがあったんだよね!」

    「…あ、オウ、何だよ…」

    「天空スパーランドで捕まえたキノピオがいるんだけど、そいつらどうにかして」

    「…………???」


    何が言いたいのか分からんと言いたげに眉をひそめるセロハンテープ。しかし彼はゴーグルのせいで表情が分かりにくいため、今回はハサミに通じなかったようだ。
    ハサミは黒い手に降りてくるように指示し、すぐ側まで近づかせる。至近距離に来たことで黒い手のとぐろ部分で蠢いていたモノの正体が判明した。その声はキノピオだろう、「暗い」「怖い」という怯えの感情を顕にしている。


    「なんか天空スパーランドに遊びに来てたみたいなんだよね〜。ぼくが細切れにしてもいいんだけど、それじゃつまんないでしょ?だからセロハンテープにあげる、80枚くらい」

    「80枚!?ンなモンどうしろってんだよ!」

    「どうにかして♡」


    笑顔で可愛こぶるような仕草をして言ってくるハサミ。何を言っても意味が無さそうだと思ったセロハンテープはため息をついて立ち上がり、黒い手とやらに近づいた。
    近づいてきた相手に対して黒い手は仰け反るように動き、とぐろの中が覗けるようになった。中には束になり分厚くなっているキノピオ達が不安を漏らしている。

    左手首に付けていたリングから紫色の部分を外し懐へ。残った銀色のリングは腕を伸ばすと紫の光に包まれ巨大化し、セロハンテープはその内側にある取っ手を掴む。
    頭を片手で押さえ、テープで出来た首を解く。セロハンテープの首は存在せず、基本はテープで頭を支えているだけ。胴体は空っぽだが、中からはテープが出てくる不思議な体だ。

    解いたテープでキノピオ約80束を縛るように貼り付け、リングは高速回転し始めた。そしてそのままセロハンテープとリングは紙テープを設置している場所の屋根を飛び越え、塔の外側へ向けて突っ走って行った。


    「…どこ行ったの?陸に貼り付けでもするのかな?」


    残されたハサミと黒い手はセロハンテープが消えた方向をじっと見ていた。暫くすると「貼裏魔苦離じゃぁぁあ!!」という叫び声が。ハサミが塔の淵に飛んで近づき下の方を確認すると、キノピオ達が外壁にベタベタと貼り付けられている。…ちょっと恥ずかしい格好で。
    貼り付けられたキノピオはペラペラの体をよじったり腕を動かそうとして逃げ出そうとしていたが、テープの粘着力は強く全く意味をなさない。その様子がおかしいのか、ハサミは少しだけ笑った。

    暫くしてセロハンテープとリングが外壁を再び走り、紫テープが設置されている場所の屋根に飛び上がって着地した。リングから降りて首を再び作り直し、頭の位置を調整しているセロハンテープを見上げながら、ハサミはポスポスと垂れ下がった袖越しに拍手をした。


    「さすがー!早かったね〜!」

    「バトル前にあんまテープは消費したくねェんだけどな。もうこれ以上オレっちのテープ使わせんなよ」

    「大丈夫、使わないよ」


    首の位置調整が終わったのか、セロハンテープがリングの内側に手を通すとリングは手首に収まるサイズまで小さくなった。そのリングに懐へと仕舞っていた紫色のパーツをカチリと付け、屋根の上から飛び降りた。


    「…で?用は済んだだろ。帰らねーのか」

    「えー?お城の占拠も終わってぼくは今自由時間!暇だし遊んでよ〜」

    「お前と遊んだらテープが無駄に消費されそうだから断る、相手ならその黒い手ってのがいるだろうが。つかこいつなんなんだよ…」


    黒い手の方に視線を向けると、黒い手は首を傾げるように手を傾けた。キノピオ達のようなペラペラではあるものの、どこか違和感がある。どう見てもオリガミでもないし、何なのかさっぱり分からない。


    「黒い手だけど?」

    「そうじゃねーよ!言うと思ってたけどよォ!」


    平然とした顔で答えたハサミに対し、呆れ気味で声を上げるセロハンテープ。それが楽しいのかハサミはニコニコと満足げだ。


    「はいはい。こいつはねー、ぼくが『あの部屋』で作ったんだよ。『命切り』で」

    「なんだその命奪いそうな奴」

    「命折りの切るバージョンだけど?」

    「……イノチオリ?」


    『イノチオリ』という聞いたことも無い言葉にセロハンテープは首を傾げる。ハサミも頭の上に疑問符を浮かべるが、「あ!」と何かを思い出したような声を上げた。


    「そっか、キミって最後に起きたんだもんね。知らないよね。

    …命折りっていうのは、オリーさまを作った奴が使ってた技法だってオリーさまが言ってたよ。オリーさまは思いを込めた命折りで折られたオリガミだから、普通のオリガミと違って動けるし喋れるし魔法も使えるんだって。
    で、ぼくの黒い手は命折りの切るバージョン。手下になれ〜なれ〜って思いながら切ったら出来たんだよ。まあ命折りの真似事だから、こいつはオリーさまみたいに喋ったり出来ないけど。

    それにしてもキミって本当に何も知らないよね。仕事する気あるの?」

    「あらァ!!紙テープに関しちゃ霧のせいで見えなかったし、命折りは聞いたこともねぇし聞く気も起きなかったから知らねぇのは仕方ねェだろうがァ!!」


    ギャアと吠えるセロハンテープに対し、ハサミは目を閉じて耳を塞いだ。うるさいという意思表示をされたセロハンテープはイラッとしたが、怒ったところでどうにもならないし、レモン頭のように鬱陶しく言い返してこないだけマシだ。怒りを抑えて「ったく…」と呟き、それ以上は騒がなかった。

    それから暫くの間、ハサミはウナバラタワーの最上階に居座ったまま帰る様子を微塵も見せず、黒い手とジャンケンをして遊んでいた。ハサミは手がないため口で言っていたが、高頻度で「チョキ!」と叫んでいた。ハサミだからだろうか?

    黒い手と遊んでいるハサミの声を聞きながら、セロハンテープは大海原の遠くを見つめていた。その視線の先にあったのは、小さな船。小型船は何かを探しているようにやたらとあっちこっち海の上を走り回っていて、なんだか挙動が怪しい。
    しばらくしてその怪しい船はこちらに向かってきた。だが、この高さでは下方の様子はよく見えない。

    セロハンテープは自分の頭を外して、頭部にテープを貼り付け塔の淵に移動してゆっくりと降ろしていった。頭と体が分離しているこの体は、こういう時とても便利だ。…その分、外れてどこかに行きでもされたらとても困るが。

    頭を降ろした場所には草が生い茂っており、おまけに高い柵も設置されている。テープは透明で視認は難しいだろうし、怪しい船の奴らに見つかる可能性は低い。
    船からひょこっと顔を出したのは、マリン帽を被った水色スカーフが特徴的なキノピオ。
    「大きい建物ですね〜」と言う水色スカーフの声に反応してか、船の奥から姿を現したのは赤い帽子のヒゲ男にオリガミの少女、そして普通のキノピオとはなんだか雰囲気の違うキノピオだった。


    「えー!?すごい高ーい!
    ピオさん、これってなに島?」

    「大海原に聳え立つ塔(タワー)…これはウナバラタワーだな《斜体》」


    (あのジョーチャンは…オリー様の妹…ええと、オリビア様か。そんで隣のヤツは…確か…マリオだっけか?
    …それから…なんだアイツ…なんか普通のキノピオとは違うような…)

    「なんかあのキノピオ、雰囲気違うね」

    「!!?!???!?」


    頭の上から突然声がしたことに驚き、塔の上にいる自分の体が動いたせいで頭も揺れたが、叫び声を出すのは何とか防いだ。視線を上に向けても限界があり、それは視認できない。緑色の袖が視界の端にチラチラ映っていること。踏まえずとも、この声は間違いなくハサミ。頭の上にしがみつくように乗っかってきているようだ。


    「お前、何しに来たんだよ!邪魔すんな!」

    「セロハンテープが怪しいことしてたから付いてきただけだよ。邪魔はしないよ〜」

    「…チッ、わぁった。大人しくしてろよ…バレたらめんどくせぇし」


    小さな声で言い合ったが、和解したためそれ以上争うのは止めた。もしこれの相手が不仲(と言うより一方的に嫌っている)パンチであったら、争いが発展して確実にバレていただろう。
    船から降りたのはマリオとオリビアの二人。雰囲気の違うキノピオこと『ピオ』と、水色スカーフは船で待機している。

    オリビアは巨大な塔を見上げ、目をきらきらと輝かせた。


    「すごーい!高ーい!首痛ーい!
    果てしなく高くてお空に刺さってるみたい!紫テープも一緒に上まで続いてるみたい?

    わたし、高いところに登るの大好き!オリガミとケムリは高いところが好きって言いますものね!
    …でも、どうやって登るの?」


    「…ケムリとバカは高いところが好きって言うんじゃないの?つまりいもーとさまはバ」

    「シッ!余計なこと言うな!」


    ボソボソと話し合う二人。制止する際にセロハンテープの体が動いたのか、頭が少しだけ揺れた。その時草にガサリと頭が当たってしまい、二人は即座に黙り込む。
    草陰と柵の隙間から見えるオリビアとマリオは、ウナバラタワーに近づいていた。どうやら海の音もあってバレていないようだ。塔にある三つの丸い窪みを見てオリビアは首を傾げている。


    「まん丸の穴が三つ。これ、何かしら?どこかで見たことがあるような…」


    「ねえねえ、この塔って入口あるの?」

    「あぁ?あるらしいけど…入るのは相当難しいらしいぜ?オリー様がよ…『例えここまで来たとしても、入口を開くための物を見つけるのは容易いことでは無い』って言ってたからな」

    「……オリーさまの真似、上手くないね」

    「うるせぇな!!」


    再び小さな声で口論をする二人。塔の前で思案するように目を閉じ何かを考えているオリビアに対し、マリオはキョロキョロと辺りを見回して、時々耳を澄ませる仕草をしながら塔の前をウロウロし始めた。
    …何だかこちらを見ているような…こちらに近づいてきているような。


    「(なぁ、あいつこっち来てねェか?)」

    「(セロハンテープが下手なオリーさまの真似したからだよ)」

    「(はァ!?別に似てる似てねェは関係ねェだろ!)」


    先程よりも更に声を抑えて会話を続ける二人に近づいてくるマリオ。柵の側までやってきた時、保護色のハサミは姿勢を変えてセロハンテープ(頭)を隠すように覆いかぶさる。それと同時に「思い出しましたわ!」とオリビアが大きな声を上げ、マリオの意識はそちらに向いた。


    「土ガミ寺院!土ガミ寺院でもトータルボールを集めて、まん丸の穴にハメてましたわ!
    もしかしてこのまん丸の穴に、トータルボールみたいにまん丸なモノをハメればこの塔に登れるようになるかも!
    …あれ?マリオさんどうしたの?柵の向こうに何かあったの?」


    マリオはオリビアに『なにか聞こえた気がした』と伝えた。ハサミが覆いかぶさって前が見えないセロハンテープ(頭)はぎくりとする。「やばいかも」と小さな呟きが聞こえた。


    「声?うーん…
    あっ!もしかして、このウナバラタワーにもあの石像さんがいるのかも!
    じゃあ、やっぱりあの石像さん達が持ってた不思議な印はこのタワーと関係あるのかもしれないですわね!
    わたしの書いたメモですけど、何だか他にもマークが入りそう。もっと大海原を探索してみません?まだ知らない島があるかも!」

    「フッ、海にはロマンが眠っているものだ。古代人のオレも知らないような謎(ミステリー)が…この広い海(オーシャン)にあるやもしれんな《斜体》」


    提案されたマリオはうんうんと頷き、オリビアと共に船の方へ戻って行った。船の操縦部屋の上に陣取っているピオは南東を指している。船はその方向に進路を変え、ウナバラタワーから離れていった。
    セロハンテープに覆いかぶさっていたハサミは、地に足を下ろし後ろの方を見た。柵の向こう側には誰もおらず、船は汽笛と共にどんどん離れていった。
    ハサミはふわりと浮かんでセロハンテープの頭に再びしがみついた。


    「よく考えたらバレても問題なかったね。切り刻んじゃえばそれまでだし。帰ろ〜」

    「……お前飛べるんだからオレっちの頭乗らなくてもいいだろ」

    「そんなケチくさいこと言わないでよ。それともセロハンテープはぼく付きの自分の頭を引き上げられないくらい力がないの?」


    その言葉を聞いたセロハンテープはカチンと来たのか、ぐっと頭が引き上げられた。突然上に移動したのにハサミは少し驚いたようで、強めにセロハンテープの頭を抱きしめる。スイスイと早めなスピードで最上階にある体の元へと上がっていく頭。
    戻る途中、キノピオ達の苦しそうな声と短い悲鳴のようなものが聞こえた。恐らく悲鳴の方は頭の上でハサミがキノピオを怖がらせているのだろう。ちらりとその方を見ると、この世のものでは無い何かを見たかのように顔面蒼白になっている。…もしかするとセロハンテープの生首を見てそうなっているのかもしれないが。

    最上階に戻ってくると、ハサミは頭から飛び降りた。足が殆ど無いせいで上手く着地出来ず転けそうになったが、黒い手が支えたお陰で無事だった。
    セロハンテープ(体)は頭からテープを外し、それで首を作って頭の位置調整を始める。
    ハサミは袖を口元に寄せて何故か楽しそうに笑っている。ゴーグルを付けていて全く分からないが、セロハンテープはその方へ視線を落としていた。


    「ふふ、キノピオって怖がりだね。脅したらすぐ喚くし震えるしおもしろーい」

    「悪趣味ヤローめ」

    「面白くないの?だってぼくがこの顔しただけで怖がるんだよ」


    そう言ったハサミの顔が瞬時に変化した。赤い大きな目は黒く染まり、瞳孔は逆に赤色になっている。所謂『反転目』と言うやつだ。口も黒く染まっており、その顔はとても不気味。
    セロハンテープは少し怯んだような様子を見せ、視線を逸らした。


    「その顔やめろよ…」

    「…怖いの?」

    「怖かねーよ!!ただずっと見てたら夢に出そうだって思うだけだわ!!」

    「それは怖いってことなんじゃないの?」

    「うるせぇな!!アイツみてーに口答えすんじゃねーよ!分かったんならさっさとその顔やめろ!」


    結局怖がっている様子のセロハンテープ。つまらなそうに口を尖らせ、ハサミが瞬きをしたと同時に目や口は普通の状態に戻った。
    少しだけ視線をその方に動かし、表情が普通に戻ったことを確認したと同時に頭の位置調整を終わらせたセロハンテープは腕を下ろした。
    まだ奴らが来るまで時間がかかるだろう。そもそもここへ来るまでの道中で倒れているかもしれないが。セロハンテープがその場に腰を落とすと、ハサミはとぐろを巻いた黒い手に座った。


    「オリーさまっていもーとさまのこと、どう思ってるんだろうね?鬱陶しい?しつこい?」

    「オレっちオリー様じゃねぇし、分かんねーよ」

    「もしかしたら心配してるかも。ぼくらが全員やられるのを望んでたりして〜」

    「流石にそれはねェだろ」


    等と二人は暫く他愛のない会話を続け、話題が無くなったハサミは黒い手と再び遊び始めた。今度はジャンケンではなく黒い手がハサミを掴み、塔の淵でゆらゆらと振り回している。
    セロハンテープはそれを見ているだけで寒気がした。あんなことを自分がされたら怖くて正気を保てる気がしない。そんなセロハンテープとは対照的に、ハサミは随分と楽しそうにはしゃいでいるが。


    「アハハ〜楽し〜!セロハンテープもやる〜?」

    「頭落ちたら嫌だしゼッテェやらねぇよ」

    「とか言っちゃって〜!ほんとは怖いんでしょ!
    …あ、待って黒い手ストップ」


    突然黒い手に動かすのを止めるように命令したハサミ。掴まれたままのハサミは宙ぶらりんでじっと一点を見つめていた。どうしたのだろうか、とセロハンテープが首を少し傾げていると、ハサミはくるりと振り返り「戻ってきた!」と声を上げた。
    戻ってきた、とは即ちアイツらのことだろう。この塔へ侵入する方法を探り当てたのだろうか。


    「つーことは…そろそろか?」

    「さあね、あの場所にハマる丸いものを一個でも見つけてきたんじゃない?様子見に行ってみたら?」

    「オウ」


    そう言ったセロハンテープは再び頭を外してテープを貼り付けた。と同時にハサミが頭の上に飛び乗る。飛べるんだから飛べよ、と思ったがどうせ適当に答えたり屁理屈を言うばかりだから何を言っても意味が無い。セロハンテープは諦めて塔の淵に移動して頭を下へ降ろして行った。

    小型船から降りてきたのは、やっぱりマリオとオリビアの二人。草陰からその様子を伺っていると、マリオは丸いものを三つ取り出した。大きいため両手に収まらないのか、地面に置いている。


    「わー…全部揃えたみたいだね。難しいって話は嘘だったの?」

    「そんなわけねぇだろ、よく見てみろよマリオの体を」


    そう言われたハサミは少し身を乗り出し、マリオの方をじっと見つめた。体は所々に押し潰されたようなシワがついていたり、足には泥がついている。
    どうやら一筋縄では行かず大変だったようだ。具体的な内容は、オリビアが丸い玉を一つずつ見ながら思い出語りで教えてくれた。


    「それにしても海の底のダイヤ島、大変でしたわね!
    この赤色のオーブはマリオさんが力持ちだったから大丈夫でしたけど…

    青色のオーブは難しい問題ばっかり!わたし全然分からなかったですわ!特にバスに乗ってる人数、あれずるくありません!?運転手さんも含むなんて!

    緑色のオーブはドキドキしましたわ。見てるこっちも緊張して…マリオさん、何回も押しつぶされちゃって…石像さんに『簡単にするか?』って言われたのに、それをしないでオーブを手に入れたんですもの!マリオさんの勇気は本物!改めて拍手ですわ〜!」


    パチパチと拍手をするオリビアに対し、マリオは両手を上げて受け取った。拍手を止めたオリビアは「…そして」と言葉を続ける。


    「ダイヤ島では氷ガミさまの力も貰っちゃいましたし!四つもカミさまの力が使えるようになったわたし、もっともっとマリオさんのお役に立てると思います!」


    両手を握ってニッコリと笑顔を見せるオリビアにマリオは『頼りにしてるよ』と言いたげにグッドサインを送った。
    一通り話を聞いた草陰の二人は小さな声で話し合う。


    「……海の底なんてアイツらどうやって行ったんだ…」

    「四体のカミさまの力も使えるようになったみたいだけど、まあ所詮は紙だし。ぼくなら一秒足らずでいもーとさまをバラバラにできるよ」

    「何で張り合ってんだよ。あとバラバラにはするな」


    マリオ達が集めた三つのオーブを塔の前にある丸い窪みにハメると、塔の前にあった窪みはくるくると回転し、ウナバラタワーの入口が現れた。


    「あー!やっぱりここって扉だったのね!不思議な仕掛けですわね。
    オーブを集めるの大変でしたし…中も難しいかも!気合い入れなきゃ!」

    「頑張れよ、大海原の冒険者(アドベンチャラー)斜体

    「あら、ピオさんはここにもついて来ないんですか?」


    振り返ったオリビアがピオに向けてそう問いかけると、ピオは「フッ」とキザったらしい仕草をした。
    ここにも、ということは他の場所でもこのピオとやらは船に留まって居たのだろう。見た目や雰囲気はそこらのキノピオと違うが、戦う力は無いのだろうか?


    「生憎だが…オレはこの先に行くことはできない。絶対にな。《斜体》

    なぜならこの塔の先…オレの自由(フリーダム)を奪いかねない者達が居るからさ。あの砂漠の底で、氷結(フリーズ)から解放(リリース)され、青春を共にすごしたマリン号(相棒)と大海原へ帰って来れたんだ。オレは取り戻した自由の翼(ウイングスオブフリーダム)を失う訳にはいかない。《斜体》

    分かってくれるか、冒険者(アドベンチャラー)斜体

    「うーん、何言ってるのかちょっとよくわかんなかったですけど、分かりましたわ。紙テープがあるのならそれを守ってる敵もいると思うし。わたし達だけで行ってきますね!」

    「感謝するぜ《斜体》」


    草陰から様子を伺っていた二人は黙り込んでピオの方を見つめていた。変な喋り方をするし仕草がいちいち鬱陶しいそのサマは、何となくわゴムを連想させた。
    オリビアとマリオは塔の入口へと進んでいく。桟橋の方で水色スカーフが「ここで待ってましょうかー?」と声を上げると、二人はくるりと振り返った。


    「大丈夫ですわー!キノピオタウンにご用がある時は、そこのハクブツカンに繋がってるドカンを使いますから!」

    「わかりましたー!じゃあ帰っておきますねー!またのご乗船お待ちしてますー!」

    「キノピオタウンの港に向けて進路を取り、いざ出発!《斜体》」


    船の操縦部屋の上で偉そうに南東方向へ指を向けているピオに水色スカーフが明るく返事をし、小型船は離れていく。
    二人も塔の中に侵入したようで、セロハンテープは頭を引き戻す。戻っている最中、やはり外壁のキノピオから小さく悲鳴が上がっていた。二回目なんだからハサミのあの顔くらい慣れろよと思ったが、なんの前触れもなく急にあの顔へと変わることを考えると、自分も慣れる気がしなかった。

    最上階に戻ってくると、先程のようにハサミは飛び降りる。今度は上手く着地できたのか、両腕をバッと上に向けて「完璧!」と言っている。
    首の位置調整をしながら、セロハンテープはハサミに視線を向ける。


    「この紙テープはオレっちの担当だ。お前はそろそろ自分の所に帰れよ」

    「……ちぇ。はぁい、分かったよ。キミが負けてもぼくが勝つから安心して負けていいよ!」

    「そこは頑張れとかだろ!?」

    「じゃあねー!期待してないよー!!」

    「期待しろや!!!」


    黒い手を体に巻き付かせたハサミは、パタパタと手を振りながら雲の中へと姿を消した。やっとうるさいのが居なくなった、とセロハンテープは息を吐く。
    首の位置調整を終え、紙テープの方を見やる。同じテープの好だ、コイツのことは必ず守ってみせる。オリー様の命にも『徹底的に』従うつもりだ。


    「……オレっちは今までの奴らとは違うって事、見せてやらァ。特に黄色いヤツとはな!」


    よっぽどパンチのことが気に入らないらしいセロハンテープ。一体何が彼をそこまで怒らせているのだろうか?
    その理由を知るのは文房具と折紙の王だけ、ペラペラの英雄と折紙の少女が知る事など無いだろう。




    ───────────────




    静かに上がったエレベーターのような装置。そこに乗っていたオリビアは「え〜、ウナバラタワー最上階に、到着ぅ〜、で、ございま〜す」とエレベーターガールのように言った。
    エレベーターガールモードがオフになったオリビアは装置の上で辺りを見回す。白い雲と青い空しか見えないウナバラタワーの最上階は相当高所のようで、オリビアは楽しそうに笑顔をうかべた。


    「てっぺんに着きました!こりゃやっぱり高いですわ〜!壁に貼り付けられてるキノピオさんたちはこんなすごい景色をずっと見てられるんですね!羨ましい〜!
    ハッ!そんなこと言ってる場合じゃなかったですわ。キノピオさんたちを助けるためにも、先に進むためにも、紙テープとそれを守ってる人を何とかしなきゃ!」


    そう言ってオリビアとマリオはくるりと振り返る。視界に映るのはオリーマークの留め具と共に設置されている紫色の紙テープ。それはやたら奇妙に曲がりくねっていた。
    オリビアはビッと指をさしてそれに注目する。


    「紫テープ発見ですわ!
    ……でも、敵の姿が見当たらないですね。
    もしかして、ここにはブンボー軍団いないのかも?そうだとしたら、一体どうやって紙テープを壊せばいいの!?」


    騒ぐオリビアに対してマリオは最上階の中心へ近づいた。丸い大きな穴が空いており、中を覗くと床の中央部分に何か書いているように見える。
    マリオが少し身を乗り出してそれをじっくり見ようとした時、その大穴の底がゴゴゴと揺れ動いた。それと同時に何者かの声が二人に届く。


    「オゥオゥオゥ!」


    穴の近くにいた二人がキョロキョロと辺りを見回していると、「あ、あそこ!」とオリビアが一点を指で示した。その方を見ると、紙テープを設置している場所の屋根の上に置かれている白い石像、その上に紫色の長い髪をたなびかせている何者かが立っていた。

    石像の上から跳び、丁度大穴の底が上がりきった時その中心に着地して二人の前に姿を現したのは、黄色いレンズの紫縁ゴーグルを着けた長髪の男。
    その服装は今まで紙テープを守護していた者達との共通点が多い。間違いなく紙テープの守護を任されているブンボー軍団の一人だろう。


    「そこのニーちゃん、お前がマリオってか!?
    オリガミのジョーちゃんは大人しくオリー様の所に帰ってネンネしな。今ならまだ邪魔しようとしたこと、許してくれるかもしれねェぞ」

    「嫌です!兄上のやってる事はひどいことです、間違ってます!わたしは兄上を止めるその時まで、兄上の所に帰ってネンネはしませんわ!」


    強気な表情で言い返したオリビアの隣で、マリオは警戒した様子で敵のゴーグル男を見ている。
    男は眉間に皺を寄せ、「チッ」と舌打ちをして頭に手を当てがってやれやれと言った様子で言葉を返した。


    「ァあ、そうかい!敵とはいえオリー様のイモート様だ、少しは説得してやろうと思ったんだがな!
    紫テープをヤル気なんだろ!?オレっちもテープだぜ!粘着するぞコラァ!」

    「なんだかこの人さっきから騒がしいし、馴れ馴れしいですわね!それにテープに粘着って…キノピオさんたちを塔の壁にベタベタ貼り付けたのはあなたね!?なんて酷いことするの!」

    「ハッ、酷いだァ?そりゃオリー様が言ってたからなァ。キノピオには厳しくしろってな!オレっちはその命に従ったまでよ!
    勿論、キノピオじゃねぇペラペラのお前にも、オリガミのジョーちゃんにも手を抜くなんざァ半端なマネはしねェよ!」


    そう言ってセロハンテープは前に伸ばしていた手を握り、親指を立てた状態で自分の胸に宛てがい声高々に叫んだ。


    「オレっちはオリー様に仕るブンボー軍団の一人、『セロハンテープ』!!
    全ては未来のオリガミ王国のため、同じテープの好たる紙テープのため!二人まとめて相手してやらァ!!」


    口上を言い切ったセロハンテープはその場で跳び上がり、落下の勢いに任せて円形の床を蹴る。すると床はクルクルと回転し始め、セロハンテープは床の下へと姿を消した。高速で回転している床、その勢いで起こった風に思わずマリオとオリビアは目を閉じる。
    暫くして中央の床の回転は収まってきて、同時に起こされていた風も落ち着いてきた。二人が目を開くと、周りには観客のキノピオ達が。


    「…いつも思いますけど、観客のキノピオさんたちってどうやってここに集まってきてるのかしら?」


    不思議そうに首を傾げるオリビアに対し、マリオは未だ姿を見せない敵に警戒している。中央の床の回転が止まる頃…床の下からバッと銀色のリングが飛び出した。
    そしてその銀のリングから紫色に光るものが床に向けて投げられたと思うと、それは巨大な紫色のテープ台に変化し、宙にあった銀のリングは台のテープ設置部分に落ちる。

    その中央にあるものは銀のリングだが…見た目ばかりは文房具である巨大なセロハンテープ。そのセロハンテープ台がゆらりと上体を持ち上げて、ドスンと威嚇するように動いた。


    「な、な、なにこれーっ!でっかいセロハンテープの台ですわ!
    っていうかセロハンテープはどこ?もしかしてこれ?わたしみたいに変身しちゃったの?」

    「変身なんてしちゃいねーが…オレっちとテープ台は異体同心、一心同体!寧ろこれがあるべき姿ってな!
    ヘッヘッヘ…ペラペラといえどよ、さんに…二人もオレっちの仲間をブッ倒してんだろ?ちょっとは楽しませてくれよなァ。さァ、どっからでもかかってきな!!」

    「え?わたし達がここに来るまでに倒したブンボー軍団は二人じゃなくて三人なんですけど…
    あ、よく見たらセロハンテープ、台の中の銀色リング…その中に居ます!
    リングパズルの中心のテープ台の中の銀リングの中…何だかややこしい所にいますわね。でもあれじゃハンマーの攻撃は届かないかも!」


    オリビアの言う通り、セロハンテープは巨大なテープ台の内側に篭ってしまっている。あくまでも本体はあの人型だ、ジャンプでもしない限り攻撃は届きそうにない。
    回転していた床が裏返った事で姿を現したリングパズル上の様子を見て、マリオは何だか不思議そうな反応を示した。それに気づいたオリビアもつられてリング上の様子を確認する。


    「あれ、なんだかいつもよりパネルが少なくないですか?わゴムの時は矢印パネルを弾かれたり、パンチの時はパネルごと取られたりしましたけど…
    でも、むしろこっちの方がスッキリしてて迷わなくってやりやすいかも」


    マリオはリングの操作を始め、とりあえずセロハンテープに攻撃するためのルートを作った。とったアクションは『ジャンプ』。リングの中央に引きこもっているセロハンテープに攻撃出来ないかを試すようだ。
    しかし、銀リングの中央からニュルリと現れた透明なテープが跳んだマリオを宙で捕らえる。そしてそのまま後ろの方へ叩き付けた。一方的にやられたマリオを嘲笑うようにテープ台が上方に揺れ動く。


    「へへっ、どうだい。これがカウンターってヤツだ、そんな攻撃通用しねェぞ!」

    「えぇー!そんな、ジャンプが効かないの!?これじゃ攻撃手段はハンマーかアイテムしかありませんわ。それでもどうにもならなかったらどうしよう…」

    「オゥオゥ、気がはえーなジョーちゃんは。オレっちのターンはまだ終わってねェぞ!くらいなァ!」


    テープ台がズリズリと動いたかと思えば、その上体をゆらりと起こし…ドスンとマリオ目掛けて倒れ込んだ。マリオはぺちゃんこにされたが、元々ペラペラだったのでダメージはあれど支障はない。
    ムクリと起き上がりふるふると頭を振って、リング外に戻ってきたマリオにオリビアが近づく。


    「マリオさん、観客のキノピオさんたちのお話ってヒントになる事がありますよね。それで、さっきキノピオさんがね『台壊せないかな』って言ってたの。だから、ハンマーであのテープ台を壊しちゃえば…中に引きこもってるセロハンテープを引きずり出せちゃったりして!」


    それを聞いたマリオはうんうんと頷き、グッドサインを送った。バトル中…特にボス戦の際に観客の声がよく聞こえるのはリング外で待機しているオリビアの方。観客の言葉をしっかり聞いていた彼女のおかげで、カミさまのとバトルで打開策が見つかる事も多々あった経験があるのだ。

    マリオはセロハンテープの近くでハンマーの攻撃ができるようにルートを作り、丁度テープ台の真後ろに回ってきた攻撃パネルに辿り着いた。
    ハンマーを大きく振りかぶって叩き着けると、台に大きなヒビが入った。テープ台に引きこもっているセロハンテープにも振動が来たのか、小さく「うっ」という呻きが漏れる。


    「わーい!大きなヒビが入ってますわー!もう一回攻撃したら後ろの方は壊れそう!」

    「へっ、オレっちと台は異体同心!お前らごときに易々と壊されてたまるかってんだ!オラァ!」


    再びテープ台が大きく持ち上がり、ドスンと倒れ込む。今回はしっかりガード出来たようで、マリオは潰されることなくリング外に吹き飛ばされた。
    元の場所へ戻ったマリオは、休むこと無くリング操作を開始した。オリビアはリングをじっと眺めて、何か気にかかるのか考えるような仕草をしている。

    ルートを完成させたマリオがテープ台の後ろへ回り、ハンマーで攻撃をすると台の後方が粉々に砕け散った。台の内側から「ァアア!!?」という驚きの声が上がる。


    「て、テメェやるじゃねェか…!だが!オレっちの台はなァ、そんな攻撃程度じゃへこたれねェ!!」


    後方が砕け散って無様な姿になった台がブルブルと震え出す。様子がおかしいことに気づいたマリオは警戒し、ガードの構えをとった。
    瞬間、テープ台は高く飛び上がりマリオ目掛けて落下した。ガードしていたマリオは再びリング外へ吹き飛ばされる。待機していたオリビアは目を大きく開き、先程のテープ台が繰り出した大ジャンプに驚いているようだ。


    「あ、あんなにおっきくて重そうなのに…すごいジャンプでしたわ…
    セロハンテープと台は別物なのにあんなに跳べるのは、やっぱりイタイドウシンだから?
    ……そういえば、イタイドウシンってどういう意味?」

    「だァァ、知らねェのか!そりゃそうだよな、四字熟語って難しいモンな!!
    異体同心っつぅのはな!簡単に言やァ、形は違えど心は同じ!関係が深ェってこった!」

    「あ、つまり『仲良し』ってことですね!わかりました!ありがとうセロハンテープ!」


    素直に御礼を言われたセロハンテープは黙り込んで何も言わない。台に隠れているため分からないが、嬉しくて少し照れているようだ。
    今まで生きてきた時間は短いが、それでもやはり感謝されるのは悪い気持ちにはならない。例え敵だろうとも、嬉しいものは嬉しいと実感させられた。


    (何でェ…ジョーちゃん素直で優しいじゃねェか…今ならちょっとだけホッチキスの気持ちもわかる気がするぜ。今もあの反応気持ち悪いとは思うけどな)


    などと感動に浸っていたセロハンテープを容赦なくハンマーの一撃が揺らす。油断していたのか、テープ台からはかなり動揺した声が零れた。


    「あとちょっとで台が壊れるかも!頑張ってマリオさん!」

    「クソォ、台の状態だと機敏に動けねェことをいい事に好き勝手しやがって!!これ以上オレっちの台に負担をかけさせる訳にはいかねェ…!」


    テープ台の内側に収まっている銀リングから、テープカウンターの時のように透明なテープがニュルリと現れ、素早くマリオを捕らえる。そしてユラユラと宙で振るった後リング上に強く叩き付けた。
    叩き付けた反動で台が少し揺れ動くほどの威力だったようだが、マリオはすっと立ち上がってまだまだ平気そう。様々な場所を冒険し強敵を倒して強くなっているだけはある。
    リング外へ戻ったマリオは再びルートを作り始める。オリビアは先程とは違い、リングではなくセロハンテープの事が気になっているようだ。


    「それにしてもさっきの叩きつけ、チョーノリノリな攻撃を構えていた時にカミの手を防いできたパンチみたいでしたわね。
    そういえば自分の呼び方もそっくり!もしかしてセロハンテープとパンチもイタイドウシン、仲良しさんなの?」

    「ァァァア!!!アイツとオレっちが異体同心!!??!?ナカヨシ!??!?
    ンなワケねェだろうがァァァァ!!!!!」

    「きゃー!なんでそんなに怒るのー!?ご、ごめんなさいですわー!!」


    パンチと異体同心などと言われ、リングの中心で台ごと激しくガタガタと揺れ動きながらブチ切れるセロハンテープ。迫力満点の怒声を聞いたオリビアは怯えながら大きな声で謝った。その時どこかから小さく笑い声が聞こえた気がして、オリビアは辺りを見回した。
    しかし観客のキノピオ達は皆一様にセロハンテープの反応に驚いたり怯えた表情、誰一人として笑っていない。不思議な出来事に首をかしげたが、マリオは聞こえていなかったようでスタスタとルートを進んで行った。


    「…さっき笑い声が聞こえた気がしたけど、わたしの気のせい?
    って、そんな事よりバトルに集中しなきゃ!頑張ってマリオさーん!」


    オリビアや観客の応援を受けながらマリオはハンマーを振りかぶる。そしてテープ台の前方に向け、思いっきり叩きつけた。
    ミシリ、とテープ台に入ったヒビが更に大きくなり、そして…


    「ウワァ〜〜ッ!!」


    テープ台は木っ端微塵になり、ブンボー軍団が倒れた時のように跡形もなく消し飛んだ。それと同時にセロハンテープも絶叫を最後にリングの中心から消えてしまった。


    「あら?台が壊れたのはいいけど…セロハンテープも居なくなっちゃいましたわ。イタイドウシンだから台と一緒に倒れちゃったのかも?
    わーい!今までで一番簡単でしたわー!」


    リング外へ戻ったマリオは未だ油断していないようだが、オリビアは嬉しそうに喜んでいる。しかし…


    「オゥオゥオゥ!」


    どこかから再びあの声が。リングの中心に視線を向けると、スタッとセロハンテープが着地してきた。台が壊れた衝撃で相当吹っ飛ばされていたようだが…その体に頭は無い。それを見たオリビアは悲鳴を上げた。


    「ええっ!まだ居たのー!?っていうか、頭がないですわー!怖いー!」


    リングの中心に立つ体はスッと何かを持つように両腕を横に広げ掌を差し伸ばす。その左掌の上に時間差で落ちてきたのはセロハンテープの頭、右掌に落ちてきたのは巨大な銀リングだった。
    体は銀リングを床に叩き着けるように立て置き、頭は体から出てきたテープで取り付けた。位置調整は視界のブレで判断したのか片手で直ぐに終わらせ、マリオに向かって叫ぶ。


    「よくも、よくも!オレっちの大事な台を粉々にしやがったなァーーッ!!
    もう容赦はしねェ!喧嘩上等じゃァ!!」


    立て置いていたリングを掴み、力を入れるとだんだんと紫色に輝いていく。それを持ち上げて思いっきり振り払うと、リングを包んでいた紫色の光が霧散し、一部に細かなギザギザとした部位が生えていた。


    「オレっちにこの『リング《地獄のギザギザ形態》』を使わせるとはナァー!
    本気(マジ)で行くぜ!夜露死苦!」

    「うわー、すごい…ツッパってます!ツッパりさんですわ!
    それにあのギザギザ、とっても痛そう!ここからが本番ですわね!」

    「オゥオゥ、その通り!これからが本番だ!気ィ抜くんじゃねェぞ!!
    さ〜てと、そろそ行くぜェ!覚悟しなァ!!!

    行くぜ、仏恥義理!!」


    そう言いながら銀リングの内側に付いている取っ手を掴み、中に入ったセロハンテープは銀リングごと縦に回転し始めた。そしてリング上を縦横無尽に走り回り、マスとマスの境目にテープを貼り付け固定した後中央に戻った。


    「どーよ!これがオレっちの貼裏魔苦離だァ!オラオラオラァー!!」


    リングの中心にある銀リングの中、己の頭を支えるよう手を当てていきがるセロハンテープ。銀リングからはセロハンテープの体から出ているらしいテープがポンパドールのような形をして付いており、その銀リングの容姿はまさにヤンキー風味。
    しかしどうやらオリビアには不評な様子で、なんとも言い難い表情を浮かべている。


    「テープで地面を?ハデな動きの割にはなんか地味な攻撃ですわね」


    「うるせェ地味とか言うんじゃねーよ!!!
    …まぁいい。お前らはこの後、直ぐに『貼裏魔苦離』の恐ろしさを実感する事になるぜ!!
    さァ、次はお前らのターンだ。さっさとルートを作りな!」


    銀リングの内側で余裕のある笑みを浮かべてマリオ達の方を見ているセロハンテープ。
    マリオがリングの操作を開始して、回転を使用した時リングが二本まとめてくるりと動いた。マリオとオリビアは驚いた様子を見せ、セロハンテープは嬉しそうに笑った。


    「ええっ!?外側のリングが二本とも一緒に動いちゃってますわ!
    そうか、あの地味な攻撃…マスとマスを引っ付けるせいで思うように動かせなくなるのね!わゴムの時も似たような妨害をされましたけど、こっちはそれよりも面倒ですわ!なんて厄介な技なの!?」

    「ハッハッハ!!ざまぁねェな!言っただろ、お前らは直ぐに『貼裏魔苦離』の恐ろしさを実感する事になるってナァー!!!
    あと地味って言うんじゃねェ!!」


    イロエンピツやわゴムは移動に多少難儀する程度の妨害で、パンチも似たような部類だった。しかしセロハンテープの妨害は酷いもので、一部のスライドが出来なくなったり、一部リングのみの回転が出来なくなるなど、今までの比では無い。
    マリオはかなり悩み、何とかセロハンテープに攻撃出来るルートを作り上げた。進んでいく際に貼り付けてあるテープは邪魔にならないため、そこに関しては良いものだが…

    セロハンテープの元へ辿り着いたマリオはジャンプの用意ではなくハンマーを取り出す。ジャンプをすればきっと台があった時のようにテープカウンターを受けるだろうと見越しての事だ。
    大きく振りかぶって銀リングへと攻撃をする。しかし全く効いていないのか、セロハンテープは平然とした様子だ。


    「ああ?今のが全力か?痛くも痒くもねェぞ〜」

    「あらま、ハンマーの攻撃が全然効いてないみたい!そういえば前にもこんなことあったような気が…」

    「へへっ、三人倒したのはマグレか?一人はザコだからお前が倒したって言っても信じてやるけどよ!次はオレっちの全力ギザギザドリル、受けてみな!」


    銀リングがマリオに跳ねるように動いて近づき、飛び上がりながらギザギザ部分を下に向けて回転する。マリオはガードしたため連続攻撃によるダメージをあまり受けずに済み、そのままリング外へ戻って行った。
    中心に着地したリングにセロハンテープの体から出ていたテープが再び貼り付き、あのツッパリフォルムに戻った。ギザギザドリルの時は体から出したテープが邪魔になってしまうため仕舞っているらしい。
    そして再びセロハンテープはリング上を縦横無尽に走り回り貼り付けを行ったため、先程より動かせる場所が少なくなってしまった。マリオは動かせるリングの確認をしているのか、リング上をじっと見つめている。


    「ねえ、マリオさん。わゴムの時も普通の攻撃が全く効いてませんでしたよね?だからこういう時はカミの手を使うのがいいんじゃないかなって思ったんです。

    それで、さっきから変だなって思ってたことがあって…
    このリングの上にあるパネル、矢印パネルとアクションパネルしかないんです!今までは少なくてもカミの手魔法陣とか、ONパネルとかはあったじゃないですか?それもないなんておかしいですわ!

    あ、でもさっきセロハンテープの台が壊れた時にONパネルが出てきましたよね。セロハンテープが隠してたのかしら。でもさっきマリオさんが攻撃しても、パンチの時とは違ってセロハンテープは何も出しませんでしたし…一体どこに隠しちゃったの?」


    近くに寄ってきたオリビアがそう語り、それを聞いたマリオは再びリング上を確認する。

    リング上にあるものは、矢印パネルとお邪魔なテープ、そしてアクションパネルと箱。箱の中には攻撃力二倍パネルや行動アクション追加パネル、コインやハートが入っている事が多かったが、火ガミとの戦いの時には水ガミの魔法陣が隠されていた。
    それらを踏まえれば、あまりにも少なすぎるパネルの所在はひとつしかない。

    マリオはルートを作っていったが、思い通りに行かないようで苦渋の決断で箱を開けるためだけのルートを作り出した。
    ルートを進んで行き箱を開くと、中から大量のパネルが飛び出してきた。ラインナップはカミの手魔法陣に火ガミ魔法陣、アクションパネルやコインなど、様々だ。


    「あらっ、箱の中からパネルがいっぱい!
    そっか!セロハンテープはここにパネルを隠してたのね!」

    「ウワアァーー!オレっちが片付けといたゴミを散らかしやがって!クソー!」

    「ご、ゴミって!パネルはゴミなんかじゃないですわよ!必要な物です!」


    ギャアと嘆くようにのたまうセロハンテープに対し、オリガミ帽子をピンと立てて怒った様子で指摘するオリビア。確かにマリオ達にとってパネルは必要な物だが、セロハンテープにとっては不要な物。…とはいえ、ゴミは言い過ぎだと思うが。
    片付けていたパネルをリング上にばら撒かれて、少しテンションの下がっていたセロハンテープ。彼の視線はアクションパネルに止まれなかったため転けているマリオに向いた。格好のつかない様子の相手へ小馬鹿にするように笑ったセロハンテープは声をかける。


    「何だよ、箱を開けるので精一杯だったのか?そんなんじゃあオレっちには勝てねェぞ!オラオラ喰らえギザギザドリルーーーッ!!」


    語りながら飛び上がり、回転しながらなおも喋っているセロハンテープ。銀リングと共に本人も高速かつ逆向きで横回転しており、見ているだけでも目が回りそうだ。
    攻撃を終わらせてリングの中心へ戻るセロハンテープと外へ戻るマリオ。戻った直後から再びセロハンテープは縦向きに高速回転しながらリング上を走り回りテープを貼り付けまくって中心に再度止まる。その忙しい様子を見ていたオリビアは、デクの森で迷っていた時のようにクラクラしている。


    「セロハンテープってリングの中にいるせいで、リングと一緒に横回転したり縦回転したり…見てるとこっちの目がグルグルしちゃいそう。
    あんなにグルグル回ってたら、振り落とされたり気持ち悪くなったりしないのかしら?」

    「オゥオゥ!オレっちとリングも異体同心だぜ!目回すだの気持ち悪くなるだの、振り落とされるなんざ有り得ねェぜ!
    お前らがぶっ壊してくれやがった台、そしてこのリング、オレっちは異体同心!三つ揃ってセロハンテープたり得るンだからな!!」

    「え、じゃあ台のない今のあなたは何者なの?」

    「………………………………。

    オラァ!!!さっさとリング操作しろやァ、二ーちゃんよォ!!!テープだらけのリングの操作に怖気付いてんのか!?アァン!?」


    都合の悪い事を聞かれたセロハンテープは少し黙った後、大声で虚勢を張るようにマリオに話を振った。黙って二人の会話を聞いていたマリオは、言われた通りにリングの操作を開始する。

    厳密に言えば台はそのままテープ台、リングはテープの芯、人型はセロハンテープそのものと言ったところなので人型だけでもセロハンテープと名乗ってもおかしくはない。それでも台、リング、自分の三つでセロハンテープだと豪語し、何者と聞かれたことに対して「セロハンテープだ」と返さないあたり、彼の台やリングへの並々ならぬ強い想いが感じ取れる。

    リング操作を終えたマリオはオリビアに声をかける。どうやら一緒に行動して魔法陣を使うつもりのようだ。
    マリオ達が泊まったのは『カミの手魔法陣』。わゴムの時のように重要なダメージソースになってくれそうだ。


    「カミの手魔法陣発動ですわ!
    …で、どうするんですか?」

    「ッオイ!考え無しかよ!!!??」


    カミの手を発動させたはいいがどうするのか検討がつかない、と首をかしげるオリビアに対し思わずリングの内側からツッコミを飛ばすセロハンテープ。
    マリオはセロハンテープの銀リングとテープをじっと見つめて何か思いついたのか、銀リングを鷲掴みにした。
    ぐっと持ち上げられるセロハンテープと銀リングは、空中でくるりと回転させられ地面にギザギザ部分が突き刺さってリングが固定された。何をする気なのか、何が起きたのか状況把握の間に合っていないセロハンテープはリングの内側で慌てている。そんなセロハンテープの体から銀リングに沿って出ているテープをマリオのカミの手がしっかり掴み、勢いよく引っ張り出した。


    「あ!テープを引っこ抜いちゃえば地面を貼り付けるお邪魔なことも出来なくなりますわね!どんどん引っ張っちゃえー!!」

    「ウワアアアーー!!!ヤメローー!!乱暴に引っ張んじゃねェーーーー!!!!」


    片手で落ちそうな頭を押さえながら喚くセロハンテープは、銀リングの内側にある取っ手を強く握って力を込める。銀リングは少しずつ紫色の光に包まれたかと思うと、地面に刺さっていたギザギザの位置が上方向に移動した。マリオのカミの手で引っ張っていたテープがカットされたため、カミの手も効果切れに。
    満足気なオリビアに対し、逆さになったままのセロハンテープは苦い顔をしている。彼は重力を完全に無視している状態で銀リングに収まっているが、銀リングと彼は異体同心だからそんなものは関係ない。


    「…………心がねェ、ヒデェぞお前ら!
    あんなに雑に引っ張りやがって!オレっちの体ン中はデリケートなんだよ!イてぇだろうがァ!!」

    「あら、痛かったみたい。でもマリオさんもギザギザでグリグリされて痛いんですわよ!!
    あなたの体の中がどうなってるのか全然知りませんけど、痛いのはお互い様でしょ!?」

    「体ン中と外じゃ痛みのレベルが全然違ェだろうがァーー!!!
    あァ腹が立つ!!ギザギザドリルと貼裏魔苦離すっぞコラァーーー!!!!」


    そう喚くセロハンテープは逆さまになったままギザギザドリルを繰り出し、逆さまのまま中央に戻る。
    その後すぐ貼裏魔苦離を開始してリング上を更にテープまみれにした。今回はイライラしていたせいか、今までよりテープが多めに貼られたようだ。
    中央に戻ったセロハンテープのギザギザ部分の位置はいつの間にか元に戻っていた。走っている最中に戻したのだろうか?

    セロハンテープが戻ったのを確認し、マリオはルートを作ろうとしたが…一個のリングを動かそうとすると全てのリングが回り始める。オマケにスライドすら出来ないため、これではルートを作るも何も無い。


    「ちょっとちょっと!全部クルクル回っちゃってますわ!これじゃルートが作れません!スライドも出来ないし…このテープの嫌がらせ、流石に酷くありません!?
    でも一個ずつペリペリ剥がしてたら兄上を止められなくなりそうだし…一気に消せたらスッキリするのになぁ」


    だが、運良くアクションを起こせるようなルートが一つあったため、マリオはそのルートを進んで行った。しかしその位置は外側から二本目のリング、ここからではハンマーの攻撃が届かない。かと言ってジャンプ攻撃では、カウンターを受けてしまうだろう。
    考えた結果、マリオはゴソゴソと何かを取り出した。アイテムのフラワーを使うようだ。ファイアマリオに変身し、ファイアーボールを投げるが…


    「オゥオゥ、随分熱そうな球投げてきやがって。危ねェじゃねぇか。まあ当たらねェけど」


    セロハンテープは銀リングとくるくる回りながら、ファイアーボールを避けた。内側にはセロハンテープもいるのだが綺麗に銀リングと自分の隙間を通しており、態度や表情からしてもとっても余裕がある。
    攻撃が当たらなかったことに対し、マリオは肩をすくめる。オリビアはリング外で煽られた事に対して悔しそうな表情だ。
    相手の反応に満足気にニヤリと笑うセロハンテープはマリオの位置を確認し、何かを企むような表情を浮かべた。


    「さァて…お前はちょっと遠い位置にいるな。それならコイツだ!くらいな、ギザギザフープ!」


    銀リングが紫色の光に包まれながら跳び上がる。そしてそのままセロハンテープは銀リングから飛び出し、銀リングをマリオの方へと投げつけた。
    投擲最中に紫色の光が霧散し、そのままマリオの元へ。フラフープのようにグルグルと回転する銀リングの内側には、外側と同じようにギザギザが出現しており、それがマリオをズタズタにせんと攻撃する。
    攻撃し終わった銀リングはそのまま飛び跳ね中央に居るセロハンテープの元へ。内側の取っ手を掴むと銀リングは再び紫色の光に包まれ、内側に出現していたギザギザ部分が消えた。

    カミの手を使われていた時はギザギザ部分を移動させるのに時間がかかったのに、今回は随分と速い。テープを乱暴に引っ張られる事に痛みを感じる、という事を踏まえると恐らくは形を変える際、その事に深く集中できているか否かの問題だろう。

    中央からリング上の様子を確認したセロハンテープは、フッとマリオ達の方を見ながら再び小馬鹿にしたように笑った。


    「しっかし、こんなテープまみれじゃお前らもろくに戦えねぇよな?これじゃ勝負にならねェぜ。
    つぅわけで…まだまだ行くぜ!続・貼裏魔苦離!」


    銀リングに貼り付いていたテープが大きく伸びたかと思うと、リング上に貼り付いていたテープを全て回収した。そして再び貼裏魔苦離を行うセロハンテープ。今回はリングの内側を重点的に貼り付けたようだ。


    「オラオラ、今回の貼裏魔苦離はちったァ優しくしてやったぜ?ハンデってやつだな!」

    「く、悔しいけど…テープの貼り付けにバラツキがなくてちょっと有難いですわね!
    さて、マリオさんどうします?」


    マリオは一つのパネルに視線を向けていた。それは『火ガミ魔法陣』。このリング上にあるということは、きっと何かの役に立つに違いない。
    ルートを作り、オリビアに付いてきて貰うよう頼んだマリオは共にルートを進み、火ガミ魔法陣に辿り着いたオリビアが火ガミに変身する。そしてマリオを背に乗せ、セロハンテープに向けて炎を吐き出した。
    すると、リングに貼り付けられていたテープが全て燃えてしまった。セロハンテープも結構なダメージを食らったのが「アヂィ!!??!?」と叫び声を上げる。火ガミから元に戻ったオリビアは感心した表情を浮かべた。


    「納流歩独〜、テープって火で燃えるんですわね。マリオさんナイスファイアー!
    あ、でも燃やしたのはわたしだから、オリビアナイスファイアー!かも?」

    「クソォ…カミさまの力を四つも手に入れたってのは伊達じゃねェみてぇだな…!」

    「え?なんでカミさまの力を四つも手に入れたの、話してもないのにセロハンテープは知ってるの?」


    問われたセロハンテープはまたしても気まずそうに口を噤む。そしてそのまま何事も無かったように銀リングと飛び跳ねてギザギザドリルを繰り出す。オリビアも巻き込まれそうになったが、ギリギリでリング外へと逃げ切った。
    攻撃を終わらせたセロハンテープは、間髪入れずに幾度目かの貼裏魔苦離を行い中央に戻った。そんなセロハンテープに向かってオリビアは強気な表情を見せている。


    「ふふん、何回貼り付けたって意味無いですわ!またわたしが火ガミさまに変身して燃やしちゃいますから!」

    「ヘッ!そりゃあリングの様子をちゃあんと見てから言えよなァ!!」


    怯む様子もなく寧ろ余裕がありそうな反応を示すセロハンテープ。オリビアが言われた通りにリング上の様子を確認すると「あらっ!?」と驚きの声を上げた。


    「ONパネルもカミの手魔法陣も、火ガミ魔法陣もありませんわ!アクションパネルも心なしか少ないような…
    ハッ!もしかしてセロハンテープが貼裏魔苦離をしていた時に取ったのかも!またあの箱から出さないとダメなの?本当に嫌な事ばっかりしてきますわね!」

    「使ったモンは元あった場所に片さねェとだろ?オレっちはお前らの代わりに片付けてやってるだけだぜ!」

    「もーっ!余計なお世話ですわー!!」


    確かにその考えは正しいものだが、マリオ達にとっては手間がかかって迷惑でしかない。なんとか箱を開くルートを作り、アクションも起こせるようにしたマリオはリング上を進んで行った。

    箱を開くと先程使ったONパネルや火ガミ魔法陣、カミの手魔法陣が戻ってきた。アクションパネルに着いたが距離があるため、ジャンプや持っているアイテムくらいしか使えないがそれらは有効打にならない。マリオはキノコを使って回復し、相手の攻撃に備える事にしたようだ。

    再びギザギザフープを耐え忍んだマリオはリング外へ戻る。セロハンテープはいつものように貼裏魔苦離でリング上を縦横無尽に走り回り、中央へと戻った。
    マリオの近くに移動したオリビアは何故か少しムスッとしている。


    「わたしが火ガミさまで燃やして、セロハンテープが貼裏魔苦離して、魔法陣とONパネルを片付けて…そればっかり繰り返してたらバトルがいつまで経っても終わりません!このままじゃイクラごっこですわ!
    だからマリオさん!今はテープもあんまりありませんしこの際、カミの手でもう一回引っ張り出しちゃいません!?」


    そう言われたマリオは首をかしげて『イクラごっこ』という言葉を不思議がっていた。オリビアも少しして「…イクラじゃない?」と気づいたようだ。彼女が言いたかったのは『イタチごっこ』。

    …ともかくオリビアの提案を聞き入れたマリオは、カミの手魔法陣とONパネルを同時に通れるルートを作り、オリビアと共に進んでいく。
    セロハンテープのすぐ傍でカミの手魔法陣を発動すると、セロハンテープは嫌そうな顔をした。


    「またそれかよ!
    ハッ、でも二度も同じ手は喰らわねェぞ!」

    「あら、マリオさんはセロハンテープの攻撃から一回も逃げたり避けたりしてないのに。あなたは逃げるんですか?」

    「……………………グッ……ゥウ……ッ!!!!」


    意図したものでは無いだろうが、その発言はセロハンテープを挑発するものだった。挑発に弱い彼は歯を食いしばって唸りつつ、その場に留まっている。
    その隙にセロハンテープの銀リングを再び空中で回転させ、地面に突き刺し固定した。そしてテープを両手でしっかり持って勢いよく引っ張り出し始めた。


    「ウワァァアアア!!!!だァァかァァらァァァ!!!乱暴に引っ張んじゃねェェェエエ!!!!クソーーーーー!!!!」


    痛いと言っていた割に元気にギャーギャー喚く逆さまセロハンテープが乗って(?)いる銀リングは再び紫色に光り始める。またあの時のようにギザギザ部分の位置を変えるのだろう。
    マリオがテープを引っ張り出すのに集中しているのに対し、オリビアは再びキョロキョロと辺りを見回していた。


    「また声ですわ!…もしかしてあの石像さん?どうして笑ってるのかしら?」


    紙テープが設置されている場所の屋根上にある白い石像を見て首を傾げるオリビア。
    少しして「お前ェー!!!」というセロハンテープの絶叫が。先程よりも声が少し枯れており、怒りすぎで疲れているのかもしれない。何度目かのギザギザドリルを繰り出しマリオを攻撃して中央に戻るセロハンテープは、苦しそうな表情を浮かべていた。


    「ざけんじゃねぇよ……ハァ……喉イてぇ……」


    リング外に戻りその言葉を聞いたマリオは頭の上に疑問符を浮かべる。本人もそれをおかしいと思ったのか、本来なら首のある箇所に頭を押えたままそっと手を寄せていた。

    オリビアは発言の違和感に気づいていないのか、疲れた様子のセロハンテープを見て「後ちょっとかも!」と喜んでいる。


    「もうセロハンテープはヘロヘロですわ!あと一回カミの手を使っちゃえば倒せるんじゃないかしら!」

    「……ア?カミの手だと…?使わせるかよ…掴ませるかよォ!!!」


    セロハンテープは虫の息だというのに、まだ大声で叫ぶ元気がある様子。
    グルグルと銀リングごと縦回転を始め、最後の貼裏魔苦離を行う…のでは無く、そのまま少し跳んだ後に横回転し始めた。


    「あら〜またクルクル回り始めましたわね。セロハンテープは回るのが好きなのかしら?」


    貼裏魔苦離を使わなかったせいかカミの手魔法陣とONパネルはリング上に残ったまま。マリオは少し考えるような仕草をしたが、カミの手を使うためのルートを作ったようだ。
    魔法陣に止まり、カミの手を発動したマリオは高速で回転しているセロハンテープを掴もうとする。が…クルクル回っているせいで掴めそうにも無い。


    「ヘイヘイ!スピン中のオレっちは誰にも止められないぜーっ!」

    「オレっちの台詞を勝手に代弁するんじゃねェー!!」


    セロハンテープはリングの中心でそう喚いたが、オリビアは悪びれる様子もなく少し照れているような顔をしていた。アクションターンを無駄に消費してしまったマリオを置いて、セロハンテープは回転を止めた。
    遠く離れているマリオの方に向き直り、高く飛び上がった銀リング。


    「オレっちとリングの本気を見せてやらァ!!喰らえやギザギザフープ!!!」

    「ギザギザフープはさっきから何回もやってた攻撃ですけど、何か違うのかしら?」


    空中で紫色に光り輝きながらマリオの方へ飛んでいく銀リングと、リングの中央に着地するセロハンテープ。何度か受けたリングの連続攻撃がマリオを襲う。オリビアは本気の攻撃が普段の攻撃と何が違うのか分からないという様子でその光景を見ていた。
    一通り攻撃を終えた銀リングは飛び跳ねてマリオから離れセロハンテープの元へ戻って…行かず。


    「オラオラ!!おかわりくれてやらァ!!!」


    銀リングはその場で少しクルクル回転した後、もう一度マリオに倒れ込んで攻撃する。油断していたマリオはニ回目の攻撃をガードできず、モロに受けてしまった。
    ピョンと跳ねてセロハンテープの元へ戻って行った銀リング。その動きは自分の意思を持っているようにも見えた。

    リング外へ戻ったものの、疲れた様子を見せるマリオ。体は所々にシワや傷が付いており、相当なダメージを受けたのが目に見えてわかる。オリビアは心配した様子でマリオへと近づく。


    「マリオさん大丈夫?まさか二回連続で攻撃を仕掛けてくるなんて思いませんでしたわ」

    「ヘッヘッヘ、一回きりだと油断してやがったな!言ったろ?『オレっち』と『リング』の本気だってよ!!」


    余裕そうにリングの中央で笑うセロハンテープ。相変わらず声は少し枯れているが。
    セロハンテープは弱っているマリオの方を見ながら挑発するように手を動かし、言葉を続ける。


    「さぁさ、最後のルートを作りな。まあそんなにクシャクシャな体じゃ、ろくにリングも動かせねェかもしれねぇけどな!」


    疲れた表情を見せていたマリオはムッとした表情に変わる。追い込まれているものの諦めてはいないようだ。
    ルートを作ったマリオがオリビアと共に移動を始め、ONパネルを踏んだのを見てセロハンテープの表情が少しだけ歪む。そしてマリオがカミの手魔法陣に止まった時、凄まじく嫌そうな顔をした。
    カミの手を発動したマリオの隣で、オリビアは胸を張って自信満々な表情を見せる。


    「最後のルート、作りましたわよ!」

    「…………………………」


    少しだけ後ろに下がり逃げようとしたセロハンテープと銀リングをマリオのカミの手ががっちりと掴む。空中で回転させ、地面に固定してテープを引っ張り出すと、逆さまセロハンテープはリングの内側で情けなくぎゃあぎゃあ喚き始めた。


    「アアア〜!!イヤだ〜〜!!!助けてくれ〜!!もう粘着しねぇよォ!!つうか出来ねぇよォ〜!!!
    引っ張られんの本当にイてぇんだよ〜!!やめてくれ〜!!!オリー様何とかしてくれよォ〜!!!」

    「き、急に弱気になりましたわね!?それでも男なんですかあなた!!」

    「ウワァ〜〜!オレっち男じゃねェよ〜!!
    ただの文房具だからよォ〜!!!見逃してくれェ〜!!」

    「う、うーん…」


    あまりにも情けない声で喚き散らすセロハンテープに対し、オリビアは同情の眼差しを向け、困った様子でマリオの方を見る。視線を向けられたマリオはオリビアの方を見て、泣き喚くセロハンテープの向こう側にある紫色の紙テープに視線を向けた。
    紙テープを見てオリビアはハッとした表情をし、キッと目付きを強気なものに変えた。


    「ダメです!わたしたちは兄上を止めるため、紙テープを壊さないといけないの!!あなたを倒さないと紙テープは壊せないんですから、見逃すなんて出来ないですわ!マリオさん、一気にやっちゃえば痛いのもきっと一瞬で終わります!」


    マリオは頷き、セロハンテープの体から出ているテープを思いっきり引っ張る。そして、『ブチッ』と何かが千切れるような小さな音と共にセロハンテープと銀リングはゴロゴロと転がってリング上から姿を消す。
    観客のキノピオ達から二人の勝利を讃える歓声を貰いながら、バトルは終了した。


    「さて!紫テープを壊さなきゃですけど…セロハンテープはどこ?」


    二人がセロハンテープの消えた方…紫の紙テープが設置されている場所に近づくと、柵に引っかかって塔から落ちずに済んだようだ。
    銀リングの中央に蹲るようにしているテープをほぼ全て失った体は、そこで文字通り頭を抱えていた。その体と銀リングからは既に光が漏れており、彼の消滅の運命を告げている。そのことに気づいたのか、セロハンテープはポツリと呟く。


    「あ、オレっちもしかして……!
    ウワァ〜!オリー様ァ、オレっちまだ消えたくねぇよ〜!台のカタキもとれねぇまま…くたばりたくねェよォ〜!!
    うぅ……く、ふ……ふ………」


    悲しみからか、悔しさからか。体を微かに揺らしたセロハンテープはそのまま強い光に包まれ…

    銀リングと共に、その肉体を消失させた。


    彼が居た場所から小さな光が現れ紙テープの近くへ移動していき、光が地面に触れると魔法陣が出現した。それを視線で追っていたオリビアはスッとセロハンテープの居た方へと視線を戻す。


    「……なんだか、悪いことしちゃったみたいですわ。あんなに悲しそうにされちゃったら。
    でも何かしら…笑ってるようにも見えましたわね。気のせいだと思いますけど…」


    マリオもセロハンテープのいた場所を見つめていたが、魔法陣の方へ移動したオリビアに呼ばれて直ぐにその元へと向かった。





    ───────────────





    「セロハンテープ負けちゃったね、残念残念。
    でも頑張ってたから褒めてあげるよ。拍手〜!もう居ないけどね〜!」


    ウナバラタワーの陸地、とぐろを巻いた黒い手に座ってポスポスと拍手しているのはハサミ。セロハンテープに帰れと言われたというのに帰っていなかったようで、バトルの観戦をこっそりしていたようだ。

    手を下ろしたハサミはそっと顔を上に向け、ある光景を眺めていた。パラパラと空から降ってくる薄っぺらい紙が一枚、また一枚と海に落ちていく。
    為す術なく海に沈んでいく薄っぺらい紙を見て、ハサミは楽しそうに笑顔をうかべた。


    「アハハ!最後の置き土産だね、沈め沈め〜!

    ……はー。にしても悪趣味ヤローだなんて、セロハンテープに言われたくなかったなあ。
    外壁に貼り付けてたキノピオ達、自分が負けたら海に放り出されるの分かってて笑ってたんだろうし。こんなことしてるセロハンテープの方がよっぽど悪趣味ヤローでしょ」


    海から空に向けた瞳が、バラバラに壊れていく紫色の紙テープを映す。それを確認したハサミは黒い手を体に巻き付かせてふわりと浮かんだ。

    次に奴らが訪れるのは…『天空スパーランド』、そこに墜落した城の中にある緑の紙テープの元。守護を任されている少年は未だパラパラと舞う紙の合間を縫い、天空へと姿を消した。





    《ウナバラタワーキノピオ救出率 『----』》
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