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    だみだんだり

    中身が全く無い日記を2020年12月19日から描いていました(過去形)
    【2021年3月31日】タグを付けました[ギャレツのクソ日記]
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    だみだんだり

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    警告:オリビア、ブンボー軍団擬人化(三回目)。100%妄言。ブ軍の容姿はポイピクである程度確認できます、服に統一感のある奴らです。

    内容:ミハラシ山、ミハラシタワーのイロエンピツサイドの妄想話。

    改変がある。飛行チートはやめよう!

    塔の上の監視者ピクニックロードを抜けた先、オリガミの帽子をかぶった少女がミハラシ山を麓から見上げる。その目に映るのは、大きな赤い紙テープ。視線はテープを辿って、山の頂上にある大きな建物にピタリと止まった。


    「えー?赤の紙テープが…
    たっかーい!あんな所に絡まっちゃってます!あそこまで登らないといけないの?こりゃ大変だー!」


    少女は困ったように眉を下げていたが、「ううん」と首を振って表情をキリッとさせた。そして隣にいた赤い帽子を被った薄っぺらい体の男に声をかける。


    「弱気になっちゃダメですわ!がんばれ、わたし!
    マリオさんも一緒に頑張って登りましょうね!」


    両手をぎゅっと握って頑張ろうとポーズを取ると、マリオは同意するようにピョンと飛び跳ねた。そして二人は早足で山を登り始める。





    ───その光景を遠くから見つめる一人の影。


    「ああ、やっぱり。妹様も一緒か」


    ミハラシタワーの最上階から単眼鏡を使って麓の様子を覗き見ていた髪の長い男は、やたらと長いしたまつ毛が特徴的な目から道具を離し、困ったような表情を浮かべた。


    「オリー様の言っていた通り…やるしかないざんスねぇ…」





    ───────────────



    このミハラシタワーに訪れるよりも前の事。
    オリガミの王冠を頭に乗せた少年・オリーは机に向かってオリガミを折っていたのだが、突然部屋にいた者たちの名を呼んで己の傍へ集まるよう指示した。


    「もう出来たの?」


    部屋にいる者の中で最も小柄な少年は、これまた最も遅い足取りでオリーに近づき椅子に座っていた少年を見上げ、作業の進捗を問いかける。オリーは小さく首を横に振り、完了していない事を伝える。
    何故呼ばれたのか分からない六人は、それぞれ不思議そうな顔をした。彼らの様子を気にする事もなく、オリーは六人を呼んだ理由を告げる。


    「お前達に話しておくことがある。私の妹…『オリビア』の事だ。

    オリビアが出来上がったとしても、私の元に付くとは限らない。私の野望を邪魔しないと言いきれない。……何となく、そう思うのだ。

    そうなったとすれば妹だろうと関係ない、壁の中にでも閉じ込めるつもりだ。しかしそれでも尚、誰かの手を借りて私に逆らうようであれば。私の野望を邪魔するのであれば、その時は…

    私の妹ではなく、敵として扱え。…決して容赦はするな」


    冷たくそう言い放つオリー。少しの間静寂が訪れたが、「はーい」「うーい」と不真面目そうな声が二つ上がった。それにつられるように不揃いな了承の声が続く。

    全員が了承したのを確認したオリーは再びテーブルに向かい、作業を再開した。
    その場から離れる途中、本棚に近づいていく青髪の人物へ小さく声をかけたのは、カラフルな十二色に染まった毛先を色ごとにまとめている長髪の男。その体に脚や腕は無く、男の体と傍にある白い手袋は浮遊している。


    「……わゴム、どう思ったざんス?」

    「どうって何がだヨン」

    「オリー様ざんス、分かって言ってるだろおまえ…」


    男は不満ありげに青髪の人物──わゴムをじろりと見つめる。わゴムはちらりと視線を向けた後に、目を逸らすように本棚の方を見つめた。
    何かの小説本を手に取ったわゴムはパラパラと中身を捲りながら、男の問いに答える。


    「非情になりきれていない…妹という存在はやっぱり大きいんだろうね。あんなふうに言ってたけど、それはオリー様の本心じゃない。
    自分の野望を叶えるためとはいえ、本当はそんな事したくないんだヨン。かわいい妹だからね。…イロエンピツ、アンタもそう感じたのかヨン?」

    「まあ、そうざんス。けど…おまえの方がそういうの感じやすいだろうと思ったから確認がてら…」


    そう言いながらわゴムの顔を見ると、相手はニヤア…と恍惚とした満足そうな表情を浮かべていた。その口からはぎらりと鋭い牙が覗いており、その表情に少しの不気味さを醸し出していた。
    イロエンピツと呼ばれた男はその顔に引いたのか、眉をひそめて相手から少し距離をとった。


    「ああ、やっぱり。ワタクシって外側だけでなく観察力も完璧だから…」


    相手の反応など気にしていないのか、ブツブツと自惚れた独り言を始めるわゴム。イロエンピツはゆっくりと視線を逸らし、その場から離れた。




    ─────────────




    オリーは妹だろうが容赦するな、手を抜くなと言っていたが、それでも彼は妹の事を気にかけているのだろう、というのが自分の中での結論だった。
    故に彼女を相手取る事、並びに彼女を傷つける事にあまり気が進まないのだ。しかし、オリーの命令に逆らうつもりもないから、結局『プラン通り』に計画を遂行するしかない。

    はぁ、と息を吐いて再び単眼鏡で二人組の様子を探る。何やら三体のノコノコ達と一緒に道の叩き売りの商品を見ているようだ。

    何をしているんだ…と呆れながら見つめていると、売り手のチョロプーが出したのは不思議な模様のついた玉。それを見たイロエンピツは思わずウゲェ!と声を上げる。


    「おいおい、ありゃ確か…土ガミ寺院とやらのナントカボールじゃないざんスか!オリー様が土ガミ寺院で御用を済ませた後、侵入出来ないようオリガミ兵たちが回収して隠す手筈だったってのに…ドジなオリガミ兵が落としたざんスかねぇ…」


    そのままジッと見ていると、どうやらマリオは値切っているようだ。さっきからマリオが首を横に振っては、チョロプーがテーブルをバシンと叩く行為を繰り返している。


    「ケチくさい奴ざんスね〜。何コインか知らないけどさっさと買え…いや、買わない方が良いか」


    暫くその問答を続けた後、マリオがバッと手を挙げた。どうやら交渉が成立したようだ。
    イロエンピツはチッ、と舌を鳴らして「高値で売ると決めたら最後まで…」などと玉を売った店主にブツブツ文句を言った。

    マリオが不思議な玉を手に入れたのを確認したイロエンピツは、単眼鏡から顔を離して別の場所に焦点を当てた。それは、ミハラシ山途中にある白い橋。
    近くにいるオリガミクリボーは、マリオ達の動向を伺っており、傍にはハリボテクリボーが一体鎮座している。

    橋の向かい側に単眼鏡を動かすと、マリオ達はちゃんと道なりに白い橋の方へ向かってきた。それを見てイロエンピツはニヤリと笑う。


    「クックック、その先の橋は狭いざんスよぉ〜?ハリボテクリボーを避けて通る事など不可能ざんス!橋から落ちたらサイコーざん…ス…が……あ、あれ?」


    自信満々に語っていたイロエンピツの言葉が途切れる。単眼鏡越しに映っている二人組は、道の途中にある赤いキラキラしたドカンに興味を持ったらしく、貼り付けてあったオリーシールをひっぺがしそのままドカンに入って行ってしまった。

    単眼鏡を目から離したイロエンピツは、無表情で何も無い虚空を見つめた。そして一言。


    「目先にある珍しい物に惑わされるとか子供かよ」



    ──────────



    暫くして、再び赤いキラキラしたドカンからミハラシ山に戻ってきたマリオたち。何か良い事でもあったのか、オリビアはホクホク顔だ。


    一方、単眼鏡で追うべき対象を失い暇を持て余していたイロエンピツは、遠くにある青い紙テープの映える赤い山を単眼鏡で見つめていた。勿論、ドカンから戻ってきたマリオたちには気づいていなかった。

    このタワーの最上階に赤い紙テープを設置し、オリーの力で地面を盛り上げて侵入をほぼほぼ不可能な状態にした。その後にオリーと三人の仲間はゴンドラに乗り込み、あの赤い山へと向かったのだ。


    「……ミーも行きたかったざんス」


    あの山は『モミジ山』というらしく、自分達が最初にいた部屋に置かれていた本で山の景色は見たのだが、赤く染まった山に流れる一筋の青い川。そこに浮かぶ赤いモミジが実に美しい山だった。
    写真を見た時、実物を己の目で見てその光景を描いてみたい、と思っていた。故にポツリとそのような言葉が不意をついて口から零れた。


    その願いが叶うのは、オリーの野望が成就してからの事だろう。イロエンピツはモミジ山を見つめるのを止めて、くるりと反対側へと向かう。そろそろ帰ってきてるのではないかと思い、白い橋の方に単眼鏡を向ける。

    しかしそこにマリオたちの姿はなく、あったのはハリボテクリボーの破片。単眼鏡を外して「いつの間に!?」と叫びイロエンピツはもう一度単眼鏡を覗き込む。…やはり、橋には茶色の紙くずしか落ちていない。
    口をへの字型に曲げたまま、イロエンピツは単眼鏡で標的を探す。少しして単眼鏡とその所有者の動きはピタリと止まり、曲げたままの口をゆっくりと開く。


    「…………あいつら何やってるざんス」


    その目に映ったのは、釣りをするマリオと傍で応援しているオリビアとノコノコ。
    …何だか真面目に仕事をしているこちらがバカらしく思えるくらい、マリオたちはミハラシ山をエンジョイしている気がする。イロエンピツは何故だか少しだけ悔しい気持ちになった。

    マリオが釣り上げたのは丸々としたオリガミのプクプク。オリガミのプクプクは釣り上げられた勢いのままマリオたちに襲いかかった。
    その状況を気にする様子もなく、イロエンピツは眉をひそめて「うん?」と不思議そうな声を出した。


    「オリガミのプクプクは確かにいたざんスが…あんな丸々としたヤツ居なかった気が…」


    疑問符を頭の上に浮かべながら、マリオたちの状況を見続ける。やはり地上では分が悪いのか、水生生物であるオリガミプクプクは簡単に倒されてしまった。丸々とした個体が倒れると、カミッペラと共に不思議な模様のついた丸い玉が現れた。ゲゲェ!と再び変な声を上げたイロエンピツは顔を歪める。


    「またナントカボール…誰ざんス!あれを川に落としたのは!
    ……いや、もしかしてオリガミ兵なりに隠そうとしたのか?にしてもサカナに食わせるなんて、大胆な事するざんスねぇ…」


    不思議な玉を手に入れたマリオたちは、その場を離れて山の頂上に向かって坂へ向かう。動向を確認したイロエンピツは、今度こそと言わんばかりに怪しい笑みを浮かべる。
    坂を登りきるその直前、大きなドッスンが落下してきた。先頭のマリオは間一髪で避けたが、ドッスン達は対象を踏み潰そうとどんどん落ちてくる。

    何とか助かったマリオたちだったが、坂道はドッスンで満員だ。マリオとオリビアが坂道の前で途方に暮れている様子を、イロエンピツはニヤニヤしながら眺めていた。
    オリビアはキョロキョロと辺りを見回す。何か役に立つものは無いか探しているのだろう。だが、そんな物はどこにも無い。


    「クックック!諦めておうちに帰って、大人しくオリー様によって作り替えられる世界を待つといいざんス!」


    勝ち誇った態度をとるイロエンピツ。しかし、オリビアは何かを見つけたらしく帽子をピンと立てて指をさしている。
    何を見つけたってあの巨大なドッスンをどうにか出来る物なんてありはしない。一体何を見つけたのか一応見ておくか、という軽い気持ちでオリビアの指し示す方へと単眼鏡を動かすと…


    「…………………………スター?」


    坂のすぐ近くに生えていた木の上に光り輝くスターが。予想外すぎて思わず物凄く気の抜けた声を出してしまったイロエンピツ。
    あんな危険なもの無かったはずだが、もしかしてドッスンが振動を与えたからどこかから落ちてきたのだろうか。
    マリオはハンマーで木を揺らし、スター状態になり道を塞ぐドッスン達を蹴散らして先に進んで行った。道中に奇襲作戦を立てて配置していたオリガミトゲゾー達もスター状態の敵ではない。一撃も与えられずに一撃で倒されてしまった。
    タワーのすぐ近くまでやってきた二人組を肉眼で見下ろしながら、イロエンピツは引きつった笑みを浮かべていた。


    「運も実力の内、ってやつざんスか…」


    しかし、このミハラシタワーに入るには盛り上げられた土をどうにかしなければならない。オリビアにその力はないし、土ガミ寺院に行ったところでオリーの手が下され正気を失った土ガミの力を借りれるわけも無い。

    だが、イロエンピツは油断しなかった。今まで散々想定外の事をされたが、全て想定していなかった訳では無い。道を塞ぐためのハリボテクリボーが倒される事だって想定していた。……自分が知らない間に倒されていたのには、つい驚いてしまったが。
    オリビアはオリーの妹。土ガミの力を使役する事がオリーに出来てオリビアには出来ないと断言はできない。
    フッ、とイロエンピツは一方的に二人を見下ろしながら軽く笑う。


    「さぁ…どうするざんス?ま、どう出たとしても対処法はミーの手の内にあるけどね!」


    タワーの元まで来たマリオたちは、盛り上がった土と魔法陣を見比べて何か話した後にミハラシタワーの外れにある大きなコートに向かって行った。
    コートでは巨大ハリボテヘイホーが三体集まってサッカーをしていて、玉は例の不思議な玉。イロエンピツは少し不満そうな顔をしながらその光景を見つめる。


    「何でアイツらはサッカーやってるざんス?真面目に仕事してるミーが本当にバカみたいじゃないざんスか」


    そう言うイロエンピツも、オリガミ兵にミハラシタワー内部にスカスカ穴を作らせたりキノピオを拘束させている最中にタワーの壁や床にラクガキしていたのだが。
    マリオがハンマーを使ったパスカットで巨大ハリボテヘイホーから不思議な玉を奪い取る。その後体当たりしてきた巨大ハリボテヘイホー三体をなんとか破壊し、三人のキノピオを救出したマリオたちは、近くにあったドカンに入って行った。

    あのドカンは確か土ガミ寺院の近くに通じていた筈。暫く帰ってこない事を察知したイロエンピツは階段を降りて、もう一度しっかりとミハラシタワーの内部状況を確認することにした。


    まずは四階、展望フロア。
    ここにはオリガミ兵の手を加えておらず、今後の計画も踏まえた上で青いキノピオを色鉛筆に偽装しエレベーターに引っ付けている。
    床には十二色の色鉛筆を使った、どこか懐かしさを感じる絵を大きく描いていて、その絵はこの階でくたばるマリオの可能性を示唆している。

    梯子を使わずふわりと下の階へと降り、次は三階にあるオープンカフェスペース。
    こちらもオリガミ兵の手は加えていない。真っ白で絵を描くのにはちょうど良いと思ったため、塔の中心の壁に風のように駆ける馬の絵を描いていた。


    「オリー様が作り替えてもここは残るかな。もし残ればミーがさらに壁や床に絵の飾り付けを……
    ああ、いやいや。まだ先の話ざんス、ミーってば気が早いざんスね〜」


    ヘラヘラと独り言を言いながら更に下の階へと向かう。二階から三階に上るための階段はスカスカになっており、カミッペラがない限り登ることは不可能。外に出て補充すれば良い話だが、そこに関しても対策済みだ。

    壁に貼り付けられているキノピオを横目に扉を開いてエレベーターホールを通り、レストランの中へと入る。このレストランの人気料理は『オムライス』。誰かが食べようとしていたのか、テーブルの上には手をつけられていないオムライスが二皿置かれている。
    それを見たイロエンピツはボソリと呟く。


    「……オムライスってどんな味なんだろ」


    今の今まで物を食べた事は一度もない。初めて目にした食品に興味が湧いたが、今は仕事中なので食べる訳には行かない。

    調理場も覗いて、特にこれといって異常はないことを確認したイロエンピツは、エレベーターホール付近の階段から一階に降りていった。


    一階と二階を繋ぐ階段もスカスカになっており、更にはエントランスの中心にも巨大なスカスカ穴。この両方のスカスカ穴を塞ぐには大量のカミッペラが必要になるだろう。
    計画通りに物事が進むことを前提に考えると、オリビアがマリオに渡したであろうカミッペラ袋の容量では、このエントランスホールの大穴を塞ぐのにほぼ使い切ってしまう筈。

    階段のスカスカ穴も塞ごうと思ってもカミッペラが足りない。そうなれば外に出てカミッペラの補充を行うか、エレベーターに乗って上の階へ向かおうとするだろう。


    「クックック……どちらを選んでも対策済み。徹底的に追い込んでやるざんス」


    一通り見て回ったイロエンピツは元来た道を引き返して行った。最上階に着いた男は暇を持て余し、再び赤い山を単眼鏡で観察し始めた。




    ───────────




    それから暫くして…タワー全体が大きな揺れに襲われた。イロエンピツは浮遊しているので普通は気づかないのだが、ちょうど柵に手を当てていたためその揺れに気づき、そそくさとタワー入口方面へと移動した。

    体を乗り出して下を見ると、大きなオリガミのカメがポンポンを持って不思議な動き(踊り?)をしている。意味のわからない状況に一瞬思考が止まったが、直ぐにそれがオリビアだと理解した。


    「……カミの力を使えるようになったざんスか。流石は妹様。
    さあて、これからどうするざんス?どうしようとミーには策がある、そう簡単に物事は進まないざんスよ」


    タワー内に侵入した二人組。しばらく下の様子を見ていると、カミッペラを補充しようとしたのか扉が少し開くのが見えた。
    ニヤリと笑ったイロエンピツが腰の長いベルトを後ろ向きに引っ張っると、服の内側に十二本の色鉛筆…いや、ミサイルが垂れ下がるように現れた。今度はベルトを下方に引っ張ると、その内の二本のミサイルが上空へ飛んで行き、タワーの入口前を封鎖するようにクロス状に地面へ突き刺さる。
    扉は何度かガタガタと揺れたが、ミサイルが邪魔で開かない。囚われた者は開けるのを諦めたようで、扉の動きはすぐに無くなった。


    「これで逃げ場は無くなった、カミッペラの補充も出来ないから階段から上るのも不可能。それなら選ぶのはただ一つ。

    さぁ、エレベーターに乗るざんス。熱〜い歓迎をしてやるざんスよ」


    そう言いつつもイロエンピツはエレベーターのある展望フロアに降りない。じっと何かを待っているようにその場から動かず、目を閉じて小さく数字を数え始めた。
    その数字が「10」になった辺りでイロエンピツがグッと自分のベルトを握りしめる。数字が「1」になった時、イロエンピツはベルトを下方に引っ張りミサイルが四本発射された。

    四本のミサイルは一度上空に上った後、床をぶち抜き下の階へ。直後、真下から激しい衝突音とやかましい機械の音が響き、「シタヘマイリマース!」という絶叫に近しい声が最上階に居座るイロエンピツから離れていった。


    「…ふん、やはりこの程度では仕留められなかったざんスか」


    声を聞いて標的が無事だと察知したようで、そう呟いたイロエンピツは頬杖を付くように顔を浮遊している手で押さえながら下の方を見始めた。次の狙い目は『カフェスペース』。

    …しかし、そこに向かうには一階と二階にあるスカスカの階段をなんとかしなければならない。一階ではエレベーターでの襲撃を受け、消耗しているであろうマリオ達を襲うようにオリガミ兵に指示をしている。倒される事も踏まえれば、オリガミ兵の出すカミッペラを使って二階に上がることは出来るだろう。

    だが、一階に待機しているオリガミ兵は一階と二階にあるスカスカ穴を両方塞げる程のカミッペラは出さない。外に出てカミッペラの補充が出来ないマリオたちはどうやって三階に上るのか?

    その方法は不確定ながら一つある。

    それは、『レストランのシェフ』。

    レストランには手付かずのオムライスが二皿あった。それを調理した者は必ず居るはずだ。
    レストラン襲撃の際に居たキノピオ達はオリガミ兵に任せ、イロエンピツは壁や物にラクガキをしていた。その時さり気なく辺りの様子を見ていたのだが、それらしき人物を見た記憶はなかった。勿論、先程見回った時も同じく。

    一度も姿を確認していないレストランのシェフが、上手いことどこかに隠れており、何らかの手助けをする可能性は『ゼロではない』。
    それがイロエンピツの中で出した結論であった。

    常に様々な事象を予想して行動せよ、自分の思い通りに全てが上手くいくと思い込むな。
    それは自分の信条であり、自分とは毛色の違う計画を立てていた仲間にも「一応」伝えた事だ。……ヤツのことだ、そんなに深く受け止めてはいないだろうが。


    「あらゆる事態を想定して多くの策を練る事は悪い事ではないざんス。あの阿呆にゃ無理だろうが…パッとした思いつきで行動しそうだしな…」


    ヘラヘラとした「ヤツ」の顔を思い浮かべて苦笑いを浮かべる。自分と違ってあまり深く考えていなさそうで(実際そうだが)、オリー様への対応も基本的にかなり適当。
    しかし、人の話は(聞いていなさそうな返事ばかりなのに)しっかり聞いて自分なりに解釈したり、自分の知らない情報に対する飲み込みが早いあたり、物分りはかなり良い方だと思う。


    「まあアイツの出番は無いかもしれないざんスが。…っと、来たざんスね」


    仲間のことを考えてながら待機していると、下のカフェスペースに目的の二人が現れた。
    あそこの階段は上れないようにスカスカ穴にしておいた筈だが。やはり誰かがあの二人に手を貸したのだろう。
    しかしそれも想定済みだったイロエンピツは柵から少し離れ、残っていた六本のミサイルを下のカフェスペースに向けて一本ずつ、リロードを挟みつつタイミングをずらしながら放った。

    扉を開こうとしていたマリオたちは突如現れた色鉛筆ミサイルに驚き、飛んで避けたりハンマーで殴り飛ばしたりしていた。
    標的に向けて何本か撃ったイロエンピツは、再び柵に近づいて下の様子を見る。薄っぺらくてよく分からないが、マリオ達はどこかから飛んでくるミサイルを警戒している様子だ。


    「ふふん、左右だけじゃないざんスよぉ?ちゃ〜んと下も上も、『垂直』も!警戒するんだな!!」


    イロエンピツが浮遊している手を動かし、オリビアの方を指す。滞空していたミサイルはその手の動きに従うようにオリビアに向けて、塔に突撃する形でオリビアへと向かっていった。
    ロックオンのマークに気づいたマリオは、慌ててオリビアに伝えようとしたが間に合わない。しかし間一髪オリビアは上に飛ぶ事で回避した。
    だが先程撃って滞空していたミサイルは二人を狙って止まらない。ミサイル達は対象をロックオンしては突撃することを繰り返している。

    そして、そのうち滞空していた最後のミサイルがカフェスペースの外壁に突撃した。老朽化していたのか、その外壁はいとも簡単に壊れてしまった。
    マリオたちは急いでカフェスペースの内側へと侵入し、上の階へ向かう為の道…外壁を伝う梯子を起動するボタンを押した。
    だがその梯子の降りるスピードはとても遅く、オリビアは思わず「おそすぎ!」と叫んだ。
    その様子を見ていたイロエンピツはなにか思いついたのか薄ら笑いを浮かべ、自分のベルトをまた引っ張った。


    「さてさて、その梯子が降りてくるまでおまえ達は生き残れるかな!?」


    カフェスペースで梯子を待つマリオたちを襲うのは、色鉛筆ミサイルの雨霰。幾度となくリロードを繰り返してミサイルを撃ちまくるイロエンピツは、何本かの狙いを適当にしつつ、二本ほどマリオにロックオンを仕掛けていた。
    狙いを全て一点集中するのではなく、敢えてめちゃくちゃにしておくことで行動の自由を奪うことが出来る。引き返した時にミサイルが直撃するように、いつどこに落ちるのか分からないという状況で冷静さを欠かせて混乱するように。

    梯子が降りてくるまでの時間は知らないが、そのようなもの下を見れば分かる。感情による動きが分かりやすいオリビアが何かしらの反応を見せた時…そう、今がその時!


    「これに耐えられたら褒めてやるざんス!!!」


    撃ちまくっている最中、イロエンピツは数十本のミサイルをカフェスペースの真上に滞空させていた。

    このミサイル能力は扱いが難しく、ベルトを引っ張る方向や力加減によって様々な事が決まる。
    「正面方向に全弾発射」は前方に、「リロード」は後方に、「飛ばす本数を決めて発射」は下方に、「特別な技」は上方に。
    この中で特に難しいのは飛ばす本数。力加減も関わってくるため、その繊細な調整は容易ではない。

    新しくリロードした十二色のミサイルを発射すると同時に手を振り下ろし、真上に滞空していたミサイル達を一気に落とす。大量のミサイルの雨に逃げ場を無くしたマリオたちは……

    なんと、カフェスペースにあったテーブルの付属品であるパラソルの下に避難していた。二人はミサイルに当たらないように小さく縮こまっていたこともあってか、怪我は一つも無かった。


    「す…すごーい!マリオさんかしこーい!わたし、もうダメかと思ってました!ヒラメキの勝利ですわね!」


    そう褒め称えるオリビアに、マリオはグッドサインで応える。その様子を上から見ていたイロエンピツは拍手をした。勿論その音は二人には届かないが。


    「ブラボー、ブラボー。流石は英雄と讃えられる男ざんス。まさかあのカフェスペースのパラソルをミサイルの防御に使うとは。
    ……だが、まだ終わりじゃないざんスよ!」


    早く先に進もうと梯子を上り始めたマリオたちを、叩き落とそうと言わんばかりにイロエンピツが飛ばしたミサイルが左右から飛んで妨害してくる。ミサイルの量、及びそのスピードはマリオたちが上っていくほど増えていき、最後の方では恐ろしいほどの量数で襲ってきた。

    それを切り抜け、ギリギリで何とか四階の展望フロアにたどり着いたようだ。それがわかった理由は、最上階のすぐ下から声が聞こえたのが確認出来たからだ。
    ふぅと小さく息を吐き、イロエンピツは塔の上にある赤い紙テープの後ろ側へと移動する。
    企てていた作戦内容は、目的の物を見つけた二人が誰も居ないからと油断している所を陰からミサイルで狙い撃つというもの。


    「……まあ、あれを切り抜けたんだ。そう簡単にやられはしないだろうけどな」


    独り呟き、イロエンピツは息を潜めた。己が主、オリー王の野望を阻止せんと働く者たちを始末する作戦を決行する為に。




    ──────────



    四階の展望フロアを抜け、屋上へと上がったオリビア達は大きな赤い紙テープを確認した。塔壁に設置されている紙テープは、オリーマークのついた留め具で固定されているようだ。


    「紙テープありましたわ!
    赤テープはここから伸びてたのね。兄上のマークがついてるから、たぶんそうかも。
    あれを壊せばいいのかしら、ジャンプでガツンとやっちゃいます?」


    そう言われたマリオは紙テープの元へ向かい、ピョンとジャンプした。しかし、紙テープは少し跳ねただけでビクともしない。マリオは全然ダメ、と言いたげに肩をすくめる。
    オリビアは表情を曇らせて、ビクともしない理由に「ジャンプに気合いが足りないのかしら」というものを上げた。

    その時。
    赤い紙テープが固定されている塔壁の後ろ側から、二本のミサイルがマリオ目掛けて飛んできた。それに気づいたオリビアは慌ててマリオの方へと向かい、体当たりして押し倒すことで間一髪ミサイルの突撃を回避した。
    二本のミサイルは真っ直ぐにぶつかり合い、そのままお互いの勢いのせいかどこかにすっ飛んで行った。


    「危なかった!棒がほんとにしつこすぎ!」


    何度も何度も襲ってくる謎の棒ことミサイルに苛立っているのか、オリビアは少し怒り気味でそう言った。


    「おしい!もうちょっとで当たったのに!」


    突然、どこかから惜しむ声が聞こえた。その声の主を探してマリオとオリビアはキョロキョロと辺りを見回す。
    マリオがオリビアの方を見ると、その真後ろにするりと現れる怪しい人影が。半身から垂れ下がっていたのは今まで散々自分たち目掛けて飛んで来たミサイルであり、マリオは危険を感じたのか急いでオリビアをその人物から引き離した。
    急に引っ張られたオリビアは空中から床にベチンと倒れ、今度はなんなの!と言いたげに顔を赤くして怒った。

    二人の目の前に姿を現したのは、ペラペラでもオリガミでもない異質な存在。振り返ったオリビアはハッとした顔で、現れた人物の半身から見える棒を指さして声を上げる。


    「さっきから飛んできてた変な棒ですわ!あ、よく見ると色鉛筆に似てますわね。
    ……ハッ!もしかして、タワーに上手な食べ物や兄上を描いてたり、わたし達に危ない棒を飛ばして来たのはあなた!?」

    「そうざんスよ!しかし、あの梯子での追い討ちを潜り抜け、更には不意打ちまで回避してここまでたどり着くなんて…なかなかやるざんスね〜!」

    「えへへ〜それほどでもあるかも!
    ……じゃなくて!あなたは一体何者なの?どうしてわたし達に攻撃するの!?」


    オリビアが疑問を投げかけると、相手はバッと腕を広げるように手を下に落として声高々に叫んだ。


    「ミーはオリー様に仕えるブンボー軍団の一人、『ジャン=ピエール・イロエンピツ十二世』!!
    赤の紙テープをオリー様の敵……即ちおまえ達から守るためにミハラシ山、並びにこのタワーを占領したざんス!!
    この全ては、オリー様が支配する未来のオリガミ王国のため!!おまえのペラペラな体をキャンバスとして、ミーの華麗なミサイルアートで彩ってやるざんス!!」


    謎の存在ことイロエンピツから『オリー』という名前が出たことに驚いた表情を見せるオリビア。マリオは初めて出会うオリガミではない未知の敵に警戒している様子だった。

    下に降りていたイロエンピツの左手は即座にベルトを握り、ぐっと前方へと引っ張る。垂れ下がっていたミサイル達が地面スレスレでUターンして一斉に上に飛んで行ったのにつられ、オリビアとマリオは顔を上に向けた。飛んで行ったミサイル達は空中で再びUターンし、マリオたちに向けて落下してきた。

    マリオとオリビアが慌てて防御の姿勢を取ると、直後に爆発音が鳴り響く。しかし、不思議なことにダメージはない。恐る恐る二人が顔を上げると、煙に紛れて床にはパネルが散らばったリングが現れていた。その中心に居座るのは、イロエンピツ。
    リングの周りにはマリオたちが今まで助けたキノピオ達がいつの間にか観客として現れており、二人に向けて応援の声を上げている。


    「おやおや、おまえと妹様は随分とコイツらに慕われているざんスね。まあ今回の敵はおまえ達だ、観客には手を出さないでやるざんスよ」


    フッ、と舐めた態度で笑うイロエンピツ。その余裕そうな表情にオリビアはムッとした表情を浮かべ、相手に文句を言おうと名前を呼ぶ。


    「ジャン…ピエ…ピエ…あーん、もう!長すぎてイロエンピツしか覚えてないですわ!
    イロエンピツ!あの棒…じゃない、ミサイルの攻撃が凄いからって調子に乗らないで!マリオさんだってミサイルに負けないくらい凄い攻撃が出来るんだから!」

    「ほぉ?ミーのミサイルに負けないくらい?是非ともそのスゴーイコウゲキを見せて欲しいざんスねぇ〜」


    そう語りながらイロエンピツはベルトを後方に引っ張り、ミサイルのリロードをする。そしてそのままベルトを下方に引っ張ってミサイルを四本飛ばした。すると、リングの一部マスにカフェスペースで飽きるほど見たロックオンマークが現れた。


    「ロックオン完了!さあさあ、次はおまえ達の番ざんスよ〜」


    イロエンピツは相変わらず余裕そうな表情でマリオたちのターンを待っている。リングの様子を少し上から確認したオリビアは、「あらら?」と声を零した。その声に反応してマリオが顔を上げる。


    「リングの上にある魔法陣のパネルが光ってませんわ。土ガミさまと戦った時は光ってたのに、今はおやすみ中なのかも。
    あ、待って!知らないパネルがありますわ!オーエヌ…おん?何かのパワーをオンにする、みたいな?
    それと、ロックオンマークもあります!あのマスを通るのは危ないかも?」


    リング上の様子をマリオにある程度伝えたオリビアは、「以上です!」と言い静かに降りてきた。情報を聞き留めたマリオは、とりあえずイロエンピツに攻撃するためのルートを作って進んだ。
    しかし、ロックオンマークを上手く避けるルートが出来なかったのか、マリオはロックオンされたマスに進んでしまった。滞空していたミサイルがマリオ目掛けて突撃し、ダメージを与える。狙い通りにマリオが被弾したことに、クックック!と笑い声を上げるイロエンピツ。
    リング外にいたオリビアが「あちゃあ!」と言いながらマリオへと声をかけた。


    「やっぱりですわ!ロックオンされてるマスを通るとミサイルが飛んでくるみたい!次は気をつけましょう!」

    「出だしからこれじゃあ、次は一本じゃ済まないかもしれないざんスねぇ」

    「次も一本で済みますわよ!」

    「……?」
    (そこは『次は一本も当たりません』とかでは…?)


    イロエンピツはその言葉に分かりやすく困惑の表情を浮かべて、反抗的で強気な表情を浮かべているオリビアを見つめた。

    一方マリオは攻撃パネルのマスに到着しており、ハンマーを取り出した。相手が浮遊しているのならジャンプで攻めた方が良さそうだが、マリオには何かしら思うところがあってハンマーを選んだのだろう。
    そう、例えばミサイルの先っちょでガードされたり。あれを踏んだらダメージを与えるどころか、こちらがダメージを受けそうだ。

    マリオは大きく振りかぶり思いっきりハンマーを相手に叩きつけた。意識がそちらに向いていなかったイロエンピツは、驚いた表情を見せながら空中でよろめいた。


    「うぐっ…いつの間に!」


    リング外で一撃を与えられたことに喜んでいるオリビアや観客のキノピオに対し、マスに着地したマリオは気を緩める様子もなく相手の出方を伺っている。
    イロエンピツが片手を下ろすと滞空していたミサイル達はマリオの通らなかったロックオンマスへ落ち、爆発した。そして残った八本のミサイルをマリオに向けると、観客達はチラホラと警戒を促す声を上げる。


    「さぁて、残ったミサイルは全部まとめておまえにプレゼントしてやるざんス!」


    イロエンピツが少し高い所へ浮かび上がり、ベルトを身体の正面に引っ張ると、垂れ下がっていた八本のミサイルが地面に向かってUターンするように発射された。空へと向かったミサイル達は順々にマリオの方へと突撃してくる。
    その全てをガードしたマリオは、一旦イロエンピツから距離をとるためにジャンプしてリング外へ戻った。

    マリオが元の位置に戻ると同時にイロエンピツは元いた高さへと降りてくる。そしてベルトを後方に引っ張ると、服の内側に再びだらりと十二本のカラフルなミサイルが現れる。
    オリビアが「えーっ!」と騒ぐ中、イロエンピツは強気な笑みを浮かべた。


    「ミサイルはまだまだ幾らでもあるざんスよ!何度でもリロードして、ミーのミサイルでおまえ達をボッコボコにしてやるざんス!!」


    イロエンピツは再びベルトを下方に引っ張って、今度は五本のミサイルを上空へ飛ばした。滞空しているミサイルを見上げてオリビアは「うーん」と唸る。


    「あの空に飛んで行ったミサイル、叩き落とせないかなって思ったけど…高すぎてカミの手でも無理そうですわ。
    そういえばあの魔法陣、まだおやすみしてますわね。…そうだ、マリオさん!次はあのONパネルを押してみて!もしかしたら魔法陣が起きてくれるかも!」


    そう語るオリビアに頷いて同意したマリオは、ルートを作り始める。一方オリビアはリングの中心に居座るイロエンピツの様子を見ていた。

    イロエンピツはマリオが行動するまでの待機中、自分のカラフルな毛先をいじったり、動いているリングの様子を眺めたり、オリビアの視線に気づいてにこりと優しく微笑んだり、真剣な顔でジッと見つめてくる相手に気まずくなったのか視線を逸らしたりしていた。
    待機中のイロエンピツを観察していたオリビアは、彼のある事…いや、『ある物』が気になった。それは…


    「あのながーいベルト、ミサイルをリロードしたり撃ったりする時に引っ張ってるけど…思いっきり引っ張ったらどうなるのかしら?」


    その言葉を聞きながらマリオはリングの操作を続けた。そしてルートを決めた後、マリオはオリビアに『一緒に行こう』と伝えた。
    しかしオリビアは困った表情を浮かべる。か弱いオリガミの彼女がマリオに着いて行ったところで足でまといになるだけ、というのは彼女自身がよく分かっていたからだ。


    「魔法陣が使えるならともかく、魔法陣がおやすみ中じゃあ、マリオさんのお手伝いができませんわ。あのONパネルだって、わたしが言ってるだけで本当に魔法陣が起きてくれるかどうかなんて…」


    マリオはふるふると首を横に振り、『いいから一緒に行こう』と熱弁した。少し不安だったようだが「…分かりましたわ!」とオリビアは了承し、マリオと共にマスを進み始めた。
    自分の周りをグルリと歩いていく二人を横目で追いつつイロエンピツは話しかける。


    「話はまとまったざんスね?仲間割れでもしたのかと思ったざんスよ。
    それにしても妹様も一緒に来るなんて…危ないざんスよ〜。ま、オリー様に手は抜くなと言われているから、相手が妹様だろうとミサイル撃つのは止めないざんスが」

    「あっ!魔法陣が光りましたわ!やっぱりこのパネルは魔法陣を起こすためにあったのね!」

    「…………………………」


    思いっきり無視され、イロエンピツは少しだけ虚しくなった。
    そんな事など露知らず、マリオ達はイロエンピツの背後に回ったようで、後ろからオリビアの元気な声が聞こえた。


    「カミの手魔法陣、発動です!」

    「困った時のカミの手魔法陣ざんスか?しっかし、そんなもの使ってミーをボコボコにしようったって、そう簡単にミーが殴られると思ったら大間違!?!!??!?」


    ベラベラと懲りずに喋っていたイロエンピツの言葉は急に途切れた。歯を食いしばってとても苦しそうな顔だ。
    「い…」と小さく呟いたイロエンピツ。そして…


    「いでぇぇぇぇええ!!痛い痛い痛いざんスゥゥゥ!!」


    爆発するように絶叫するイロエンピツ。その後ろではカミの手を使ったマリオがイロエンピツの長いベルトを思いっきり引っ張っている。
    オリビアは少し離れた場所から「もっともっと!」と応援している。


    「イロエンピツが痛がってます!ダメージが与えられてる証拠ですわ!どんどん引っ張っちゃえー!」

    「うぐぐぐ、やめるざんス!!離すざんス!!」


    そんな事を言われてもマリオは引っ張るのをやめず、魔法陣が時間切れになるまでずっと引っ張っていた。
    身体が締め付けられる地獄から開放されたイロエンピツは、リングの中心で浮かんだまま項垂れハアハアと荒い呼吸を繰り返している。その様子を見てオリビアは「…やりすぎちゃったかも?」と申し訳なさそうに呟いた。
    呼吸が落ち着いてきたイロエンピツは、未だ苦い表情だ。


    「ハァ…ふざけるな…あの程度…ダメージにも…なりゃしないざんスよ……
    見てろ…妹様がいようが…関係ないざんス……今に仕返しを……」


    イロエンピツは残ったミサイルをマリオ達に撃とうとベルトを前方に引っ張る。しかしミサイルは動かない。オリビアが首を傾げていると、イロエンピツは焦ったような表情になり「しまったぁ!」と再び絶叫に近しい声を上げた。


    「おまえ達がグイグイ引っ張ったせいでミサイルの発射口が詰まってるざんス!そ、そんな状態でミサイル発射操作なんてしたら……!!!」


    瞬間、イロエンピツの身体にあったミサイル七本が全て爆発した。マリオとオリビアは間一髪、リングの外に逃げた事で巻き込まれなかった。…そもそも小規模な爆発なので、近くにいても平気だっただろうが。

    リングの中心で倒れているイロエンピツ。その体自体は無事なようだが、本人は爆発のせいで目を回している。これは少しの間動けなさそうだ。


    「身体の中でミサイル大爆発ですわ!とっても痛そうですけど、今がチャンスです!」


    観客席のキノピオ達もこの絶大なチャンスを喜ぶように歓声を上げている。マリオもうんうんと頷いて、イロエンピツに攻撃を仕掛けるためのルートを作って進んだ。
    ジャンプで四連続攻撃を行うと、踏みつける度にイロエンピツは「うげっ」と呻き声を上げた。

    そして、イロエンピツのターン。ハッと正気に戻ったイロエンピツはふわりと浮き上がる。そして目の前に立っているマリオに向けて服の裾が浮かび上がり、発射口を向けられた。が、中は真っ暗闇で何も見えない。
    ミサイルを至近距離で撃つつもりかもしれない、とマリオは警戒している。しかし、どうやら繰り出す技はミサイルではないようだ。


    「ミサイルをリロードせずとも攻撃手段はあるざんス!近くにいたら噛み付いちゃうぞ!」


    服の裾からギラリと十二色の牙のようなものが出現し、マリオに噛み付いた。見た目通りの威力と風圧があるようで、マリオは少し仰け反りながらリングの外へと吹き飛ばされた。


    「わぁ、さっきの攻撃痛そう!イロエンピツが動けない時は、あんまり近づいて攻撃しない方がいいかもです!」

    「ふん!そんな事言ったところで、もうミーが動けなくなる事なんてないざんスよ!同じ手はくらわないざんス!」


    そう叫ぶイロエンピツ。詰まりが直ったのか後方にベルトを引っ張るとリロードが行われ、ミサイルが再び十二本垂れ下がる。下方にベルトを引っ張るとミサイルは四本飛んで行った。
    しかし先程と違うのはイロエンピツの手。ベルトを腰に巻き付けるようにした上でしっかりと握りしめ、カミの手で掴ませないように対策しているようだ。


    「あれじゃ掴めませんわ!でもグイグイ引っ張るのも可哀想でしたし…普通に攻撃します?」


    カワイソウ、と言われた事に少しムッとした表情を浮かべるイロエンピツ。しかし何も言い返さない辺り、二度も同じ事はされたくないのだろう。
    マリオがルートを作りイロエンピツの背後へと移動する。今回はロックオンされたマスを通らなかったため、ミサイルは全て外れてしまった。


    「ちぇ、全部外しちゃったかぁ」


    少し残念そうに呟く標的に対し、ハンマーを取り出したマリオはその背中を思いっきり叩いた。思わず前方に仰け反るイロエンピツ。ベルトをしっかり握っていた手も前方に強く移動してしまい、全弾射出と発射口閉鎖が重なり、発射口が詰まったようだ。


    「またミサイルがぁぁぁぁ!!!」


    そう叫びながら爆発するヤツを尻目にマリオはピョンとリング外へ戻る。オリビアは再び訪れた攻撃チャンスに無邪気に喜んでいる。


    「イロエンピツのミサイルがまた爆発しましたわ!
    そういえば、イロエンピツのベルトっていつも引っ張る方向が違ってますわね。方向によって何をするか決まってるのかなぁ、覚えるの大変そうですわ。

    ……あら?でも上方向だけ引っ張ったことないですよね?上に引っ張ると何が起こるのかしら」


    素朴な疑問を零すオリビアの話を聞きつつリング操作をし、マリオはルートを決めて再びイロエンピツの元へ。無防備な相手にジャンプ攻撃を四回お見舞いした。
    正気を取り戻したイロエンピツは攻撃を与えてきた方へと向くが、今回は先程と違ってマリオは遠くにいる。オリビアのアドバイス通り、離れた場所から攻撃していたようだ。


    「チッ!遠すぎて届かない!」


    あの「噛み付き攻撃」を与えられなかったことに対し、不満そうな顔をしている。ピョンとリング外へ戻ったマリオはまだまだ余裕そう。対してイロエンピツはベルトを握りしめ、少し焦ったような表情だ。


    「くそー危ない、このままではやられる!
    こうなったら『必殺技』を出すしかないざんス!」

    「『必殺技』ですって!?一体どんな攻撃をしてくるつもりなの!?」


    ベルトを後ろに引っ張りミサイルのリロードをした後、もう一度イロエンピツはベルトを引っ張った。その方向は今まで一度も引っ張っていない方向…そう、『上方』。
    空中で寝そべるような体勢になったイロエンピツと、マリオたちの方を向いて服の内側でぐるぐると回転し始めた十二本のミサイル。


    「名付けて!『アーティスティック・ローリングミサイル』!」

    「あ、アーティ…ティ…ティスタ?あーもう、名前だけじゃなくて技名も長いですわね!覚えられないしローリングミサイルでいいかしら。
    ミサイルがぐるぐる回ってるだけにしか見えませんけど、何かが違うのかもしれません!気をつけて、マリオさん!」


    その言葉に応えるようにピョンとジャンプをするマリオ。マリオがリング操作をしている中、観客キノピオ達の「あの姿勢しんどそう」という言葉が聞こえた。
    オリビアはじっとイロエンピツの方を観察する。確かにずっとあの体勢を保つのは疲れそうだが、彼は浮遊している。同じく浮遊しているオリビアも真似をしてみようとしたが、イロエンピツの「ちょっと!」という声に制止される。


    「ミーはともかく、女の子である妹様がそんな姿勢するのはダメざんス!ハレンチざんスよ!」

    「…はれんち?ハンカチのお友達?」


    ハレンチという言葉の意味が分からないオリビアは頭にハテナを浮かべる。しかしやめろと言われたので素直に真似をするのは止めたようだ。
    そんなやり取りをしているさ中、マリオはルートを作り終えたようだ。グルリとリングを進んでイロエンピツの後ろ側へ回り、ハンマーを使って思いっきり殴った。イロエンピツは少しよろめくように前に動き、ベルトを握っていた手も前方に動いた。
    しかし発射口は閉まらなかったようで、相手の余裕そうな声が返って来る。


    「ローリングミサイル中は発射口閉まらないざんスよ〜!オマケにこの技の発射合図は上方にしか反応しない!残念だったな、もう爆発なんてしないざんス!」


    ベラベラと必殺技の仕組みを喋るイロエンピツ。それぐらい余裕なのだろう。ニヤリと笑みを浮かべてマリオの方にぐるぐる回転しているミサイルを向け、ベルトを上方…寝そべるような姿勢のイロエンピツから見て頭の方に向けて引っ張る。
    ミサイルは三本ずつ発射され、マリオにダメージを与えながらどんどんリング外へと押し出した。

    リング外で待っていたオリビアは、急いで追い出されたマリオに近づいて声をかける。マリオは平気だよと言いたげに頷くが、かなりダメージを受けたようでその顔や体には疲れが見える。その様子を見てオリビアは眉を下げた。


    「あのミサイル、一本一本のダメージはそんなに高くないみたいだけど、十二本全部を撃たれたらすっごく痛いみたいですわね。
    でも、イロエンピツが言ってたようにもうミサイルを詰まらせて爆発させるのは無理みたいだし…」

    「クックック!諦めてここでやられるがいいざんス!」


    イロエンピツは再びリロードをし、ローリングミサイルの準備をしている。それを見ていたオリビアは「あっ!」と何か思いついたのか、コソコソとマリオに話しかける。


    「ねえねえマリオさん、わたし閃いちゃいました!あのイロエンピツのミサイル、最初の時と違って綺麗にまとまってるから…あれをカミの手で掴んじゃって!そのままイロエンピツにまとめて刺しちゃえばいいんです!」


    作戦内容にグッドサインを送り、マリオはリング操作を始める。その様子を見ていたイロエンピツは薄ら笑いを浮かべていた。


    (クックック…何を企んでいるかなんて、ミーにはお見通しざんス。後方からの手出しが出来なくなれば、あいつらはお手上げ…って訳でもなく、前方からの手を考える可能性がある。
    ミーのローリングミサイル状態はミサイルがまとまっていて掴みやすい。それをカミの手で掴んで攻撃に転用。

    ……それを防ぐ方法をミーが考えていないわけが無いだろ)


    イロエンピツの思惑通り、ローリングミサイルを構えているリングの前方にカミの手魔法陣が回ってくる。全くなんてわかりやすい…と最早哀れみの気持ちを込めて鼻で笑った。
    マリオとオリビアがマスを移動し、イロエンピツの正面に現れる。余裕な表情の相手に対し、「そんな顔できるのも今のうちよ!」とオリビアはやる気満々に発言する。


    「行きますわよ、マリオさん!掴んじゃって!」


    カミの手を発動させたマリオの両腕が大きく伸びる。その手は左右に広がり、イロエンピツのミサイルを掴もうと動く。しかし…


    「おっと、そうは問屋が卸さないざんスよ〜!!」


    突然、イロエンピツはローリングミサイル状態のままふわりと上へと逃げてしまった。マリオのカミの手がぶんぶんとイロエンピツのミサイルを掴もうと振り回されるが届かない。


    「ミサイルを奪おうなんてムダムダ〜!ざんス〜!
    魔法陣の使用時間が切れるまでここで待ってやるざんスよ〜」


    リングの上で足掻いている二人を見下ろしながらヘラヘラと笑う。イロエンピツはカミの手がスレスレで届かない位置でずっと滞空しており、完全に舐められている。
    オリビアの帽子がしゅんと折れ、「そんなぁ」と呟く。


    「わたしの作戦、上手くいくと思ったのに…
    あとちょっとで届くのに…」


    その言葉を聞いたマリオは何かに気づいたのか、鋭い目付きで滞空する余裕綽々な相手を見つめた。その視線に気づいたイロエンピツは「睨んで来ようが降りないざんスよ〜」と舌を出して煽る。
    降りてこない相手に対し、ある方法が思い浮かんでいたマリオは足に力を入れる。あとちょっとで届く、それなら…

    マリオは思いっきり地面を蹴った。カミの手を伸ばしたまま、イロエンピツに向かってジャンプしたのだ。カミの手が届かないスレスレで滞空するという舐めプをかますほど余裕だったイロエンピツは、直ぐにその体ごと掴まれた。
    突然の出来事にイロエンピツは驚き、オリビアもびっくりした表情だ。


    「ゲゲェッ!!!???!?
    跳ぶなんてズルいざんス!!!!!」


    そう叫ぶイロエンピツにハッとした表情を浮かべたオリビアは、指をさしながら大声で思いっきり言い返した。


    「イロエンピツだってわたし達の攻撃が届かない場所まで飛んでるじゃない!!!!
    ズルいのはそっちですわ!!!!」

    「ゔっ……」


    図星を突かれ、苦い顔をして唸る。その直後、イロエンピツは自分の身体がぐわんと振られる感覚に襲われた。
    着地したマリオがカミの手を使ってイロエンピツをリングの中心に叩きつける。三度世界がぐるぐると回るイロエンピツのぼんやりとした視界にカラフルな棒が映り込む。


    「やっちゃえマリオさん!ズルーいイロエンピツなんてポコポコにしちゃってくださーい!!」


    その声に応えるようにカラフルな棒が振りかぶって、何度も身体に突き刺さる。
    マリオ達の勝利を讃える観客達の声を最後に、ボッコボコにされたイロエンピツは気を失ってしまった。

    カミの手の力が無くなり元の姿に戻ったマリオの傍にオリビアが近寄る。その表情はとっても満足そう。


    「やったあ!勝ちましたわ!」


    マリオはグッドサインをして、倒した敵の方を見た。イロエンピツは口をあんぐり開けたまま、目を回して微動だにしない。
    「それで…」とオリビアが紙テープに近づきながら声を出したので、マリオはそちらの方を向いた。


    「これ、どうやって壊します?」


    赤い紙テープを守護するブンボー軍団の一人、イロエンピツを倒したのはいいが、依然として紙テープを壊す方法は分からない。
    マリオとオリビアは赤い紙テープの下でジャンプを繰り返したり、オリーマークの留め具をぱしぱし叩いたりしてみたが何も起こらない。オリビアは困った表情を浮かべた後、気絶しているイロエンピツの方を見て「あっ!」と声を上げた。


    「イロエンピツは紙テープを守ってたんだし、壊し方も知ってるかも!

    おーい!イロエンピツー!起きてーー!!」


    ぶっ倒れているイロエンピツの体を揺さぶったり叩いたりするオリビア。しかし、イロエンピツは起きる気配がない。おーいおーいと繰り返し声をかけるも、効果がなかった。
    オリビアは目をピンと閉じて「ぜんぜん起きません!」と言いながらマリオの方を見た。マリオは考える仕草をして、何か思いついたのかイロエンピツに近づいた。


    「マリオさん、なにか思いついたの?」


    マリオはぐっと構え、ピョンとイロエンピツを踏みつけた。突然の行動にオリビアは目を見開いて「ええーっ!?」と驚きの声を上げた。
    それでもイロエンピツは起きない。マリオは繰り返し何度も踏みつける。そして……


    「うぐぅ!」


    気絶していたイロエンピツが呻き声を上げ、マリオはジャンプで踏みつけるのをやめた。オリビアは相変わらず驚いた表情のまま、マリオへ疑問を投げかける。


    「お、起きた…?それにしても、なんで急に踏んづけたりしたんですか?

    ……え?むかしたくさんの仲間と冒険した場所で、ぐっすり寝ている人を起こすためにこれをやった?
    何回も踏んづけないと起きないなんて、その人はとってもねぼすけさんなのね」


    うんうんと頷くマリオ。どうやら過去の出来事から踏みつけの発想を得たようだ。
    オリビアはその話の中で出た『たくさんの仲間』が気になるらしく、いつか会ってみたいと言った。マリオもその『たくさんの仲間』に暫く会っていないのか、深く頷いた。


    「……無駄話は終わったざんスか?」


    いつの間にやら起き上がっていたボロボロのイロエンピツは、マリオ達の会話が終わるのを待っていたようだ。その顔に余裕は全く無く、二人の方を睨んでいるようにも見える。
    そちらの方を向いたオリビアは素直に「あ、はい」と返した後、自分がどうしてイロエンピツを起こしたがっていたのかを思い出したかのように帽子をピンと立てて相手に問いかけた。


    「って、そんな事より!イロエンピツは紙テープの事を守ってたでしょ?壊し方も知ってるのなら教えてください!」

    「ああ、知ってるざんスよ?でもな…教えるわけないだろ!!」


    怒った表情でイロエンピツは叫ぶ。その気迫にオリビアは気圧されたのか、小さく震えながら体を反らせ、マリオは相手の動きに警戒している。


    「ミーの大事なお仕事はただ一つ!この紙テープを守護する事ざんス!!!壊し方を教えるなんて有り得ないざんスよ!!!」

    「で、でも!あなたはもう戦えないでしょ!?そんなにボロボロの体じゃミサイルは使えないはずです!大人しくこの紙テープの壊し方を教えて!」


    オリビアの言う通りで、イロエンピツの体はミサイルを突き刺された時のダメージでボロボロ。こんな状態ではミサイルを新しくリロードする事は不可能に等しい。
    しかしイロエンピツはあらゆる可能性を考慮して、今回の『ミハラシ山及びタワー占領・紙テープ守護任務』に取り掛かっていた。無論、そのあらゆる可能性の中には自分が負けてしまった時のことも入っている。

    もし自分がペラペラに負けてしまったら。
    その時の対処法は一つだけ。


    「……デッサンの狂ったことの無いこの完璧なミーがやられるなんて……
    予想していないとでも思ったざんスか!?」

    イロエンピツはベルトを思いっきり『ナナメ』に引っ張った。ギリギリと締め付けられる感覚に苦しさを覚えるが、同時に強い熱を感じる。


    (前後に上下、それぞれがミサイルの操作をする為に使った方向。しかし『ナナメ』は長く引っ張るな、どうしようも無くなった時以外は決して使うなとオリー様に言われていたざんス。
    その理由は一つ……『ナナメ方向』の長時間引きは『自爆』だからだ!

    オリー様から頂いた魔力をこの締め付けで強制かつ急激に圧縮し、暴発させる!!)


    脳裏に浮かぶのはオリーの言葉。

    『お前達が負けた時、その体は跡形もなく消し飛ぶと思え』

    一矢報わず消えるなんて出来るものか。最後の悪あがきとして自爆をくれてやる。
    イロエンピツは憎き勝者を睨みつけ、叫ぶ。


    「アートは……アートは……!!

    アートは 爆発 ざんス!!!」


    その言葉を最後にイロエンピツの身体が強い光を放つ。そして……

    爆発して、跡形もなく消え去った。


    マリオとオリビアは元いた場所から距離を取ったため、イロエンピツの自爆には巻き込まれなかった。二人はキョロキョロと辺りを見回すが、イロエンピツがそこに居たという痕跡は何も残っていなかった。
    代わりにイロエンピツのいた場所から小さな光が現れ、紙テープの元に落ちたかと思えば、その光はカミの手魔法陣に姿を変えた。


    「イロエンピツは居なくなったけど、代わりにカミの手魔法陣が出てきましたわ!もしかしてイロエンピツが隠してたのかしら?
    紙テープの近くに現れたし、これで壊せるかも!」


    マリオは魔法陣に乗り、カミの手を発動する。オリーマークのある留め具を壊すと、留め具は赤い紙テープと共にバラバラと崩れ去っていった。
    紙テープを一つ破壊したマリオとオリビアは、喜びのハイタッチを交わす。そして二人は、次のテープのある場所を目指してミハラシタワーを下って行った。



    ───────────────




    一方その頃、ミハラシ山のゴンドラ乗り場には一人の青年が訪れていた。俯いていた顔を上げ、ゴンドラの方を見る。


    「お、あの赤い変なやつ無くなってる。やっとゴンドラに乗れるんすね、いやーよかったよかった」


    青年は両手をポケットに突っ込んだまま階段を上ってゴンドラに乗り込み、一人外の景色をぼんやり見つめながら発車を待った。


    「…次の場所ではオレの記憶、戻るかな」


    そうボソリと呟きながら。

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