ボム平の思い出OEDO大劇城の城門を抜け、ランド内へ戻ってきた三人を出迎えたのは盛大なパレードだった。
助け出したキノピオ達が大通りの隅に並び、紙吹雪を散らす。客として来ていたペラペラのハックンやカロンなども、事情は詳しくなくともOEDOランドに平和が戻ってきた事を祝っているようだ。
オリビアやマリオはそれに対して両手を広げて嬉しそうに、ボム平は自分はこれと言ったことはしていないと思いつつも少し照れくさそうにして二人と並んで歩いていった。
三人が橋の前に着いた頃、大きな音が背後から聞こえた。三人が振り返ると、平和になったOEDOの空に広がる色とりどりの花火が見えた。
はしゃいでいるオリビア、花火をじっと見つめるマリオとボム平。しかし、花火を見つめるボム平の瞳はマリオと違いどこか真剣だった。
─────その花火に、どこかで見た景色が重なり合う。
大海原をクルージングしていた大きな客船。突然現れた巨大なハリボテ。船に残った船員達を守る為、逃げずに特攻して爆発する仲間たち。
…それは、成すべきことを成す前に巨大な敵に導火線を奪われ、船から振り落とされた自分が海に落ちる寸前に見た景色だった。
わゴムの爆発を見た時、何かが足りないように感じたその原因は『数』だった。
ボム平は俯き、目を閉じる。そして顔を上げ、二人の方を向いて名を呼んだ。オリビアはキョトンとした様子でこちらを向く。
「あら、ボム平さんどうしたの?お腹でも痛くなっちゃった?」
「違うっす!思い出したんす!!
無くなった記憶が全て戻ったんすよ!!!」
「えええーっ!!!??」
マリオとオリビアが凄く驚いた表情、動き、声を上げる。近くにいたキノピオもつられて驚く。
ボム平は二人に「騒がしいし外で話しましょう」と提案し、そのまま三人は外へ出ていった。
─────
「わーいわーい!ボム平さんの思い出が戻って、本当に良かったですわ!
OEDOランドも楽しかったし、青テープもとれたし、良かったですわだらけですわー!」
桟橋にてオリビアはボム平の記憶が戻った事を自分の事のように喜んだ。戻ってきた記憶は決して良い思い出と言える物では無かったが、自分より喜んでくれたことにボム平は素直に嬉しくなった。
「花火がどかーんと打ち上がるのを見てたら、不意に記憶が戻ったんすよ。だけど、アニキやオリビアさんとの旅の思い出は…戻った記憶のどれよりも楽しかったっす!
お二人の事はこれからも絶対に忘れません。どうか…お元気で」
そう言ってボム平はにこりと微笑んだ。自分の目的である記憶は戻ってきたのだから、もうこれ以上二人について行く理由など無い。
振り返ってあの青いキラキラしたドカンからキノピオタウンへ向かい、それからどうするかを考えようと思い歩みを進めようとすると、オリビアに「ちょっと!」と呼び止められた。振り向いてオリビアの方を見ると、表情はOEDO大劇城のエントランスでコケそうになった時のように目をピンと閉じてぷんぷんと怒った様子だ。
「ボム平さん!
わたし達の旅はまだまだ続きますわよ。寧ろこれからですわ!
ここでボム平さんとお別れしたら、わたし達に寂しい思い出が出来ちゃいます。紙テープを全部とって、ピーチ城の兄上を止めるその時まで…この旅の最後まで、ずっとずっと一緒ですわよ!!」
ボム平は驚いた表情を浮かべた後、後ろを向いてしまった。背中のネジはいつもより少しだけゆっくりと回っている。感動しているのだろうか?
「オレたちボム兵は湿気厳禁なんで涙は流せないんすけど、ここ完全に泣くとこっすよ…
ありがとうっす!オレ、お二人に一生ついて行きます!約束っす!」
振り返ったボム平がニッコリと笑顔でそう伝えると、オリビアの表情も嬉しそうにニッコリとした。
川下りの船頭は細い目を一層細めて「いい話だあ〜!」と二人のやり取りに感動している。
「じゃあ、えっと…次は黄色の紙テープでしたよね。行きましょうか!」
「おーう、水門も渡れるようになったしな。そんじゃ、次のかぜわたり谷まで川下りを続けるとするかね〜」
意気揚々とボム平は船に乗ろうと片足を踏み込ませた。その時、オリビアの「待って!」という声に驚いたボム平は船の上でフラフラよろめき、マリオが急いで引っ張って桟橋の方へ倒れ込んだ。
湿気厳禁なボム兵にとって、川に落ちるなど言語道断。物凄く焦った表情でバッとオリビアの方へと振り向くボム平。
「び…びっくりしたあ〜!なんすか急に!かぜわたり谷に行くんじゃないんすか!?」
「えっと、ごめんなさいボム平さん。わたしね…もう一回OEDOランドに行きたいんです!」
「…え?」
キョトンとするボム平、その手の近くでペラペラという音が聞こえる。視線を落とすとその音の正体は、川に落ちそうになったボム平を助ける際に押しつぶされたマリオだった。
慌ててその場から離れると、マリオはピョンと跳んで立ち上がった。それを確認したボム平は話を仕切り直すために「じゃ、改めて…」と呟いた。
「なんでもう一回OEDOランドに?オリビアさん、もしかしてまだ遊び足りないんすか?」
「違いますわ!ボム平さんの思い出が戻ったそのお祝いに、もう一回OEDOランドでボム平さんと遊びたいんです!
だってほら、さっきはオリガミ兵たちに占領されてましたし。キノピオさんも居なくて行けなかった場所もありますし!ね、良いでしょマリオさん、ボム平さん?」
「うーん、オレは良いっちゃ良いっすけど…」
眉をひそめてチラリとマリオの方へと視線を向けると、マリオは答えるまでもなさそうにグッドサインをしている。マリオはとっても乗り気のようだ。
それを見たオリビアは「やったー!」と三人の中で一番喜んでいる。
「えーっとまずは、もう一回忍者屋敷でしょ、それから〜」
「分かった、分かったから。中に入ってから決めましょうよ」
「はーい!」
オリビアを先頭に三人はOEDOランドへ戻っていく。後ろの方で「あたしゃここで待っとるよ〜!改めて楽しんどいで〜!」という船頭の声が聞こえた。
ゲートを通り、オリビアが真っ先に向かったのは『忍者屋敷KA RA KU RI』。ここへは紛失していたマスターキー及びそれを取ったとされる怪しい緑のヒトを探して、マリオとオリビアが入った施設だ。…カギを取ったその怪しい緑のヒトはマリオの弟、ルイージだったが。
「ここ、忍者がまだ全員見つけられてないんです!全員見つけないと気が済みませんわ!」
「あ、そうすか。じゃ、オレはここでお二人の事待ってるッ!?」
「ダメですわ!!!」
オリガミ兵に占領されていた時のようにボム平は再び屋敷の前で待っていようとしたが、オリビアにぐいっと服を引っ張られた。その眼差しは至極真剣なものだった。
「ボム平さんも一緒に行くんです!三人で行けばきっと全員見つかりますわ!それにボム平さんの思い出が戻ったお祝いですから、ボム平さんが遊ばなきゃ!」
「いや、でもオレはちょっとこういうのは…子供っぽいし…」
「結構難しいですよ、子供っぽくないですわ」
「……………………いやでも」
やたらと粘るボム平を引きずるようにオリビアは屋敷に無理やり入っていった。その後をマリオも追って中へ入る。
暫くして三人は出口から戻ってきた。オリビアは嬉しそうだが、ボム平は少し微妙な表情。
「全員見つけられましたわね!まさか最後の部屋にあった……と、とびら?の裏側に居るなんて…流石ですわボム平さん!」
「あー、はは、そっすね〜」
ボム平の脳裏に浮かぶのは、何の変哲もなさそうな畳の部屋。急に畳と畳の間から危なっかしい武器がジャキンジャキン出てきて、少し怖かった。だが、女の子のオリビアに怖がっている所を見せたくなかったので、何とか耐えて危険地帯を超えることが出来た。
マリオは仕掛けやルートを知っていただろうに、敢えて何も言わずボム平の後ろを付いてきていた。途中でルートを教えてくれと懇願してみたが、一度も首を縦に振ってくれないでグッドサインで頑張れと言われた。
…初めて会った時も一緒に行きたいと素直に言うまで断られ続けたし、この人はちょっとイジワルな所がある。
続いてオリビアは元来た道を戻り、途中でワンワンのおチビと触れ合い、『筒ゝや』へ…は行かず。大通り近くにあるOEDOランド観光案内板を見て『なぞときの間』へ。
「なに、これ?お部屋が三つありますわ。だけど真ん中の部屋には何もありませんわね」
「んー…左右の部屋、ちょっと似てるけど違うっすね。もしかしてこれ、どっちかに部屋の内装を合わせるんじゃ?」
「そうなの?じゃあ、やってみましょ!」
三人は手分けして左右の部屋の内装を合わせる。すると、中央の部屋のふすまが開き中から宝箱が。出てきたものはキラキラとしたハートで、マリオがまた少し強くなったようだ。
オリビアは無邪気に喜んでおり、ボム平も結構楽しめたようで表情が柔らかだ。
「よーし!次はえーっと…シュリケン道場!」
「あれって…アニキはハンマー使ってましたよね。チカラいるんだったらオレじゃ無理じゃないっすか?」
「何言ってるんで…あ、そうか。ボム平さん力なしですもんね…」
ボム平の腕は力が入らず、特にそれは手や指先へと顕著に現れている。至極軽い物を持ち上げるくらいなら出来るだろうが、何かを握ったりするのは苦手。とにかく強いチカラを使わないといけないものは基本相性が最悪だ。
しょんぼりとしているオリビアに少し申し訳ない気持ちになったボム平だったが、オリビアは直ぐに「じゃあ写真館行きましょう!」と別の物を提案してきた。
「立ち直り早いっすね」
「だって、しょんぼりしてもボム平さんが力なしな事実は変わりませんもの!写真なら力なしさんでも大丈夫でしょ!行きましょー!」
「ま、まあそうっすけど。そんなに力なし言われるとちょっと悔しいっす」
目を細めながらボム平は爆速で写真館へと向かうオリビアを追いかける。マリオもその後を追いかけた。
写真館では色々な衣装に着替え、なり切って思い出の写真を残せるようだ。レパートリーは忍者、武将、ご隠居。そしてお大名パスを所有している人限定のお大名。どれを撮るかと提案するまでもなくオリビアは全部撮りましょう!と言った。
四枚の写真が写真館の壁に飾らる。それぞれの格好のフィット感やちょっと似合わないところなどを言及したりして、一通り写真館を楽しんだ三人。
「それじゃ次はえーっと、火の見ヤグ…」
「オリビアさん…そろそろ休憩しないっすか?ほら、忍者屋敷の近くにお茶屋さんあったじゃないすか。あそこで団子でも食いながら休みましょうよ」
「えっ?お団子?
…そうですわね!ナイス提案ですわボム平さん!」
『筒ゝや』に向かい、お皿に乗った三色団子を食べながらゆっくりと休む三人。
お茶を啜ったボム平とマリオは小さく息を吐いて穏やかな様子だったが、オリビアは顔をクシャっとさせ、急いでお団子を食べた。お茶が苦かったのだろう。
「ふぅ…オレ、こういう時間の方が好きっすね」
「ボム平さんイガグリ谷でも呑気にお昼寝してましたもんね。そういえば、OEDOランドは大きいけどボム平さん迷子になってませんわ!凄いですわ!」
「……や、気をつけてたんで…」
モミジ山ではハリボテに吹き飛ばされてイガグリ谷へ落ち、地面に頭が突き刺さった挙句腕の力がないせいで自力で脱出できなかったり、イガグリに弾き飛ばされて木に引っかかったり、坂道を転げ落ちたりもしたものだ。
しかしOEDOランドではマリオにしっかりついて行ったし、坂道などもなかったので大丈夫だった。
三人は暫く筒ゝやでのんびりと過ごしていたが、オリビアが不意に遠くを見て「あっ!」と声を上げた。
「紙テープのこと忘れてましたわ!」
「……………………」
すっかりはしゃぎ過ぎて忘れていたようだ。ボム平もなんだかんだ楽しんでいたため忘れていたのか、気まずそうな顔をした。
マリオ達はそろそろかぜわたり谷に向かおうと出口に向かう。その途中、オリビアがピタリと足を止めて一点を見つめた。その先にあるのは『おみやげ屋』。
「…おみやげ、買うんすか?」
「せっかくですし、思い出は心の中だけじゃなくてカタチに残るともっといいでしょ!?買いましょ〜!」
おみやげ屋に入ったオリビアは小物売り場の方を見ていたが、マリオは武器やアイテムの方を見ている。ボム平は入口近くにあった椅子に座って二人の様子を眺めていた。
(カタチに残るもの、か)
確かに大事な人との思い出は、例えその人がいなくなったとしてもその人に縁あるものが残っていれば、ふとした時にその人のことを思い返すことが出来る。
確かにそれは良いことだろう。そう思っているとオリビアがニコニコとしながら近づいてきた。
「ん、なんすか?何かいいもんでも見つけたんです?」
「じゃーん!これです!」
「鈴?」
オリビアが見せてきたのは青いヒモに付いた黄色い鈴。赤いモミジも付いており、モミジ山をイメージした物だろうとすぐに分かった。
「これを付けておけば、もしこの先ボム平さんが迷子になっても大丈夫ですわ!」
「えぇ…そんな小さいのじゃ役に立たなそうっすけど」
「じゃあ、あっちにします?」
そういったオリビアが指で示したのは、片手になんとか収まりそうなくらい大きな鈴。あんなの誰が買うんだ、と思いながら「いいっす」と断った。
オリビアは店主の傍に行ってマリオにコインを払ってもらい購入したらしく、直ぐに戻ってきた。そしてボム平を立たせ、どこに付けようかと考えていた時「そういえば」と思い出したように呟いた。
「ボム平さんって腰にもお洋服巻いてますよね。今着てるお洋服に似てますけど、色が濃いし。なんで二枚も着てるんですか?」
「ああ、これは…オレの幼なじみが着てた上着なんすよ。……もう会えないんすけど」
「ええっ、もう会えないって…とっても遠い場所へ行っちゃったの?わたしも会ってみたかったですわ」
「…………ま、そうっすね。とーっても遠くに行っちゃったっす。
でもこれは遺ってる。これはアイツとの大事な思い出、アイツがオレに遺した物のうちの一つっす」
そう語るボム平は腰に巻いている濃い上着を穏やかな眼差しでじっと見つめた。その様子を見たオリビアは、上着に鈴を括り付ける。
「よし、これなら幼なじみさんの上着も、ボム平さんも迷子になりませんわ!」
「……そっすね、ありがとうっす!」
得意げにするオリビアに対してにこりと微笑むボム平。マリオの方も買い物は終わったようで、二人の元へ近づいてきた。
そろそろこのOEDOランドとも本当にお別れだ。三人は改めてOEDOランドを出て、桟橋で待っていた船頭の元へ向かい、川下りを再開した。
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思い返してフゥ、と息を吐く。その頭には白い導火線。
故障によりスクラップになった幼なじみが遺した、もう一つの大事な物。
腰の上着に括り付けられているオリビアのくれた鈴を見つめ、彼女の笑顔を思い出す。
ボムへいであるオレがあの大海原の時に爆発出来ないで海に投げ出されたのに、今まで生きていた理由は…きっと…
「アニキ。オレはあの時ゴンドラでオリビアさんに誘われなきゃ、こんなに楽しい気持ちになることも…自分の記憶を取り戻すことも…オリビアさんを助ける方法も分からないままだったと思います。
アニキ、オレのわがままに付き合ってくれて、ありがとうございました。
オリビアさんにちゃんとお別れ言えない事、兄上さんを止めるまでずっと一緒だって…二人に一生ついて行くって約束、守れないのは残念っすけど。
大切な誰かを助ける為に散れるなんて、ボム兵冥利に尽きるってもんす。それに、これでやっと幼なじみのアイツと一緒に、一人前のボム兵になれる気がするっす。
…………アニキとオリビアさんと旅ができて、本当に楽しかったっす。
ありがとうっす!」
導火線に火がついてクルクルと背中のネジが激しく回転し、体全体が熱くなる。アニキがこっちに走って来てるけど…男なら最後まで覚悟決めとかなきゃっすよ。
アニキだって分かってたでしょ?オレがどうするつもりだったかなんて。
『わっ!マリオさんが助けてくれたの?ありがとうございます!
あっ、すごーい!大きな岩がコナゴナですわ!
どうやったんですか?まるでドッカーンと………
…………あれ?』
ああ、でも…
オレも覚悟決めて爆発するって決めたくせに…オリビアさんやアニキと別れるの、やっぱり辛いっすよ。
『……ねぇ、ボム平さんは!?さっきから姿が見えないですわ!!』
言うつもり無かったんすけど。
ごめんなさい、オリビアさん。
『…………まさか……
ボム平さんが……わたしを助けるために……ドカーンと……大きな岩を…………
そんな…………そんな…………
そんなーーー!!!』
今までずっと弱いとこ見せたくなくて見栄張ってたけど。
女の子泣かせるなんて、男として失格っすね。