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    krtrmurow

    二次創作でおはなしをかいています。

    @krtrmurow

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    krtrmurow

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    レオラギで本を書こうと思ったけどなんとなく進まずに放置しているもの。
    ポイピクお試し投稿。

    #レオラギ

    どういったきっかけで幼いレオナ・キングスカラーがユニーク魔法を発現させたのかは、彼自身与り知らぬ所だった。既に物心ついたときには小間使いの者達からは畏怖を込めた目を向けられていて、それが何故かと理解したのも、その頃だった。
     
     触れた花が、枯れた。
     
     覚えている。今もはっきりと、記憶に焼き付いて離れない。
     指先に触れたストレリチアが花弁のふちから萎れ始め、砂となって崩れていく。窓からの光を受けて、慎ましやかに光る花瓶に活けられていたオレンジの花がみるみるうちに形を失ってついにはその足下に小さな山を作ったのを緑の目でじっと、見つめていた。たまたた通りがかった小間使いの女が小さく悲鳴を上げるのをどこか遠い事だと感じながら、幼いレオナは無表情で花だったものを見下ろす。
     すぐに片付けます。女が震える声で箒やらを持ってこようとぱたぱたと走り去るのにも応えずに、ただただじっと、何が起きたのか自分でも理解出来ないというような顔で立ち竦んでいた。
     それが最初の自覚だった。女が戻ってくるのを待たずにふらふらと自室に戻って今起きた事を考えて、ああだからなのかと納得して、それからレオナは今にも泣きそうな顔で笑った。それを見た者はいないし、きっと幼い彼も自覚しなかっただろう。
     その夜、あのストレリチアが飾られていた花が飾られていた廊下はすっかりきれいに片付けられていた。花瓶も最初から無かったかのように消え失せて味気なくなってしまった空間を一瞥して、レオナも何事も無かったかのように通り過ぎた。
     
     花は、好きだったのに。
     
     〝王の咆哮〟を呼吸をするように操れるようになってもレオナに向けられる視線の温度が変わることは無かった。今や触れずとも全てを砂に出来るようになってしまったのが、周囲には余計に恐ろしいものだと認識されたらしい。年月を重ねるにつれて、それこそ砂のように重たい物がレオナの心に溜まっていった。
     向けられる視線も、聞こえてくるどの言葉も、兄に声を掛けられる事すら疎ましい。
     そんな日々だった。
     
     花は好きだ。
     何も言わない、憎悪や畏怖や嘲り、そういったものも何も向けてこない。
     
     学園の中に立てられた巨大な温室がレオナの縄張りになるのに時間は掛からなかった。故郷でよく見た植物達を育てている区域、巨大なバオバブの根元で授業をさぼり、うたた寝を決め込む事が安らぎになっていった。巨大な温室の中は区域ごとに最適な気候になるように設定されている。乾いた空気が耳を撫でるのが、心地良い。鼻先に花の僅かな香りが届く。王宮にいた頃は香の匂いが混じっていたのだが、ここは純粋に花の香りだけが漂っているのもよかった。
    「レオナさぁん」
     聞こえてきた声に耳が動く。閉じていた目を半分開いて、じろりと視線を動かす。向こうから紙袋を抱えたラギーがひょこひょこと歩いてくる。もうそんな時間かと大きな欠伸をひとつして、身体を起こした。

    *********************

    カーテン、バルコニーの扉を悉く開け放つ。薄暗かった部屋に光が差し込んだ瞬間、ベッドから不機嫌そうな唸り声が聞こえた気がしたが気にもとめずにラギーはラタン製の洗濯籠を抱えて、そこら辺に散らばっている衣服を拾い出した。
     部屋の掃除は手際よく、そして抜かりなく。脱ぎ散らかされた肌触りのいいシャツを拾い上げれば転がり落ちたアクセサリーはポケットにしまい込む。籠一杯の服はあとでランドリーに放り込むとして、次は埃を外に掃き出さなければならない。せかせかと動いては床の埃をバルコニーへと掃き出すラギーをよそに、部屋の主は不機嫌そうに尻尾をシーツに叩きつけながら昼寝を決め込んでいた。
    「ん?」
     箒に引き寄せられたか、ベッドの下から何か白い紙が出てきた。拾い上げれば封筒で、見慣れた王家の紋が封蝋としてあしらわれている。消印は一ヶ月も前だ。
    「レオナさぁん」
    「なんだよ」
     これ実家からの手紙じゃないスか。ひらひらと手紙を揺らして見るも、レオナは寝返りを打とうともしない。尻尾でシーツを一打ちする音をさせて
    「捨てろ」
     そう一言吐き捨てるだけで、そのまま鼾をかき始めた。ラギーが小さく溜息をついて、封筒を表裏と見比べる。
    「捨てた、なら見ても良いっスよねぇ」
     ぽつりと呟いてみるが、元の持ち主は答えない。好奇心猫を殺す、そんな言葉が浮かんだがハイエナは猫ではないのだ。食い扶持を得る匂いがすればすぐに飛びつく。それがラギーの座右の銘とも言えた。
     そっと封蝋を破る。あの尊大な王宮で焚かれているのであろう香の匂いが鼻について、眉を寄せた。便箋が数枚と、写真が一枚。封筒から出てきた。
     丁寧ながらも所々荒々しさが垣間見える文字を眺める。恐らく兄、つまり国王の直筆だろう。
     手紙を眺めながらチェアに上がり込む。ちょっとした休憩には丁度良かった。
     所々読めない文字はあったものの、学園生活はどうだというある意味お決まりの文句から始まり、故郷の近況が書かれていた。夕焼けの草原はそろそろ乾期に入る頃だという。
    「王様ってヒマなんスかねえ」
     嘲笑いながらラギーが手紙を読み進めていく。どこかもどかしさも感じられるような、最近の近況がたっぷり二枚分綴られていて、ラギーが眉を寄せかけた三枚目、移った話題は同封されていた写真の事だった。脇に置いていたそれを摘まんで見てみる。雌ライオンだ。気の強そうな顔つきに、赤い目が印象的な。
     再び手紙を読めばこの女性は大臣の娘で齢は十八で機知に富んで云々と嫌に褒め称えるような文句が並んでいる。ははぁ、と合点がいった声をさせて、それからラギーはニヤニヤとした笑みを浮かべた。
    「お見合い写真ってワケ」
     写真をひらひらと揺らす。
     今度帰ってきた時に会ってみないか、と一国を統べる王にしてはやや押しの弱い提案とそれからたまには手紙かメールか、電話でも寄越せという催促の一文と共に、手紙は締めくくられていた。
    「王子サマも大変だ」
    「捨てろっつっただろうが。何勝手に開けてやがる」
     背後から低い声が聞こえてきて、肩が跳ねる。恐る恐る振り向いてみれば不機嫌を隠そうとしない顔でレオナがこちらを見下ろしていた。
    「やだなぁ、親切ですよ。シ、ン、セ、ツ」
     大事な事が書いてるのにうっかり捨てたらマズいでしょぉ。悪びれる素振りを一切出さずにラギーが弁明する。ほら、それに写真も入ってましたよ。お見合いしないかってオニーサン行ってますけどと写真を差し出す。ラギーの言葉に片眉を上げたレオナがその手から写真を引ったくれば一瞥もせずに破いてしまった。
    「うわ……チラ見ぐらいすればいいのに」
    「興味ねえな」
    「ちょっと、ちゃんとゴミ箱に捨ててくださいよ!」
     縋る指を失った紙片がはらはらと床に落ちていく。せっかく掃除したのにと抗議するラギーを気にもとめずに、枕元に置いていた煙草を引っ掴んで、ラギーが座っていた椅子にどかりと腰掛けた。一本取り出して軽く咥える。指先に揺らめく火がその先で揺らめいたかと思えば、紫煙が溢れていく。
    「でもこういうのっておめでたいんじゃないスか? 結婚でしょ?」
     無残な紙切れになったそれを拾い上げて、勿体ないとゴミ箱に捨てる。いつだかの乾期にスラムの公共広場で見た、慎ましい結婚パーティーが脳裏に浮かんだ。どこで拾ってきたのか、それとも借りてきたのか、着古したようなドレスを着た女が小指ほどの小さな花をつけた、殆ど雑草の束とも呼べるブーケを握りしめて幸せそうに笑っていた。彼らが囲む、ほんの少し豪勢な食べ物に喉が動いたが、その時は欠片も頂く気にはなれずに足早にそこを離れたのも、思い出した。
    「はっ、おめでたいだって?」
     レオナが嘲笑い、灰皿に灰を落とす。それからまた唇に咥えては肺に煙を満たした。ゆっくりと煙を吐き出して、目を細める。
    「確かに女の親はおめでてえだろうな。王族になれるんだからな」
     空いた指で手紙を摘まむ。頼りなげに便箋が揺れている。
    「この手紙に書かれてる意味はな、早く結婚して〝補欠〟を作れって事だよ」
    「……」
     補欠、とラギーが繰り返す。いまいち飲み込めないような顔の後輩に、やれやれと苦笑いして煙草を灰皿に押しつけた。
    「現国王サマとその息子に何かあった時、そのおこぼれを頂戴した俺に世継ぎがいないと駄目だって言ってんだ。思慮深い兄上はな」
     レオナの掌で音も無く便箋が枯れる。掌に残った黒い砂が鬱陶しそうに灰皿に落とされるのを眺めながらラギーはなんとなく分かったような気がして、頷いた。
    「補欠ねぇ……王族ってのも面倒スねえ」
    「まったくだ。お前もくだらねえ事に鼻面突っ込んでたら痛い目を見るぜ」
     くあ、と大きく口を開けて欠伸をするレオナに相槌を打ちながら、灰皿に小さな山を作っている黒い砂をちらりと見て、バルコニーに出て伸びをした。
    (それでも明日食えるかどうかの心配をしなくていいんだから、幸せだろ)
     そんな想いを抱えながら、乾いた青空を見上げる。ふとあの日に結婚したハイエナのカップルは今はどうしているだろうかと浮かんだが、すぐに思考の端へと追いやった。
    「おい、用が済んだら出ていけ」
    「わぁってますよ」
     不機嫌のなおらないレオナの声に慌てて応える。飯はどうします? いつもの時間でいいですか?そう聞けばただ、おう、とだけ答えて再びベッドに寝転がった寮長に、苦笑いを零した。再び惰眠を貪る気らしい。寝たばこはやめてくださいよと釘を刺して、ラギーは洗濯カゴを抱えて、部屋を出るのだった。
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    krtrmurow

    MAIKINGレオラギで本を書こうと思ったけどなんとなく進まずに放置しているもの。
    ポイピクお試し投稿。
    どういったきっかけで幼いレオナ・キングスカラーがユニーク魔法を発現させたのかは、彼自身与り知らぬ所だった。既に物心ついたときには小間使いの者達からは畏怖を込めた目を向けられていて、それが何故かと理解したのも、その頃だった。
     
     触れた花が、枯れた。
     
     覚えている。今もはっきりと、記憶に焼き付いて離れない。
     指先に触れたストレリチアが花弁のふちから萎れ始め、砂となって崩れていく。窓からの光を受けて、慎ましやかに光る花瓶に活けられていたオレンジの花がみるみるうちに形を失ってついにはその足下に小さな山を作ったのを緑の目でじっと、見つめていた。たまたた通りがかった小間使いの女が小さく悲鳴を上げるのをどこか遠い事だと感じながら、幼いレオナは無表情で花だったものを見下ろす。
     すぐに片付けます。女が震える声で箒やらを持ってこようとぱたぱたと走り去るのにも応えずに、ただただじっと、何が起きたのか自分でも理解出来ないというような顔で立ち竦んでいた。
     それが最初の自覚だった。女が戻ってくるのを待たずにふらふらと自室に戻って今起きた事を考えて、ああだからなのかと納得して、それからレオナは今にも泣 3945

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