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    百合菜

    遙かやアンジェで字書きをしています。
    ときどきスタマイ。
    キャラクター紹介ひとりめのキャラにはまりがち。

    こちらでは、完成した話のほか、書きかけの話、連載途中の話、供養の話、進捗なども掲載しております。
    少しでもお楽しみいただけると幸いです。

    ※カップリング・話ごとにタグをつけていますので、よろしければご利用ください

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    百合菜

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    遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。

    #有梓
    yauTsz
    #遙か6
    far6
    #遙かなる時空の中で6
    harukanaruTokiNoNakade6
    ##有梓
    ##遙か6

    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任務のために真っ直ぐ突き進む。
    そんなことを理解しつつも、梓は声を掛けずにいられない。

    「気をつけてくださいね」

    有馬は少しだけ驚いた様子を顔に出し、そして梓に向かう。

    「ああ、行ってくる。被害が甚大な場合は無理だが、そうでない場合は明朝、迎えに来る」

    これも有馬らしい言葉。
    災害対策をした次の日くらいゆっくりすればいいのに、怨霊退治の任務も忘れることはない。
    だけど、梓はあえて何も言わず、その言葉に頷く。
    それが彼の意思を尊重することだと思ったから。

    雨の中を突進する有馬の背中を見送り、梓はドアを閉める。
    すると、後ろにいた千代の存在に今さらながら気がつく。

    「梓と有馬さんって、まるで夫婦ね」

    にこやかな笑みとともに向けられた言葉に梓は戸惑ってしまう。

    「ふ、夫婦!?」
    「ええ、あなたと有馬さんったらお似合いなんですもの。互いのことを気づかって」

    そういうものなのだろうか。
    確かに先ほど、浅草で有馬のことを誹謗するものがいたので、ムキになった。
    その後、有馬には年の離れた弟がいたこと、そして自分は故郷のことをどう思っているか、そんな身の上話もした。
    それでつい、本音が出てしまい、有馬から思いがけないプレゼントまでしてもらったのだが、正直、「夫婦」どころか、たぶん「恋」にもなっていないと思う。
    自分も、もちろん有馬も。
    自分はいつか元の世界に帰るし、そもそも有馬の背中は遠すぎる。
    あのひたむきな姿に惹かれないと言えば嘘にはなるけど、それが恋に発展するかと言われると疑問だ。

    この夏、帝都を守るために有馬と行動をともにしたのは生涯忘れられないと思うが、来年の今頃は想い出になっている、そんな淡い出来事。
    そう言い聞かせながら、梓は自室に戻った。


    夜になっても雨はやむどころか、むしろ勢いを増している。
    幸い、雷が鳴ることはないが、雨が屋根や窓を叩きつけ、ときおり突風が木々を揺らし不気味な音色を奏でる。

    「梓、起きてる?」
    「うん、起きてるよ」

    梓に声を掛けてきたのは千代。
    おそらくひとりでいるには不安なため、一緒に過ごそうとしたのだろう。
    出会ってからまだ10日ほどしか経っていないが、対の神子ということもあってか千代とこうして話をするのが楽しい。

    とりとめもない話をしていくうちに悪天候による不安は吹き飛び、そして睡魔が襲ってきたらしい。
    気がつくと朝になり、眩しい光がカーテンの隙間から差し込んできた
    鳥の声を感じながら目覚め、カーテンを開けるとそこには信じられない人物がいた。

    「有馬さん!?」

    木陰にひっそりと佇んでいるのは、昨日、背中を見送った男の姿。
    確かに、何事もなければ迎えに来るとは話していたが、まさかこんな朝早くから来るとは思わなかった。

    「あら、あそこにいるのは有馬さんじゃないかしら? 梓のことが心配だったのね」

    梓が窓の外を気にしていることに千代も気がついたらしい。
    梓と有馬の関係を茶化してくる。

    「え、そんなことないよ」

    そう呟きつつも悪い気はしない。
    彼がこんな朝早くから自分を訪ねてきたことも、それを他の人に指摘されたことも。

    先のことはわからない。
    ただ、私は守ろう。この帝都を。
    この人が守っている帝都を、そして大好きな人たちが暮らしている帝都を。そう思いながら窓を開ける。そして、外で佇んでいる人に声を掛ける。
    少しでもこの人の力になりたいと思いながら。

    「おはようございます、有馬さん」
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    百合菜

    DOODLE地蔵の姿での任務を終えたほたるを待っていたのは、あきれ果てて自分を見つめる光秀の姿であった。
    しかし、それには意外な理由があり!?

    お糸さんや蘭丸も登場しつつ、ほたるちゃんが安土の危険から守るために奮闘するお話です。

    ※イベント直前に体調を崩したため、加筆修正の時間が取れず一部説明が欠ける箇所がございます。
    申し訳ございませんが脳内補完をお願いします🙏
    1.

    「まったく君って言う人は……」

    任務に出ていた私を待っていたのはあきれ果てた瞳で私を見つめる光秀さまの姿。
    私が手にしているのは抱えきれないほどの花に、饅頭や団子などの甘味に酒、さらにはよだれかけや頭巾の数々。

    「地蔵の姿になって山道で立つように、と命じたのは確かに私だけど、だからってここまでお供え物を持って帰るとは思わないじゃない」

    光秀さまのおっしゃることは一理ある。
    私が命じられたのは京から安土へとつながる山道を通るものの中で不審な人物がいないか見張ること。
    最近、安土では奇行に走る男女が増えてきている。
    見たものの話によれば何かを求めているようだが、言語が明瞭ではないため求めているものが何であるかわからず、また原因も特定できないとのことだった。
    6326

    百合菜

    MAIKING遙か4・風千
    「雲居の空」第3章

    風早ED後の話。
    豊葦原で平和に暮らす千尋と風早。
    姉の一ノ姫の婚姻が近づいており、自分も似たような幸せを求めるが、二ノ姫である以上、それは難しくて……

    アシュヴィンとの顔合わせも終わり、ふたりは中つ国へ帰ることに。
    道中、ふたりは寄り道をして蛍の光を鑑賞する。
    すると、風早が衝撃的な言葉を口にする……。
    「雲居の空」第3章~蛍3.

    「蛍…… 綺麗だね」

    常世の国から帰るころには夏の夜とはいえ、すっかり暗くなっていた。帰り道はずっと言葉を交わさないでいたが、宮殿が近づいたころ、あえて千尋は風早とふたりっきりになることにした。さすがにここまで来れば安全だろう、そう思って。

    短い命を輝かせるかのように光を放つ蛍が自分たちの周りを飛び交っている。明かりが灯ったり消えたりするのを見ながら、千尋はアシュヴィンとの会話を風早に話した。

    「そんなことを言ったのですか、アシュヴィンは」

    半分は穏やかな瞳で受け止めているが、半分は苦笑しているようだ。
    苦笑いの理由がわからず、千尋は風早の顔を見つめる。

    「『昔』、あなたが嫁いだとき、全然相手にしてもらえず、あなたはアシュヴィンに文句を言ったのですけどね」
    1381

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    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「今日も帝都の空は澄んで」

    有馬と出会って二度目の夏。
    結婚を控えた梓。休憩中に空を見上げて、つい気負ってしまう。そんな梓に対し、有馬は……

    Twitterに投稿した2020年有馬さん誕生日創作です。
    「今日も天気がいいですね」
    「ああ」

    一さんと出会ってから訪れる二度目の夏。
    そして迎える二度目の一さんの誕生日。
    右手の薬指にはめられた指輪が窓から差し込む光を反射し、壁に小さな虹を描く。少し前に一さんに渡された指輪。秘かに、こっそりと、でも周りにはバレバレな様子で待っていたプロポーズの言葉とともに。
    来週、一さんと私は富山に行く。一さんのご実家に、結婚式を挙げるために。式の準備はほとんど終えており、あとは身一つで行くだけ。
    去年の今頃には想像すらしていなかった今の状況がくすぐったくなることもある。
    でも、これはきっと私たちがひとつずつ着実に絆を積み重ねてきた証なのだろう。そして、そこに至るまでたくさんの人たちの助力があったからこその関係。

    「去年よりも空が澄んでいる気がしますね」

    一さんは暑さなどものともせずコーヒーカップに口をつけ、飲み干す。それもホットのブラックコーヒーなところがなんだか一さんらしい。

    「ああ、そうだな。龍神に見守られているような安心感があるな」

    恵みの光をたたえる空。
    いつまでも眺めたくなるような蒼。
    穢されたくないと思わせるような透明感。
    去年の今 1095

    百合菜

    DONE有梓の「そうだ、カレーを作ろう!」

    2021年2月7日に開催された遙か7の天野七緒中心WEBオンリーで「エアスケブ」を書きました。
    そのとき、幸村×七緒で「炊事をするふたり」というリクエストをいただいたのですが、有梓バージョンも浮かんだので勝手に書いてしまいました^^;

    下宿に滞在中の梓。今日は管理人さんが不在ということで夕飯は自分たちで用意することに。
    そこで有馬とカレーを作るが……
    「高塚、何か食べたいものがないか」
    探索の途中に有馬が訪ねてきたのは秋の風が吹き始めた頃。
    そういえば、梓は朝、管理人に言われたことを思い出す。
    今日は用事があるため、夕食を用意できないことを。
    「うーん」
    梓は少し考え込む。そして思い出す。久しぶりにカレーが食べたいと。
    夏の間は汗をかくため避けてきたが、そろそろあの辛さが懐かしくなってきた。
    ただし、おそらく作るのは自分になるであろうが。
    「カレーを食べたいです。有馬さん」
    そう答えると、有馬も何やら思案しているようだった。
    「カレーか……」
    すると、次の瞬間、意外ともいうべき答えが返ってきた。
    「カレーなら作ったことがある。一緒に作ろう」
    「ええ!?」
    「なんだ、その声は」
    梓の態度が不満だったらしい。
    有馬は不服そうに梓を見つめてくる。睨みつけてくるといった方が正しいのかもしれない。
    「有馬さん、カレー、作ったことがあるのですか?」
    「悪いか」
    ちょっと不貞腐れたかのようにそう答える。
    「いえ、意外過ぎて」
    「軍人たるもの、いつ戦場に出るかわからない。そのため、料理のたしなみくらいはある」
    そう言われて梓は納得する。
    梓のいた世 2212

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「私は幸せだから」

    こちらの世界にやってきた有馬と銀座を歩く梓。
    そこでふとしたひと言とは……
    「寒くなってきましたね」
    そう言いながら梓は隣を歩く有馬に話しかける。
    銀座の街は銀杏の葉が金色に輝き、もうじき寒い冬がやってくることを伝えてくる。
    ふたりでこうして一緒に歩いていると思い出す。
    風景は違えど、帝都の銀座でこうして歩き、街を守っていた日々を。
    しかし、あのときは自分たちだけではなく、千代や秋兵たちもいた。

    「みんな、元気かな……」

    思わずそんな言葉が口から出てしまう。
    しまったと思ったときには遅かった。
    隣にいる有馬が何か言いたげに梓のことを見つめてきた。

    「ごめんなさい、そういうつもりでは……」

    他意はない。
    ただ、隣にいる人にこの言葉を向けると必要以上に責任を感じることは、少し考えればわかりそうなものなのに。

    「すまない」

    その言葉が指しているのが何であるか。はっきりとは伝えていないが、何であるか梓は理解した。

    自分を守るために神子の力を使った。
    そのために仲間たちとは別れの挨拶すらできなかった。
    仕方がないとわかっているが、名残惜しい気持ちはどこかにある。

    「一さんが謝る必要はないです」

    こちらの世界とあちらの世界。どっちみち、どちらかを選ばない 820

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「今日も帝都の空は澄んで」

    有馬と出会って二度目の夏。
    結婚を控えた梓。休憩中に空を見上げて、つい気負ってしまう。そんな梓に対し、有馬は……

    Twitterに投稿した2020年有馬さん誕生日創作です。
    「今日も天気がいいですね」
    「ああ」

    一さんと出会ってから訪れる二度目の夏。
    そして迎える二度目の一さんの誕生日。
    右手の薬指にはめられた指輪が窓から差し込む光を反射し、壁に小さな虹を描く。少し前に一さんに渡された指輪。秘かに、こっそりと、でも周りにはバレバレな様子で待っていたプロポーズの言葉とともに。
    来週、一さんと私は富山に行く。一さんのご実家に、結婚式を挙げるために。式の準備はほとんど終えており、あとは身一つで行くだけ。
    去年の今頃には想像すらしていなかった今の状況がくすぐったくなることもある。
    でも、これはきっと私たちがひとつずつ着実に絆を積み重ねてきた証なのだろう。そして、そこに至るまでたくさんの人たちの助力があったからこその関係。

    「去年よりも空が澄んでいる気がしますね」

    一さんは暑さなどものともせずコーヒーカップに口をつけ、飲み干す。それもホットのブラックコーヒーなところがなんだか一さんらしい。

    「ああ、そうだな。龍神に見守られているような安心感があるな」

    恵みの光をたたえる空。
    いつまでも眺めたくなるような蒼。
    穢されたくないと思わせるような透明感。
    去年の今 1095

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。
    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947

    百合菜

    DONE有梓の「そうだ、カレーを作ろう!」

    2021年2月7日に開催された遙か7の天野七緒中心WEBオンリーで「エアスケブ」を書きました。
    そのとき、幸村×七緒で「炊事をするふたり」というリクエストをいただいたのですが、有梓バージョンも浮かんだので勝手に書いてしまいました^^;

    下宿に滞在中の梓。今日は管理人さんが不在ということで夕飯は自分たちで用意することに。
    そこで有馬とカレーを作るが……
    「高塚、何か食べたいものがないか」
    探索の途中に有馬が訪ねてきたのは秋の風が吹き始めた頃。
    そういえば、梓は朝、管理人に言われたことを思い出す。
    今日は用事があるため、夕食を用意できないことを。
    「うーん」
    梓は少し考え込む。そして思い出す。久しぶりにカレーが食べたいと。
    夏の間は汗をかくため避けてきたが、そろそろあの辛さが懐かしくなってきた。
    ただし、おそらく作るのは自分になるであろうが。
    「カレーを食べたいです。有馬さん」
    そう答えると、有馬も何やら思案しているようだった。
    「カレーか……」
    すると、次の瞬間、意外ともいうべき答えが返ってきた。
    「カレーなら作ったことがある。一緒に作ろう」
    「ええ!?」
    「なんだ、その声は」
    梓の態度が不満だったらしい。
    有馬は不服そうに梓を見つめてくる。睨みつけてくるといった方が正しいのかもしれない。
    「有馬さん、カレー、作ったことがあるのですか?」
    「悪いか」
    ちょっと不貞腐れたかのようにそう答える。
    「いえ、意外過ぎて」
    「軍人たるもの、いつ戦場に出るかわからない。そのため、料理のたしなみくらいはある」
    そう言われて梓は納得する。
    梓のいた世 2212

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「私は幸せだから」

    こちらの世界にやってきた有馬と銀座を歩く梓。
    そこでふとしたひと言とは……
    「寒くなってきましたね」
    そう言いながら梓は隣を歩く有馬に話しかける。
    銀座の街は銀杏の葉が金色に輝き、もうじき寒い冬がやってくることを伝えてくる。
    ふたりでこうして一緒に歩いていると思い出す。
    風景は違えど、帝都の銀座でこうして歩き、街を守っていた日々を。
    しかし、あのときは自分たちだけではなく、千代や秋兵たちもいた。

    「みんな、元気かな……」

    思わずそんな言葉が口から出てしまう。
    しまったと思ったときには遅かった。
    隣にいる有馬が何か言いたげに梓のことを見つめてきた。

    「ごめんなさい、そういうつもりでは……」

    他意はない。
    ただ、隣にいる人にこの言葉を向けると必要以上に責任を感じることは、少し考えればわかりそうなものなのに。

    「すまない」

    その言葉が指しているのが何であるか。はっきりとは伝えていないが、何であるか梓は理解した。

    自分を守るために神子の力を使った。
    そのために仲間たちとは別れの挨拶すらできなかった。
    仕方がないとわかっているが、名残惜しい気持ちはどこかにある。

    「一さんが謝る必要はないです」

    こちらの世界とあちらの世界。どっちみち、どちらかを選ばない 820

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。
    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947

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