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    koshikundaisuki

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    12/13 影菅アドベントカレンダーチャレンジ

    #影菅
    kagesuga

    流星群マグカップに温かいお茶を入れ、バルコニーに出る。この辺りは子育て世代が多いせいか、この時間はシンとして、バルコニーの柵の向こうは真っ暗だった。とても静かで、とてつもなく寒い。ここにいると世界にはもう自分しか生き残っていないのではないか、という不安に駆られそうだった。向こうの建物にはちらほらカーテンから灯りが漏れていて、「あ、俺だけじゃなかったわ」なんて当たり前のことを思う。明日も仕事なんだし、寝ないといけないのに。そう思いながらも空を見上げている。


    だって起きてしまったのだ。ふたご座流星群が活発に流れるというこんな時間に。元々見るつもりはなかったのに、急にパッチリ目が覚めた。
    トイレに行きたいのだと思ってベッドから降り、リビングに出たところで思い出した。夜のニュースでキャスターが「今夜はふたご座流星群の観測チャンスです」と言っていたのを。
    元々天体観測に関心のない影山はすこしも顔をあげなかったし、俺も「まあこの時間まで起きてたら遅刻するしな……」と完全にスルーの態勢だったのに、少しも眠くないわ。
    ベッドの中で眠れずうだうだするよりは「子ども達への話題にもなるし」と思い、防寒をして傍観しにきたというわけなのである。


    アウトドアチェアに腰掛けながら空を見上げているのだが、あまり首を上げ続ける経験がないのでこれがなかなかしんどい。さらに、疲れ目だろうか。星が見えた!と思うたびに、それが眼球に写る埃のような、顕微鏡で見る微生物のようなものであることに気付く。近頃よく見えるようになったのだが、大地には「それ飛蚊症じゃないか」と言われた。
    俺はとにかくひとつでも「流れ星を見た」という実績だけを得られればそれでもうよく、さっさと寝たいのだが、夢もない大人に流れ星は非情だった。ダメ元で空の星を指でこすってみたり、息を吹きかけて見たりしたが何も起きない。俺が気付いてないだけでどこかでは流れているのだろうか。悔しい、俺だってふたご座なんだし、よしみで見せてくれたっていいじゃんか。
    そんな願い事が叶ったのか、空を白い光が動く。


    「あっ!」
    深夜だということも忘れ、思わず立ち上がったがすぐに違和感に気付く。
    確かに動いてはいるが、光が消えない。そして厚みのある雲の隙間からジェット音が響いた。
    「飛行機かよ!!!!」
    俺の叫びが反射して、向こう側の建物にあたり、反響する。咄嗟に手で口を抑える。そんなにデカい声を出したつもりはないが、障害物がない分よく響いてしまった。
    通報される前に戻ろうか。しかしここまで我慢したからには。待てよ、この心理、完全にギャンブルに狂ってる人間のそれじゃないか?

    眠気や寒さで判断力を失った俺は、引き際を完全に見失っていた。
    「流れ星かと思ったら飛行機だった」というオチがついたところで戻ればよかった。クラスの子どもたちも「流れ星かと思ったら飛行機だったから寝たよね」と言えばそれなりに笑ってくれたかもしれない。いや、最近みんなやたらおませになってきてるし、「それ、おもしろいと思ってるんですか?」と真顔で言われる可能性もある。

    座って見上げる体勢がキツくなり、俺はバルコニーに両手で頬杖をついて星が流れるのを待つことにした。今、この絵だけ切り取ってもらえたらすごいロマンチックな感じになるのに。願い事を叶えるために星を待ち続けてる感じに見えるのに。

    吐いた息が白く曇り、かつ上へ上へと昇ってくるのでかなり視界が邪魔だ。戻ってマスクでもつけてこようか、と思った瞬間とほぼ同時に、何かが俺の背中にどさっとおぶさってきたせいで俺は今度こそ「ギャアァ!!!」と叫び声を上げた。
    幼少期、なかなか眠らずにいておばあちゃんを困らせた時に聞かされた「おぶさりてぇ」という民話がフラッシュバックしていた。
    化け物は俺の口を手で塞ぎ、「きんじょメーワクです」と説教までかましてくる。ただで死んでなるものかと反撃するために振り向けば、化け物だと思っていたものは美しい青年であった。


    影山の瞼は半分以上下りていて、座り込んだ俺に毛布ごと被さったままうとうとしていた。
    地面が冷たい。窓を開け、リビングの床に尻を置くかたちで座り直させると、影山ももぞもぞと体勢を変えて俺を抱き直した。影山の腕の中でぬくぬくと暖かくなった俺は、空を見上げながら「こんな時間に起きるなんて珍しいじゃん」と尋ねる。影山から返事はなく、背中には規則正しく呼吸をするのが伝わってきたので寝たのか、と思う。
    「なんか、おきた」
    だいぶ経ってから、そんな返事を聞いた。



    さっき向こうの建物では、一瞬明かりがついて誰かがベランダに出て外をキョロキョロ見ている姿が見えた。
    心の中で謝罪をすると、その人は扉を閉め、カーテンを閉めてまた暗闇のひとつへと戻っていった。

    影山が来てから、何個か星が流れていた。
    あんなに待ち続けていたのにあまりにも一瞬で、初めて流れ星を見た人間だったら「あれ!?」と確認したくなるほど呆気なかった。
    10個見たら戻ろう、と決めていた。さっき流れたので12個目だ。背中で赤子のようにスヤスヤ眠る影山を離したくなくて、布団に戻ることができない。
    でも、影山が一瞬ブルっと震えたのを感じて「寝ようか」と声をかけることにした。

    影山は「……みえた?」と今にも眠気で溶けそうな声で言う。
    「すごい見えた」
    影山はゆっくり立ち上がり、俺の手を引いて自室に戻る。影山の部屋に連れ込まれた俺は、寝具の前でただ立っていたが、布団の中に潜り込んだ影山が1人分の場所をあけ、ポンポンとシーツを叩くのでお邪魔することにした。

    すっかり冷え切っていた俺たちの体温も、次第に元に戻っていく。
    影山は「おねがいした?」と目を瞑ったまま聞いた。寝言と勘違いしそうな辿々しさだった。
    「お願いしてない」
    「……なんで?」
    「ふふっ影山流れ星見たことある?マジで一瞬で消えるよ」

    少し尖らせた、形のいい唇からスースーと小さく息が漏れている。
    「俺の願いは影山が叶えてよ。例えば明日の朝さ、トーストにマヨネーズで囲って卵乗せたやつとか食べたい」
    影山は返事をしなかった。ただ流れ星みたいにほんの一瞬、笑ったような気がした。



    終わり
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