無防備に晒さないで「きゃーココくんのエッチー!なんてもの着てるんすか!?」
「それはこっちの台詞だ!」
「痛!頭叩いた!今絶対脳細胞何個か死にましたよ〜!」
両手で頭を覆う花垣は涙目で九井の睨む。花垣に睨まれてもそれほど怖いとは思わないが、別な意味でぐっと言葉に詰まる。
頭を覆う両手の、腕の、平均より細い二の腕のその付け根。
やたら袖口の空いたノースリーブから脇と側胸部が無防備に晒されていた。脇に至っては腋窩が丸見えで毛の処理が甘いのかそれとも処理していないのか、ふわふわの濃い産毛みたいな腋毛が腋窩の窪みからこちらを覗いていた。ごくりと思わず喉がなる。
「──花垣、お前こそなんて衣装着てるんだよ」
もうそれしか言えなかった。
「え、そんな黒のハイネック着てるココくんが言いますか?あのですね、オレレンタルDVD屋の店長やってた……ゲフンゲフン、いや、夢見たことあるからわかるんですけど」
「夢かよ」
「いや細かいところはいいんですよ!世の中には色んな性癖をもつ人がいるんですよ。そして惜しげもなくオレに披露する人もいました。披露と言う名の検索って言うんですけどね。聞かれましたよ『タートルネック着たAVない?』って」
「セクハラか?」
セクハラだよな?
「いやー夢の話なんですって。なんかね、その人が言うにはタートルネックで首元が隠れていると逆に想像を掻き立てられるそうです。あえて見せないことによって色気が出てくるらしいっす!」
「アホか」
ビシッとこちらに向けて指差す花垣の頭を叩くしかなかった。
「痛ッ!2回も叩いた!それにほら、この子しっすよ腰!」
「やめろ抱きつくな!」
「俺のココくんなんだからいいでしょ!?なんでこんな腰の細さ強調した服着てるんすか!」
そう言いながら花垣は九井の身体をギュッと抱きしめた。シャラン、と胸飾りが揺れて二人の距離はぎゅっと近くなる。当然花垣の髪からはシャンプーの匂いがするし、真新しい衣装の独特の匂いもする。あんなに無防備に脇見せているんだからフェロモンでも出ているんじゃないかと心臓がいやに派手な音を立てた。
「で、そんな俺の衣装に文句言うんだよなんか訳あるんだろ?」
「いや俺の衣装と交換してくれないかなって」
「絶対嫌だ!!」
渾身の力を込めてひっぺ返すと花垣はそのままわざとらしくヨヨヨとしなをつくって床にへたり込んだ。
「うわーん!!だって、この衣装脇丸見えで恥ずかしいんすよ!!山岸にも断られたらもうココくんしかいないんだもん!!」
「大寿がいるだろ?」
「大寿くんと俺の体格の差知ってますよね!?ケンシロウみたいに服ピリッビリに避けるじゃないすか!やだー!」
確かに裂けるなと九井は思った。その前に自分の恋人に大寿の服を着て欲しくない。というか
「花垣、お前その服恥ずかしいの?」
さっきまで脇チラどころか脇ガン見せしてたくせに?と思いながら言えば花垣は両手をクロスし、まるで自分を抱きしめるように包んだ。
「別に袖なしくらいたまに着てたから別に恥ずかしくないけど、なんていうか……ココくんに見られるのが恥ずかしいっていうか……」
「は?恥ずかしいの?恥ずかしくねぇの?どっち?」
モゴモゴと口の中で言葉を咀嚼しながら話す武道に痺れを切らした九井が苛立ちを隠せずに言えば
「だ、だ、だってココくんこの衣装着てからずーっと俺の脇見てるんだもん!!流石に恋人からガン見されまくったら恥ずかしくなるよ!!」
ワッ!と花垣はそのまま身体を丸めて動かなくなった。
(あ、やっぱり見ていたのわかったか……)
だもん、だもん……と頭で言葉が反芻するのを九井は冷静に、恥ずかしがる武道にどうやって脇見せポーズしてもらえるか考えることにした。