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    amane_sw

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    こてぶぜ 顕現したての豊前が篭手切を撮りたがる話

    #こてぶぜ
    armrest

     おぼつかない手つきで、人差し指が端末の上をゆっくりと動く。その手が止まって顔が上がるまで、私は自分のものと似ているけれど少し違う、真新しい内番服に身を包んだ刀の姿を眺めていた。
    「そこをたっぷすると、……はい、このように私に文を送ることができます」
     言葉を切ったのとほぼ同時に、私の端末から短い電子音が鳴る。懸命に打っていた文章が表示されたその画面を向けると、顔を上げたりいだあは面白そうに目を輝かせた。
    「おー、ほんとだ。すげーな」
    「本丸でもほとんどの刀がこれを連絡手段にしているので、覚えておいてくださいね。余程のことがない限りはどの時代からでも連絡が取れるはずなので」
    「ん、りょーかい」
     りいだあはまた自分の端末に目を戻して、何かの操作をしている。見慣れない機械に抵抗を抱く刀も少なくないけれど、りいだあはどうやら新しいものには興味を抱くほうの刀であるらしい。
    「細かい操作はその都度聞いていただければお教えします。ひとまず今日はここまでにして、お茶にしましょうか」
     説明を始める前に淹れた緑茶は、もう冷めてしまったかもしれない。新しく淹れ直したほうがいいだろうか。湯の入った魔法瓶を手元に引き寄せたけれど、私の手は何かを思い出したように突然顔を上げたりいだあの声に引き止められる。
    「そーいえばさ、これ、写真も撮れるんだったか」
    「はい。動いている姿も残せますよ」
    「そりゃすげーな! どーやんだ?」
    「……ええと、ちょっとお待ちくださいね」
     持ち手を握ったままだった右手を開く。どうやら、休憩するにはまだ早いらしい。こんなにも興味を持つなんて少し意外だな、そんな思いが過ぎりかけたけれど、疾さを求めるからこそ切り取りたい瞬間もあるのかもしれないなと思い直した。
    「まず、ここを押してください」
     卓袱台の角越しにりいだあの端末を覗き込む。私の指した指先を追う人差し指の先は、少し荒れているように見えた。あとではんどくりいむを塗るべきかもしれない。
     りいだあの指が端末を叩くと、画面が切り替わる。卓袱台の木目が全面に表示されたそれに目を瞬かせたりいだあの練習台になるものを探して、私は視線を彷徨わせた。
    「まずは……、そうですね、この湯呑で練習してみましょうか」
     しゃったあの位置を伝えて、覗き込む形だった上半身を戻す。そうすると、端末を立てるように構えているりいだあの画面は私にはもう見えない。
     すぐに鳴ると思っていたしゃったあ音は、なぜか鳴らなかった。難しい操作はないはずだけれど、りいだあの横顔は何かを考えているように見える。私の説明が不完全だっただろうか。不安が過ぎる。
     すると突然、隠れていたはずのりいだあの左目と目が合った。りいだあが体ごと私に向き直って、端末を上に持ち上げる。ぱしゃ。私の想定よりもずっと遅れて、しゃったあが切られる音が部屋に響く。
     それは、本当にあっという間の出来事だったように思えた。りいだあが、呆気に取られている私の名前を呼ぶ。
    「これ、撮ったやつ見んのってどーすればいいんだ?」
    「う、上のほうに小さく画像がありますよね? そこです」
    「お、これか。……あー、うまく撮れてねーな」
     残念そうに呟いて、りいだあが見せてきた画像は大きくぶれている。けれど、被写体が他の何でもない私であることだけは確かだった。私の頭は未だ疑問符でいっぱいで、そうですねと曖昧な言葉を返すことしかできない。
    「よし、じゃあもう一回だな」
    「お、お待ちください」
     仕切り直しと言わんばかりに、りいだあが端末のかめらを再び私に向ける。思わずそれを止めると、端末を構えかけたりいだあが目を瞬かせた。
    「ええと、なぜ私を……?」
    「ん、こーゆーの嫌だったか?」
    「いえ、そんなことは。ただ、試しに撮るのなら私でなくても良いのではと思ったので……」
     静止物のほうが撮りやすいですし。そう私が続けると、確かになとりいだあが言葉を返す。
    「でもさ、動かない湯呑より篭手切撮ったほうがおもしれーよ、きっと。なんつーか、歌うとか踊るとか俺にはよくわっかんねーけど、さっきのお前がすげーいい顔してたのはわかるからさ。写真にして残すんなら、そういうやつのほうがいいだろ」
     な。りいだあが同意を求めるように私に笑みを向ける。先ほど参考にと披露したものへの他でもないりいだあからの賛辞に、喜びが渦を巻く。それから、歌い踊る私の姿を切り取りたいと、形に残すにふさわしいものだとりいだあが思ってくださったことが、何より嬉しかった。
     どう言葉にしたらいいかわからない気持ちをなんとか礼にして伝え終え一息ついたところで、りいだあがまた端末を構えた。今度は私も気合を入れて臨もうと背筋を伸ばして、そこでひとつ疑問が浮かんだ。
    「座ったままの私で良いのですか? 動くものを切り取りたいのでしたら、何か動いてみましょうか」
    「いーんだよ、お前はそのままで」
     立ち上がりかけた私を、りいだあが包み込むような声で制止する。そのままぱしゃ、と一枚写真を撮って満足そうな笑みを浮かべたものの、すぐにその眉が顰められた。
    「何かありましたか?」
    「んー、うまくいったと思ったんだけど、やっぱ難しいな」
     見せられた画像は、やはり一部がぶれている。とはいえ先ほどに比べたらかなり上達しているのは明らかだったし、ぶれだって大したものでもないのに、りいだあはまだ納得がいかないようだった。何やらむきになっているらしい。
    「よし、もう一回撮ろーぜ」
    「何回でも構いませんが、その前に一度休憩しませんか?」
    「……あと一枚。それだけ撮ったらやめっから」

     あと一枚が何度も繰り返されて、湯呑の中身はどんどん冷えていく。何枚も並ぶ己の写真がなんだか見慣れた自分の顔とは違うように見えた。りいだあを通して見た私はこんな表情をしているのだろうかと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。
     りいだあは、これからどんな瞬間を切り取っていくのだろう。どこかを疾りながらその風景を納めてくるのかもしれないし、仲間と思い出を残すこともあるかもしれない。まだわからないけれど、初めにりいだあが撮ることを決めたのが私だったことを、その端末に初めて保存されたのが私だったことを、これからも、覚えているのだと思う。
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    DOODLEこてぶぜ 顕現したての豊前が篭手切を撮りたがる話 おぼつかない手つきで、人差し指が端末の上をゆっくりと動く。その手が止まって顔が上がるまで、私は自分のものと似ているけれど少し違う、真新しい内番服に身を包んだ刀の姿を眺めていた。
    「そこをたっぷすると、……はい、このように私に文を送ることができます」
     言葉を切ったのとほぼ同時に、私の端末から短い電子音が鳴る。懸命に打っていた文章が表示されたその画面を向けると、顔を上げたりいだあは面白そうに目を輝かせた。
    「おー、ほんとだ。すげーな」
    「本丸でもほとんどの刀がこれを連絡手段にしているので、覚えておいてくださいね。余程のことがない限りはどの時代からでも連絡が取れるはずなので」
    「ん、りょーかい」
     りいだあはまた自分の端末に目を戻して、何かの操作をしている。見慣れない機械に抵抗を抱く刀も少なくないけれど、りいだあはどうやら新しいものには興味を抱くほうの刀であるらしい。
    「細かい操作はその都度聞いていただければお教えします。ひとまず今日はここまでにして、お茶にしましょうか」
     説明を始める前に淹れた緑茶は、もう冷めてしまったかもしれない。新しく淹れ直したほうがいいだろうか。湯の入った魔法瓶 2595

    amane_sw

    PROGRESS新刊の一部 頭の整理がしたい きらきらと瞬くような楽器の音が、明るい調子で恋を紡ぐ声が、頭の中に流れ込んでくる。私は今日こそ歌の世界に飛び込みたくて、耳を澄ませて瞼を閉じた。

     一日の終わりや非番の日、自室で文机に向かって音楽を聴くのが好きだった。自分で歌うのも踊るのも楽しいけれど、誰かの歌声を聴くのだって面白いし何より勉強になる。今風の音楽の感覚を掴むにはとにかく聴き込むのが一番だ。
     音を拾うのではなくて、耳の中から直接さまざまな音が鼓膜を震わせるこの感覚にもすっかり慣れてしまった。主の勧めで初めてこれを手にして、私の指先ほどしかない小さな機械から流れるたくさんの音色にいたく感動したあの日が、もう遠い昔のことのように感じる。れっすんのときには手放せない存在になったこの機械も、そして私自身も、新入りとして扱われる期間はとうに過ぎた。
     両耳を塞ぐそれから流れるのは、最近特に気に入っている歌だった。影ができないほど強く当てられた光のように、楽器の音色も、歌声も、紡ぐ言葉も、その曲はすべてが眩しかった。おそらく初恋を題材にしたそれにはどこにも後ろ暗さや切なさなんて見当たらず、ただただ主人公が初めての感情に振り回さ 2058

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    「そこをたっぷすると、……はい、このように私に文を送ることができます」
     言葉を切ったのとほぼ同時に、私の端末から短い電子音が鳴る。懸命に打っていた文章が表示されたその画面を向けると、顔を上げたりいだあは面白そうに目を輝かせた。
    「おー、ほんとだ。すげーな」
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     りいだあはまた自分の端末に目を戻して、何かの操作をしている。見慣れない機械に抵抗を抱く刀も少なくないけれど、りいだあはどうやら新しいものには興味を抱くほうの刀であるらしい。
    「細かい操作はその都度聞いていただければお教えします。ひとまず今日はここまでにして、お茶にしましょうか」
     説明を始める前に淹れた緑茶は、もう冷めてしまったかもしれない。新しく淹れ直したほうがいいだろうか。湯の入った魔法瓶 2595