シードル最初はキスからだった。
それもじっと見つめてその合間に触れ合うだけ。
伺うように、窺うように。
そんな壊れモノみたいに扱うなよ。
オレがそんなにヤワじゃないのはお前が一番よく知っているだろう、類。
本当にいいのかい、と類はまた司に尋ねた。これで何度目だろうかと司は思い返してみる。まだ片手で数えられる程度だったが、それにしたってくどいだろう。大胆なくせに小心者のこの男は何度聞けば納得するのだろうか。
「類、何度言わせる気だ」
「そうは言うけど」
「いいと言っているだろう」
この体勢でよくもそんなことを言ってられるものだと司はあきれた。照明は限界まで落とされ内鍵も掛けた部屋で、類は司に覆いかぶさる格好をしている。
ここまで用意周到にしておいて怖気づくのか、お前は。
類の鮮やかなターコイズの混じる長い前髪が下りてその表情を隠している。それを邪魔だと司は手をのばして耳にかけてやった。
「なんて顔してるんだ、」
司が見たのは、眉を切なげに寄せ、その瞳は今にも泣き出しそうな見たこともない類だった。
「司くんは、おそろしくないのかい」
「オレはお前が分からないよ」
司の返答を聞いて、類は何かに耐えるように一度ぐっと目を閉じ開いた。
「類」
司の両手が類に襟首をぐいと引っ張って、それからゴツンと鈍い音がした。
「いっーーた!!」
「考えるのを今すぐやめろ、このバカ」
類の額は赤くなり、司がよく見てみれば涙目だ。類はバカなのは君の方だよと言いながら痛む額をすりすりと擦っている。
じんじんとする額は司に痛みを訴える。
「いいや、やっぱり馬鹿なのは類だぞ。お前は何を見ているんだ」
司は起き上がって類の赤くなった額に触れ、少しやりすぎたと謝った。そのままぎゅうっと類を抱きしめて、あやすように背中を撫でる。
あたたかい。
背中を撫でながら、考えすぎるなよと呟いた。