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    ushiai_41

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    ushiai_41

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    面倒くさい友人/疲れた阿澄が肉食いに清河に行く話/聶懐桑とのダチの関係
    ※魂魄未視聴のため想像で補ってます。なんでも許せる人向け

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #江澄
    lakeshore
    #聶懐桑
    nieWhiting

    清河のお肉 聶懐桑の知る江澄という男は、面倒くさい、を体現している。
     本人に言ったことは無いし、言えば確実に紫電で打たれてしまうため今後も口に出さず胸に秘めておくつもりだが、おそらく十人に聞けば七人は頷くだろう。残りの三人は熱心な信者、もしくは江澄に懸想している者だ。
     周りに厳しく、己にはもっと厳しい。
     一人になりたがる癖に、寂しがり屋で意地っ張り。
     かといって構いすぎると逆に距離を置かれて、ある程度心を開くが一線を超えると一瞬で遠い他人となる。
     酒に酔えば自己否定ばかり、怪我をしても持ち前の修為の高さでなんとかしてしまい誰にも言わない。何故それを懐桑が知っているかは秘密だ、紫電で打たれるつもりはない。
     素直じゃない、とても不器用、理想が高い、矜恃も高い、そのくせ自己評価が格段に低い。
     ああ、なんと面倒くさい男か。
     だが、その面倒くさい男は時折、面倒くさくなくなる。

    「……懐桑、こんな時間にどこへ行く」
    「大哥! えへへ、お誘いがあったもので、ちょっと出てきます。あ、ちゃんと明日までには帰ってくるから怒らないでね」
    「当たり前だ。いい歳した男をいつまで叱らねばならん。……おい、自分の剣くらい持っていけ」
    「やだよお、重いもの」
    「懐桑!」

     はじまりはいつだったか。会う度に江澄が疲れた顔をしていて、ときに幽鬼かと見紛う顔色をしていたのを見かねた懐桑が声をかけた。
    「ねえ、清河のお肉は美味しいよ」
     深い意味も無く、何かしらの意図も無かった。単なる会話の中の自慢とも、誘いともとれる懐桑の言葉に、江澄は戸惑いながらも社交辞令のように頷いていた。まだ若く、傷は癒えず、混乱の世のさなかだった。
     しばらくして、酷い顔をした江澄を見て懐桑は同じ言葉をかけた。それもまた江澄は怪訝そうに眉根を寄せて頷くのみだった。知っている、以前食べたからな。そう返事をして、何故懐桑わざわざ江澄に声をかけたのか、理由を察するには彼は不器用すぎた。それが、身内が母方の系譜と生まれたての赤子だけになってから、彼がたった一人胸を張って蓮花塢を守りはじめた頃のこと。
     それからまたしばらくして、しとしとと雨の降る静かな夜に、紫の蝶が帳をぬけ懐桑の元へ飛んできた。兄は夜狩に出て不在、教育係は既に床についている。懐桑は牀榻で行灯の明かりを頼りに巷で流行りの、兄曰く低俗な恋愛書物を読んでいたところだった。
    『清河の肉は美味いか?』
     懐桑の指先に乗った紫の蝶が言う。抑揚の無い別人のような声だった。それだけで推して知るべし、懐桑は小ぶりな緑色の蝶を作ると息を吹き込み返事を飛ばした。
    「あなたが知るより、ずっとね」
     それから、江澄は時折清河にふらりと訪れる。共をつけず、子弟も置いて、夜狩の帰りに、清談会の折に。ついでに、という割には毎回江澄の顔色は土気に精気を無くし、とても雄々しく勇猛果敢に雲夢を興す宗主には見えなかった。
     だが、肉に食らいつくとみるみるうちに赤みを取り戻す。飢えた子犬が一心不乱に餌に食らいついている。生命が生きようと必死になっているさまを見るのは、懐桑にとって美しい情景を眺めるのと同等の価値があった。

    「江兄、久しぶり。あはは、ひっどい顔だね」
    「…………そんなに酷いか?」
    「鏡くらい見なよ」

     江澄はいつも唐突だ。普段は思慮深く慎重に動くくせに、ふとしたときに突発的に動く。
     元々は考えるよりも身体の方が動く側の人間だと丸見えだったが、そういった素直さは血と泥と怨念に塗れた戦乱の時代と、足元に懐疑と奸計がはびこる世家の中で耐えることが出来なかったのだろう。
     若くして少ない経験と知恵で深謀遠慮を巡らし、たった一人で家を守らねばならなかった。懐桑が扇を見ている間に、江澄は多くの邪祟を見ていた。

    「今日は夜狩? また仙門との話し合い? あ、金家かな?」
    「金家だ。阿凌の後ろ楯を、と呼ばれてな」
    「わざわざ江宗主が呼ばれたの?」
    「妾の子を一人呼び寄せたらしい」

     懐桑から見た世界は色鮮やかに美しく、鳥は歌い詩を奏で生を謳歌する。だが、それが当たり前でないと気づいたのは、敬愛する兄が夜な夜な刀を磨き家を守るため得意でもないのに脳を使っていたときだった。
     懐桑は兄が好きだったし、兄に愛されているとわかっていたが、他人というものは時にとんでもない思い込みをするものだ。幸いなことに刀を振るうのは下手だが、頭を使うのはさほど嫌いではなかった。勉強は別として、人を動かすのなら悪くない。だから、懐桑なりに兄を支えようと清河の地で生きているのだが、果たして江澄にそう心決める余裕があったのか。

    「金家はますます魑魅魍魎が跋扈することになりそうだね」
    「阿凌が可哀想だ」
    「経験上、異母兄弟でも母がいなければ変わりないのだけどね」
    「聶宗主と聶兄の関係は特殊なほうだろう」
    「そう? まあ、大哥は私に甘いから」
    「わかっていたら損は無いな」

     覚悟無く突然奪われ、消えていき、一度に多くを背負うほか無い状況で、江澄が考える暇があったのなら、初めて声をかけたときのような顔はしていなかっただろう。
     懐桑は時折考えることがある。温家の騒動が無く、平和に皆過ごしていたら一体どうなっていたのかと。空想の遊びで希望を見ているわけではなく、単純に順当な現実を並べていくだけなのだが、懐桑の想像図には必ず魏無羨の姿は無かった。
     それは彼が鳥のようだったから。抑圧された場所で長く生きられる人ではないと思ったから。

    「それ、一年前に餌を変えて飼育された豚なんだ。まだ一般には流通してない。どう? 美味しいでしょ?」
    「ああ」

     育ち盛りの子供のように多くを食すわけではない。せいぜい三人前で多いほうだ。だからさほど負担でもなく、長時間というわけでもない。
     懐桑は江澄が清河が誇る良質な肉を、育ちのわかる品の良さで食らっていくさまを見るのが好きだ。切り分けられた肉塊にソースがつけられ、普通の大きさの口に運ばれる。大口を開けて飢えたようには食べずに、彼は一口一口を味わい身体に吸収していく。

    「美味い」
    「江兄の舌はやっぱり信頼出来るね。持って帰る?」
    「……いや、いい。また食べに来る」
    「そう」

     江澄が本来静かに食すことを知ったのは、魏無羨がいなくなってからだ。
     雲深不知処での座学で共になった一年の間、彼らは毎日たくさんのことを話し、ところ構わず小さいことで衝突し言い合いながら、食事も藍氏のいないところでは大いに騒いでいたから、それが普通だと思っていたものの。
     魏無羨がいなくなってから、私的な食事を交わした時、江澄は話さず物音を立てず、驚くほど静かに、それでいて素早く食していた。まるで野生の獣が闇の中で獲物を瞬時に平らげ、そのことを誰にも察せずに在るようだった。唖然としている懐桑に不思議そうな顔をしていたが、そこで懐桑は気づいた。
     江澄は、懐に入れたものには甘くする性質を持つ。飴と鞭を使い分けることが絶妙に上手く、また世話を焼くことが好きだ。
     懐桑からすれば、己が与えられなかったものを人に与えることで、自身で消化しているようにも見えたが、悪いことではなかった。
     魏無羨も、きっとそのうちの一人だった。
     江澄の実姉であり金夫人となった江厭離は人を甘やかすことに長けていたと言うが、その姉のそばで生きてきた人間はその術を理解しているものだ。江澄は気づかずに、無意識のうちにそうやって生きてきたのだ。
     江澄は決して魏無羨を許さないだろう。
     だが、義兄のことは許すはずだ。
     だって、彼の懐に昔からいたのだから。簡単に手放せる存在では無いのだ。

    「この前また孟瑤……じゃなかった、金光瑤が来てね。最近よく清心音を弾いてるんだ」
    「お前にか?」
    「いいえ、私ではなく大哥に。大哥は楽なんてからっきしなのに、どうして聴かせるんだろうね。間違っても大哥にはわからないからかな? 確かに練習には丁度いいかも」
    「自分の兄をそんな風に言うなよ、聶宗主だって楽を楽しむことくらいあるだろう」
    「そうかなあ」

     なんと罪深いことか、なんと慈悲深いことか。
     夷陵老祖を身内の仇とし、詭道を目の敵として、三毒聖手は恐ろしい仙師であると思わせながら、常に自分が一番傷ついているのだ。
     懐桑からすれば馬鹿馬鹿しいことこの上ないものの、だからこそ江澄の友人をやめることは出来なかった。
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