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    のくたの諸々倉庫

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    鍾タルワンライお題「失くしたもの」「守るもの」

    ……のつもりが「守りたいもの」って感じになりました。許せ。

    #鍾タル
    zhongchi

     タルタリヤはまた死にかけていた。
     ——否、その言い方だと少し語弊がある。もっと事実に近付けて言うならば、人間として生きることができなくなる、という意味で死にかけていた。
    「ねえ鍾離先生、今日のこれはどういう意味かな!?」
     余も更けて、善良な市民ならば眠っているであろう時間。しかしまあ、鍾離の自宅に窓から侵入するような男が——もっと言うならファトゥス十一位が、「善良な市民」であるわけはなく。加えて室内、呑気に本を読んでいる鍾離もまた例外のうちのひとりだった。
    「おや、公子殿。『今日のこれ』とはどういう意味だ?」
    「前回は首の後ろ! 前々回は背中! そんで今回は足の裏! 俺が自分で気付けないような位置に、マーキングするのやめてって何度言えば分かるかなあ……!」
    「ふむ、もう気付いてしまったのか。あと三日そのままでいれば、俺の庇護下で永遠を生きる存在にできていたというのに」
    「サラッと怖いこと言うのやめてくれよ……俺は先生のそういう存在になるつもりはないって、それも何度言ったんだか忘れたわけじゃないだろう……?」
     明滅する岩元素のマークは、タルタリヤが気付いて水元素を流し込めば、結晶反応を起こし消えはするものの。不安と不気味さは残ったままで、タルタリヤはげんなりと鍾離を見やる。なんともいい笑顔だった。
    「はは、だから見えない位置に刻んでいるんだろう。それに『こう』されたくないのなら、俺から距離を取ればいいとも伝えた」
    「嫌だね、先生とは人間と人間っていう距離感で接していたいんだ。単に人の形を選んだだけの人外と、友人になった覚えなんかないよ」
    「む、つれないな。俺のことは嫌いか?」
    「鍾離先生のことは友人としてそこそこ好きだけどね、元モラクスのこともモラクスのことも嫌いだよ」
    「そうか!」
     分かってないだろう、と言いかけた言葉を、タルタリヤはなんとか飲み下した。だってタルタリヤが現れたその瞬間から、満面の笑顔を続けている鍾離にはおそらく——何を言っても無駄だということを理解しているので。
    「……あのねえ先生、先生にだって守りたいもののひとつやふたつあるだろう? 俺にはあるよ、家族や女皇様への忠誠……そして人間としての尊厳だ」
     さすがに窓を閉めた。空気の流れが遮られ、室内の時が停滞したような錯覚。
    「俺のことを、気に入ってくれてるんだろうってことは理解してる。けどだからって、ずっと隣に置いておきたいはわがままだろう? いくら友人として好きだって、そういうひとを全員つなぎ止めておけないことくらい……先生も分かってるだろうに」
    「俺が隣に置いておきたいのは公子殿だけだ」
    「それなら龍体で出直してきてよ。俺が殺して剥製にして、部屋に置いてやるくらいならしてやってもいい」
    「……違いがよくわからない。説明してもらっても?」
    「嘘つかないでくれ、分かってるだろ? 俺は自由でいたいんだ。ともあれ先生と共に、長い時を生きるつもりなんてないから。
     ……それを言いにきただけだよ。じゃあね、おやすみ」
     言って、窓枠に手をかけたタルタリヤの背後、鍾離がゆらりと立ち上がる。けれどタルタリヤはストールを掴まれるより早く、ひらりと窓から身を躍らせた。
    「……おやすみ、公子殿」
     だからそんな、寂しそうな声で言うのはやめてくれ。闇に溶けるようにして駆ける間、タルタリヤは重いため息を噛み殺す。
     絆されかけていることは、なんとなく理解している。自分に向けられる笑みも、すげなく扱われて寂しげにするその声色も。一度懐に入れてしまえば終わりだと理解しているからこそ、これ以上近付きたくないのだ。
     タルタリヤは刃だ。だから鈍ってしまえば存在価値がないも同義なのだから、とまた全身に水元素を巡らせる。パキン、と鈍い色をした結晶が手のひらに現れた。
     タルタリヤはまた死にかけていた。だが決して、死ぬようなヘマはしない。人間であることを投げ出すようなこともしない。だがこうして、鍾離の元で「大切なのだ」と言われることを無意識に求めてしまっていることを。本人は決して、それこそ死ぬまで気付くことはない。
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    PROGRESSいつか、その隣で笑えたなら/ディルガイ
    「猫の王国」パロ。すけべパートは分けたいので短いですがその3。真相が明かされるよ
    「嘘、だろ……? だってお前、俺よりも少し歳取ってるじゃないか」
    「……君が、即死じゃなかったからだよ」
    「え……?」
    「……僕が知る『一度目』の君は、急凍樹の力により氷漬けになってね。聞いたことはないか? 氷漬けになった動物が、長い年月を生きたまま過ごした話を」
     知っている。知っているがゆるく首を振った。それ以上は聞きたくないとばかりに、震えるガイアにしかし──ディルックはどこまでも、平坦に言葉を続けた。
    「僕は必死に、氷を溶かしたさ。だが君の負った傷は、あまりに深すぎたんだろう。君はそのまま5年ほど眠り続けて……ついぞ目覚めることなく、命を落とした」
    「じゃあなんで、お前は」
    「……生きる、つもりだったさ。それでもいつか、君が助けた……赤毛の猫をある日見かけて、無意識のうちに追いかけた。
     そうしたら、その猫はぐったりした青い猫のそばで必死に鳴いていた。だから僕は、その猫を獣医の元まで送り届けて……さて帰ろう、と思ってからの記憶がない」
    「それで、ここにいた……って?」
    「そうだ。聞けば過労だったらしい。猫を抱えて必死に走ったのが決め手だったからと、僕はここに招かれたけれど」
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