ほろよいメロンソーダ宅飲みの利点は、他人の目を気にしなくていいことだ。酔った勢い、あるいはそれを言い訳にして、雨彦さんとキスするのだって心置きなくできてしまう。もっとも、他人ではない恋人の目はどうしたって気になってしまうけれど。唇を離してすぐ、雨彦さんの目線が僕ではなくテーブルの上へ向かったのを見逃しはしなかった。
「…なにかー?」
「ん? 何の味かと思ってな」
軽く唇を舐めながら雨彦さんが笑う。僕の前にあるチューハイの缶は期間限定のメロンソーダ味。アルコール分は4%しかない。
「口に合わなかったー?」
「お前さんの口付けはいつでも美味いさ」
「またそういうー…」
糠に釘、暖簾に腕押し、一人相撲。茶化すのは癖らしいけれど、本心なのかふざけているのか、煙に巻くような口ぶりにはいつももどかしい気持ちになる。
「こっちのはどうだい」と聞かれて、僕もそろりと唇を舐めてみた。わずかに苦い、ような気もする。雨彦さんが飲んでいたのはなんだっけ、とテーブルを覗くとハイボールと書かれたパッケージが見えた。
「うーん。よくわからないかもー」
「そうかい。北村はどっちのが好みだ?」
「まあ、メロンソーダかなー」
お酒が飲めるようになっても、僕はビールやワインより甘いチューハイを好んで飲んでいる。子供舌かもしれないけど、無理して苦手なものを飲んでも楽しくないし。僕にはハイボールはまだ早いねーと伝えたら、雨彦さんは「ふうん」とにんまり笑った。僕のチューハイ缶をひょいと取り上げて、ひと口煽る。目の前で白い喉仏がこくりと動いて、すぐに缶はテーブルに返された。
「…さて。これでお前さん好みの味になった」
自分の唇をトントン指し示して、雨彦さんは意味深な視線を寄越す。待ってますよと言わんばかりだ。
わざわざ僕からさせようなんていやらしい。呆れ混じりの言葉と一緒に僕もメロンソーダのお酒をひと口飲み下す。
「…今日は酔っ払ってるから」
「ほう?」
「そのお誘い、乗ってあげるよー」
酔った勢い、あるいはそういう言い訳。心地よい酩酊に身を任せて、雨彦さんの甘い唇を味わった。