Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    吉良の作業ログ

    尻叩き用。
    ご一読ください:https://twpf.jp/kira_soko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    吉良の作業ログ

    ☆quiet follow

    風邪ネタでナツグレの冒頭。グレイが風邪をこじらせる話。ざっくり時間軸。

    ##FT

    39.7℃

     起床と同時に確認した時計の短針が左上を指し示していたので、グレイはおやと目を見張った。次いで己の身を襲った悪寒に思わず身震いすると、何事かを理解するよりも早く起こしたはずの上体が後ろへと傾いていく。かろうじて機能した腹筋が衝撃を軽減するも、頭部が枕に押し付けられた途端小さく呻き、強く目を瞑った。
     こめかみを押さえれば、指先には浮いた血管から常らしからぬ脈動が伝わる。拍動に合わせて痛む頭に手を当てながらゆっくりと起き上がると、カーテンの隙間から差し込んだ陽の光に視界が眩んだ。ベッドから抜け出し、足先がカーペットに着いたところに再び沸き起こった凍える感覚で、ようやく自らの身に起こるの異常に理解が及ぶ。茹った頭ではまともな思考が働かず、ずいぶんと遅れた把握であった。
     ベッドサイドに備え付けられた棚の引き出しをひどく緩慢な動作で開くと、ろくに中身に目も向けることもなく手を突っ込んで何かを探す。程なくして引き抜かれた手には体温計が一本握られていた。小さな画面の隣のあるボタンを一度押し込むと、襟首を引っ張って脇に差し入れる。二の腕を押さえ付けながら検温が終わるのを待つ間、グレイはぼんやりと中空に視線を漂わせた。視界の端に映る時計が示すのはほとんど昼の時分で、渋い表情を浮かべた彼の口からは重いため息が吐き出される。
     日中のほとんどをギルドで過ごすことが多いグレイの不在はそれなりに目立つ。とはいえ依頼を受けることは常であり、日帰りのものの方が少ない関係上、それにすぐさま気付くのは依頼の受注管理をしているミラジェーンくらいのものだろう。たかだか半日顔を出さなかった程度では、彼女も特別気にしないはずだ。
     ピピピッ、と電子音が鳴る。それを合図に挟んでいた体温計を抜き取ると、ぼやける視界に目を瞬かせ、表示されている温度を視線で追った。
    「…………三十八度?」
     呆然と呟いたグレイは、ここで事がそう甘くないことを悟った。自らの平熱を思い返し──扱う魔法の性質ゆえに、グレイの平熱は他人よりも低い──、それを大きく上回る体温にめまいがする。思う以上に出の悪い声は、喉の調子が悪いことを如実に表しており、ひとたび意識すれば乾いた咳が次々と転(まろ)び出た。手から体温計が滑り落ちる。
     回る視界にいよいよ以て焦りを覚えたグレイは、思うようには動かない身体を叱責し、覚束ない足取りで部屋を出る。一直線にキッチンへと向かうと、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してグラスに注いだ。一口、二口と飲むうちに、枯れていた喉が潤っていく。半分ほど飲んだところで、グレイはグラスから口を離した。
    「薬、どこしまったっけ……」
     きょろきょろとあたりを見回し、薬をしまうそうな場所を探す。いくつかを開けては閉じ、そこに目的のものがないことを確認すると、グレイはげんなりと肩を落とした。そもそも、空っぽの胃に薬を入れたところで意味がないことを思い出し、頭が動いていないことを実感して項垂れる。考えてみれば食欲もない。不調を実感すればするほど悪化していく現実に、このままでは薬を見つける前に動けなくなることを予感して、それ以上は何をするでもなく寝床へと引き返した。飲みさしのグラスは、シンクに放置した。
     壁に手を突きつつ寝室へ戻ると、ほとんど倒れ込むようにベッドに寝転ぶ。日頃は縁遠い寒気を身体の内側に感じながら、身を捩って布団の中へと潜り込む。コンコンと漏れ出る咳を噛み殺し、痛む頭を枕に擦り付けて、グレイは倦怠感にまどろむ意識を手放した。



     ギルドの一角、四人掛けのテーブルで料理を口いっぱいに頬張るナツとハッピーに、聞き慣れた声が掛けられたのは、昼をやや過ぎた時分のことだった。声のした方へとナツたちが首を回せば、予想通りの金髪の少女が怪訝そうな顔で彼らを覗き込んでいる。料理に口を埋められながら、だいぶ聞き取りにくい発声で「ルーシィ」と言うナツに、彼女は苦笑いを浮かべて向かいの席に腰掛けた。
    「ねえ、最近グレイに会った?」
     料理改め、炎を器用にも口に運んでみせるナツは、眉をひそめてその名を繰り返した。食べる手を止め、ここ最近の記憶を思い出そうと顔を難しくする。その隣で魚にかぶり付いていたハッピーが答えた。
    「オイラたちがクエスト行く前にギルドで会ったよ。だから、四日前かな?」
    「帰ってきてからは見てねえ。クエスト行ってんじゃねえのか?」
     気抜けた顔で問うナツに、ルーシィは頷いた。どうにも何かが心に掛かる様子の彼女は、不安げに目を細める。
    「あたしもそう思ってたんだけど、ミラさんが……」
     ルーシィが言うに、件の人物はクエストに出ているわけではないのにもかかわらず、この数日間ギルドに顔を出していないのだという。この日の昼時、昼食を頼みにカウンターを訪ねた彼女は、ギルドの看板娘からどこか物憂げ表情でそう告げられたらしい。
     話を聞いたハッピーが困ったように眉根を寄せる。その隣でナツは唇を尖らせ、おもしろくないという気持ちを全面に押し出しながら、グレイの行動を勘繰るような悪態を吐いた。心配そうな顔で首を傾げるルーシィの背後から、緋色の髪をなびかせたエルザが顔を出す。それに気付いたルーシィが名前を呼ぶと、彼女はそちらに視線を向けながら口を開いた。
    「クエストもないのに顔を出さないのは妙だな。てっきり私もそうだろうと思っていたが」
     どうやら話を聞いていたらしい彼女は、ゆるく握った拳を口元に当てて目を伏せた。それに同意を示して頷いたルーシィが言葉を続ける。
    「一昨日から見てないのよね。それで、ミラさんがちょっと様子見てきてくれないかって」
     そう言ってナツたちに目を向けたルーシィに、ナツはあっけらかんと告げる。
    「行けばいいじゃねえか」
     まるで自分は無関係だと主張するような言葉だった。彼はことグレイのこととなると、どうにも頑なになる傾向にある。それは偏に彼らが良きライバルであり、昔馴染みの仲間であるためであったが、それを理解しているはずのルーシィは声を張り上げて首を横に振った。
    「私一人はイヤよ! そんなことしたら後でジュビアに殺されるかもしれないじゃない!」
    「あぁー……」
     その言葉にハッピーが納得したような大息を洩らした。同じギルドに属する者として否定したいところではあるものの、そうするには日頃の言動があまりにも怪しいのである──当然、殺されることがないことはわかっている──。ともすれば、という可能性を排しきれないハッピーが、それ以上何かを言うことはなかった。否定も肯定もせずに黙していたエルザが、話の流れを引き戻す。
    「ルーシィに付いていってくれとミラに頼まれたんだ。個人的にも気に掛かるしな、私も行こう。ナツ、おまえもだ」
     エルザが念を押すようにそう言うと、水を向けられた当の本人はいかにも不承不承という体で承服した。しかし、苦々しげに模られた表情に滲むのは不満ばかりではない。話を聞いて行動を起こさずにいられるほど、ナツと彼とは険悪な間柄でも、淡泊な付き合いでもなかった。
    「最近なんかつまんねーの、そうか、アイツがいねえからか」
    「ケンカ以外にすることないの?」
     ルーシィの心底から呆れたような声に、呵々とナツは大笑する。彼を発端に起こるケンカは日常茶飯事であり、もはや妖精の尻尾の名物ですらある。本人の認識としては日課のようなものだろう。その相手はギルドの者であれば誰であろうと問われないものの、きっかけになる人物は大抵決まっていた。ナツを爆弾、ケンカを爆発とするのなら、今のナツには起爆剤が欠けているのである。
     ケンカの勃発自体はできれば防ぎたい事案であったが、不発弾が蓄積するのも喜ばしくはない。ケンカはナツにとってのガス抜きなのだから、規模が小さく済むうちに好きにさせてやれ、というのが最近のマスターの談である。それを達観と呼ぶのか、諦観と呼ぶのかは神のみぞ知るところであろう。
     そうと決まれば、ナツの行動は実に早いものだ。皿の上に残っていた燃える料理を飲むように食べ尽くし、魚の骨だけが乗っているハッピーの皿と重ねてカウンターへと持っていく。快活に一言感想を添えた彼にミラジェーンは微笑むと、何事かをささやいて困ったように眉尻を下げた。それに口角を上げて返した彼は、すぐに踵を返してルーシィたちの元へと戻ってくる。カウンターから小さく手を振るミラジェーンにルーシィがグッと親指を立てる。それを見たハッピーが手を振り返したのを最後に、一行はグレイの家へ向かうべくギルドの扉を押し開いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖😭💖👍🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    吉良の作業ログ

    MAIKINGストーカーネタの導入。少しグロいかもしれない。サバイバーズ・ギルト

     人体がひしゃげる音を聞いたことがある。息をするのがやっとな程の苦痛を味わいながら、原型のない足を引きずって地を這い回ったことがある。
     燃える故郷の光景を今も覚えている。傍で真っ赤に身を染め上げた兄弟の体温の生温かさも、瓦礫から飛び出る手の薬指にはまった指輪が見慣れた母のものであったことも、眼前でうつ伏せに転がる父の身体に深々と突き刺さる鉄柱も、まるで昨日のことであるかのように。
     長い長い歳月を経てもなお、こびり付いたままの記憶が風化することはない。毎夜見る夢がそれを許さなかったのだ。真っ白なはずの故郷は赤く色付き、整えられていたはずの街並みは無惨にも崩れ去り、深く積もった雪がもたらす静謐にまどろんでいたはずの人々は皆、厄災によってその息を永遠に止めてしまった。なんの因果か一人息を続けていた自分だけが瓦礫の海で溺れていたのを、救援に来た軍の先遣隊が引き上げてしまったのが運の尽きだったのだと、今でも思っている。
     潰れた右足が元に戻ることはなく、けれどそれだけで済んでしまった自分は、かれこれ二十年弱もの間、ほとんど死んだように生きてきた。家系図の端っこにいるか 4932

    吉良の作業ログ

    PROGRESS後編の最初を核心突かない程度に。ケツ叩きです。シオンの花の咲く丘で【後編】

    「一応確認するが、おまえたちはギルドメンバーとして来たのではなく、グレイの友人として話を聞きにきたんだな?」
     早天の寒風が頬を吹き付けるなか、ぶっきらぼうに投げ掛けられたそのリオンの問いに、ナツは矢庭に首肯した。思考を挟む余地もない様子のそれに思わず眉根を寄せたリオンだったが、どこか納得を含む諦めた表情を浮かべると、ナツの隣に立つエルザに視線を向ける。ナツの返答を保証するように一度ばかり頷いてみせた彼女を認めると、リオンは再度口を開いた。
    「……なら、オレがこれから教えるのは詳しい話を知ってる知人の情報で、教えてやるのはヤツの腐れ縁の誼としてだ」
    「わかっている。面倒をかけてすまない」
    「なんだよ、意味わかんねぇな」
     そう言いながらリオンはギルドから続く街路を歩き出し、エルザたちは言われるまでもなくその後に続いた。委細承知といった体で謝辞を述べるエルザに対し、リオンの確認の意図を把握でいないナツが首を傾げる。その後ろで話が読めずにいるルーシィやハッピーもまた、ナツと似たような困惑の表情でリオンの背中を見つめていた。
    「知人というのはあの村の長のことだ 3788

    吉良の作業ログ

    MAIKING風邪ネタでナツグレの冒頭。グレイが風邪をこじらせる話。ざっくり時間軸。39.7℃

     起床と同時に確認した時計の短針が左上を指し示していたので、グレイはおやと目を見張った。次いで己の身を襲った悪寒に思わず身震いすると、何事かを理解するよりも早く起こしたはずの上体が後ろへと傾いていく。かろうじて機能した腹筋が衝撃を軽減するも、頭部が枕に押し付けられた途端小さく呻き、強く目を瞑った。
     こめかみを押さえれば、指先には浮いた血管から常らしからぬ脈動が伝わる。拍動に合わせて痛む頭に手を当てながらゆっくりと起き上がると、カーテンの隙間から差し込んだ陽の光に視界が眩んだ。ベッドから抜け出し、足先がカーペットに着いたところに再び沸き起こった凍える感覚で、ようやく自らの身に起こるの異常に理解が及ぶ。茹った頭ではまともな思考が働かず、ずいぶんと遅れた把握であった。
     ベッドサイドに備え付けられた棚の引き出しをひどく緩慢な動作で開くと、ろくに中身に目も向けることもなく手を突っ込んで何かを探す。程なくして引き抜かれた手には体温計が一本握られていた。小さな画面の隣のあるボタンを一度押し込むと、襟首を引っ張って脇に差し入れる。二の腕を押さえ付けながら検温が終わるのを待つ間、グレイ 3536

    recommended works

    p33UczD0G2lwReE

    MEMOドラスレ5人が永遠の眠りについた話(死では無い)。
    設定が色々なところに飛んでいるため(?)深追いはせずに…
    永遠の眠り(ドラスレ5人)ナツ・ドラグニル
    どこかの世界の果てに存在する、炎に纏われた屋敷の最奥に眠っている。ピンク髪の少々幼げな顔が特徴的な青年。傍らにはもう何色か判断できないマフラーが置いてある。いつから眠っているのかは不明だが確実に400年間はたっていると推定される。また、眠ることで魔法の影響により彼の存在を知るものは居なくなった(忘れた)。寝具は焼け焦げた箇所が沢山あるボロボロの布切れが集まってできており、寝具の周りには永遠に消えることの無い黒い炎が燃え盛っている。目を覚ます条件は、彼の事を誰か思い出すことである。

    ガジル・レッドフォックス
    鉱石で覆われた深い谷底で眠っている。黒い長髪で身体の至る所にある鉄製のネジが特徴的な青年。彼同様いつから眠っているのかは不明だが、どのくらい眠っているのかの推測をたてることはできなかった。眠ることで魔法の影響により、誰も彼の居場所を突き止めることが出来なくなった。寝具は表面が凸凹した巨大な鉱石で出来ている。深い谷底に居るが周りの鉱石によって寝具諸共囲まれており、光は僅かにしか入らない。目を覚ます条件は、本当に愛する者の口付けである。
    1290