黒龍十代目特攻隊長「そのお綺麗な顔で親衛隊長と寝てんだろ!」
「アァ? ぶっ殺すぞ!」
拳で殴って蹴って鉄パイプで殴って、相手が昏倒したのを見て、乾は思った。寝たってなんだ?
親衛隊長とは考えるまでもなく、九井のことだろう。寝たというのはいったいなんだ。アジトに泊るときは、乾はソファーで、九井は三つ折りのマットレスを敷いて眠る。九井の仕事が終わらぬ時は、交代することもあるが、どちらの寝心地がいいかはさほど変わらない。それはともかくオレがココと寝たからといって、なんだというのだ。
鉄パイプを放り出して、振り返ると部下が微妙な顔をしていた。
「おい、」
「はいっ」
「オレとココは寝ているように見えるのか」
「ひ、ひぃっ」
話しかけた隊員が悲鳴を上げた。他の隊員もおどおどと視線を外す。そこでようやく乾も気づいた。どうやら侮蔑の言葉らしい。
「おい、寝るっていうのは、」
いったいなんだと聞こうとする前に、新たな黒龍のメンバーがぞろぞろと部屋に入ってくる。
「イヌピーやりすぎ。そいつらは尋問するって言ったろ。気ぃ失ってんじゃん」
親衛隊らの間から、九井が現れる。そう言えばそんなことを言われていた。ばつが悪くてそっぽを向くが、ある程度予測していたのだろう。「まぁいいけど」と言い、九井は部下たちに指示をすると、乾の傍にやってきた。その頬にそっと手のひらを滑らせる。
「イヌピー、怪我してんじゃん。手当しような」
「ココ」
「なに? どうした?」
「あいつらにオレとココが寝てんだろって言われた」
「は?」
九井の顔色が変わった。それに伴い空気も凍る。
「そいつらの扱いは丁重にしてやれよ」
九井の命令に従順な部下たちが頷くのを見届けて、九井は乾の手をひいた。
裏切者はことごとく内情を吐露したらしいが、そのわりにアジトに戻ってきても九井の表情はすぐれない。
「ココ、寝るってなんだ」
「イヌピー」
「アジトで寝るのとは意味が違うんだろ? オレにもわかる」
「あー、その、セックスしたかってこと」
「せっくす」
睡眠のことを示しているのかと思っていたが、まったく違う行為だと言われて、驚いた。たしかにセックスが終わったらそのまま寝る。それで「寝る」か。なるほど。
「なんだ。そのまま言ってくれたらよかったのに」
「どうしたんだよ」
「タコ殴りにする」
「同じじゃん」
九井が笑う。ソファーに座る乾に九井は膝を寄せる。
「イヌピーで変な想像をされたくない」
「事実だろ」
「でも嫌だ」
「じゃあ、今日はセックスしないのか?」
「それはする」
なんだ、するのかよ。笑った乾に九井がくちづける。
乾はただしく九井と「寝る」ことになった。
「次にココと寝てるのか言われた時は、そうだと答えればいいのか?」
「いや、ぼこぼこに殴ってくれ」