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    somakusanao

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    somakusanao

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    タイトルですべてがわかると思いますが、そのままです。
    20億回は見たネタだと思老いますが、だいすきなネタが好きなので、お許しください。

    #ココイヌ
    cocoInu

    ココ、おまえだったのか「ココ……おまえだったのか」

     アジトの玄関口で、九井は混乱していた。とうとう乾に見つかってしまった。
     オレはごんぎつねじゃねぇぞ、と思ったが、やっていることはさしてごんぎつねと変わらないのかもしれない。いや、ごんぎつねはたぶんストーカーではない。いや、もしかしたらごんぎつねは猟師のおっさんのストーカーなのか?斬新な案だな?こんなことを発表したら、炎上しそうだが。
     いや、現実逃避している場合じゃなかった。
     乾はでっかい目をいっそう見開いて、九井を見ている。
     しかたなく九井は乾にこう言ってやった。

    「よぉ、イヌピー。実はオレはストーカーだったんだ」

     乾はまじまじと九井を見て、たっぷり30秒ほどだまり、言った。

    「知ってた」
     
     マジか。


    *****



     話は聖夜決戦後にふたりが離別したことに遡る。九井は乾と離別した。別れた。たしかに、そう、わかれたのだ。
     とはいえ、幼馴染である。生活圏内は同じだった。乾を見かけたのは離別して三日後のことだった。さすがに気まずくて、慌てて道を引き返した。たぶん乾は気づいていなかったはずだ。乾は手ぶらで歩いていた。
     イヌピー、家に帰ってるのかな。
     乾は両親と仲たがいをしている。乾が家に帰っているとは到底思えない。では、どうするのか。九井はその答えを知っていた。

    「やっぱりアジトか」

     乾がまっすぐに向かった先はアジトだった。電気も水道も通っていない。空き家だ。
     やめておけと理性が囁いているにもかかわらず、九井は窓からアジトを覗き込んでいた。
     乾はなにかを探している様子で、九井が覗き込んでいることに気づきもしない。ややすると「あった」と顔をあげた。乾が手にしていたのはカップラーメンだった。
     おいおいおい、それ、いつのカップラーメンだよ。
     九井は頭を抱えた。食料を買い込んでいたのは主に九井だ。その九井が思い出せないのだから、そうとう前に買っておいたものだろう。いや、おちつけ。カップラーメンの消費期限はそうそう切れるものではない。だいじょうぶだ、と胸をなでおろそうとした瞬間に、おもむろに乾がカップラーメンの蓋をあけた。

    「えっ」

     嫌な予感がする。九井の額に汗が流れた。
     まさか。まさかだよな。イヌピー。たしかにアジトには水道はない。電気もガスも通っていない。つまりお湯がない。アジトでカップラーメンを食べるときは、近くのコンビニでお湯を拝借していた。コンビニの店員はなにか言いたげだったが、九井が他に買い物をしていたこともあって、文句を言われたことはない。そんな度胸もなかっただろう。
     だから乾だってコンビニに行けばいい。ペットボトルのひとつでも買えば、おそらく文句は言われまい。
     だがしかし。
     
    「た、たべた……」

     乾はカップラーメンをそのまま食べて「あんまりうまくねぇな」と呟いた。あたりまえだ。
     九井はその場に座り込んだ。
     
     ここままじゃイヌピーが飢え死にしてしまう!
     それだけはなんとかしなくては! 



     九井だってなんども考えた。オレのやっていることはやりすぎじゃないか。オレとイヌピーは離別したんだ。お互いの道を歩むと決めたんだ。
     しかし、しかしだ。
     九井はたびたびアジトに足を運び、乾の無事を確かめに行った。
     食パンをまるかじりするイヌピー(カップ麺はさすがに懲りたらしい)。
     公園で水浴びをするイヌピー(風呂の代わりらしい。大胆すぎる)。
     ゴミ捨て場に捨ててあった漫画を拾うイヌピー(イヌピーだってたまには娯楽もほしいよな)。

     このままでは幼馴染が浮浪者になってしまう!
     ていうかすでに浮浪者だよ! 
     オレが助けてあげてもいいよね!赤音さん!

     というわけで、九井は本格的に乾の生活保護に努めることにしたのだ。そう。生活保護だ。ストーカーではない。



     じつを言えばだいぶ前にアジトは買い取っていた。黒龍はもっとでかくなると思っていた頃の話だ。だから水道ガス電気が通るようにした。単純に料金を払うことにしたのだ。
     そしてさりげなくアジトの前に電気ポットや炊飯器を捨てておいた。それなりに使い古したようにわざと汚した新品である。乾は当然それらを見つけた。漫画雑誌をためらいなく拾う乾だ。家電製品だって拾うはずだ。いや、拾え。
     物陰から見守る九井が手に汗握る中、乾はあっさりと家電を拾っていった。よしっ。九井はガッツポーズをとり、すぐさまアジトに近づいた。いつものポジションから中を覗き込むと、乾はさっそく電気ポットを使ってみることにしたようだ。

    「あっ、使える。っていうか、ここ、電気がとおっていたんだな」

     オレが電気代払ったからだよ!
     心の中で叫びつつ、九井の心中は穏やかではなかった。
     ていうか、イヌピーはもうちょっといろんなことを疑ったほうがいいと思うんだよね。オレが言うのもなんだけど、親切なやつばっかりじゃない。イヌピーを騙そうとしている奴だっているかもしれないんだぜ。
     その乾はひさしぶりにあたたかいココアを飲んで、ご満悦の様子だ。ちなみにココアは九井が買っておいたものだ。たぶん買って半年というところだから、賞味期限はあと一年くらいだいじょうぶだろう。
     気難しい顔をしているか無表情かどちらかの乾が、珍しくにこにことココアを飲んでいる。

     ……イヌピーがいいなら、まぁいいか。

     九井の中で結論がついた瞬間だった。




     おそらく光熱費を払ったことが九井のストッパーを外してしまった。オレが買った土地でオレが光熱費を払っている。つまりオレが家主でイヌピーは店子だ。家主が店子の様子を見に行ってもいいよな?
     乾は家賃を払っていないので、この理論は破綻しているのだが、九井の中ではそういうことになった。そういうことにした。
     離別からしばらくが経過して、乾はバイク屋でアルバイトをすることになったようだ。元黒龍の先輩の口利きらしい。あのイヌピーが働いていることに、九井は感動して、バイク屋で三台ほどバイクを買ってみた。九井は使わないものだが、なにしろ九井は関東卍會の幹部なので、部下がいる。部下に与えてやればいい。
     次第に乾は仲間を作っていった。主に東京卍會のやつらだ。特に龍宮寺や三ツ谷などと仲良くしているらしく、アジトにも招くようになった。
     しかし、しかしだ。
     しょせん東京卍會。頭の悪いヤンキーだ。ドアを開けっぱなしでアジトで騒ぐ。食べるものはコンビニ。外食だってラーメンだ。炭水化物しか食べてねぇじゃねぇか!だから頭が悪くなんだよ!イヌピーは別だけどな!
     
     そこで九井は考えた。金策よりも真剣に考えた。

     まず、アジトに鍵を作ることにした。つまりドアを新しく入れ代えることにした。鍵は乾がバイクの鍵などを置いているトレイの上に置いておいた。うっかりさんな乾は一か月経っても気づいてくれなかったが、三ツ谷が気づいてくれた。

    「これなに?玄関の鍵?」
    「ずっと前からあった」

     ずっと前からあったは乾の勘違いだ。鍵があるのは一か月前からだ。
    「この家、鍵なんてあったんだな」と呟く乾に「出かけるときは鍵をかけたほうがいいよ」と三ツ谷がもっともなことを言う。
     もちろん九井は合鍵を作って置いた。正確に言うなら、九井が持っている方がマスターキーで、乾が持っているほうが合鍵だ。乾が失くさないように、合鍵にはあらかじめドラゴンのキーホルダーをつけておいた。黒龍のマークに似ているようで似ていない絶妙なデザインは九井がわざわざデザイナーに注文したものだ。
     とうぜん乾はキーホルダー、もとい鍵を持ち歩くようになったので、九井は安心してアジトの戸締りをするようになった。
     つまり九井は毎日アジトに通っている。
     なぜならば!家主なので!!店子の安全を守ることは家主の使命なので!!!おかしいことは自分でも分かっているので、つっこみは不可です!!!!

     つぎに九井は乾に差し入れをすることにした。これは三ツ谷や河田兄弟が時々さしいれをしていることがうらやまし……ゲフンゲフン、倣うことにしたのだ。 
     ラーメン屋を目指す河田兄弟が持ってくるのはたいていラーメン屋のメニュー、チャーシューだったり、煮卵だったり、餃子だったりなのだが、三ツ谷の差し入れは家庭料理だ。九井は三ツ谷を真似ることにした。三ツ谷はたいてい差し入れをタッパーウェアに詰め込んでくるので、おなじタッパーウェアを買って、そこに料理をつめこみ、コンビニの袋に突っ込んで、乾が帰って来る五分前にドアの前においてみた。なぜ五分前がわかるのかと言えば、乾は毎日同じルートで出勤するので、ちょっと街灯にカメラを仕込んだというだけだ。は?犯罪?これはイヌピーの保護ですけど?
     当然、乾はコンビニの袋に気づいた。中を見る。

    「三ツ谷が置いていったのか?」

     よしっ、成功!
     乾は九井が差し入れたコンビニの袋を持って、九井が作った鍵を開けて、九井が管理するアジトに入っていった。
     アジトの中は乾がごみ収集所から勝手に持ち込んだソファーなどで充実している。もちろん九井が捨てたものだ。
     バイト返りで腹が減っていただろう乾は、さっそくタッパーを開ける。ちょっと驚いたような顔をしたのは、乾の好物を詰め込んだからだ。あまい卵焼き。鳥の照り焼き。マカロニサラダ。高菜のおにぎり。
     乾が「うまい」と言った瞬間に九井は報われた。
     
     それからも九井は乾に差し入れを続けた。
     河田兄弟を装ったチャーハン。林田家の近くにある総菜屋の弁当。ときには三ツ谷がおさない姉妹とつくるクッキーを真似てみた。
     ていうか、東京卍會のやつらSNSで個人情報出しすぎじゃね?
     ともかく乾は九井の差し入れを食べ続けた。乾が三ツ谷に「ありがとう」と言った時は、腹がねじれるかと思うほど悔やんだが、それは仕方のないことだ。


     当然なのだが、九井のストーカー行為は仲間内では有名だった。部下も知っていた。
    「九井はヤバイ。三途よりヤバイ」
    「やってることはストーカーなのに、イヌピーを守っていると思い込んでいるところがヤバイ」
    「ストーカーがストーカーをしている奴を家に住まわせているって、そうとうヤバイ」
     悪口は人のいないところでいうものだが、そこは関東卍會だ。口の悪い連中ばかりだった。やばいやばいと口では言いながら、止めるような連中ではなかった。それどころか「今日はストーカーしてないのか?」と煽るような奴ばかりだった。


     その関東卍會が解散した。それまでに紆余曲折在ったのだが、それはこの話には関係がないので割愛する。ともかく関東卍會は消滅し、働きづめだった九井は放心状態にあった。その防衛本能だろうか。「あ、イヌピーに差し入れをしなくちゃ」と無意識にいつものストーカー行為をなぞらえていた。
     いつものようにタッパーに入れた差し入れをドアの前におこうとして、不意に「今日は暑いな」と思った。暑いから差し入れは冷蔵庫に入れよう。夏の日の差し入れを冷蔵庫に入れるのは当然のことだ。九井はさも当たり前のようにドアに鍵を差し込んだ。マスターキーだ。滑らかに鍵は開く。
     そこに立っていたのは乾だった。
     おそらくコンビニに飲み物でも買いに行こうとしたのだろう。手にバイクのキーを持っている。

    「あ……」

     声をあげたのはどちらだったか。
     乾は九井を見て、マスターキーを見て、差し入れの入ったビニール袋を見た。

    「ココ……おまえだったのか」


    *****



     乾は後先を考えないが、それはなにも考えたくないからだ。姉を失ってからの数年間はその傾向が強かった。食欲はなくなり、逆に睡眠時間は長くなった。誰かに「食え」と言われるから飯を食い、「起きろ」と言われるから起きる。その誰かの大半が幼馴染であることを乾はようやく自覚するようになっていた。さすがにこんな状態はまずい。自立しなければ九井にも負担だろう。そんな折に花垣に会い、芝大寿は引退し、黒龍は東京卍會と合併した。
     九井と離別したのは、そのほうがお互いのためになると思ったからだ。そのつもりだった。

     空き家だったはずのアジトがだんだん住みやすくなっていくことを、最初はラッキーだと思っていた。
     水が飲める。ラッキー。電気がつく。ラッキー。ガスが使える。……いや、さすがにおかしくね?
     おかしいとは思ったが、乾に追及する能力はなかった。すべての相談相手は九井だった。九井がいない今、いったい誰に相談すればいいんだ。
     いちおう乾も打ち明けたことがあった。たまたまそのとき隣にいたのはパーちんだった。

    「家のガスが使えるんだがどう思う?」
    「そりゃ使えるだろ」
      
     これは乾の説明不足だ。ガス代を払っていないのにガスが使えるんだがどう思う?と聞くべきところの肝心な部分を言っていない。だが、パーちんに肯定されたことで、乾は安心した。そうか。ふつうか。ふつうのことか。よかったよかった。
     おそらく無意識下では解決していないことに気づいていたが、なにもなかったことにした。

     次に不審に思ったことは家の前に冷蔵庫が捨ててあったことだ。電気ポットや掃除機はまだしも、冷蔵庫を捨てるか?しかも台車付きで?
     乾は不審に思ったが、冷蔵庫を持ち帰った。あくまで持ち帰っただけだ。翌日冷蔵庫は使えるように設置してあった。
     そんなことがたびたびあった。割れていた窓ガラスは新しくなり、何もなかったはずの食器棚に食器が増えている。
     さすがの乾もやばいと思った。やばいと思いながら、口では「そういや、ゴミ箱がねぇな」と呟いていた。翌日、部屋の隅にゴミ箱が発生していた。

     とうとう乾は三ツ谷をファミレスに呼び、相談することにした。仲間内では三ツ谷がいちばん当てになる。アジトを選ばなかったのは、盗聴の可能性があるからだ。言葉の足りない乾から説明を引き出し、最後に三ツ谷は断言した。

    「ストーカーだね!」
    「ストーカー……」
    「ちなみにオレはイヌピーの家の前に差し入れを置いていったことは一度もないからね」 

     三ツ谷はあくまで面と向かってのみ差し入れをしていると言った。

    「ストーカーに心当たりはある?」
    「……あるな」

     いかんせんストーカーは乾の好みを知りすぎている。

    「まぁ放っておいていいんじゃないかな。害はないみたいだし、そのうちボロを出すだろ」

     三ツ谷の言葉は適格であった。





     乾はバツの悪そうな顔をしたストーカーもとい九井を眺めた。手にもった鍵をいまさらごそごそと隠そうとしているのが往生際が悪い。そういえば九井は諦めの悪い男だった。そのくせ情が深い。その結果がストーカーだ。
     けれどこのストーカー行為があったから、乾はいままで生き延びることができたのだ。

    「今日の差し入れはなんだよ」
    「えっ、あ、あー、えっと、三食そぼろ丼」
    「ふーん。じゃあ、ふたりで食べようぜ」

     九井はアジトに入って来たものの、なにやら落ち着かない様子である。「なんだよ。オレたちマブだろ」と肩を押すと、ようやくぎこちなく笑った。箸はどこだろうと探していると、九井が「引き出しの中だよ」と教えてくれる。たしかに箸はあった。振り返ると、腹をくくったのか、九井はにやにやと笑っている。なんだかなぁ。

    「ココ、思ったんだけど、オレたち一緒に暮らした方がいいんじゃねぇの?」
    「オレもそう思ってた」

     ストーカーが良く言うぜと思ったが、ココだからしかたないよな。


     
     

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