Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    みあ@A氏

    @blue0707bird1

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    みあ@A氏

    ☆quiet follow

    しいなの日ということでしいなの話を書いたつもり…異論は受け付けない!

    #しいなの日
    shinaDay

    隠居庵にてしいなを拾ったのは20年近く前だった。
    その日、頭領として前線に経つことが少なくなってきたイガグリは、身体のなまりを気にしてガラオキアの森で1人修行していた。いくつかのメニューをこなした後、休憩で遊びがてらクナイを的に精緻に投擲していると、赤子の鳴き声が茂みの向こうから聞こえた気がした。基本的にはオゼットの木こりでもない限り、人はガオラキアの森には立ち入らない。聞き間違えかと思ったが、イガグリの耳は確かに人間の赤子の声を拾っている。クナイを投げる手止め、耳をすませば、方角と大体の距離が分かった。興味を引かれるままそこへ向かってみると、蓋付きの籐籠が目に入った。蓋を開けてみて思わず目を見張った。白い布で包まれた生後間もない人間の嬰児が入っていたのだ。目に見えてわかるくらいに衰弱しており、修行で研ぎ澄まされた聴覚を持つイガグリで無ければ見つけられなかったかもしれない。
    (捨て子か…)
    薄ら生えている髪は黒く、瞳は桑染色をしている。ミズホの民と特徴が近いが、テセアラ各地でふつうに見られる特徴でもある。籠の中には身元が分かるものは何も入っていなかったため、この嬰児の出自は分からない。
    だが、イガグリは赤子を抱えると迷いなく思った。ミズホはテセアラ王家から汚れ仕事を引き受けることで成り立ってきた。その仕事は危険が多く、日常的に死者が出ている。
    (人手が増えて困ることは無い)
    イガグリはこの時、この赤子を捨て駒としてどこかの家で育てせようと考えていた。

    「なに、引き取り手がどこにもいない?!」
    「ええ…」
    赤子を抱いたタイガが頭領屋敷に訪れ、イガグリに報告する。
    イガグリは赤子を拾った後、すぐ里に戻ると副頭領のタイガに赤子を預け、手当をさせて、里親を探かせたが、どこの家も赤子ひとり育てる余裕がないという。
    「最近は嬉しいことだが、陛下の信頼を得られて仕事が増えてきて、皆も圧迫してきておるのか…」
    イガグリはタイガに抱かれた赤子を見るとため息をひとつ着いた。
    「仕方ない。わしが育てる。倅も孫も任務で死んだ。わしが1番抱えているものがなくて適任だろう」
    「イガグリさま、でしたら私で引き取ります!」
    「よい、久々に自らの手で駒を育てたいと思っていたところだ」
    「…かしこまりました」
    イガグリにとって里の者達は駒同然だ。致死率が高い任務でも表情ひとつ動かすことなく命令しなければいけない立場で、そう思っていた方が楽だったからだ。もちろん実の息子や孫に対しても他の里のものと変わらず接してきたつもりだ。
    「して、字名はどうするか…」
    タイガは部屋から見える中庭の柿の木をそっと見やった。実がたわわに実る時期はとっくに過ぎたのに、熟れすぎて放置され、乾燥した実が枝にぶらさがっていた。
    「そうですね。…粃、なんてどうです」
    「しいなか、実の入ってない果実…字名としてはいいだろう。よし今日からお前はしいなだ!このわしが立派なくのいちに育ててやろう。そして里のために働け!」
    イガグリはしいなを抱き掲げてそう言った。

    四年後、頭領屋敷、中庭。
    「おじいちゃんー!しいな、クナイを的に当てられたよ!」
    「おおー、よくやったなしいな!こっちにおいで、じい様が抱っこしてやろう」
    「おじいちゃん!」
    しいなは無垢な瞳を輝かせ、イガグリ飛びついてきた。
    「おお!相変わらず可愛いのう、しいなは」
    「おじいちゃん大好き!」
    イガグリは非情にしいなを里の駒として育てるつもりだった。しかし、成長するにつれ、情が湧いてしまった。子供と孫を失い、鰥暮らしだったイガグリの心の隙間に無邪気なしいなは入り込み、イガグリの非情の仮面を剥ぎ取ってしまった。イガグリは心の中で四年前の自分を嗤う。自分の手で育てながら、情をコントロールし、うまく里の駒にするなど、出来なかったのだ。本当は子供と孫を任務で失った時、どれほど悔やんだか。表向きは里の長として涙も流さず表情も変えず非情に振舞ってはいたが、隠していただけだったのだ。
    しいなは素直に育ち、よく自分に懐いた。運動神経もよく、戦闘センスもありそうだと言うのは自分の贔屓目ではないだろう。イガグリは情抜きで、しいなを時期頭領にするのはどうだろうかと考え始めていた。正式に養女として迎え、後継とするのだ。副頭領のタイガには反対されたが、イガグリは本気だったので、里の民たちに養女としてしいなを認めさせた。
    だが、ひとつ懸念があった。しいなには里で絶えていた召喚士の資格がありそうなのだ。あとでわかったことだが、しいなが捨てられる少し前に召喚士の一族の最後の一人のくのいちが足抜けした。任務でターゲットになった相手に本気になり、足抜けしたのだが、その時、許嫁の子を身篭っていた。その抜忍は好いた男と一緒になるのが邪魔で生まれた子供を捨てたのだろう。それが恐らくしいなだ。しいなに式神を使わせた時、召喚士の素質のあるものしか出ない反応が出た。ならば、しいなを召喚士として育てなければ里のためにならないのだが、イガグリの心は揺れていた。
    召喚術、もとい精霊についてはメルトキオの政令研究所の方が研究が進んでいる。召喚士として育てるならば、そこにしいなを派遣しなければならない。
    忠誠を誓っている陛下には孫同然として育てているしいなの存在を知られている。ミズホの長として冷徹でいられる部分のイガグリは狡猾にこう計算する。溺愛している孫娘同然の養女を忠誠の証ということにして王家に近い研究所に入れさせれば、忠誠も示しより信頼を得られるだろうし、しいなを召喚士として育てられる。一石二鳥だ。しいなの母親が足抜けしたせいで諦めていた兵力アップのためのヴォルトとの契約も夢ではなくなる。
    イガグリは迷いに迷った末に、しいなが七歳になったら研究所に送ることにした。

    それから月日は経ち、しいなは七歳になりメルトキオに送り出した。手を離した時の不安を隠し泣くのを我慢するしいなの表情が忘れられない。この時ばかりは送り出したことを後悔した。
    里に帰ってからもしいなのことが心配で仕方なかった。きちんとものは食べられているのだろうか、研究所の大人たちに酷い扱いを受けていないか、悪い想像ばかりした。

    やがて召喚士としての資格をそなえ戻ってきた。メルトキオまで迎えに行ったしいなは自信に溢れた顔をしていた。すぐに飛びついてくるものかと思っていたが、大人びた所作で自分の前に跪き言った。
    「頭領、藤林しいな、戻りました」
    こまっしゃくれた仕草に色々な感情が湧いてきた。元気で安心した、成長しているようで嬉しい、淋しい…。
    そんな様子のしいなだったが、ガラオキアの森辺りに戻ってくると、手を繋ぐようにせがんできて、しまいには頭領屋敷で2人になった時、膝の上に乗りたいとせがんできた。
    「これ、しいな。甘えるのではない」
    メルトキオで見た大人ぶった様子に淋しくなっていて、口では諌めるものの、しいなを膝の上に乗せ抱きしめた。イガグリはしいながかけがけのない存在だと再認識した。

    そして、ヴォルトとの契約の儀でしいなを電撃から守ったあとの記憶からぷつりと切れて今に至る。

    イガグリは隠居庵の縁側で緑茶をすすりながら小さなしいなのことを回想していた。ふと回想から戻ったのはイガグリ衰えない耳が愛しい足音を捉えたからだ。
    「おじいちゃん」
    隠居庵に現れた孫娘は19歳の立派な忍に、そして世界中の精霊と契約した召喚士になっていた。
    どうやらヴォルトの電撃を浴びた自分は12年間眠り続け、意識はアストラル体となってさ迷っていたらしい。しいなにアストラル体を見つけられ無事目覚めることが出来たが、可愛がっていた小さなしいなは大人になっていた。しいなは自分を目覚めさせるまでに苦労したのは、想像するまでも無かった。里では針の筵状態だったと聞く。そんなしいなを救ったのはロイドという若者だったそうだが、しいなはその若者にどうやら懸想をかけているようだ。しかし、どうやら見込みのない恋のようで、残念なような、安心したような心地だ。しいなは美人に育っているからもちろんしいなを好いている者もいる。里のおろちだ。イガグリはそれを微笑ましく思っていたが、意外だったのはしいなをメルトキオに預けた時に引き合わせた神子、ゼロスもどうやらしいなに惚れているらしいということだ。
    眠りから覚めてしばらくすると世界は統合され、しいなは自力で(神子の推薦があったと聞くが)陛下の信頼を取り戻し、和平の使者として世界中を飛び回っている。時間がある時は今日のように隠居庵に訪ねてきて、12年の間を埋めるようにいろいろな話をしてくれる。
    「おじいちゃん、今回はね…」
    縁側の隣に座り、世界で見た事を話してくれる。また最近は眠っていた間のこともぽつりぽつりとはなしてくれるようになった。だが、話していて1番楽しそうな顔をするのはロイドの話をする時だ。やはり、見込みのないようだが、しいなの伴侶となるのはどんな男なのか、イガグリは考える。
    「おじいちゃん、おじいちゃん!聞いてる?」
    「…おお、聞いておるよ」
    「もう、本当はほかのこと考えてただろ?」
    「なぁ、しいな。おろちと神子殿だったらどちらがたいぷなのだ?」
    「え、なんでその2人?うーん、正直どっちもタイプじゃないかな…え?なんで?」
    「なんとなく、じゃ」
    ミズホの駒として育てるつもりで拾ったしいなだが、今では立派な頭領だ。欲を言うならその過程を見守っていたかったが、生きていただけ御の字だ。イガグリはこれからも見守れなかった分もしいなの行く末を見守りたいと、そう願いながら、緑茶をすすった。
    「お。茶柱がたっとるわ」
    「え、見せとくれよ!」
    遠くの方で若い娘の黄色い声が聞こえる。おろちの不機嫌そうに注意する声と神子の抗議の声も聞こえた。
    「恋の鞘当、ちょっと淋しい気もするが、楽しみだのう」
    「ん?何の話?」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👍👍👍😭😭😭👏💕😍👏👏👏👏🙏🙏🙏💘💘☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works