縛り執筆1 どんな物語だって、序章、せめて第一章から始まるべきだ。
そう伝えると、目の前の美しい男はゆっくりと一度だけ目を瞬いた。表情に動きの少ないこの男は、瞬きの回数すらも極端に少ないように思う。眼球が乾燥して痛くならないかと心配してしまうが、この男の目が赤くなっているところを見たことがないから大丈夫なのだろう。目が赤いのは俺だけで充分だ。
ともあれ、今の瞬きが表すのは「疑問」だ。この男の表情も、いつの間にか大分読み取れるようになった。急に物語の話を始めた俺に、説明を求めているのだろう。
「たとえ話だよ。物語が急に第三章や第四章から始まれば、話が飛びすぎてわけがわからなくなるだろ。だから、つまり……」
あー、と不明瞭な母音を口にしながら、男の次の瞬きを待つことなく視線を横へそらす。
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