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    eringi5507

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    eringi5507

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    すごろくのスタート時点のお話をかきました。
    まだまだ未完成ですが収まらぬ興奮を消化させたくかいてます。

    #門キラ

    青春病ずきん。薄暗い部屋にカーテンの隙間から朝日と一緒に通りを歩く学生たちの声や車のエンジンの音が細長く差し込む。わざわざ体を起こすのも面倒だ。キラウシは小さく舌打ちをする。温い布団の裾から凍える空気を切り裂くようにつま先を延ばし、藍色のカーテンを少しずらす。窓の外は葉を落とした立木が寒そうに震えている。天気は重く灰色に曇っているが、晴れ。
    部屋の中はとても静かだ。向かいの壁に掛かっている時計の秒針の音だけが響く。まだ仕込みを始める時間でもないが、二度寝するほど気抜けた気分でもない。
    キラウシはのそりと半身を起し、腕を大きく上げて伸びをした。ついでに「ふぁあ~~」と情けない声と一緒に白い息が上がる。覆いかぶさってくる冷気にぶるっと体を震わせ急いで布団の上の半纏を羽織る。毛羽立った布団を押し入れに押し込むように片付けると、日に焼けた畳の自室からひんやりとした廊下をぺたぺたと歩き、つきあたりにある洗面台で顔を洗う。疼く傷跡を伸びきった前髪をかき上げて見る。向かって右側の髪の生え際から眉間に向かってナメクジがうねった跡のような白い傷跡がある。こんな寒い日は思い出したように存在を主張してくる。くっそ。以前ほど目立たないが人から何となく視線を感じるのが嫌なので北海道のフチが送って寄越すマタンプシを巻く。
    居間へ移動する。木でできたビーズの仕切りをじゃらじゃら鳴らしながらくぐり、石油ストーブに火をつけ空になっていたやかんを手に台所へ向かおうとした瞬間、見計らったかのように居間の固定電話が鳴り出す。店の予約の電話だろうか。それにしても早いな。やかんをとりあえずこたつに置き、電話へ体を向け右手で受話器を持ち上げ肩と耳に挟み左手にメモ、空いた右手でペンを持つ。
    「はい。居酒屋トノトです。」
    「はよっす。奥山っス。キラウシさん、そろそろ年末のこともあるんで電話しました。」
    電話の主は商店街で畳屋を経営している畳屋奥山のところの倅の夏太郎だった。両手に持っていたメモとペンを下し壁に残り二枚になって頼りないカレンダーを眺める。
    「ああ、もうそんな時期か。」
    「ッス。年末の集まりが3日にあるんでよろしくっス。あと門松なんすけどいつ頃持っていけばいいスか?」
    「俺の所は急がないから、12月最後の金曜日でいいかな」と言うと「了解っス」と電話を切られた。わざわざ電話してこなくても飲みに来た時にでも聞けばいいものを、と思いながらキラウシは手に持っていたペンで12月28日金曜日に『門松』と書き込む。


    商店街のにぎわいが落ち着くころ店はにぎわいだす。キラウシの店はやなぎ駅から徒歩7分のやなぎ本町アーケードを抜けきった場所にある。席はカウンター席が5席。4人掛けのテーブル席が2席。猫の額ほどの広さの店だが独りでやりくりするには充分だ。2階は住居としてキラウシが現在住んでいる。
    やなぎ本町アーケードは古く昭和の初期頃完成し30近い店が趣を変えつつ、現存している。表の大通りよりも駅に近く、柳市民の生活を昔から支えているがあくまでも生活の場でありキラウシの店はデートに向かないのか女性を連れたデート目的で利用されることはまずない。
    飲み屋街は駅の反対側で少し距離があるためわざわざ飲み屋街に行くのが億劫なやつ、飲み屋街への助走としてちょっと飲みたいそんな仕事帰りのサラリーマンや学生の需要が高い。店内は白いカッターシャツや近所に住むおやじたちでごった返す。今日は大学生の姪っ子の美緒が店の手伝いにやって来る日だ。
    人もまばらになり始めた午後10時ごろやってきた。
    立て付けの悪いドアをがらがらと開ける音が聞こえた。キラウシは刺身を切る手を止めることなく、いらっしゃいませと形ばかりのあいさつを送り、カウンターから向かって左手の扉の方へと顔を向ける。坊主頭のサラリーマン風の男が店内を見渡しながら、「空いてます?」と聞いてきた。「どうぞ」と掌でテーブル席を指し、刺身を盛り付ける作業に戻った。
    よく見ると坊主頭は驚くほど端正だった。白く透き通る肌は清潔で両頬にあるほくろが男の艶めかしさを助長している。ただ骨格は男性的で脆さと屈強さを同時に感じさせる。この店に明らかに浮いている。縁取るように男が着ている細身の紺色のスーツは見るからに高級そうだし、黒いコートを持つ手から覗く銀色の時計はきっと高いはずだ。長いこと使用している飴色になった木の椅子と机にはほとほと似合わない。
    「あとでもう一人来ますんで」とお通しのホルモン煮を持って行った美緒に声をかける。美緒は返事をする声が裏返っている。最近美緒といい感じの夏太郎はカウンター席で面白くなさそうに酒をすすっている。
    坊主頭が注文したカキフライを揚げていると立て付けの悪い扉がかたがたと鳴った。いらっしゃいませと美緒が出迎えたようだ。
    「門倉部長遅いじゃないですか~もう飲んじゃってますよ~」
    「すまんすまん。ちょっと通りで転んじゃって。イテテ・・・」
    聞き覚えのある声に思わず弾けるように調理台から顔を上げた。
    猫背で寒そうに肩を縮めながら椅子に座った背中が振り向くと、「すいません。生1つ」と注文した。ほとんど白髪だが最後の砦の黒い髪が頭を縦断している。相変わらず変な髪型だ。記憶の中の男より目尻のしわは深くなっているが無愛想な三白眼、ちょっと突き出た下唇も記憶のままだ。心臓が早鐘を鳴らす。
    そろそろ路線によっては終電という頃になり客がぼちぼちと帰りだした。店には夏太郎と坊主頭とじじい、もう一組という状況になった。美緒には客がひき始めたし終電が近いからもう帰るように告げる。そわそわとし始める夏太郎に駅まで送るよう目で促す。急いで会計を済ませ坊主頭の男ににやりと視線を送っているが、坊主頭は興味もないのか本当に気づいていないのか夏太郎に視線すら送らない。しきりにカキフライとホタテのバター焼きを連れの男にすすめている。中年の男は本当に勘弁してくれと言っている。
    終電の時間も近づき、店の外は駅へ向かう人々の足音やエンジン音が大きくなる。閉店時間も近いので溜まっていた皿洗いをしていると、残っていたひと組の客が会計をするためキラウシを呼び寄せる。ふと隣の席を見ると、坊主頭はいなかった。仕立ての良いコートは壁に掛かっているからタバコか電話だろう。中年のじじいが手をひらひらと上げキラウシを呼び寄せる。じじいのそばに行ってやると仰ぎ見て「キラウシ、俺のこと覚えてる?」と笑った。
    「さっき思い出した」
    嘘だ。
    今朝見たマタンプシの下の傷跡が疼く。忘れるわけあるか。
    「カドクラ、先生」
    門倉は県立柳高校の臨時教師だった。1年の終りに産休に入った先生の代りにきた。授業が分かりやすいとか面白いとかそういった特徴のないカドセンと生徒に呼ばれているが慕われていない、与えられた時間を淡々とこなすような先生。
    その頃キラウシは居酒屋経営と猟師に二足のわらじを履いた父の背中に憧れ、猟銃免許を取るため、朝はコンビニのバイト放課後から夜にかけてピザ屋のバイトとコンビニのバイトを掛け持ちしていた。こんな生活から学校は休息の時間として存在し、門倉の授業は格好の休み時間だった。2年の中間試験は散々で追試を受ける結果となった。追試といっても形ばかりで、門倉は試験官のくせ教室内を見回りもせず教卓に座り頬杖をついてグラウンドで野球部が練習しているのを見ていた。一人、二人と教室を去っていきとうとう二人きり。
    やっと解き終わった回答用紙を教卓に提出するキラウシを見て「お前の目って左右非対称でいいな。色っぽい」と言った。なんてことないハンカチ落としましたよ、くらいのテンションだった。
    それなのにアホみたいに夜に虫が電球に群がるように恋に落ちた。
    教師と生徒という関係に多くを求めないよう用心しながらこの状況を楽しみ、消費するつもりだった。
    バイト先で門倉を見たあまりのショックに運転していた原付と電柱が正面衝突し額を3針縫うけがをした。
    「当たり。今は教師辞めちゃったから先生じゃないけどな」
    「ふうん」
    「これキラウシの店?」
    「ああ」
    「焼き魚定食とかないの?」
    「居酒屋だからない」
    「ふうん」
    門倉はメニュー表にまた目を落としぱらぱらとめくる。
    早く帰れ。喉の奥からせり上げる声を押し戻すように「もうすぐ閉店だぞ」と言い残し隣の席のグラスや皿を下げる。
    ああそうだ。冴えない門倉が一度だけ注目を浴びたのは結婚すると噂された時だった。若くて気立ての良い女。子どもも産まれるらしい。そんなうわさが薄く広まり、そのまま忘れ去られた。そのあとすぐに産休をうんと早く切り上げてきた熱血教師が戻り門倉は一年もせずに学校を去った。
     ほどなくして坊主頭は店に戻り、門倉と二言、三言話すと二人揃って会計し出て行った。
    のれんを下げ、店の玄関の電気を落とし、皿洗いを再開するとき、もうできれば会いたくなかったなと小さく溜息をついた。


     それから門倉は週に2度から多くて4度店に顔を出した。坊主頭は一度も見ていない。趣味に合わなかったのだろう。
    通い始めは「先生」と呼んでいたが、もともと先生っていうような雰囲気の男でもないし今や教師と生徒の立場でもない。だんだんと呼び捨てが定着していった。
    門倉は決まってカウンターの隅に座り、ぬるい日本酒をすすりながら焼きイカをつまむ。たまに最近メニューに追加した焼き魚の定食を食べている。
    キラウシの手がわりかし空いてる時は互いの話をするまでになった。
    門倉は現在は運送会社の部長でまあまあ忙しい日々を送っているようだ。渡された名刺には顔写真と名前、本社の東京の住所と柳市の外れにある会社の住所、携帯電話番号が載っていた。
    うら若き高校生のキラウシ少年を悩ませた、結婚生活は6年目の秋にふがいない門倉に愛想を尽かした嫁が娘を連れて出て行き終止符を打ったそうだ。他の常連客に再婚はしないのかと聞かれると「もう、そんな気持ち枯れてなくなっちまったなあ」と喉の奥で笑う門倉のつむじあたりを見下していた。
    キラウシはどうにかこうにか高校を卒業し、上京し料理の専門学校へと進んだ。肝心な網猟免許は18歳で、猟銃免許は25歳の時取得した。都内のレストランや料亭を転々としながら父や父の仲間の二瓶と猟師をしている。5年前に母が他界し、父は己のルーツである北海道へ移り住み狩猟を生活の基盤とした。ちょうど次の店を探している時だったので実家の居酒屋を継ぐことになったと経歴を話してやると、へえ、お前らしいなと目尻を下げ噛みしめるように何度も頷いていた。
    すぐに馴染み客の一員となった門倉は美緒や周りの客と打ち解け楽しそうに過ごしている。ついつい飲みすぎる日が増し、終電を逃したと言っては居酒屋の2階の住居スペースへと上がりこむようになった。野郎の独り暮らし、じじいが一人増えるのくらい特に問題はなかった。必ず始発で帰っているようでキラウシが目を覚ます時間にはきちんと畳んだ布団一式が座敷の隅に置いてあった。変なところは律義なじじいだな、というのが感想だ。


    そんなことが続いた年の瀬の足音も聞こえてきたある日、閉店直後門倉がやって来た。
    「ドライブ行かねえか」
    「は?今から?」
    「明日休みなら一緒にドライブしようぜ」
    「は?」
    「車は近くのパーキングに停めてきた。いつものお礼させてくれよ」
    野郎二人でこんな夜中にドライブなんてあほかというキラウシの訴えは無視され、すでに店の一席に陣取っていた。
    正直邪魔な門倉をあっちやりこっちやりしながら何とか片付けを終わらせ、「さあ!ドライブだ!」と店の前で待っているよう言われる。正直面倒くさいし寒いし早く帰りたいなとぼやいきながら紺色のダウンを着こみ店の前に立っていた。すると短いクラクションと共に黒いキザシが目の前に止まった。じじくさい車だ。
    助手席に乗り込みシートベルトを締めきらないうちに目的地も告げず出発する。
    「おい、危ないぞ。どこ行くつもりだ」
    「いいところに決まってんだろ」
    左に笑う門倉の横顔が何考えてるのか分からないが、まあいつものことかと胸の中で悪態をつき流れていく夜景を目で追っていた。
    途中「タバコ吸っていい?」と答えを聞く前に遠慮なく窓を開け吸い始める。
    「お前さん昔っから遠慮ないねえ」
    と懐かしそうに門倉が笑う気配を感じる。
    うるせえ。セブンスターに百均のライターで火をつけ肺の隅々まで味わうように煙を吸い込む。


    いつの間にか眠っていたらしい。
    工場夜景というのか、港沿いの工業地域で稼働している工場がさまざまな色を放っている。向こう岸には丸いタンクがたくさん並び海にも反射する光景はちょっとした近未来感がある。でもこいうのはもう少し離れたとことから見た方がもっと綺麗じゃないか?
    窓にもたれかかっていた体をもぞもぞと起こすと、ずるっと何かが足の方へ下がる気配がした。よく見るとさっきまで門倉が着ていた黒いくたびれたバブアだった。持ち上げ香りをかいでみる。じじいの埃っぽい古い本の重厚感のある香りとちょっと特徴的なオイルの香りが鼻先をくすぐる。あの煙草の香りはしなかった。懐かしい。若干険しい顔で夜景を眺める男に「かどくらあ」と声をあげてみる。「んあ、起きたか」と両手をハンドルから離すことなく目尻を下げてこちらを覗き見てくる。
    「疲れてるのに俺のわがままにつき合わせてごめんなあ」
    「かまわん」
    大きなあくびをして窓の外を見渡す。
    「ここ、綺麗だな」
    「ああ、隠れデートスポットだ」
    「じじいのくせに洒落たとこ知ってんだな。女連れてきたことあんだろ」
    じじいは目を丸くすると、ハハハと乾いた笑いをこぼす。
    「ねえよ。こないだ会社の若いヤツらがここの話をしてるの聞いててさ、いつもはここの門は鍵は掛かってんだけど、ある船がこの港に寄る前は門の鍵が開きっぱなしになるんだと。丁度今日がその日って聞きつけて急いでお前を連れて来てみたってわけさ」
    「ふうん」
    それにしてはカップルの様な車は見当たらない。あると言えば工場で荷物を運ぶのに使うようなフォークリフトやみちみちに車の詰まったキャリアカー、コンテナが順序良く並んでいる。しばらく二人の間に沈黙が落ちる。夜景といっても所詮工場の光だ。だんだん飽きる。寒かったのか寝ている間に閉められていた助手席の窓を再度小さく開け煙草をふかし始めた。
     一瞬のことだった。何かフォークリフトのあたりでチラッと光った気がした時、腕をひかれると同時に唇を奪われていた。キラウシの頭の中は濁流に揉まれる葉っぱの如く混乱した。
     門倉のかさかさとした薄い唇からは想像もつかないほど熱く湿った舌が口内に侵入した瞬間、門倉が「!!」と小さく叫んだ。その時キラウシは我に返った。光に反射した銀色に光る唾液を垂らしながらふうふうと手の甲に息を吹きかけ男を見たとき自分に今何が起きたのかを理解した。
    いま門倉にキスをされた。そして門倉はキラウシが持っていた煙草で火傷をした。
    「いつかのお返し」
    キラウシの視線を感じたのかへらへらと笑い火傷した右手をひらひらと振って見せる。腹立たしさと虚しさがむくむくとキラウシの全身を覆っていく。煙草を窓の外に投げ捨て、
    「なんだよ、今さらこんなことしやがって!」
    男の胸ぐらを両手で掴みあげる。つい大声になる。
    「あの時お前俺を拒否して結婚したくせに今さら何だよ!今頃娘にお父さんキモいって拒否されて何年も会話しなかったくせに披露宴では涙ながら感謝の手紙読まれてるんじゃないのかよ。孫も3人くらいいて奥さんと定年後畑仕事しながら自給自足みたいな臭い生活しるんじゃないのかよ!何があの時のお返しだ!空気にのまれやがって!幸せに単純に生きてるんじゃなかったのかよ!ひとの気持ちなんて考えたことあんのかよ。俺が必死に学生時代の、お前への気持ちは青春の風邪ってことにしてなんとか気持ち切り替えたのに、不用意にまた俺の人生に干渉してきて。やっと、やっと独りで生きていくって決めたのに、こんな、こんなのありかよ」
    ぼろぼろと隠していた本音と涙がこぼれおちる。掴んだ胸ぐらに額を押しつけ運転席のドアへ叩きつける。門倉の「ごめん」がぽつんと振ってきたが返事はしなかった。
    顔も見たくないと反対側の窓へと寄りかかる。
    キラウシの心情を代弁するかのようにぱらぱらと雨が降り出し工場の光も海の反射もにじんで見えなくなってしまった。





     店に着くまで冷酷な重い沈黙が車内を支配し、車内には雨を弾くワイパーの音だけが響いていた。
    店の前の道は真っ暗で通りを走る車もない。
    「もう二度と店には来るな」
    と言い放ちドアハンドルに力を入れた瞬間、肩を掴まれた。
    「分かった。もうお前の前には現れない」
    これで良いのだ。これで門倉へのただれた気持ちは粉々になって散った。忘れよう。明日から元通りの人生だ。独りで生きていくんだ。
    腕を上げ門倉の手をから逃げようと一刻も早くこの空間から逃げようとするが、思いのほか力強く不本意にも運転席側へと体の向きを変えられてしまう。三十路のだいの大人が泣いている顔を見られるのが悔しく、筋張った薄い手の甲を睨む。さっきの火傷はもう水ぶくれになっている。
    「申し訳なかった。お前の心を弄ぶような真似をして軽率だった。」
    一呼吸置くと門倉は
    「本当はずっとお前のことが好きだった。臨時採用で柳校(やなこう)に行ってからずっとお前を見てた。目がきらきらしてて綺麗だな、とか髪が黒くて絹みたいで触ってみたいとか教師が生徒に抱くべき感情じゃないのをずっと抱えていた。一生懸命隠して誰にも気づかれないように俺自身気づいてないふりをしていた。その時、智子・・・元妻が妊娠してとんとん拍子に結婚が決まった。俺はお前にキス、された時嬉しかったし、一生忘れないと決めていた。ここでお前を受け入れたら、お前の未来を奪っちまうし俺も父親になるし、結局俺はお前から逃げた。柳校(やなこう)での採用期間もちょうど終わったからお前から逃れられたと思った。そのあと少しだけ教師を続けたが、教師をしている間はずっとお前をどこかで探してしまっていた。教師の立場は逃げられても生活にもお前が居た。妻はそれを薄々感じてたんだと思う。さっきは軽率な真似して、キラウシをまた何重も傷つけた。本当に申し訳ない。」
    謝ると同時に肩を掴んでいた腕の力が抜けていくのを感じた。門倉を見ると深く俯き暗い車内でも土気色した肌は生気がないのは見てとれる。
    「おまえ、本当に俺のことあの時好きだったのか?」
    思ってよりも震えた声だ。
    ゆっくりと門倉が顔を上げる。
    「ああ、ピザの配達で1回家に来ただろ。一番見られたくないヤツに見られたくない状況を見られた絶望はなかった。そんでその帰り道大ケガしたって学校で聞いた時俺は死ぬかと思ったよ」
    門倉はキラウシの肩に置いていた右手でマタンプシの上から傷のある部分をなぞる。
    「ごめんなあ、驚かせちまったよな、こんな色男に傷つけちゃうような真似して。このアイヌの鉢巻きも似合うけどやっぱりお前の目が良いもんなあ。半分しか見えないの残念だなあ」
    はっと我に返ったように門倉は慌てて腕を引っ込め俯く。
    キラウシはマタンプシを解き、両手で前髪をかき上げ門倉が傷をよく見えるように覗きこむ。
    「見ろ。もうなんともない。傷も薄いしじじいが思い悩むことなにもない。心配なことはないぞ。直接触って確かめたっていいぞ」
    ぎこちなく男の唇に自身の唇を押し当てる。
    ゆっくり唇を引き離し言い放つ。とっておきの秘密を暴露してやろう。

    「俺、お前の着替えのシャツ盗んでオナったことあるぞ。」
    「え」
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    eringi5507

    MAIKINGすごろくのスタート時点のお話をかきました。
    まだまだ未完成ですが収まらぬ興奮を消化させたくかいてます。
    青春病ずきん。薄暗い部屋にカーテンの隙間から朝日と一緒に通りを歩く学生たちの声や車のエンジンの音が細長く差し込む。わざわざ体を起こすのも面倒だ。キラウシは小さく舌打ちをする。温い布団の裾から凍える空気を切り裂くようにつま先を延ばし、藍色のカーテンを少しずらす。窓の外は葉を落とした立木が寒そうに震えている。天気は重く灰色に曇っているが、晴れ。
    部屋の中はとても静かだ。向かいの壁に掛かっている時計の秒針の音だけが響く。まだ仕込みを始める時間でもないが、二度寝するほど気抜けた気分でもない。
    キラウシはのそりと半身を起し、腕を大きく上げて伸びをした。ついでに「ふぁあ~~」と情けない声と一緒に白い息が上がる。覆いかぶさってくる冷気にぶるっと体を震わせ急いで布団の上の半纏を羽織る。毛羽立った布団を押し入れに押し込むように片付けると、日に焼けた畳の自室からひんやりとした廊下をぺたぺたと歩き、つきあたりにある洗面台で顔を洗う。疼く傷跡を伸びきった前髪をかき上げて見る。向かって右側の髪の生え際から眉間に向かってナメクジがうねった跡のような白い傷跡がある。こんな寒い日は思い出したように存在を主張してくる。くっそ。以前ほど目立たないが人から何となく視線を感じるのが嫌なので北海道のフチが送って寄越すマタンプシを巻く。
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