別れが怖くてたまらない「アズール先輩、もういい加減にしてください!」
目を釣りあげながら愛しい彼氏が渡そうとしたラッピングされた箱を突き返す。するとオクタヴィネル寮のTOPに君臨する美しい蛸の人魚は不満そうな顔をした。
お付き合いして3ヶ月、だがプレゼントされた物は100個を超える。毎週何かしらの贈り物を渡されたり、「街で見つけたので。」「店の備品を買う時に見つけて。」と言われながら何も無い日も渡される。
そりゃあユウも最初は喜んでいたが1ヶ月を超えたくらいから遠慮し始めた。だが彼は「これも顧客の嗜好を知るためですから。」と言って渡してくるのだ。これでは、ただの貢ぐ者と貢がれる者。いやそれよりも悪い、企業とモニターを頼まれた消費者と同じではないか。
「何が不満なんですか?貴方が欲しい物や好みの物をリサーチして贈っているはずですよ?」
腕を組み眉間に皺を寄せるアズールは指先をトントンっと鳴らす。イライラしている時の癖であるそれを見ると思わず怯むがここで負ける訳にはいかない。
だって、最近の会話はプレゼントの内容や商品の使い心地についてばかりだと言うことにきがついてないのだろうか!?
「確かにプレゼントは私の好きなものばかりです。でも、」
「ではこの話は終わりです。僕は愛しい女性に贈り物を渡して、貴方はそれを受け取ってくれる。それで良いでしょう?」
ジロっと睨まれてしまい言葉が詰まった。その顔を見ると言い返す事が出来ない、オンボロ寮の少女はそれが悔しくて悔しくてたまらなくなってしまった。
「~~~ッ!!!」
「なっ、なんで泣くんですか!?」
言葉が出てこず下唇を噛んで思わず涙を流すと、彼はギョッとした顔をして近寄ってきた。そのままハンカチで涙を拭き噛み締めた下唇を親指で優しく撫でられる。
「そんなに噛み締めてはいけませんよ。噛むなら僕の指を、」
「ッ、わだじは!!!物がほじぐて、あずーるざんとづぎあってないもん!!!」
鼻をすすりながら精一杯睨みつけ、そう声を上げる。大声に驚いたのか目を見開いて固まる姿に過ごしだけいい気味だと思ってしまった。
「わ、わだじは!!!あずーるざんと、いっ、一緒に!!!ごばん食べだり!!でーどじたり!!!おはなじをじだいの!!!ぷれじぇんどじゃなくで!!!あずーるざんがずぎなの!!!ばがっ!!!」
罵倒スキルが低い為、ありきたりの言葉しか出ないが仕方ない。だってプレゼントを渡す為に一緒にいる時間を減らしてまでお仕事するなんて、そんなの辛すぎる。
そのままの勢いで不満をぶつけた。
『お昼ご飯を一緒に食べたい』『放課後は少しでもいいからお茶をしたい』『お休みの日はお泊まり会したい』『その時は一緒にご飯を食べて一緒に寝たい』『朝は一緒にお昼までゴロゴロしたい』『とりあえずもっと一緒に居たい』
そうやって不満をぶつけて精一杯、彼の胸を叩いて泣き叫んだ。溜まりに溜まっていた不満をさらけ出してヒックヒックと肩を揺らすと優しく抱き締められる。そして、信じられないことに大好きな蛸の人魚は「くくっ、あははっ!」と吹き出して笑いだしたのだ。思わずムッと顔をして睨みつけると、彼は頬を赤く染めトロリと溶けたような瞳を向けて額にキスをしてくる。
「ふふっ!申し訳ありません、僕は思ったよりも貴方に愛されていたようですね。ええ、ええ!僕は海の魔女の精神を持つオクタヴィネル寮の寮長です!愛しい貴方の願いを聞き入れましょう!」
喉から『キューーールルルルル』と不思議な音が聞こえてくるが、どうやら怒ってはいないようだ。ユウはその事に鼻を啜りながらホッとする。
そして、愛しい彼の背中に手をまわしたのだった。