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    au_umasi_kawa

    @au_umasi_kawa

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    小説かいたりしてるしがない腐オタク女です!!アラサー!下ネタ呟くよ!マシュマロ返信は画像欄に!警報/twst🐙🌸アズ監/🐬🌸ジェイ監/🦈🦐フロ監/🐚監オクタ監/ロロ監🔔🌸/監受け/ウマ娘/fgo/オベぐた

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    au_umasi_kawa

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    2023年2月23日(木)10:00〜24日(金)00:20
    アズ監♀Webオンリー紺碧の瞳に恋して2
    支部でも見れる長編のものです!

    #紺恋2
    #アズ監
    azSupervisor

    世界一美しい、僕の化け物その日は、いつもと変わらない普通の日になるはずだった。天気は晴れ、予習もバッチリしてたから勉強はいつもより分かりやすかったし、錬金術のペアにはジェイド先輩だったから高評価も間違いなし!
    あまりの調子の良さに「今日は良い日だな。」と呟いていたというのに。

    『変化薬』を作製し終わった私達は、片付けをしていた。この薬は基礎中の基礎の動きで難易度の高いものを作成しなければならない。ユウは自分たちよりも上の方で実験をしているチームをちらりと見る。
    クラスメイトでもない1年生と、全然知らない先輩のコンビだが相性が悪いらしく険悪な空気だ。お人好しだと言われる自分でも分かるレベルで、今すぐにでも取っ組み合いを始めそうなピリピリとした雰囲気を感じてしまう。
    「(一応、先生に伝えた方が良いかな.......。)」
    担任が近くに居たらあの雰囲気も抑えられるかもしれない、そう思いユウは担任の姿を探そうと周りを見渡した。その時、バコンっ!!という重い音と共に悲鳴が聞こえてくる。
    「やべぇ!!」
    「おいっ、避けろ!」
    みんなが自分を見て顔を青くさせながら叫ぶため、ユウは混乱し上を見上げてしまう。そこにはスローモーションのように大きな釜が迫ってくる様子と、その中身が自分に降りかかろうとしていた。
    「ッ....!」
    少女は素早く横に避け釜を回避した、だが中身は床を跳ねたらしく頭からかかってしまった。髪の毛から滴り落ちる薬の臭いに顔をしかめて今度こそ担任を呼ぼうとした...が、出来ない。
    まるで喉に熱した鉄を流し込まれたかのように熱い激痛が走る。いや、それだけでは無かった。まるで全身が焼かれた激しい痛み。
    「、ッカら、ダ...ィた、.........!!!!」
    倒れ込み全身に走る激痛に涙を流しながら、しゃがれた声で助けを呼ぶ。身体中を火で炙られて引っ掻かれて、そして身体中の皮膚を少しずつ少しずつ剥がされるような激痛に思わず目の前に立つ知らない2年生に手を伸ばした。
    「うわっ...!さわんなっ!」
    しかし彼はその手を跳ね除けると、まるで不気味なものを見るような目でこちらを見ながら後ずさりした。
    「きもちわるい....」
    「初めて見た....」
    「普通は綺麗な...」
    「化け物...」
    「写真を撮って....」
    そんな不穏な空気が流れるが痛みに囚われた少女は気がつくことは無い。呼吸も苦しくなってきたが動かない身体をどうにもできない。そして、そのまま目の前が真っ暗になった。


    【⠀世界でいちばん美しい、僕の化け物】

    「ッユウ!!」
    「しっかりしろ!!」
    人混みをかき分けてマブダチに近づく彼ら。だが、目にしたその姿に思わず息をつめた。チラリと見た状態を考えて実習服を濡らしてきたが、合っているのか心配になってしまう。
    しかし、今ここで何もしない...という選択肢は無い。
    彼らは変化したユウの体に濡れた実習服を優しく包み込むようにして巻く。そしてその体にバケツから汲んだ水をかけ続けた。
    「子犬ッ!!!」
    処理を追えたクルーウェルが生徒達の波をかき分け近寄る。そしてやはりその惨状に一瞬目を見開いたが、ユウのそばに駆け寄った。そのままマジカルペンを振ると水の膜で少女を包み込む。
    「お前ら、よくやった!適切な処置だ!」
    そう声をかけると水の膜に手を入れて閉じている瞼を開かせ、瞳孔を見て舌打ちをした。胸の方に目をやり眉間に皺を寄せる。
    「呼吸が止まってるな...!聞こえるか!?おい!!ユウ!!...ちっ、仕方ない。どうか許してくれレディ。」
    頬を叩きながら声をかけても反応が無いことを悟ると顎を上に向け唇をよせようとした、だがそれを「お待ちください。」と止めるテノールの声。
    「この手の対処法は陸に上がる前に学習してます。人魚の事は人魚にお任せを。先生は周りにいる生徒達の処理をお願いします。...ジェイド。」
    「ええ、お任せ下さい。...ユウさん、許可なしに触ることを許してくださいね。」
    アズールとジェイドはそう言うと大きな背中で隠すように少女の隣につく。クルーウェルは周りを見渡し再び舌打ちをすると、立ち上がり声を上げた。
    「ッ、駄犬共!!!俺の生徒をそんな目で見るとはいい度胸だな...!よっぽど躾されたいようだ!」
    不審な目を向けている生徒達へ指導を始めた教師を横目で見ると、アズールはマジカルペンを振り自身の口の中に水を溜める。そしてユウの顎に指を置き上を向かせると唇を合わせた。そのままゆっくりと水を吹き込みチラリと、心臓マッサージを行っているジェイドの方へ目を向ける。
    「...少しだけエラが反応してます。呼吸がもどりそうです。」
    少女の肋付近を触りながら言うウツボに頷くと、蛸の人魚は再び口の中に水を溜めて吹き込む。それを2、3回ほど繰り返すとボコッボコッ、と音を立てながら唇と肋付近にあるエラから空気の塊が出てきたのを確認した。
    「...ユウさん!」
    そのまま呼吸をし始めたのを確認するとアズールは目の前の肩を揺らす。マブダチや子分を隠すようにそばに居たエースとデュース、グリムも駆け寄り声をかけた。
    その声に反応するようにゆっくりとユウは目を開ける。そして、自分を覆う水と周りにいる彼らの目線に驚いた表情を見せた。

    「...ナに....ガ、起キて....ルノ?誰カ、ォし....エて?」

    しゃがれた声が静かな教室に響いている。




    「子犬が被った変化薬は失敗作だったらしい。おそらく気が合わないペアのせいで集中してなかったんだろうな。...まったく忌々しい。躾のやり直しだ。」
    オクタヴィネル寮の寮長室に置かれた大きな水槽の前で、クルーウェルはイラつきを隠さずにため息をついた。
    「...失敗作、ですか。」
    アズールは教師の言葉に目を細め水槽の中に目を向ける。そして「どこか痛い所や、気分の悪さはありますか?そうだ、声を出すのが辛いでしょうからジェスチャーでお願いします。...ああ、それは良かった。安心しました。」と笑顔を見せた。

    大きな水槽の中には『異世界から来た少女』だった『人魚モドキ』が居る。
    この世界の人間では無い事も要素に加わったらしく下半身を覆うはずの鱗は歪な形をしておりそれが胸や下半身を覆うように生えている。だが所々はつるりとした人間の皮膚が見えているため、中途半端だ。
    尾びれも左足は海の中を泳ぐために作られたヒレになっているが...右足はそれに癒着しているように人間の足が着いている。その様子はまるで人間の足がヒレに取り込まれていく途中にも見えた。
    そして何より特徴的なのは、その身体だ。
    「ユウさんの身体は半透明になっていますが...。これは体調に変化はないのですか?」
    体育座りをして自身の身体を隠すように水槽の中で座る少女に目を向けたまま蛸の人魚は聞く。クルーウェルはその問いに「それに関しては安心しても良い。稚魚寄りか、それとも種類寄りかは分からないが...。筋肉が半透明に見えているだけだ。」と返した。
    異世界からきた少女であるユウは中途半端な鱗とヒレ、そして胸から下の自分の骨や内臓が透けて見えている...そんな状態だった。
    その人魚モドキは、目に見える自分の姿にショックを受けているらしく顔が強ばっているようだ。
    「(人間でもなく、人魚でもない。人魚モドキ...か。)」
    せめて、美しく綺麗な尾びれだったら......そう思いながら涙を流すが水槽の中では溶けて無くなってしまった。

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

    「小エビちゃんすげー!!!骨と内臓丸見えじゃん!おもしれー!!!種類なに!?背骨そうなってんだ~!心臓動いてるの見えるー!!すげー!!」
    フロイドは水槽に張り付きキラキラと瞳を輝かせる。そんなウツボにユウはムッ、とした顔をして精一杯睨みつけた。声を出し抗議をしたいが喉から激痛が走るため喋ることが出来ない。まぁ、声が出せたとしてもこの凶悪ウツボツインズは気にしないだろうから。
    少女はジロリ、とすぐ横を見た。そしてそこにいる張り付くウツボの片割れ...ジェイドが同じくキラキラとした瞳で観察をしている事にため息をつく。
    「ため息をつくとそのように肺が動くのですね...!すみません、少し泳いでいただいても?骨と内臓がどのように動くのか見たいのですが...!」
    そう言いながら興奮気味にクルクルと自分の周りを自由に動く人魚に向かって左右に首を振った。この中途半端な尾びれは動かすのが難しく動けない。ジッとしているかほふく前進するか...そのどちらかしか出来ないのだ。
    その事をジェスチャーで伝えるとジェイドは悲しそうな表情をする。それは『ユウが泳げない事』ではなく、『自分の好奇心を満たせない事』にだろう。
    「おやおや、それはそれは...。お可哀相に。」
    そう言うと眉間に皺を寄せている少女の手を取り水中でフワリと浮き上がらせる。そのままダンスを誘うようにクルクルと回り始めた。ユウは突然身体が浮き上がったこと、視界がゆっくり周り始めた事、ジェイドの尾びれが自分の尾びれに少し絡まっている事に慌てた表情をする。
    「ああーー!ジェイドずりぃー!!!オレも小エビちゃんと遊びたいー!!」
    水槽の外で地団駄を踏むフロイドに「すみません、早い者勝ちですから。」と笑顔を見せる。その顔を見た瞬間、手を取られている『人魚の雌』は嫌な予感がした。
    この手の笑顔を見せる時は良くない時だ、それを人間の肌で感じ取り鳥肌が立ち鱗もゾワリと立つ。目の前にいる人魚の雄から必死に逃げようと身体をしっちゃかめっちゃかに動かし始めた。
    「ふふっ、海ではその様な可愛らしい逃げ方だと直ぐに捕食されてしまいますよ。...それにこの魅力的な身体。」
    そう言い鋭い爪が尖った指先でユウの腹を優しく撫でる。そこには半透明になった腹から見える子宮が見えている。
    「....ねぇ、ユウさん?今の状態でこ」
    「あ、ジェイド死んだわ。」
    その瞬間、目の前にいたウツボの姿が突然消え思わず少女は驚きと困惑でパチパチと瞬きをする。思わずユウは水槽の外に顔を向けようとしたが...そこには水槽ごと覆い隠す大きな蛸足と光が入らなくなり暗くなった視界があった。
    「(え?アズール先輩、かな?なにこれ、なんで?)」
    蛸足か、それとも魔法をかけられているのか音が全く聞こえず首を傾げる。コンコンっ、と水槽をノックしても誰も返事を返してくれない。
    「(少し暗い。先輩達、居るのかな....。)」
    ユウは仕方なく水槽の前で体育座りして光が入るのを待ち始めた。
    数分、数十分......いや数時間待ったのかもしれない。薄暗くて時計がないこの場所は時間の経過が分からない、いくら待っても真っ暗なまま。中身は人間であるユウはどれくらいたっているのかも分からず、どんどん心細くなってきてしまう。
    「...グスン。」
    薬を被って激しい痛みを感じた事や目が覚めた時の良くない雰囲気、そして心細さや寂しさ、空腹が溢れたユウは小さく鼻をすする。すると頭上から何やら激しい物音がし始めた。
    「.....ッ!!!---っ、-----!!!って、アズール!ちょっと待てって!せめて人魚になってか」
    そのままバシャーーーンッと何かが放り込まれる音がしたかと思うと、ヒラヒラと上から何か降ってきた。それは真っ暗闇で淡い光を放っており目の前までゆっくりと落ちてきたかと思うと呑気に手をブンブンとこちらに向けて振ってきた。
    「あっ、小エビちゃーん!」
    「...ッ!?!?」
    その惨状に思わず目を見開き声が出ない口をパクパクと開けた。するとウツボは慌てて大きな掌で少女の小さな口を覆う。
    「っぶね!アズールいまピリピリしてるからオレに向かって口開かないでね~!」
    苦笑いをする彼に頷くが...震える指先で自分の顔を指さす。フロイドはニヤッと笑うと、自身も顔を指さした。
    「これぇ?えっとねー、馬鹿な兄弟のオ・ト・シ・マ・エとして思いっきり顔面殴られた~!」
    その笑顔に思わず苦笑いをする。彼にはボッコりと腫れ上がった青紫色の頬も、ボロボロになっている歯も、曲がった鼻も、深く切れている瞼も、何もかも痛みを感じないのだろうか?
    「(なんでそんな事に?)」
    ジェスチャーを駆使して聞いてみると、タレ目のウツボは少女へ食べさせる食事を用意しながら「うーん。」と唸り出す。
    「えーっとね、アズールが大大大好きな大好物があるんだけどー。」
    「(...からあげ?)」
    「ジェイドが『僕の目の前でアズールが大好物を食べている姿を見たいです。』って冗談で言おうとしてたけどー。」
    「(嫌がりそう。)」
    「『僕がアズールの大好物を食べます。』って聞こえたらしくて~。」
    「(好きな食べ物、食べられるのは怒っちゃうな。)」
    「アズールに半殺し、うーん。半じゃなくて9割殺しされてる。」
    「(9割殺し!?)」
    その言葉に心配になり思わず蛸足に包まれて見えない向こう側に張り付く。音も光も入ってこないこの状態で...!?殺人現場が...!?
    ユウは慌ててパチパチと水槽を叩く。なんども呼び掛けるように叩くが返事が帰ってこない。
    「(大好物食べられそうになったからって、9割殺しはダメ!)」
    ヒリヒリとする痛みはあるが、水の中に居たおかげで大分治まってる。そう思いなんとかして止めようとアズールの名前を呼んだ。
    「...キュ、ギィーキュピ、ィ」
    しかし、喉からは汚い音しか鳴らない。風船が飛んでいくような、音が鳴るオモチャが壊れたような、もしくは喰われる前の獲物が喉を潰され最後に叫ぶ断末魔のような...そんな酷い声しか出せない。
    「ッ、ゲボっ...!」
    「小エビちゃん、大丈夫?喉が痛いんじゃねぇーの?」
    フロイドが咳き込む少女の背中をさすったその瞬間、ザプンッと誰かが滑らかに水中に飛び込む音が聞こえてきた。それと共に水槽を覆っていた蛸足が消え、代わりに見たことあるサイズの蛸足がユウの身体を包み込む。
    「ふふっ、あまりにも必死で可愛らしい声で呼ばれたので来てしまいました。」
    振り向くと人魚の姿に戻ったアズールが少女の手を取って優しく微笑んでいた。そのまま中途半端に変化している醜い指先にキスを落とし『キュールルルルル』と不思議な高い音を鳴らす。
    オンボロ寮の監督生である彼女はまさかそんな事をされるとは思って居なかった為、ビクッと肩を揺らすと目をパチパチと瞬きする。しかし本来の目的を思い出してジェスチャーで『大好物を食べられそうになったからと言って幼なじみを9割殺しにしたらダメですよ』と伝え始めた。
    アズールはそんな醜く可愛い少女を見てウンウンと頷き蛸足で優しく絡め取り包み込む。少女を両腕でやさしく抱きしめると首元に擦り寄せすぅ、と匂いを鼻から肺に取り込んで満たし甘ったるいため息を着く。
    そんな彼らを見てフロイドは「げぇ~~。幼なじみのそんな顔見たくねぇ~~。」と舌を出しながら水槽から出ていったのだった。




    「はい、口を開けてください。あーん、ですよ。」
    「.......。」
    食欲が無いとジェスチャーで伝えると水中でも食べれるゼリーを持ってきてくれた。ユウは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる先輩の言う通り口を開けると、その中に優しくスプーンを入れられる。
    甘くて冷たいゼリーは痛む喉にも優しくて思わず何度も口を開けて食べさせてもらったほとだ。自分の世話をすると言ってくれた先輩がその度に嬉しそうな顔をしているのを見ると、意外と世話好きなのかもしれない。
    「(いや、それかめちゃくちゃ高い値段のゼリーを!?)」
    1人で真っ青になりながら考えていると「さて、寝床につれていきましょうかね。」と言われ水中で何やら再び膜を貼られる。プールの中に入れた水風船みたいだな、と呑気に思っていたらいきなり浮遊感に襲われた。
    「ッ......!」
    「驚かせてすみません。生活をする場所は別の所なので、少し我慢してくださいね。」
    そう言いうと、いつの間にか人間の姿になったアズールは人魚モドキが入った水風船をマジカルペンで操作しながら歩き始める。
    「(結構時間経ってたと思ったけど...まだ昼過ぎか夕方かな?)」
    廊下や水槽から差し込んでくる陽はまだ明るい。ならばあの事件が起きてからまだ時間がたっていないのだろうか、ふわふわと運ばれながらそう考えていると自分を浮かせている彼から「ああ、そうでしたね。貴方は人間でした。」とまるで自分の考えを持って読み取ったかのような声とクスクスという静かな笑い声が聞こえてきた。
    「僕らは夜目が聞くんですよ。昼間、人魚の姿で陸を直接見ると眩しすぎるくらいだ。どうですか?人魚しか見ることが出来ない光景は...中々美しいでしょう?」
    そう言われ改めて周りを見渡す。
    月のカーテンに包まれたような優しい光、マリンスノーがふわりふわりと舞い散る水流、普段は活発に動いているのにうたた寝をしているのかゆっくりと動く魚達。
    「(先輩達は、こんな綺麗な景色を見てるんだ。)」
    全て人間のときでは見ることが出来なかった景色。ユウはその優しい美しさに思わず見蕩れてしまう。
    ボーッと周りを見ながら景色を楽しんでいると、どうやら部屋についたらしい。綺麗に装飾されたドアを開きふわふわと浮きながら中に入ると、『あれ?』と首をかしげた。
    「(...アズール先輩の部屋?)」
    キョロキョロと見渡し確認をするが、やはり見た事がある場所だ。ユウの疑問に思う顔が出ていたらしく蛸の人魚は「寝る場所はあちらですよ。」と指をさした。そこには大きめの水槽と大きい蛸壺がひとつ、置かれている。ただソレ・・だけがあった。
    「貴方は女性なので大変申し訳ないのですが...薬がどのように作用し、どのように解除するか分からないんです。寝ている時に問題が起きたら大変なので今日からしばらく一緒に寝ることになりました。」
    「.......!?」
    驚くユウをそのままに水風船を水槽に優しく入れる。そして中で人魚モドキが入ったのを確認すると自身も水槽に入り、抱き上げる。驚きで目を白黒させる少女をそのまま蛸壺へ連れ込んだ。
    「人魚と人間は寝床の好みが違ってきますからね。一応整えてはみましたので、寝てみてください。」
    ツボの中は硬くなく、何やらワカメや海藻などふわふわした物体の上に優しく転がされる。もしかするとヌメヌメしてくるのかと思ったが杞憂だったようだ。
    「(あ.....やばい、もう眠い.....。)」
    今日1日で色々あったからか、疲れが溜まっていたようだ。うつらうつらと瞼がとじそうになってくる。
    「ふふっ、どうぞゆっくりおやすみください....貴方の蛸壺ですから。」
    これから世話をしてくれる先輩の声が聞こえてくる、でもユウはそれすらも聞こえない程深い眠りに落ちていった。


    「…あぁ、なんて愛おしい。貴方の全てが欲しい。」
    アズールは自身の蛸壺で安心しきった顔をして眠る愛しい少女を見てうっとりとした甘いため息をつく。そして愛おしい雌の体をゆっくり観察した。
    本来ならば臍から下を覆うはずの鱗は歪な形をしておりそれが胸や下半身を覆うように生えている。だが所々はつるりとした人間の皮膚が見えているため、中途半端だ。
    尾びれも左足は海の中を泳ぐために作られたヒレになっているが...右足はそれに癒着しているように人間の足が着いている。その様子はまるで人間の足がヒレに取り込まれていく途中にも見える。中途半端な鱗とヒレ、そして胸から下の自分の骨や内臓が透けて見えている...そんな状態。
    「ふふっ、可愛い....なんて可愛いのか。僕のような優秀な雄が居なければ直ぐに食われてしまう中途半端で未熟な身体...!」
    高ぶる気持ちを抑えきれなくなり、癒着した人間の足にキスをすると柔く噛む。

    今日はタチの悪い冗談を言ったウツボを叱った、幼なじみでなければ八つ裂きにしていただろう。
    愛する雌をあんな目で見てきたヤツらを殺しそうになった。
    教師でさえ、人工呼吸だとしても唇を合わせるなんてさせるわけない。
    ――だって、コレは、この雌は僕のものだ。

    「声が出なくてもいいんです。僕はどんな姿でも……たとえ手足が無くても、耳が聞こえなくなっても、目が見えなくなったとしても、ただの肉の塊になっても....貴方を愛し続けますよ。僕だけが、ね。」
    抱きしめすりすりと首元に擦り寄り甘い匂いを肺に充満させる。そして悩ましげなため息をついた。
    「それにしても、こんなにも美味しそうなご馳走があるのに我慢をしなければならないなんて、カロリー制限よりも辛いですね。」
    小さく呟くと起こさないようにゆっくりと移動をする。
    アズールの目下にあるのは『透けて見えた子宮』。あの幼なじみが言った『この状態で交尾をしたらどうなるのか』を想像し口内に生唾が溜まる、がそれをゴクリと飲み込んで深呼吸をした。
    「....同意無く行為をするのは嫌われる。海に連れていくなら番の状態で行きたいからな。」
    そう言って自分を落ち着かせると「...まぁ、少しつまみ食いするくらいならいいだろう。」と長い舌を出す。そして透明な腹の上から稚魚を育てる内臓をゆっくりと舐めてなぞり始める。
    「んっ、」
    擽ったそうにぴくりと反応を示した少女に嬉しそうに目を細めると、胎児を育てる場所に優しくキスをする。そしてそのまま吸い上げて痕を残した。
    「これはマーキングですよ。僕以外のオスが寄ってこないようにするためのね。」
    そう言いながら満足げに笑うと、再び優しく抱き寄せて頬ずりする。安心しきったように眠る顔を見ると喉から『キュルルルルル』と求愛の音がなり始めた。
    蛸の人魚はそのまま愛しい少女を腕に抱いたまま眠ったのだった。





    「ギィ、ギュ....ピィ......。」
    「はいはい、どうしましたか?」
    少しずつ痛みが和らぎ始めた喉を鳴らしてお世話をしてくれている彼を呼ぶと、笑顔で近寄ってきてくれた。
    「.........、................。」
    「グリムさんでしたらご心配ありませんよ。むしろ、授業に出れない貴方の分までノートを取ってやると意気込んでましたよ。」
    その言葉に心配していた可愛い相棒への不安が和らぐのが分かる。どうやらそれが顔に出ていたのか「グリムさんとハーツラビュル寮のお2人と今度お呼びしましょうか?念の為に最初用意した水槽も残していますので。」と、言われてしまった。
    しかし、こんな状態なのだから甘えれる時は甘えておきたい。何度も首を縦に振って『会いたいです!』と伝える、するとクスクスと笑われた。
    こうして口をパクパクさせているだけでもアズールは少女の意図を読んでくれる。それだけではなく食べたいものや欲しい物、暇つぶしになるものを持ってきてくれるのだ。
    美味しくてペロリと直ぐに食べてしまう料理、可愛くて色鮮やかなスイーツ、海をモチーフにした髪飾り、この世界で伝わる絵本や童話、今流行りの雑誌など様々なものを。時間がある時や寝る前は水槽に入ってきてその日の出来事や、海の中で経験した怖い話、そして美しい歌を聞かせてくれる...その後に「海の中では流されないようにするんです、つい癖になってしまって。」と言われながら抱き締められるのは恥ずかしいが。
    「............。」
    オンボロ寮の監督生は一緒に過した2週間を思い浮かべ、思わず目の前に立つ美しい人魚を見つめた。陶器のような白い肌、フワフワのシルバーで綺麗にセットされた髪、スカイブルーの瞳、ぷるんとした形の良い唇と色気のあるホクロ....そして見た目だけではなく血のにじむような努力家。

    ――彼を褒め称えるには、この世にある言葉では足りな過ぎる。

    「ふふっ、なんですか?そのように見つめられて。」
    口元に手を当てながら笑うその姿さえ見惚れてしまう程の美しさで、思わず目線をそらした。そして、その際に目に入ってきた自分の醜い身体が気持ち悪くて眉間にシワを寄せる。
    『うわっ...!さわんなっ!』と言いながら、伸ばした手を跳ね除けられ不気味なものを見るような目でこちらを見ながら後ずさりされた事。不穏な空気やヒソヒソと話す声、所々聞こえてくるトゲのある言葉や向けられるカメラのレンズ。それら全てが汚く悪臭を漂わせるヘドロのように胸の中に広がる。
    「(.......私が、綺麗な姿だったら。)」
    そんな事を思い浮かべて下唇を噛み締めた。綺麗な尾鰭やヒレ、体を覆う美しい鱗や長い髪の毛、誰もがウットリするような声を持っていたら.....もしも、そんな風に変わっていたならきっと。
    「どうしましたか?嗚呼、下唇を噛んではいけませんよ。」
    隣で聞こえてきた声に驚き顔を上げると、いつの間にかアズールが寄り添っていた。醜い身体である自分の腰を引き寄せコートで身体を隠すように抱き締められている。美しい蛸の人魚は手袋の指先を加え素肌を晒すと、ユウの頬を覆うように添えた。
    「人魚の歯は少し鋭くなっているんです。ほら、傷がついてますよ。」
    そのまま親指で唇を優しくなぞられる。密着した身体と近づいた顔、低くて落ち着くテノールに顔に熱が集まってしまう。
    「ッ、.........!!!.......ッ、!!!!!」
    「おや、逃げられてしまいましたね。」
    恥ずかしさでバタバタと暴れてその腕から逃げると何時も寝ている蛸壺に入り込み睨みつけた。彼はその様子にククッ、と短く笑い「貴方は本当に可愛らしいですね。」と笑顔を向ける。
    「僕の仕事が終わったらグリムさん達と会う日程について話し合いましょう。その後にでも、どうしてあんな顔をしていたのか教えてくださいね。」
    頬を膨らませながらこちらを可愛く睨みつけてくる人魚モドキに、蛸の人魚は軽く手を振る。そして水槽からゆっくりと出て行った。

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

    アズール・アーシェングロットは足取り軽くVIPルームに向かう。今なら鼻歌だけではなく、人魚の歌声をラウンジで食事をするもの達へ惜しげも無く披露しても良い気分だ。
    だが、今はVIPルームにお客様が待っているため無理だろう。何せ彼は『特別なお客様』なのだから。
    コンッコンッと軽くノックをして扉を開けるとウツボの双子と客が待機していた。テーブルの上にあるティーカップを見ると、まだこの部屋に通されて時間はたっていないらしい。
    「ロビー・デュークさん!お待たせいたしました!」
    同級生である青年に笑顔を見せると客は「よう、アズール。すまねぇな。」と片手をあげた。そのフランクで親しげな態度に見え隠れする『媚び』に思わずピクリと眉毛を動かす。
    「(なんて気持ち悪い態度なのか。)」
    まるで仲の良い『お友達』かのようなそのニヤついた笑顔に吐き気がする。同級生であり今はカモだ言うことが分かっていないようだ。
    ゾワゾワする気持ちの悪さを押し殺し「いえ、お気遣い無く。」と貼り付けた笑顔を向け向かいに座る。そして「それでは、貴方の相談事とは?」と本題に入った。
    「おいおい!そんな硬っ苦しい態度は止めてくれよ!俺たち同級生だろ?相談事とかじゃねぇよ、お前にも得になる話だよ。」
    生え際に見えるニキビを前髪で隠したロビーはニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ顔を近づける。
    「....なぁ、お前が『人魚モドキ』の面倒見てんだろ?それ俺が変わってやるよ。」
    その時カタリ....とドアが小さく動く音がした。小さな物音にカモとなった青年は思わず振り向くが、そこにはいつの間にかいたジェイドがニコニコとした笑顔を向けながら立っているだけだ。ロビーは再びアズールの方へ顔を向けると、自分の素晴らしいと信じてやまない考えを再び披露し始める。
    「お前もあの気持ち悪い化け物の世話をすんのは嫌だろ?人魚は綺麗なものを集めるのが好きだってのは常識だからな。あんな中途半端に変化した気味が悪い人魚モドキなんて、見たくもないんじゃねぇか?」
    ゲラゲラと下品に笑う青年の耳にはカタカタと小さく震える本棚や、ティーカップの音は届いてないらしい。フロイドはそのあまりにも馬鹿らしい姿に吹き出しそうになる。
    「やっぱり鑑賞するなら、あんな気持ちが悪い化け物よりも綺麗な」
    その瞬間、テーブルに激しく顔を打ち付けた。ガッシャーンッと激しい音と共に割れたティーカップと零れた紅茶、それに混じる鼻と口から流れる血。
    「っ、ぐぁ.......!」
    顔を上げようとしても後頭部を掴むように強く押し付けてくる手によってあげることが出来ない。どんどん強くなっていく力と痛みに思わず抜け出そうと暴れるが動くことが出来ない。ミシミシと音を立て始めた歯に冷や汗が出てきた。
    ――殺される……! そう思った時、パッと手が離された。
    「うわああああっ!!」
    勢いよく起き上がり自分の後頭部を押さえるとズキズキと痛む。ハッハッと野良犬のような短い呼吸と鼻血、口から唾液と混じった血液が流れ出てくる。
    その事に気がついたロビーは目の前にいるアズールに文句を言おうと口を開こうとした、だがすぐに「ヒッ.....!」と悲鳴を上げた。
    「おやおや、残念ですね。貴方はもう少し優秀な方だと思っていたのですが......。」
    いつの間にか真後ろに立っていたジェイドは、ひどく優しい動作で彼の肩に手を置くとクスリと楽しそうに笑う。
    「お前さぁ、小エビちゃんの写真マニアに売ってやろ~って言ってたんでしょ?アズールに親切を装って小エビちゃんのお世話をしてぇ、それでいろぉんな写真撮ってやろうって計画してたんだっけぇ?」
    「っあ、そんな....!」
    「あ?ネタ上がってんだよ、自分が『お友達たち』に売られたってのわかんねぇの?」
    ロビーはその言葉を聞いてガタガタと震え出す。だが、オクタヴィネル寮の3人を睨みつけると「うるせぇ!!!」と声を上げた。
    「てめーらもどうせ、あの化け物で良い思いしてんだろッ!?だったら関係ねぇだろ!!俺はアイツで儲けようとしただけなんだよッ!!」
    唾を飛ばしながら怒鳴り散らす男の姿にウツボの双子は呆れ返ってしまう。なんとまぁ愚かで馬鹿な雄なのだろうか。
    「あんな魔力もない女!どうせ元に戻っても使えねぇーんだ!なら、気持ち悪い化け物のうちにッ」
    その続きを言い切らぬうちに、突然口を覆うように掴まれると壁にそのまま叩きつけられる。後頭部を強く叩きつけられ吐き気がするが、喉が引き攣って声が出ない。そして、冷たく鋭い殺気と魔力に足がすくんで指先が冷えてくるのが分かった。目の前にいる恐ろしい顔をした蛸の人魚を見て恐怖で身体を震わせ、目と鼻から汚い水を出する事しかできず恐怖でギョロギョロと目玉を動かした。
    「......お前らの脳みそは寄生虫でも沸いているのか?どいつもこいつも、口を開けば『気味が悪い』『醜い』『売ればいいマドルになる』そんな事ばかり....。」
    人魚はゆっくりと首を傾げると掴んだ手を上にあげる。ザリザリと剃られる音とブチブチと髪の毛が抜ける音が生々しく聞こえてきた。
    そして、牙を向き横に開いた瞳孔と鋭い瞳は美しく、だが無表情で恐ろしい額に青筋を張り喉から『グルルルル......』と恐ろしい人魚の威嚇音が鳴る。その音を聞いたロビーは涙と鼻水を垂れ流しながら、失禁してしまったようだ。ズボンに大きな染みができ、宙ぶらりんになった足先からはポタポタと雫が落ちていくが本人はそれどころではないらしい。
    「嗚呼、なんて愚かナのか。アの雌の美シさも素晴ラシさも、ゎカらなィなんテ......。」
    「っ、。」
    人魚は冷たい声でそう言い、手に力を込めてグシャリッと何かが潰れる音を響かせた。



    イデア・シュラウドはPCの前でカタカタと単調な作業を繰り返していた。目の前には自分がよく目を通す掲示板やマニア向けの写真や動画が取引されるサイトが表示されている。
    「ここにも居た。はぁーーー....害虫駆除は骨が折れますな。」
    深いため息をつくと例の写真や動画を売り出しているアカウントや購入した相手のアカウント、そしてその人物たちのリストを作成していく。
    「怖いもの知らずというか、馬鹿というか......。普通に考えてあのオクタヴィネル寮のTOPが目をつけてる女の子の写真を売りに出すとかヤバすぎでしょ。死んだ方がマシな目に合いますわ。」
    げぇ、と舌を出しながらカタカタと打ち込んでいき印刷を始めた。恐らくこの間送ったリストに書き込まれた者たちは思う存分、痛めつけられているだろう。

    『オクタヴィネル寮が例の化け物を世話している』
    『中途半端な状態では飼育が大変らしい』
    『マニアが喜んで高値で買う』

    そんな話を、裏垢というバレやすいアカウントで会話してる方が悪い。自分は部活の後輩に目をつけられたくは無いから、捜し出して教えただけ。何せ人魚は欲しい物の事になると見境が無くなる生き物なのだから。
    「(まぁ、拙者もユウ氏には世話になってるし可愛い後輩だとは思っているからね。)」
    異世界から来て身寄りのない少女、そんな彼女が蛸の人魚とくっつけば安心して暮らせるだろう....そう思うくらいには可愛いと思っている。
    「.....よし、リストは出来た。一旦持って行ってもらうか。」
    プリンターから吐き出された用紙を取り、それをファイルに入れるとイデアはそう呟き「オルトーー!」と可愛い弟に声をかけた。途端に扉からひょこっと顔を出し「兄さん、どうしたの?」と可愛らしい笑顔を見せてくる。
    「ごめんなんだけどさ。この資料、オクタヴィネル寮に持って行ってくれる?拙者まだ掃除が残ってるから。」
    そう言って笑みを見せると「うん!良いよ!」と言って受け取ってくれた。
    「ちょうど、グリムさん達とオクタヴィネル寮に行く予定だったんだ!ユウさんが寂しがってるからってお呼ばれしたんだよー!」
    ニコニコと笑顔を見せる弟の頭を撫でて「そうなんだ、楽しんできてね。」と笑みを見せる。
    「うん!ユウさんと仲の良い1年生達にも話があるらしくて!その事も帰ってきたら話すね!」
    そう言ってぽわぽわと浮きながらオクタヴィネル寮に向かった。イデアはその後ろ姿を確認すると、今度はネットの世界に出回っている少女の写真を削除する作業に移った。

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

    「子分ー!!!」
    「ユウ、久しぶり~!」
    「元気そうだな。」
    グリムは水槽の中にいる子分に涙目で張り付き、その後ろでエースとデュースが立っていた。用意された椅子とテーブルと上に乗せられた菓子と紅茶がある場所にはジャックとエペル、そしてセベクが立っている。
    「みんなもユウさんとお話したの?」
    ぽわぽわと近づいてきたオルトに彼らは頷き彼女が居ない間に進んだ授業のノートや教科書をテーブルに置いた。
    「ふんっ!人間が留年すると若様も悲しまれるからな!」
    「素直に心配してたって言えばいいだろ?わざわざ自分のノートをコピーしてるのはセベク、お前だけだぞ。」
    「この後僕らの復習も兼ねて勉強会を開くんだ。オクタヴィネル寮の先輩達も教えてくれるって。オルトくんも一緒にする?」
    友達からのお誘いにオルトは目を輝かせると「うん!もちろん!」と手を挙げて喜んだ。そして親分やマブダチ達と話に夢中になっている少女にチラリと目を向け、こちらに目線が無いことを確認するとニヤリと口元を歪ませる。
    「...みんなも、アレを見に来たの?」
    イグニハイド寮の友人が囁くように言った言葉に、少女の友人達はクスクスと口元に笑みを浮かべた。
    「ああ、しっかりとこの目に焼き付ける為に来た。どうやら、僕らの友人に不審な目を向ける輩がいるらしいからな。若様も大変悲しんでおられている、だからその者がどうなったのかをお伝えせねばならない。」
    「うちの寮長も結構怒っててな.....。傷ついた女を食いもんにして稼ごうと考える輩がこの学校で、オマケに自分の寮に居ることも許せなかったらしい。自分が納得するくらいまで痛めつけてくれてるかを確かめたいんだとよ。」
    「ヴィルさんはユウさんに対して『気味が悪い』とか『化け物』って言ってたことを物凄く怒ってて....もちろん僕もだけど。だからちゃんと反省してるのかなって確認することになった。」
    その言葉にオルトは「わぁー!みんな優しいね!」と声を上げてクルクルと回る。自分も兄に撮影を頼まれていたが、この分ではデータを各寮に渡すことになるかもしれない。
    「グリムさん!エースさん!デュースさん!僕達、先にアズールさん達に会いに行くけど後から来る?」
    オルトの声に彼らは手を振り「ここにいるんだゾ!」「行ってらっしゃい~。」「ユウの事は任せといてくれ。」と返してくる。自分たちを『誘ってくれた』彼らは、どうやら久しぶりに会った友人との会話に華が咲いているらしい。
    オンボロ寮に住む大切な友人は痛々しい姿だった事と、心無い言葉で傷ついている様子だった。ならば少しでもこの時間を楽しんで欲しいと思うのは仕方ない事だろう。
    「わかった!じゃあ、また後でねー!!」
    手を振りジャック、エペル、セベクと共に部屋を出る。そして予め伝われていた奥の廊下を進み始めた。ワイワイガヤガヤとまるで授業前の廊下を歩くように、会話をしながら歩いていく。そうやってしばらく歩いていると灰色の扉にたどり着いた。
    獣人であるジャックはここからでも香る血なまぐさい匂いに思わず眉間を寄せて「マスクを持ってくれば良かったな。」と思わず呟く、この様子だとこの寮でシャワーを借りることになりそうだ。
    「アーシェングロットさん!開けるよー!?」
    オルトがギイィィィと重たい音を立てながら開かれた部屋の中、そこで広がる光景を見て一瞬3人は驚き目を見開く。だがすぐにヴィランらしいニヤリとした笑みを見せた。
    「獣の解体なら慣れでるじ、けっぱるかー!と思ってたけど...大丈夫みだいだで。でも、オラ達の分まで残すのわずれでねぇが?」
    「これならレオナ先輩も大満足っすね。俺も少しは楽しめるかと思ったけど...こりゃあ仕方ないな。」
    「ふん、普段の鍛錬が足らんのだ。捕まって悲鳴をあげるだけなんぞ実践練習の相手にもならん。」
    吊るされてボコボコにされた者たち、強すぎる回復薬を掛けられながら何かを削がれた者たち、様々な状態のもの達が部屋には居た。その中心に居たオクタヴィネル寮のTOPは彼らに気が付き振り返ると、ニコリと笑みを見せる。シルバーのふわふわとした髪の毛からは血が滴り落ち、陶器のような白い肌も所々赤く染って瞳は横にぱっくりと裂けていた。そんな状態で彼は綺麗なお辞儀をする。
    「これはこれは!ユウさんのご友人達に楽しんで頂こうと僕、自ら準備をしておりました.....!どうですか?素敵な装飾でしょう?」
    「ねぇ~~~~~~?クリオネちゃん達、来るの遅すぎ~~!!!アズールが我慢できなくてもうボコっちゃったよ~~!?せっかく面白いショーを見れるチャンスだったのにぃ~~!!!」
    「フロイド、仕方ないですよ。オルトさん達は時間通りに来てくださいました。我慢できなかったアズールが悪いんです。」
    左右の壁から聞こえてきた声に目を向けると、同じく所々赤く染めたウツボの双子が立っていた。回復薬をかけて回っているらしく足元には空の便が転がっている。
    「いえ、大丈夫っす。レオナさんもこの状態の写真を見せれば満足すると思います。」
    「念の為ひとりひとりの学生証を顔の横に並べて、写真撮っべ?こんげなパンパンになっだ顔だど本人確認が難しいど!」
    「ふむ、それは賛成だな。リリア様からも全裸にして横に学生証とその者の戸籍が分かるものを置いて写真を撮るといいと助言を頂いたからな。早速行動するか。」
    「うん!戸籍は任せて!端末にハッキングして情報を抜き取ったよ!その人が登録している連絡先も、」
    オルトがいそいそと準備をしていたその時、自身の足首を掴まれるような感覚に首を傾げた。下を向くとボロボロになったひとりが震える手で足首を掴んでいる。
    「だ、ずけでぐれ!!!お、るど!!!!!!」
    つぶれた声帯から出すしゃがれた声に、その場で立つものはケラケラと笑い声をあげた。

    ――嗚呼、なんて愉快な光景なのか!

    「同級生のカスペル・クナウストさんだよね!わぁー!すごいなぁ!損傷率が67%なのに喋ってる!魔法薬の効果なのかな!?」
    オルト・シュラウドは掴んできた手を足を軽くって振り払うとその場にしゃがみ込んだ。そしてカスペル・クナウストと名前を呼んだ青年の潰れた顔を無邪気に覗き込む。
    「貴方がユウさんの写真をマジカメでばらまいたの知ってるよ!それで反応がたぁーくさん来て喜んでたよね!確かお友達に『これで俺も有名人だ!』って自慢してたんだっけ?」
    可愛らしい顔を持つ少年は、そのまま目元を弓なりに歪めてクスクスと笑い出した。
    「また反応欲しくなって今度は薬を被る前のユウさんの写真を勝手に上げ始めたのも知ってるよ!でもね、ざんねぇーん!カスペルさんが上げた写真もフォローしてた人もフォロワーさんも反応していた人たちも、みーーんなアカウント消えちゃったよ!兄さんがお掃除してくれたから!」
    そのまま自身の足首を掴んできた青年の手を掴むと持ち上げてブンブン振り回し始める。何も知らない無邪気な瞳を持ち、色んなことを知りたいような表情を見せながらオルトは「ねぇ、お願いしていい?良いよね!ありがとう!」と嬉しそうに、笑い始めた。
    「僕、1度でいいから生身の身体で色んなことを試してみたかったんだ!どの角度まで曲げたら骨って折れるの?どれくらいの圧を加えたら砕けるのかな?鼻から硫酸流し込んだらどんな声になるんだろ?楽しみだなぁ!ふふっ、たくさんデータが取れるから僕らも嬉しいよ!」




    「...ぁ、ズるせんぱ、い。」
    「はい、上手ですよ。声が戻ってきて良かったですね。」
    アズールの部屋で喋る練習をする。少しだけでも言葉を発すると、まるで歩き始めた赤子に接するように褒めてくるため少し気恥しい。
    『数日で元に戻る』と学園長に教えられたのは昨日だった。血液検査の結果、血液中に残っている魔法薬が少なくなっているらしくそこから予想を立てたと高笑いしながら部屋を出ていった後ろ姿を見送ったのを今でも覚えている。
    「(そうか、あと少しでこの生活も終わるんだ。)」
    嬉しい.....はずではある。だって醜くて中途半端な姿では無くなるし、2本足で好きな所にいけるようになる。友達とお喋りしたり食事をする事もできるようになるのだから。
    「(でも、)」
    それは同時に、この美しい蛸の人魚との生活が終わるということだ。1日の始まりに挨拶を交わす事も、彼の隣で食事をする事も、痛むだろうと背中や足を撫でられる事も、あの綺麗なテノールで寝る前に物語や歌を聞かせてくれることも、優しく引き寄せながら眠る事も......何もかも終わってしまう。元に戻ったらこの事件が起きる前の関係性に戻り、離れて生活を始めて、そしてこの生活を他の美しい人と、
    「おや?僕とのレッスン中に何か考え事ですか?」
    スルスルと身体に巻き付くように回された蛸足とお腹に回る美しく、だが男らしい腕。ユウはその事に胸がときめくのが分かったが慌てて頭を振った。これは特に意味の無い行為だと知っている、海の中で流されないようにする為のものだと。それでも顔が熱くなるのが分かる。きっと真っ赤になっているだろう。
    「ユウさん、どうしたんですか?そんな悲しそうな顔をして......。ねぇ、僕に教えてください。」
    横から赤くなった顔を覗き込むように言われてグッ、と喉が詰まる。人間だったら『揶揄うのは止めて』と言って泣いていただろう。だがここは水槽の中で、蛸に捕まっている状態だ。あと数日、お世話にならなければならいのに自分の柔らかい所を晒すのは恐怖でしかない。
    「(何か、何か理由を言わないと。)」
    この時のアズールは理由を話すまで蛸足を離してくれないのはお世話をされている期間で知っている。質問されたことに答える限り、こうやって引っ付きからかってくるのだ。
    『あと少しで、人間に戻れるのが嬉しくて。』
    そう言って離れてもらおう、そう思いオンボロ寮の監督生は俯いていた顔を上げた......その時。
    「キュルルルルルル、キュピィーキュイキュイ」
    突然聞こえてきたイルカの鳴き声のような高い声に驚き周りを見渡す。だが音の出処が分からず首を傾げると、突然身体を覆う蛸足の力が強くなった。骨が軋むくらいの強さに息を詰めるが、悲鳴を飲み込まれたように唇を奪われる。
    「っ、!?」
    キスをされているとわかった瞬間、なんとか逃げ出そうとするが蛸足と腕によって動くことが出来ない。そのまま好き勝手口内を舐められ数分、満足したのか顔を離された。
    「ナ、にを.....!」
    気持ちだけではなく身体までも弄ばれたと思い文句を言おうとした。だが愛しい人魚の顔を見て固まってしまう。ピンク色に染まった頬、蕩けた目尻、熱の篭った瞳と甘ったるい溜息......まるで御伽噺に出てくる恋をした人魚姫のようだ。
    アズールは困惑するユウの顔に気がついてないのか、抱きしめたままクルクルと水中を回り始める。そしてまるで歌い出したかのように声をあげはじめた。
    「嗚呼、なんて嬉しいのか......!!!まさか貴方から求愛の鳴き声を聞かせて貰えるなんて!!!ええ、ええ!!!僕はあなたのものです!この身も心も何もかも、全て貴方のもの.....!!!愛しい番が望むのならこの脚も牙も目玉も心臓も捧げましょう!!!」
    クルクルと回り続けたかと思うと自分の体とユウの身体を密着させるように蛸足を巻き付け始め、少女の顔にキスの雨を降らせる。チュッチュっとリップ音を立てながらキスをしていき、最後には首元に顔を埋めて痕を残した。
    「ッ!?........!!!!」
    あまりの衝撃に固まっていたユウは慌ててパクパクと口を動かすと、アズールは蕩けた瞳をそのままに「まったく、本当に可愛らしい。」と言いながら再び唇に軽くキスをしてくる。
    「無意識で求愛をしていたのですね...!先程の鳴き声、貴方の喉から聞こえた高い鳴き声は相手に対する求愛の声ですよ。ほら、僕も貴方に贈りますから聞いてください。」
    そう言い「キュルルルルルル~~!」と先程よりも少しだけ低いが高い音を喉から鳴らす。その時、初めてユウは自分の喉が勝手にアズールに対して求愛をしたのだと知った。
    「ピィ!?そ、ンギュピ!?キュルイィイイイ」
    「ふふっ、そんな可愛らしい声で鳴いて....!動揺してるんですね。人間の言葉と可愛い鳴き声が混じってますよ。」
    顔を真っ赤にしている可愛らしい番を蛸の人魚は抱き締める。そして幸福感で溢れる気持ちそのままに抱き締め甘い香りがする首元に顔を埋める。こんなに可愛くて愛おしい存在を手に入れることができるなんて、なんて幸せな事なのだろう.....!!!
    「(可愛い、可愛い、可愛い.........!なんて可愛いくて愛おしいくて愚かなのか!)」
    自分と愛しい雌だけの幸せな時間を続けようと足を取るか、海の中に隠してしまうか考えていたが必要は無くなったらしい。愛しい獲物は自分からこの足に飛び込んできてくれたのだから。
    「(好きだ、愛している、そんな安い言葉では足りない.....!この身を食べてしまって永遠にずっと一緒に、いや食べられて彼女の1部に.......!)」
    嗚呼、だが湧き上がる愛おしい気持ちを押さえつけなければ。怖がらせて逃げられたら無理やりに連れていくしか方法はなくなってしまう。
    「ユウさん、あなたの事を愛しています。元に戻ったらすぐにでも婚約を......!」
    「ァず、るぜんぱ、ィ!?キュピ、キュルリィ!?」
    とりあえずは陸の方法で縛り付けなければ、困惑の中に嬉しさを滲ませる愛おしい雌を尾びれで捕まえなければ...!
    アズールは蕩ける瞳のまま、世界一美しい化け物に再びキスをした。
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    葉づき

    DONE #葉づきエアスケブ小説企画
    ニンコパ会場でのリクエストありがとうございます!

    リクエスト:「嫉妬」 アズ監 ジェイ監
    アズールジェイドとの事だったのでこの2人とサンドにしました!
    「僕、監督生さんに告白しようと思うんです」

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    「……何故僕にそんな事を言うんですか」
    「いえ、一応あなたにも知っておいて頂こうかと」
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    「ふふ、ありがとうございます」
    「褒めてない。……良いでしょう。お前がそのつもりなら僕だってあの人を手に入れてみせる。ジェイド、おまえにだって譲ってなんてやりませんよ」
    「そうこなくては。僕も絶対に負けるつもりはありません」

    ニヤリと笑うジェイドの眼光がギラリと鈍く光る。敵意に溢れたその顔は 1382