1.設定何かをガサゴソと探している義勇さんの背中を、先程から眺めている。
ご飯もお風呂も終えた。
あとは寝るだけ。
こんな寒い時期だというのに、寒さに弱くこの時期不調でも寝込めやしない義勇さんのためにエアコンに加湿器にと我が家では総動員だ。
湯冷めはしないだろうけれど、それにしてもくっついて寝る日和だというのになにをしているんだろうか。
あちらでガサゴソ、納戸に頭を突っ込んでガサゴソ。
リビングのティッシュケースを開けしめして、じっとみた後また別の部屋へと移動する。
「あの、なにかお探しですか?」
まるで店員のように話しかけてしまったけれど、お目当てのパンを探している時のお客さんにとても似ていたので仕方がない。
「いや」
短く断りながらも、眉根を少し寄せて『実はとても困ってます』という匂いが鼻に届けばシュバッと義勇さんの真横へと移動した。
「小さいものですか?大きいものですか?」
ティッシュケースを開けるほどだ、隙間から落ちるような小さくて薄いものかもしれない。
当たりをつけたくて質問すれば、ゆるゆると首を横に振る義勇さんと目があった。
「空き箱を探してたんだ」
「なるほど、お待ち下さい!!」
なあんだ、空き箱なら余裕です。
6人兄弟の長男ですよ、俺は。
6人もいると図工の材料集めは本当に大変なんです。
ティッシュの箱もペットボトルの蓋だって、実家に持っていくためにしっかりと溜め込んでるんですから任せてください。
「どのくらいの大きさが必要ですか?」
先程義勇さんでは探しきれなかった納戸へ、今度は俺が頭を突っ込んで目当ての箱を目指す。
ティッチュ箱程度であれば事足りる、そんな声を背中で受け取りながら見つけたのはお菓子の空箱だ。
折りたたみの蓋が空いているけれど、受け取ってくれた義勇さんには問題なかったらしい。
「ちょっと、先に寝室に行っててくれるか?」
そう言われれば、きっとすぐに来てくれるのだろう。
寒がりの義勇さんのため、お布団を温める任につこうと思う。
「これを引け」
寝室の扉を閉じて振り返った義勇さんの手には、先程渡した空き箱が乗っている。
ご丁寧に、ガムテープで箱の名前が書いてある…
「『設定くじ』とは」
油性マーカーで書かれた義勇さんの文字で書かれた「設定くじ」という文字を読み上げてみる。
頭に入らない時は読み上げると良い、と教えてくれたのはほかでもない冨岡先生だからだ。
とんと頭に入ってこないけれど。
「良いから引け」
ぐいぐいと押し付けてくる箱の中には、いくつか折られた紙片が転がっているのが見えた。
なんだろうという疑問を解消する前に引かせたいらしい。
えいやと手を入れ、一枚を掴み広げてみる。
『教師』
「先生、って出ましたね」
二人で覗き込んでいたのに、義勇さんはさっさとサイドボードへ空き箱を置いて、いそいそと布団を半分に畳み、その上に大の字で寝そべった。
…え、義勇さんは引かないんだ。
そして一言。
「色々教えてくれ」
そっちが生徒なのか。
「なるほど?」
なるほど意味がわかりません。
「かまど先生」
「なんて?」
冨岡先生が先生をするわけではないのか。
「あっ!これが『設定』という…!!」
なるほど!!とうとう腑に落ちた、その設定に沿って会話するということですね。
「え、なんでそっちが生徒なんですか」
そう言いながらも、目の前に恋人が寝そべっていればフラフラと引き寄せられてしまうのは仕方がない。
そろそろと横に陣取るように足を布団に入れた所で、ぐいと引っ張り上げられ胸の上へと打ち上げられてしまう。
「竈門先生は、どの筋肉が好きなんですか?」
「え、質問が独特ですね…」
流石体育教師、質問が尖りまくっている。
「敬語はやめてください」
「設定を追加しないでもらいたい」
以前、もう付き合っているのだから敬語も止めてほしいと言われた時にどれだけ…どれっだけ苦労して、それを泡にしたのか覚えていないのだろうか。
「で、好きな筋肉は」
妙なこだわりでもあるんだろうか。
「ええと、特に…胸…ですかね、なんとなく」
今手を置かせてもらっている胸は随分とたくましく、いつだって飛び込みたくなるほどに好ましい。
あえていうのならば、胸かなって。
「甘露寺の胸はだめだぞ」
「なんてことを!!」
違います、甘露寺さんの胸は仕舞わなきゃって慌ててるだけでそういう目ではなく、だったら義勇さんの胸のほうがよっぽどーーー
「俺もいくらか豊かだと思うんだが」
「大好きです!!」
そう言って鼻先を胸に埋めた。
「たんじ…かまど先生の尻に比べれば貧相ですが」
「そこは比べないでください」
結局その日も、設定を活かせたかどうかは二人だけの秘密である。
お題:義に突然「設定くじ」なるものを差し出され、訳もわからず引かされた炭。くじには「教師」と書かれていて、寝床で大の字になった義に「色々教えてくれ」などと言われた。そっちが生徒なのか。