転校生 その日は、明彦が初めて月光館学園の生徒として教室に入った日だった。転校生がそんなに珍しかったのか、明彦はあっという間に同級生達に取り囲まれ、為す術無く見世物同然の存在となった。元来臆病な性格の明彦には、自分に向けられた関心が好意によるものだとは到底思えなかった。子供たちが皆一様に首に赤や黒のリボンを着け、同じ白いシャツの上に同じ黒い上着を羽織っていることすら不気味に思えた。こちらへ向けてしきりに何か呼びかけてくる、その嵐のような騒々しさに狼狽えて、明彦は少しも声を発することができなかった。どこから来たの、前の学校はどんなところだったの、と矢継早に質問を投げかけられる中、明彦は黙り込んだまま、ここに自分を知る者が一人もいない事実を突きつけられていた。
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