群れよ、降れよ、地に満ちよ(さみくも) ――五月雨や。
己が名を呼ぶ音が頭上から降り注ぎ、鋼のからだにしみ入る。十七字の福音に導かれ、景色を名に宿した名刀は幸福なまどろみから目覚めた。
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自我の輪郭を得て起き出した五月雨がまず抱いたのは、まだ見ぬ外の景色に対する憧憬だった。そのとき江戸城の外には絶えず雨が降っていて、城を囲む堀の水嵩が増すごとに、この雨が川の水流をも急き立てるのがどうしても見たい、そして自分もその眺めを言の葉にしたためたいという思いは増し、五月雨は旅に出ることを決めた。
本体を残した江戸城を背に、五月雨は当代の主を思う。犬を大事にしているのは好ましい。文治政治を推し進めたことが、かの俳聖やすぐれた歌人を生むことに繋がったのも功績だと思う。義理を抱くには十分だと思うが、それだけだ。五月雨の心はすでに、あの方とともにあった。向かうのはむろん、北である。
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