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    powerofpower924

    @powerofpower924

    鍾タルを書きます。あとでまとめて支部に載せます。
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    powerofpower924

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    夏イベから着想を得たヤツ。死ネタ。起承転結の起の部分だけ。

    #鍾タル
    zhongchi

    追憶の壺「鍾離先生はさ」

     いつもと変わらない宴席で、他愛もない話をした。

    「俺がいなくなったらどうする?」

     杯を傾けそう宣った青年は、酔いが回って頬が朱く染まっている。
     酒の席での、本当に些細なもしもの話。
     鍾離は知っている。この話が近い将来現実になることを。目の前の人間である彼と違って、凡人の皮を被った長命種の鍾離は、置いていかれることに慣れていたから。
     青年は何処までも意地が悪かった。二人の仲が急速に縮まる要因になった事件を、定期的に掘り起こしては文句を言い、拗ねた振りをしてみせる。本当は終わったことだと気にしてなどいないくせに、罪悪感を抱かせるように話しては鍾離の反応を見て楽しんでいるのだ。
     今回もまたその類だった。
     だから、なんてことないように振舞ってみせる。別れは慣れていた。慣れてはいた。

    「それも運命だろう。葬儀は俺が執り行おうか」

     鍾離の言葉を聞き、穏やかな顔をした青年は優しく笑った。

    「それなら安心だ」


     
     その後、『公子』タルタリヤ、もとい青年アヤックスは、戦いに身を投じてその生涯を終えた。
     激闘であったにも関わらず遺体の損傷が少なかったのだという。それは恐らく、彼を慕う部下達が文字通り身を呈して彼の身を守ったからであろう。ファトゥスの間の評判は下の下、最低値もいい所だったが、反対に下々の者には尊敬されていた彼だったから。
     綺麗な身体で家族の元へ。そう願われた彼の身体は殆ど欠損のない状態で保存されていた。タルタリヤの遺言だからと鍾離に声がかかり、遠くスネージナヤまで足を運ぶことになった。
     棺桶に詰められたタルタリヤは、満足そうな顔をして穏やかに眠っていた。物言わぬ骸となった彼を見て、鍾離は何の感情も抱けないでいる。急な訃報のせいで感情が追いついていないのか、それとも自分が思っていたよりタルタリヤに対しての情がなかったのか。
     そんなことを考えながら葬儀を執り行い、彼の身体を火で焼いて灰にし、スネージナヤの海に撒いた。葬儀が終わって暫くの間は、普段と変わらぬ生活が送れていた。
     ――だというのに、ある日突然心にぽっかり大きな穴が空いた。
     今頃公子は何をしているだろうか。いや、もう同じ空の下にはいないのだった。
     そう認識した途端何も手に付かなくなったのである。

    「ねぇねぇ鍾離さん。鍾離さんが少しおかしいのは分かってるんだけど、それにしたって最近変だよ?何かに取り憑かれてる?」
    「胡堂主」
    「ん〜?」
    「世話になった。旅に出ようと思う」
    「えっ」
    「今月分の給料と、俺の部屋にある家財等は全て堂主のものにしてくれて構わない」
     
     突然の鍾離の奇行により半狂乱となった胡桃を置いて、鍾離は璃月港を離れた。
     各地を旅することで、心に空いてしまった穴を埋めるための方法を探した。
     きっかけは恐らくタルタリヤの死だ。それを何とかしなければならないと、テイワット各地を回って見つけた解決策。それは、自身の願望を投影した擬似世界の創造だった。
     仙術を用いる洞天ではない。鍾離の元素力のみで作り上げられた、全くの新しい別世界。璃月を模してはいるものの、璃月よりも小さなその場所に、鍾離は思い出となってしまった旧友を、恋人を用意した。
     岩元素の力が強く作用しているため、この場所で過ごす彼らは橙や茶という鍾離に似た色で存在している。それは、スネージナヤ人であったタルタリヤも例外ではない。

    「おはよう、鍾離先生。今日は何をしようか」

     記憶と遜色ないその声を聞いて、空いていた穴が少し塞がれたような気がした、姿かたちは生前とは異なるものの、言動、声色、鍾離を見る目全てがタルタリヤそのものだった。失くしてしまった日々の続きが戻るような心地がして、それから鍾離はこの世界に閉じ籠ることになる。

    「今日は弥怒が俺にも鍾離先生と揃いの服を用意してくれたんだ!食事が終わったら、似合っているかどうか見てくれないかな」
    「彼ならば、それは公子殿に似合う服を繕ってくれたのだろう。時間はある。喜んで付き合おう」

     弥怒が誂えた衣装は見事だった。揃いの服は気恥ずかしかったものの、二人の仲の良さを如実に表していて、気分が高揚する。

    「俺が滝の近くで昼寝をしていたら、浮舎に悪戯をされたんだ。全く、これじゃあどっちが歳上か分からないよ」
    「っ、ふ、よく、に、似合っているぞ、公子殿……ッ」

     タルタリヤが顔に墨で落書きをされていた。浮舎は以前魈にも同じ悪戯を仕掛けていたし、歳下で遊ぶのが好きなのかもしれない。

    「若陀」 
    「マルコシアス」
    「伐難」
    「応達」
    「ヘウリア」
    「ハーゲントゥス」

     タルタリヤの口から楽しそうに語られる、鍾離の友の名前。スネージナヤから来た彼ではあるが、彼らと仲良くやれているようで安心した。
     摩耗によって正気を失ったかつての友も、民の為に力を使い、知性を失ってしまった竈神も、ここでは昔と同じように話ができるのだ。
     会話を楽しむ彼らを眺めつつ、酒を口にする。ずっとずっと、この穏やかな日々が続けばいい。
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