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    sumitikan

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    sumitikan

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    現パロこくひめ、エージェント黒死牟、悲鳴嶼未成年学生、全年齢。触れるだけのキスあり。これでおしまいです。

    #鬼滅の刃
    DemonSlayer
    #こくひめ
    goddessOf(lucky)Directions

    エージェント黒死牟 3アルメニアとアゼルバイジャン間の仕事が一年長引いた黒死牟はブチキレながらジョージアに飛んでワインを仕入れた。キレたのは理由がある。行冥の十七歳の一年を全部仕事で逃したからだ。怒れる黒死牟は完璧に獣だった。

    ワインを一本携えて家に帰る。その後でワインの入った木箱が三つくらい届くけど、格好つけて帰りたかった。度数がちょっとある、この程度のワインならなんともないだろう。たまに高級ワインを水割りで飲ませていたし。

    仕事道具をコンシールして空港を通り抜け、家に帰る。一年日本に居なかったから、黒死牟は浦島太郎のようなものだった。何が変わった?行冥の送ってくる縁壱宅の赤ちゃんレポートはどんどん幼児に形態変化していったが。それはいいから行冥の自撮りが欲しいんだが。

    保育士か。保育士は休暇はどれだけ取れるのだろうか。教師かも知れない。日本の教師は忙しいんだろうか。とにかく同性愛の概念の希薄な中東に連れて行ってフムス食べてだらだらいちゃいちゃしたい。フムスの食べ比べに周辺国をはしごしてもいい。あっち行くなら髭生やそうかな。

    「……ただいま」
    「あ、お帰り」

    久しぶりに会う行冥は見上げる高さで、眉尻がきゅっと上がっていた。何か異変でもあったのか。

    「……どうした」
    「今テスト中なんだ」

    どうやら、テスト期間中はピリピリしているようだ。成績が良くない、と言うことはないはずだった。送られた成績表は努力の成果が出ていたし、上位二十位以内にぎりぎり入っている。
    地道に勉強し、縁壱とうたに相談して塾を決めてそこに通っている。テスト期間中の慰めになるなら炊き込みご飯まつりを開催しようか。

    家の時計を見る、平日のこの時間に家にいるのは珍しいが、これはテスト期間だからだろう。数日ほどテストには触れずにいるのがいいだろう、と思っていると、きりっとした眉のまま、行冥が両手を広げている。

    お帰りなさいのキスを待っている。
    最高か。

    腰を抱くと、顔が降りてくる。でも自分から触れる寸前で止まったのは、いかにも行冥らしかった。黒死牟から唇を触れ合わせる。久しぶりの行冥の匂いは、大人っぽくなっていた。

    「帰って来てくれてうれしいけど、テストが終わるまでもうちょっと待ってね」
    「……ああ。……私も、後片付けがある」
    「そうなんだ?」
    「……邪魔はしない。……今まで通りに」
    「うん」

    抱き着いてくる力が強い。頬を摺り寄せ、すべすべだった。黒死牟の襟足の匂いを嗅いでくる仕草に煽られる。つらい。嬉しい。一年ぶりに行冥に情緒を滅茶苦茶にされ、黒死牟は幸せを感じていた。

    これから毎日行って来ますとお帰りなさいと寝る前と。キスの嵐だ。参ったなこれは……特に寝る前のが参ったな。任務で耐えるのは大したことではないがプライベートで耐えるのはつらい。大人の矜持で我慢しよう。何と言っても行冥に尊敬されている私であることだしな。私の中の獣よ落ち着け。食べ時はまだだ。牙を研げ。

    ちゅっと耳元にキスをする。くすぐったそうに笑ってくれた。今はそれでいいことにしよう。

    「休暇に入るんだよね?どのくらい日本にいられるの?」
    「……まだ分からない。……とりあえず、休みたい」

    行冥はにっこり笑んだ。きりっとした眉で微笑まれ、挑発された過去の時を思い出しながら、黒死牟は微笑み返した。もうあの時の行冥ではないことは分かっていたし、縁壱に対する感情も始末のつかないものだと分かっている。が、分かっているからと言ってどうにかできるものでもない。

    挑発されたらし返したくなる。今は特に性的に。

    「そうだ。コーヒー淹れるね」
    「……ああ」

    行冥が優しい。つらい。これ毎日続くの?休めないんじゃないのか私。このレベルで死にそうになっていたらこれからの日々を過ごせないんじゃないのか私。

    スーツケースの中身は明日片付けることにして、今回の土産のワインは今夜の夕食後に、行冥は水割りで一杯だけ味を覚えさせることにする。こういうことは少しずつ、急性アル中にさせない程度に慣らしておく。

    部屋で最終報告書を二通書いていると、行冥がコーヒーを運んできた。

    「はい」
    「……ああ」

    一口飲んで、いつもの店のいつもの豆だ。

    「……行冥」
    「なに?」
    「……コーヒーを、……いつから飲めるように?」
    「いつも豆を買ってるお店で飲み方を聞いて。黒死牟を驚かそうと思ったんだ」
    「……そうか」
    「アメリカンが好きだけど、黒死牟がいつも淹れてるのはこんな香りだったなって……」

    少し眉尻が下がっている。久しぶりに会って気を許している。黒死牟を見て緩むのが嬉しかった。過去生では逆だった、かつてないことだった。
    しかし、こうも匂いに敏感なのは、過去生が行冥の中にあるからだろうか。

    「どんな国に行ってたの」
    「……おろかな人のいる国だ。……どうしても、過去の遺恨から離れられない……そんな争いを連綿と続け……」
    「疲れてる?」
    「……ああ」

    私は愚か者だ。何が過去生だ。そんなものに捕らわれているから行冥を元の家族から引き離して我が手に、これは自分でもよくやったと褒めてやりたい。

    家族と引き裂いてまでも手にした。これはどうあっても行冥を幸せにしなければならないな。私の力の及ぶ限り。

    「マッサージ、する?」
    「……ああ」

    脳直で即答し、黒死牟は自分が地獄の新たな段階に踏み入ったのを悟った。これ拷問だ。行冥は今十七だから、後一年、後一年だ。頑張れ私、大人の矜持を。


    「ねえ、一緒にお風呂に入らない?」

    黒死牟の反応が完全に「無」だった。行冥は首をかしげ、まじまじと彼を見た。一体どうしてこんな顔をするのだろうか。そう思いながらチケットを取り出した。新しく出来たスーパー銭湯の割引券だった。

    「これ、縁壱さんから先月貰ったんだけど……一人で行くのも何だか気後れして、友達も縁壱さんも声を掛けにくくて。一緒に行こう?」
    「……ああ」

    溜息をついて、黒死牟が動き出した。一緒に行ける。行冥は笑顔になった。

    「抹茶あずきいちごソースのパフェが人気なんだって!」
    「……ああ」
    「食べてみる?」
    「……一口、……寄越せ」
    「わかった。いつ行こう?」
    「……別に……今からでもいい……」
    「そう?実は三日後に期限が切れるんだよね」
    「……テストも終わったし……いいんじゃないか……」
    「やった」

    行冥はぐっと手を握った。久しぶりに黒死牟と親しく付き合いが出来るのが嬉しかった。なにせ一年ぶりだった。

    「色んなお風呂があるんだって。のぼせないように楽しもうね。電気風呂に入ってみたいんだ~」
    「……そうか。まあ、……楽しむといい……お前が楽しいのを見ているのが……私は好きだ」

    行冥は笑顔になった。黒死牟が家庭内でコードネームのままなのについては変だけど、そこへの反発はなかった。あの頃は私も子供だった、と思っていた。

    銭湯や海水浴に行くと黒死牟の鍛え抜かれた肉体は注目を浴びる。行冥も、そこはすごいと感心している。そんな黒死牟を見るのもいいなと思っていた。

    お風呂でおいしいもの食べて満喫しよう、行冥はのんびり出かける準備をして、黒死牟と一緒に家を出た。手を繋ぐ。事件のあった頃は黒死牟にべったりで、出かける時も手を繋ぎたがったけど、今は大きくなって一人暮らしの寂しさも我慢できるし、大丈夫なのに。少しくすぐったかった。

    手を繋いで道を歩く。大きい男二人が手を繋いでいるので人から注目を浴びたけれど、別にそんなのどうでもよかった。黒死牟は保護者で、行冥を守ってくれる。完璧とはいかないけれど、大切に思ってくれているのは実感していた。

    銭湯に到着して受付を済ませ、浴場に向かう。

    「……楽しそうだな」
    「うん。こういう所久しぶりで」
    「……縁壱叔父さん達と……遊ばなかったのか?……」
    「ううん、黒死牟と一緒だからだよ?体洗ってからあちこち入ってみる」
    「……そうか……私は……のんびりやる……」

    仕事から帰ってきて、まだ疲れが取れないのもあるだろう。黒死牟は大浴槽にゆっくり沈みに行き、行冥はあちこちの湯やサウナに入って楽しんだ。

    最後に火照った肌を水風呂の水を浴びて一気に冷まし、黒死牟がのんびり入っている四十度のお湯に入った。

    「……どうだった」
    「面白かった。ここいい所だね」
    「……たまに、来ようか……近いし……」
    「うん」

    湯上りの脱衣所で汗を冷ます。鍛え上げられた黒死牟の体は、どこでもちらちらと注目を浴びる。行冥はその大きさがベンチに座ることで緩和されるのか、それほど人目は引かなかった。

    黒死牟はなにか言いたげだった。

    「なに?」
    「……トレーニングを……しているのか」
    「してないよ?」
    「……鍛えているのではないのか……」
    「学校の体育だけだよ。バスケ部とバレー部の主将が今でもすごい勧誘してくるんだよね。レギュラー入れるって」
    「……答えたらどうだ」
    「だめ。一度いいって言ったら、その後もずるずる続きそうだし。私は図書委員として、一人の住職でいいんだし」
    「……住職?」
    「うん」
    「……なんで住職?」

    汗が引いてから着替えて、のんびりと食堂に入る。この日の目的の抹茶あずきいちごソースのパフェを注文する。黒死牟はセルフのドリンクコーナーでお茶を選んでいた。彼はあまり冷たいものを飲まないし食べない。あるとすればワインとビールくらいだ。
    お目当てのものを手に席に座る。

    「はい、これ」
    「……ああ」

    二つ貰ったスプーンの片方を黒死牟に当たり前に渡した。アイスとクリームの合間をつついて、二つ分のおいしさを掬い取る。黒死牟がじっと行冥を見ていた。

    黒死牟はよく行冥を真剣な目で見つめてくる。前は何か意見があるのかと思っていたけれど、そうではなさそうだった。

    本当は気付いている。大人になったら、大人として黒死牟を受け入れること。それに関わることだと思う。それがどういうことなのか、行冥は以前調べたままの知識だけで、ふんわりとしか知らずにいた。

    大丈夫だと思っている。中等部の子供だった頃、今もまだ子供だけど、より子供で愚かだった頃に助けにきてくれた。ずっと見守って、大事にしてくれる黒死牟だから。

    「おいしい」
    「……そうだな」

    無表情で不愛想なのはエージェントという仕事柄、楽しんでない訳じゃない。チープな味わいのイチゴソースがジャンクな抹茶と絡んでおいしい。学校の友達とこういうものを選ぼうとすると、住職そんな女子みたいの食べんの?と言われて、それが気になってしまうから。

    「黒死牟が帰ってきてよかった」
    「……そうか」
    「テストの点数も、今までで一番五百点に近かったし」
    「……そうだな。よく頑張った」

    淡々とアイスを口に運んで、無表情。そういえば、冷たいものを食べない黒死牟がアイスを食べるのは、これが初めてかも知れなかった。


    縁壱にファミレスに呼び出された日、黒死牟は普段着のシャツにジャケットを羽織る気楽な格好で来た。継国家のことで話があるということだった。父が遺言状でも書いたか、病状の悪化程度なら連絡一本で済む。なにか弁護士関係か?

    縁壱も似たようなスタイルでいる。二人はコーヒーを注文した。

    「もう少し待ってくれる?」
    「……ああ」

    どうやらまだ誰か来るらしい。黒死牟は少し前に行冥と行ったデートについて思っていた。スーパー銭湯でのデート。
    家での行冥は、風呂に着替えを持ち込んで、きっちり襟元まで留めて出てくる。黒死牟のように腰タオルで家の中をうろつかない。よって、半裸や裸を拝める機会は貴重だった。すくすく育って、トレーニングもしてないのに筋肉が割れていた。ナチュラルでこれなのだから鍛えたら……いや。行冥は教育に進むのだった。

    日本で教育に関わっている恋人が待っているのもいい、と黒死牟は考えを改めていた。体術について詳しくなられたら困るという側面もある。
    小さな口でアイスをちまちま食べていた。

    「ああ、来た来た」

    ファミレスに入って来たのは、学校帰りの行冥だ。

    「……行冥じゃないか。……縁壱」
    「もうじき十八歳になるからね」

    は?

    「以前から行冥君に相談を受けてたんだ。こういうことはデリケートだから、俺から話した方がいいと思って。これまでの兄さんには済まないと思うけど……」

    済まないってお前……縁壱。何を知ってる。何の相談したんだ行冥は。アレのことか?行冥はなんでも相談し過ぎだ。

    私は行冥と十八になったらあんなことやそんなことをすると約束してるんだがそれのことか?今は未成年だけど十八歳になったら大人だろう。だから強引に聞こえるかもしれないが、これは大人同士の話なんだが。

    制服姿の行冥が来て、黒死牟にぺこりと一礼して縁壱の隣に座ったことで、黒死牟の情緒は乱れた。

    「父さんと母さんにはまだ話してない。やっぱり、複雑なことだから。だからまず俺と兄さんと行冥君でと思って……」

    縁壱お前はいつもそうだ。お前はいつも私の上を行き、私の欲してならないものを奪っていく。行冥があと数ヶ月で十八歳ってところでお前は。お前らは。

    夏生まれの行冥を連れ込むホテルの算段してた所になんだ、二人して。これまで私は完璧な保護者だったじゃないか。その関係を変える記念にちょっと奮発しよう、そんな男の純情を二人して足蹴にするのか。縁壱、どうなんだ。

    「ごめん、黒死牟。でも、どうしても十八になったら、って思うと……」

    そこまで言って行冥は顔を伏せた。
    黒死牟はショックを受けていた。嫌だったのか。そんなに私のことが。昼なのに視界が真っ暗になってくる。これまで一緒に暮らして見せてきた笑顔は嘘だったのか?

    今の黒死牟は童話に出てくる悪い魔女の気持ちがよくわかっていた。彼女についてこれ以上深い洞察と理解はないくらいだった。

    「ごめん、黒死牟。でもやっぱり家族に会いたくて」

    は?

    「行冥君もね、中等部の頃から手紙でご実家とやり取りしていたんだって。兄さんには内緒で。でも養子縁組もしてるし、実家も遠いし。会いたいけど会えなくて」
    「……」
    「ご実家の経済状態も建て直したそうなんだ。悪い業者に付け込まれて借金が膨れ上がってしまったとか。私からも連絡を取って、ご両親に会って来たんだけど、やっぱり行冥君に会いたいって。お金は返すと言ってたよ」
    「……」
    「ごめんね、黒死牟。すごく良くしてくれたのは分かってる。キメツ学園だってうちから通える学園じゃなかった。黒死牟が私を守ってくれてるのも、私はあの時すごく安心したし、うれしかった。でもやっぱり、家族に一度だけでもいいから会いたいんだ」
    「……私を……捨てて?」
    「そうじゃないよ!黒死牟さえ良かったら、これからも黒死牟と一緒に暮らしたいと思う」

    黒死牟はテーブルの下でぐっと手を握っていた。やや強引に行冥を引き取ったけれど、これまでの暮らしの絆があることが頼もしく感じられていた。

    「でも、継国家の皆で集まる時が辛いんだ。皆といると、元の家族のことを思ってしまって、それがとても……」
    「……いつから」
    「話してくれたのは、兄さんが一年いなかった時だよ。仕事だから仕方ないけど、行冥君は毎日とても頑張ってて。でもやっぱり寂しかったみたいで、家でよく泣いてたよ」
    「わ、私が泣くのは、いつものことだし」

    ちょっと顔を赤くして照れて、けれど行冥は真剣だった。そんな真剣な目で黒死牟を見つめてくるのは過去生以来初めてのことだった。家族に対する思いは、黒死牟は薄い方だと自覚はあった。あの時、アフリカで銃弾を受けなければ、拠点は日本から外国に移し、タイのチェンマイあたりで象でも飼っていた。

    けれど行冥は黒死牟とは違う。経済状況の悪化から孤児院に入る所を、当座の金を置いて無理矢理連れ去ったようなものだ。実家の住所さえ覚えていれば手紙は出せる。

    黒死牟に言えずにいたのも、辛かっただろう。

    「……家に手紙は……来なかったと思うが……」
    「私書箱を使ったんだ」
    「……そうか。……よく知っていたな……」
    「ごめんね、黒死牟」
    「……謝らなくていい……私も一緒に……なんならお前だけ実家に泊れば……」
    「いいの!?」
    「……夏休みに……あわせたらどうだ」
    「うん!」

    縁壱は笑顔でいた。気味悪く思ってしまうのは、もう仕方ないこととして諦めている。縁壱、お前はいつも私の上を行く。むかつくけど今日はいい仕事をしたじゃないか。むかつくけど。


    行冥を家族と会わせる。久しぶりで、泣き上戸の兄のことを覚えている弟二人と、弟に背を追い抜かれた兄の笑顔と、両親の泣き顔。ありがとうございますと悲鳴嶼家の一同から感謝を言われ、黒死牟はちょっと後ろ暗かった。

    送り届けてお茶を飲み、黒死牟はすぐ悲鳴嶼家を出た。新幹線で県を幾つも跨いだ距離だった。家に戻ると、空白を強く感じた。行冥を置いてきたせいなのは分かっていた。

    一人。今までずっとそうだった、衝動的に行冥を引き取るまでは。あれから数年、行冥は黒死牟にとってなくてはならない存在に成長していた。こんな弱点を抱えたことで、この先国際的なエージェントが務まるのだろうか……そろそろ私も引退か。

    そんな風に黄昏た数日を過ごして、行冥が帰って来た。

    「ただいま!黒死牟、おみやげ~」

    いつもと変わらない笑顔がどこか幼く感じるのは、盛大に両親や家族に甘えてきたからだろうか。眩しかった。

    「弟たち、私のこと覚えてた。いつも泣いてたお兄ちゃんって。手紙出してて良かった。それでね……」

    行冥は少し興奮していて口数が多かった。家族と会って来たからだ。家族の話をひとしきり。こうして元の家に還って行くのだろうか。

    「でね、黒死牟がエージェントだって話したら皆すごい聞きたがって、家に来た時も何者、って感じがしたんだって。なんだか私もそれ分かるなと思って。私も最初の頃、黒死牟のこと何者、って思ってたから」
    「……そうか」
    「今は慣れたから平気だけどね。黒死牟、うちですごい人気だよ。救世主みたいなことお母さんが言ってた。私はまだ子供だったからよく分かんなかったけど、家の皆は黒死牟のこと好きだって」
    「……そうか」
    「黒死牟は私の自慢だよ」

    そう言って、両手を差し出す。ただいまのキスの為だった。これまでからっぽだった胸の中が満たされるような思いで、その両腕の中に体を入れて、腰を抱く。軽いハグ、唇が降りてくる。いつもの触れ合うだけのキスをする。

    「私は……」
    「……ああ」
    「なんでも家族に話せるって思ってたけど、このキスのこと、どうしても言えなかった」
    「……ああ」
    「だからこれ、黒死牟との秘密になったから」

    黒死牟は手を伸ばして行冥の後ろ頭に手をやり、自分の側に強く引き寄せ、もう一度キスをした。どうしてもそうしたかった。唇を触れ合わせるだけで満足した自分を褒めてやりたかった。

    「黒死牟」
    「……これからも秘密を増やしていきたい……私とお前だけの秘密を……」
    「うん」

    頬を摺り寄せてくる。すべすべだった。身嗜みも気をつけていて、成績も優秀で、毎日牛乳を一リットル飲んで。私の行冥。実家からここに帰ってきた行冥。

    黒死牟を見下ろして、行冥は笑顔でいたが、どこか困っているようだった。こうして黒死牟が腰から手を離さないことだろうか?でも、そんなのはいつもの話だ。そういえば、行冥がずっと体に手をまわしたままだった。

    なんだ、これは。新手の拷問を思いついたのか。

    「黒死牟」
    「……ああ」
    「あのね」

    そこで行冥はちょっと微笑んだ。

    「実家で誕生日を祝って貰ったんだ」
    「……ああ」
    「だから、黒死牟。十八になったんだ。大人だよ」

    黒死牟は完全に無になっていた。これは鬼殺隊の罠の可能性があるのではないか?と考えて打ち消した。その組織はもうない。行冥を食べていい。今ここで。黒死牟の中の獣が目覚めようとしていた。

    行冥は照れ臭そうに、でも黒死牟を見て話している。

    「分かってるから。黒死牟、いつも真剣な目をして私を見てたから……私が、恋人になれる日まで。ずっと待ってた?」
    「……」
    「でも大人になったから」
    「……」

    黒死牟が何も言えずにいると、行冥が抱き着いて来た。いつもより強いハグ。声が少し震えていた。

    「でも恥ずかしいから、縁壱さんにはまだ話さないで」
    「……」

    気を使って私に体重を掛けないように。いつからこんなに気を使うように……。体重が百キロ超えても大丈夫。私に任せろ。私の中の獣はステイだステイ。食い荒らしていい行冥ではない。とびきり優しく扱ってやる。

    黒死牟が腰を抱く手に力を入れようとした寸前、ぱっと行冥が離れた。照れた顔をして涙目でいる。

    「いきなりでごめん。びっくりした?」
    「……した」
    「ごめんね、黒死牟」
    「……いきなり、大人になるなんて言うから」

    あと少しで箍が外れる所だった。行冥からのGOサインだが、これからしようという気はないようだった。時計はまだ午前、つまり夜になってからと。大人の時間は夜からと。それがセックス上の良識だと教えたことはないが、いいだろう。

    まだ、あどけなさの残る頬で聞いてくる。

    「子供の方がよかった?まだ子供でいることもできるけど……」
    「……いいや。大人になって……とても嬉しい」

    黒死牟は大人の矜持で微笑んだ。十四の子供を恋人に選ぶ危ない奴だ、と気付いていない内に既成事実を作ってしまおう。行冥が何も知らない内に。行冥が過去生の記憶を呼び起こす前に。エージェント黒死牟の名を滑稽に思っているうちに。

    この手の中から飛び立てないよう、ゆっくりと風切り羽を切り落とす。静かに気付かれないように、その足首に鎖を繋ぐ。数年会えないことになっても、いつまでもここで待っているように。
    これからのお前も、私のもの。

    「……愛している。……行冥」
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    sumitikan

    DONE現パロこくひめ、エージェント黒死牟、悲鳴嶼未成年学生、全年齢。触れるだけのキスあり。ピクブラに同じものがあります。
    エージェント黒死牟 2朝食の席で、黒死牟は怒っていた。

    それというのも行冥が黒死牟の本名である継国巌勝の名を担任の教師に言ったからだった。静かな怒りの黒死牟に行冥は素直に謝ったけれど、ツンとした態度は改まらない。それを見て、行冥も済まなさそうに謝るのをやめた。

    「家では黒死牟って呼ぶって言ってるのにそれじゃ駄目?でも学校の父兄参観で黒死牟さんって呼ばれるのおかしくないかな。なんでそこでコードネームなの。私はおかしいと思うよ、すごく。恥ずかしいし、家の外ではそういうところ改めて欲しいと思うし、黒死牟のご両親や縁壱さんやうたさんの前で黒死牟って呼ぶのは、すごくためらわれるし。そういう時は巌勝さんって呼ぶからね」
    「……」
    「わかった?もう決めたから。黒死牟も何も言わないし、これでいいよね。それと、来週テストあるから、今日から勉強するからね。あんまり黒死牟のこと構えないから。できるだけ成績上げて行かないと、キメツ学院付属大学って結構偏差値高いんだよね。教育学部に入りたいんだ」
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