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    sumitikan

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    sumitikan

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    保育じまさんとおばけ黒死牟の出会い。全年齢。

    #鬼滅の刃
    DemonSlayer
    #こくひめ
    goddessOf(lucky)Directions

    ひめちゃん先生と黒死牟 1おめめのいっぱいあるひとが、さくらのきのしたにいるよ、ひめちゃんせんせい。

    毎年毎年、違う子から同じ報告を受ける。それは決まって桜の花時、葉桜に変わる頃には目撃証言は収まっているし子供達も大人も忘れる。けれど今回は一人の子供が痙攣を起こすほど怯えてしまって、桜の木の下の「おめめのいっぱいあるひと」がどうにかならないか園長から相談を受けたのは、体格と性別と経費節約の他にはあるまい。

    大樹。桜の、園は大事にしている。運動場とは別の庭先にある見事な枝ぶりを添木で支え、そこで記念撮影をしたいと望む父兄が次々子供を連れ込んで撮影する程で、桜には柵が立てられている。

    その柵向こうの枝ぶりの下に「おめめのいっぱいあるひと」が茫洋とした姿で佇んでいた。桜の花の満開の下、服装が古風だった。袴の帯が白いことで、時代考証に一家言ある人なら凡その時代特定が出来ただろう。しかし悲鳴嶼にはその知識は無かった。

    背が高く長い髪を高く結っていて単衣に袴。腰の刀から武家だとわかる。顔を見れば目が六つあり、その目が同時に瞬いてこちらを見る。悲鳴嶼が見えている。

    恐い筈なのに恐くなかった。彼の気配に酷く懐かしく、厭わしい思いがした。更に彼は何かの匂いを発していて、その匂いに覚えがある。なにか昔、とても昔。厭なことがあった。それが何かは分からないけれど。

    彼は悲鳴嶼を見て微妙に笑んだ。

    『……確かお前は……悲鳴嶼と言ったな』
    「え、話ができるのか……」

    おばけと見合い、それから用件を思い出した。話が通じるのならその方が早い。

    「あなたはなぜ毎年、桜の頃に立つんだ?どうして僕の名を知っている?」
    『……私はここを一歩も動いていないのだが。……桜の頃にそちらが勝手に私を見る。……何の故かは知らぬが』
    「あなたを恐がって子供が泣いて医者に掛かった。なにか手立てはありますか?」
    『……ほう、……手立て』

    面白そうに六つの目が笑い、口元も笑みを浮かべた。

    『……ではこの桜の根から九尺ほど先の土を掘り返してみよ。……私の肩幅ほどの広さでな』
    「まあ、いいけれど。埋め戻してくれるなら。この桜は近所の名物なんだ」
    『……桜には多少の鬼気を残しておこう。……それでよかろう』
    「あの、あなたの名前は?」
    『……名乗らなかったか?……黒死牟』
    「こくしぼう?」

    悲鳴嶼は九尺とはなにかスマホで調べ、桜から三メートルほど離れた邪魔にならない地面の辺りをシャベルで掘ることにした。こども農園があるので道具なら幼稚園にも置いてあった。土の手ごたえは固いと思っていたのにさくさくと掘れて作業は進んだ。

    「黒死牟さん。これで……?」
    『……ああ、良い。構わない。……もう帰って寝るといい』
    「ええ、そうしますけど」
    『……明日の朝になれば多少は……人がましく居られるであろうしな』
    「……?」

    謎めいたことを言うおばけだな、と言う感想があった。悲鳴嶼は穴をそのままに明日、何と園長に言い訳をすればいいか少し考えた。三メートル先の人の肩程の穴。桜の側だから何かしら言って来るだろう。でもそれでおばけが大人しくなるなら安いものじゃないか。

    悲鳴嶼はスマホで黒死牟という名前を検索した。ろくな結果にはならなかったし、そう言う種類の妖怪という訳ではなさそうだった。彼は幽霊なのだろうか、その理由も原因も何も分からない。桜の木の下に六つ目を持ち佇んで、子供たちを見ていたおばけ。何の由来なのか園長もはっきりと言葉にしていない。

    翌朝、職場に入る前に桜の元に向かってみた所、庭の穴は奇麗に塞いであった。掘った跡すらわからず、土苔まで復元されているのはやり過ぎなような気がした。

    園の職員室に向かう。

    「おはようございます」
    「お早うございますひめちゃん先生」
    『……お早うございます……悲鳴嶼先生』
    「もう!黒……先生は、また堅苦しいんだから」

    黒……先生と呼ばれた彼を見た、昨日帰りがけに見た黒死牟だった。黒死牟だと分かるのに、雰囲気ががらりと違う。目は二つ、涼しい目元だった。すっと通った鼻、形のいい口元。髪をバッサリ切って今風で、大学生寄りのファッションで若い。そんな見た目で彼は笑った。

    『……どうしたんです悲鳴嶼先生……俺の顔に、……何か』
    「え……あ。いや。彼は?さとちゃん先生」
    「何言ってるんですか三ヶ月前に面接して入ったでしょう、黒……先生は」
    「ええ、ああ……?」
    「そうですよ。黒……先生は前からいましたよ」
    「ああ、そう、……ですよね」
    「おかしなひめちゃん先生」

    院長が、いや園の皆が皆、おばけにまるっと化かされた。それと昨夜、肩までの分を開けた穴。あれは普通なら穴の中に悲鳴嶼を引きずり込んで身代わりにする、身代わりの都市伝説ではなかったのか。

    黒死牟は話し掛けられたらにこにこ応じて、園の仕事も卒がなさそうだった。

    「園長先生、桜の件ですけれど」
    「え、桜?」
    「はい」
    「何のことだったかしら……園の裏の桜の木よね。あれがどうかした?」

    どうやら院長は昨日悲鳴嶼に頼んだことをすっかり忘れ去っていた。

    子供のことも調べてみたら、熱を出して休んだだけで、おばけを見て痙攣をおこした話など何処にもなく、「めのいっぱいあるひと」の話を子供達も覚えていなかった。

    なにもかも化かして終った。黒死牟はそう言う力のあるおばけだった。

    その日の昼の業務を終えて、悲鳴嶼は黒死牟と差し向かいで食事をしていた。実を言えば少し、いや、かなり恐い。恐いのに彼とそうするのは普通の気がして、そこも化かされている気がした。

    大体、黒死牟は何も食べていない。お弁当のおにぎりを一個やろうとすると、微笑んで首を横に振った。そのかわりなのか、黒死牟が悲鳴嶼に何かを差し出した。

    『……これを』
    「何です。手紙?重いな」
    『……とりあえずそれで……謝意を示したい』

    黒死牟から渡された紙包みを開くと、小判が三枚。どうも重さと言い輝きと言い本物の慶長小判であることは、この後で鑑定に持ち込んで分かった事だった。百万円以上の値がある物をぽいと三枚も渡されて悲鳴嶼は呆れた。

    おばけだからお金の価値が分からないのか。慶長小判と言う事は、その頃の時代に生きていたのか。おばけだからもう使わないのか。色んなことがぐるぐると脳裏を巡り、それが元で仕事上がりに黒死牟を呼び出したのだった。

    黒死牟はどういうわけか園の中にいて、大人が登園する頃になると職員室にいつの間にかいる。それで周りの人と会話して、何やら上手くやっているようだった。その黒死牟は園の外に出られないのじゃないかと悲鳴嶼は心配したが、そんな事はなさそうだった。

    園の外に出て「黒死牟」と呼ぶ。彼は整った貌でにっこり微笑む。普段は今どき風の短く刈った髪型に見えるのに、園の外で本名を呼ぶと長髪の古めかしい袴になる。やはり彼は元はおばけだった。

    『……私を呼び出すなど……どうかしたか』
    「黒死牟。僕に金を三百万以上もくれて、一体どうしようと言うんだ?」
    『……金など些細な。……私はお前を手に入れてみたい。……それだけだ』

    悲鳴嶼の身長は二百二十センチ。黒死牟は百九十センチほどだった。体格も差がある。手に入れるなんて、どうやってするのだろうか。大体彼は人ではない、上弦の一ではないか。

    上弦の一?
    何だ、この記憶は?

    黒死牟をどこかで知っている感覚が悲鳴嶼の中にある。でもどこでこんなおばけのことを知ったのか。悲鳴嶼の顔をつくづくと見る黒死牟の顔に目が生えてきて、それでも顔立ちが秀麗であることが分かる。妖怪図鑑を買おうか。でも載っていなかったらどうする。

    「僕が欲しいって、どういう意味だ?」
    『……手に入らぬものを望むのは……人間の常ではないのか』

    言外に人ではないと告げてくる、自分の招き入れた新たなおばけ同僚と向き合って、不可思議だった。桜が盛りを過ぎてはらはらと舞い散っている。おばけと桜と、戸惑いと。

    「黒死牟さんは目のおばけ?それとも別のおばけなんですか?」
    『……くく……まあ、……よい。……お前と話す時間は……いくらでもある』
    「はあ……?」
    『……ゆっくりと……語ろうではないか』

    そう言いながら黒死牟は、悲鳴嶼に間近に体と顔を近寄せて来た。目が六つ、嬉し気に自分を見ているのを不思議に見返すと、唇に柔らかい感触があった。

    満開の花の散り初める元、唇にキスして六つ目が笑う。感触が柔らかく暖かくてまるで人そのものであることに、驚きと恐怖が相半ばする。

    桜の香りと共に、悲鳴嶼の鼻先にふわりと鬼が匂った。そうだこの匂いは鬼の匂いだ。鬼?鬼とはなんだ。悲鳴嶼は思い出される記憶の奔流の中にいて、黒死牟は確信的に言葉を紡いだ。子供に言い聞かせるように。耳元に真夜中を吹き込む。

    『……百年前に葬られた者共の……伽物語りを聞かせよう……』
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    DONE現パロこくひめ、エージェント黒死牟、悲鳴嶼未成年学生、全年齢。触れるだけのキスあり。ピクブラに同じものがあります。
    エージェント黒死牟 2朝食の席で、黒死牟は怒っていた。

    それというのも行冥が黒死牟の本名である継国巌勝の名を担任の教師に言ったからだった。静かな怒りの黒死牟に行冥は素直に謝ったけれど、ツンとした態度は改まらない。それを見て、行冥も済まなさそうに謝るのをやめた。

    「家では黒死牟って呼ぶって言ってるのにそれじゃ駄目?でも学校の父兄参観で黒死牟さんって呼ばれるのおかしくないかな。なんでそこでコードネームなの。私はおかしいと思うよ、すごく。恥ずかしいし、家の外ではそういうところ改めて欲しいと思うし、黒死牟のご両親や縁壱さんやうたさんの前で黒死牟って呼ぶのは、すごくためらわれるし。そういう時は巌勝さんって呼ぶからね」
    「……」
    「わかった?もう決めたから。黒死牟も何も言わないし、これでいいよね。それと、来週テストあるから、今日から勉強するからね。あんまり黒死牟のこと構えないから。できるだけ成績上げて行かないと、キメツ学院付属大学って結構偏差値高いんだよね。教育学部に入りたいんだ」
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