フリアメ(女体)練習✈️🍬 女体
煌びやかな空間、場に合わせ正装した男女、俺の隣には壁の花になっている着飾った美少女。はて、美少女……?
「アメジオ、そういえばお前なんで女装してんの?」
「……はぁ? お前の目は節穴か」
フリードとアメジオの再会は思ってもいない形でのものとなった。
⁂⁂⁂
研究室勤めの頃の同僚から届いた封筒は手触りの良い紙で、何かしらのパーティーの誘いであることが一目でわかる。
「面倒くせぇ、スルーで」
封を切った中にあったものは想像通りパーティの招待状で、幹事を任された同僚が久しぶり遊びに来てはどうかと誘ってくれたものだった。つまらなさを覚え研究室を辞めたのだ、招待されたからと顔を出すのも気まずい。まぁ、彼らが今どんなプロジェクトを手掛けているのか聞くのは面白そうだが面倒だ。まずきちんとしたスーツを着るのが窮屈で好きではない。
よし、招待状をゴミ箱に捨てようと立ち上がったと同時にミーティングルームのドアが開いた。
「それ何?」
手紙はちゃんと読んでからじゃないと捨てちゃ駄目なんだぞ! いつも明るく前向きといった言葉が似合うロイから声を掛けられ、フリードは封筒を捨てるタイミングを完全に逃してしまった。その上、うわー! すごいキラキラの封筒だ! と目を輝かせるロイを前にゴミ箱に放り込むのは気が引ける。結局、研究室主催のパーティの件は瞬く間に船内に広まってしまった。
「私も着いていって本当にいいのかなぁ」
「フリードがいいって言ってくれたじゃん、リコ! パーティってご馳走いっぱいあるんだろう? すっげぇ楽しみ!」
「おいおい、レストランじゃないんだぞ。俺は知り合いに挨拶があるからリコとロイは二人で適当に飲み食いしててくれ。21時にはこのロビーに集合」
「「はーーーい!!」」
水色の膝丈のワンピースを身に包み普段は下ろしてる髪を結い上げたリコと赤いチェックの蝶ネクタイがワンポイントの着慣れないスーツ姿のロイは、元気よく返事をしたあと仲良く軽食が並ぶエリアに向かっていった。色気より食い気といったところだろうか。微笑ましい二人を見送ったフリードは一際大きなため息をついてから、懐かしい顔ぶれが並ぶエリアに向かっていった。
それぞれが籍を置く研究室の話しやフリードのフィールドワークで得た話しなどで盛り上がったが、今日一番盛り上がったのは壁の花を決め込む一人の女性の話題だった。
「遠目でも分かるスタイルの良さだな。折れそうなくらいに腰も細いし、モデルか女優なのかな?」
「おっ? さっきから粘ってた男が諦めて軽食エリアに行ったな。親と来たのか?」
「どこかの重役の愛人とか? にしては若いか、企業CMに出てるとか?」
いい歳をした男たちの不躾な視線に気付いていないのか、それとも付け入る隙など微塵も無いのだと言いたいのか。壁の花を決め込む女性は背筋を伸ばし手に持つグラスをくるくると回したあと残りを一気に飲み干した。唇からグラスが離れたと思ったら、少し遅れて動く喉が妙に艶かしい。
21時までの暇潰しがみつかった。
「あんないい女、一度でいいから抱いてみたいよな」
「あそこまで綺麗だと声掛ける勇気が出ねぇよ」
「わかる」
「じゃあ、俺もそろそろ飯食って来ようかな。何かあったら連絡くれよ」
口説く前から及び腰な旧友たちを横目に、空になったグラスをボーイへ渡しドアへ向かう彼女をフリードは追いかけた。
さて、彼女が向かった先は女子トイレだった。さすがに着いていくわけにもいかず、フリードは出入り口近く設置された椅子に腰をかけ待つことにした。遠目でも目を惹いていたのだ、目の前で見る彼女はどれほどの美しさなのだろう。リコとロイの引率でなければ、部屋を取って誘うのにと残念でならない。
手持ち無沙汰にネクタイをいじっていた時、カツカツとヒールの音が近づいて来る。来た。そう思い見上げたフリードの数歩先に、先日、強烈な印象を残した人物がこちらを見ていた。
「アメジオか?」
「フリード……。あぁ、ポケモン博士だったな、ここに招待されていてもおかしくはないか」
壁の花を決め込み、集まった男たちの視線を奪っていたのはエクスプローラーズの幹部でもあるアメジオだった。
特徴的なツートンカラーの髪の毛は編み込みにまとめ上げ、ヘッドアクセサリーを片側に付けることで目立つことなく美しさを引き立てている。アクセサリーは上品にパールのピアスとネックレスのみ。細い身体を包むドレスは淡い生成色のチュールに濃淡のある紫色の刺繍糸とビーズで花があしらわれ、ふんわりとした長袖からうっすらと見える腕のラインが妙に色っぽい。前身頃はチュール越しにしか肌を見せないくせに、背中は中程までぱっくりと開いている。うなじで結ばれたリボンが背骨に沿って揺れている様を見て、手を伸ばさない男がいるだろうか。品のいいパンプスのヒールは5センチほどの高さのものだろう。うっすらとメイクした目元はドレスの花に合わせた色をしている。唇なんてむしゃぶりつきたくなるほどだ。
なんとも美しい。ここまで綺麗に女性に変装できる男がこの世にいるなんてフリードは知らなかった。女装なんて学生時代の飲み会の余興で先輩がしていた、ゴツいものしか見たことがない。
「任務か?」
「まぁ、そんなところだ」
一言、二言と言葉を交わしたアメジオはまた歩き始めた。壁の花を決め込みに会場へ戻るのだろう。さすがに敵対しているとはいえ顔見知りの、しかも少年を口説くわけにもいかない。女だったらマジでタイプだったなと思いながらフリードもあとを追った。
「シャーリーテンプルを」
「じゃあ、俺はシャンパンで」
「かしこまりました」
バーカウンターで注文した飲み物を待ちながら先程までいた場所を見れば、旧友たちは移動したのかそこにはいなかった。まぁ、見せつけたところで絶世の美女は任務のために女装した絶世の美少年なのだ。なんの自慢にもなりはしない。
「お待たせしました」
すました表情を崩さないアメジオに一泡吹かせてやろうとフリードは左腕を腰に回しエスコートしてやれば、グラスを持つ手が一瞬揺れたが普段通り背筋を伸ばし歩き出した。
改めて近くで見る首はほっそりとしていて、腰だってきちんと食事をしているの不安になる程細い。
「お前さぁ、ちゃんと飯食ってる? 固形食で済ませてないか? もっと肉付けた方がいいぞ」
つい心配になりフリードが声を掛ければ、最低限の食事はしていると返ってくる。
「肉を付けろなんて、他の女性には絶対に言うんじゃないぞ。失礼だからな」
見上げて不機嫌にそう告げてくるアメジオに、お前にだから言うんだよとフリードはシャンパンをちびちびと飲みながら返事をする。
せっかく会えたのだからポケモンバトルと洒落込みたいが、さすがにここは人が多過ぎる。建物を壊してしまった際の賠償金もものすごい額になりそうだ。次の機会までお預けだと思いながら、フリードは疑問に思っていることをアメジオにぶつける事にした。
「アメジオ、そういえばお前なんで女装してんの?」
「……はぁ? お前の目は節穴か」
会場内のBGMが軽やかなものに変わる。そういえばフリードが所属していた研究室の奥方は大の社交ダンス好きで、こういったパーティを主催してはダンスタイムをねじ込んでくる人だった。周りを見渡せばパートナーの手を取る男女が曲が始まるのを待っている。遠くを見ればリコとロイも手を取り合ってクルクルと回っている。目が回らないか見ているこちらが目眩がしてくる。
基本の型くらいは覚えなさいと学生時代に叩き込まれたが、さて今は足が動いてくれるだろうか。フリードがダンスタイムをシャンパンでも飲みながらやり過ごそうと考えていたその時、そっと手からグラスを奪われた。犯人はもちろん、隣にいるアメジオだ。近くのテーブルにグラスを2つ置いてきて、フリードの目の前に立った。
「まさか、かの有名なフリード博士ともあろう人がワルツのひとつも踊れない、なんて事はないだろう?」
「踊れるに決まってるだろう。お前こそ振り落とされるなよ」
フリードがアメジオの右手を軽く握りしめ、左の肩甲骨に軽く右手を添える。アメジオが左手をフリードの右の二の腕に添えれば、合わせたかのようにゆったりとした三拍子の曲が流れる。人の波を縫うように身体を動かせば足がついてきて、二人はくるりくるりと回っていった。いたずら心がうずきフリードは肩甲骨に添えていた手を腰にずらせば、受け止めたアメジオは背をしならせながら優雅にターンしてみせる。
アメジオの肌のなめらかさ、腰の細さ、ささやかな胸の膨らみがフリードに伝わってくる。
曲が終わったら腰に腕を回したまま、フリードはアメジオをテラスに連れ出した。ここなら誰もいない。秘めごとにはお誂え向きだ。
「久しぶりに踊るとさすがに疲れるな」
そう呟いて頬をほんのりと桃色に染めたアメジオはフリードの腕からするりと抜け出そうとしたが、腰を掴む力が強まりうまくいかない。
「アメジオ、さっきは悪かった。肉付けろとかデリカシーがなさすぎた」
「本当だ、失礼が過ぎる。太りたくても肉が付かない体質なんだ」
腰を掴むフリードを引き剥がせないと悟ったのかアメジオは大人しく会話を続けてくれた。
「あとさ、女装って言ってごめん」
「薄々感じていたが、男だと思ってたんだな」
「あー、……はい、誠にすみません」
うなだれるフリードがアメジオの肩に頭をグリグリと押し付ける。甘えるみたいな仕草だ。つられて横を向いたアメジオの唇にキスをしたいと思ったその時、ジャケットのポケットに入れていたスマホロトムのアラームがけたたましく鳴った。20時55分、リコとロイとの待ち合わせ五分前だ。
「引率の博士はそろそろ船に帰る時間じゃないのか?」
がくりと肩を落とすフリードを揶揄うようにアメジオが時間を確認してから、腕を解けと脛を軽く蹴って抵抗してくる。地味に色々と痛い。
「アメジオ、次会った時はバトルをしよう」
「望むところだ」
「あとさ、バトルが終わったらデートしよう。俺、アメジオのこと好きになったみたいだ」
「……みたい、と告白してくる男は信用ならない。まぁ、せいぜい誠意とやらを見せてくれ」
ゆるくなった拘束から抜け出したアメジオはフリードに背を向けて会場内にひとり戻って行った。
どう見ても10近く年下の、まだ少女といってもいい年齢の相手に恋をしてしまった。しかも今夜はリコとロイの引率なのだ、追いかける訳にもいかない。
大人しく集合場所で待っているだろう二人を船に送り届けてから、またこのホテルに戻ってくるかと思いながらフリードはロビーに足を向けた。